TALES OF THE ABYSS~猛りの焔~ 作:四季の夢
ペルソナも同じように書いているので、此方を投稿する時はペルソナの方も投稿しますので宜しくお願い致します。
『オールドラント』
それは惑星の名であり、有機物・無機物等を構成する元素【音素】と共に生きる地。
周りを【音譜帯】と呼ばれる第一から第六の音素を豊富に含む巨大な領域に包まれ、オールドラントに生きるモノにその恩恵を与える世界。
形あるモノは全て、音素と共に始まり音素と共に終わるのがオールドラントにとっての自然の摂理。
闇、地、風、水、火、光の属性を持つ音素。
普段は目に見えぬそれを、オールドラントに生きる者達は時には生きる為に、時には娯楽に……そして、時には”争い”に利用して繁栄と衰退を繰り返し生きていった。
資源であり、自分達の命とも言って過言ではない音素によって数多くの命が失った。
だが同時に、失う命もあれば新たに生まれる命も確かに存在する。
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『キムラスカ・ランバルディア王国』
嘗ては力なき小国であったが、今やオールドラントの中で最大の力を持つ国家の一角となった国である。
譜業と音機関の発展によって力を得たキムラスカ。
その首都である『要塞都市バチカル』にて、今まさに新たな生命が誕生しようとしていた。
現在、首都バチカル【貴族住居区・ファブレ邸】
ND1993年・
ファブレ公爵の治める屋敷、まるで宮殿の様にも見え、潤う水を流し花々に命の息吹を与える美しき庭園を備え、風や水の流れる音が心地よく聞こえる程に静かな場所。
だが、この日に限ってはその静けさは失われていた。
屋敷内をメイド達は忙しく走り回り、警備の兵たちもいつも以上に身を引き締めているが何処かソワソワしている仕草までは隠せないでいる。
そして、とある一室の前では二人の男が心配と不安の感情を抱きながら佇んでいた。
特徴ある赤き髪と見ただけで分かってしまう貫禄を持つこの男達は、何を隠そうキムラスカの現国王”インゴベルト六世”とファブレ家当主にし、キムラスカ国元帥である”クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ”公爵その人達であった。
屋敷の主であるファブレ公爵がいる事は何ら問題はないが、国王であるインゴベルト六世がこの場所にいるには大きな理由がある。
それは、インゴベルト六世の実妹にしファブレ公爵の妻である”シュザンヌ”の出産だ。
ファブレ家の長男として生まれ、王位継承権も与えられる重要な子供であり、シュザンヌが身体の弱い事も手伝い、二人は心配と不安を抱えていた。
妹と妻の無事、そして新たに生まれる生命に二人だけではなく、屋敷内の全ての使用人達も思わず息を呑んでしまっている。
だが、インゴベルトとクリムゾンの中の不安の原因、その本当の真意を知る者はまだ誰もいなかった。
そして、暫く時が経った時、その時は訪れる。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
「ッ!?」
扉の向こうから聞こえる世界に新たな命の誕生を伝える叫び。
気付けば二人とも立ってしまい、そのまま扉をジッと見つめてしまっていた。
口をポカンと開けており、国王と公爵とは思えないマヌケな顔をしているが、新たな命の誕生を前にしてそんな事を言う様な者はいない。
そして、扉から医者の助手がインゴベルトとクリムゾンを招き入れ、漸く二人は部屋の中へ入った。
「あぁ……あなた……陛下……」
「おお、シュザンヌ……!」
声のする方へ二人が視線を向けると、そこにはベッドに横たわるシュザンヌと専用に用意された衣類に包まれている赤ん坊の姿があった。
汗によってシュザンヌの美しい赤い髪は濡れ果てていたが、その表情には疲れよりも嬉しさの方が多く読み取れ、母性溢れる表情で生まれた我が子を見つめている。
「母子共に安定しておりますが、疲労しているには変わりませんので
「我々は外に待機しておりますので……」
「うむ。そなたらもご苦労であった」
部屋を出て行く医者達にクリムゾンは労いの言葉を掛けると、医者達は一礼しその場を後にした。
そして、その場に今回の関係者と呼べる者だけが残り、クリムゾンはシュザンヌと我が子へと近づいた。
「シュザンヌ……」
「あなた……産まれました……やっと……私達の子が……」
涙を流しながら夫に伝えるシュザンヌ。
身体が弱く、今日までの間でも子供が危なくなった事もあり、預言士からも無事に産まれると予言を詠んでもらってはいたがやはり心配だった。
ずっと夢見ており、漸くできた跡取りなのだから。
「あなた……抱いてあげて下さい」
「う、うむ……」
日頃は表情などは見せず、ぶすっとしているクリムゾンだったが今だけは緊張し、息を呑みながら我が子を抱き上げた。
先程は不安等はあったが、目の前の幼い命を前にしてはそんな事は言えなかった。
「……」
「はっはっ! 中々、凛々しい顔をしているじゃないか」
僅かに眼を開けながら口を開け閉めする赤子を見て、自分の子供の様に喜ぶインゴベルト。
クリムゾンも本当はそのぐらい喜びたかったが、本人の内心では既にそれは出来ないものとなっていた。
そして、クリムゾンの想いを形にしたかの様に部屋の扉が開かれ、予言士と思われる男が入って来た。
「失礼致します」
「おお、もう来てくれたのか」
夫と予言士の会話するのを見て、シュザンヌは目の前の現状を察した。
子供が産まれれば、その子の予言を詠んでもらうのが一種の常識となっている。
その為、クリムゾンが呼んでいたのだと思ったのだ。
「あら……もう、予言を詠んで頂くのですか? 少し早い気も……」
「シュザンヌよ……事態はそう言う訳にはゆかぬのだ」
「えっ……?」
先程とは変わり、クリムゾンもインゴベルトも険しく、そして真剣な表情をし予言士へ視線を送ると、予言士は一つの岩片を取り出した。
一体、何が起こるのか分からないシュザンヌだが、インゴベルトとクリムゾンは物事を進めて行く。
「シュザンヌ、これはユリアが詠んだ【譜石】の欠片だ」
譜石、それは創世暦時代に第七音素の意識集合体【ローレライ】と契約し「惑星預言」を世界に残した偉大な譜術士である【ユリア・ジュエ】が詠んだ予言が記されている物。
その内容は世界規模から個人の事まで詠まれていたとも言われている。
そんな譜石も嘗ては巨大な七つの譜石が存在していたが、今では破片となりオールドラント各地に散らばっていると言われ、その全ては未だに発見されていない。
そんな譜石の欠片が今、目の前に存在し、真剣な表情の兄と夫を前にシュザンヌは嫌な予感を感じた。
「詠んでくれ」
クリムゾンの言葉に予言士は頷くと、静かに手を翳し詠みはじめた。
【ND1993【イフリート】の力を継ぐ者、キムラスカに誕生す】
【其は王家に連なる赤い髪の男児なり】
【名を『猛りの焔』と称す】
予言士が詠み上げるその内容にシュザンヌは事態を把握し始めた。
出産の直後であるにも関わらず、インゴベルトとクリムゾンが予言を詠ませた事、そしてその表情。
二人は知っていたのだろう、予言の内容、産まれて来る子供の予言を。
そうでもなければ譜石など、そう簡単に準備など出来る筈もない。
「”猛りの焔”……古代イスパニア語で『フレア』と言ったな」
「フレア……この子の名前……」
静かに我が子の詠まれている名を呼ぶシュザンヌ。
それに答えるかの様に欠伸をする我が子に再び笑みを浮かべるが、クリムゾン達の表情は一向に晴れない。
「問題はこの次なのだ……」
「……?」
インゴベルトの言葉の真意は分からないが、予言士は再び予言を詠み上げた。
そして、シュザンヌは言葉を失う事になる。
その夜、我が子を抱きながら彼女の泣く姿を使用人たちが見たと言う。
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それから、二十数年後……。
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現在、首都バチカル【貴族住居区】
晴天の空、奏でる鳥、心地よき風が首都バチカルを駆け抜ける。
そんな外をある屋敷の一室の窓から眺める青年がいた。
腰近くまである赤い髪、宝石の様な緑の瞳や高価な生地で作られたであろう服装。
キムラスカの王族特有の物を持ちし青年の名は『フレア・フォン・ファブレ』と言う。
ファブレ家の長子にし王位継承権第三位を与えられた男。
フレアが外を眺めていると、不意に部屋の扉が叩かれた。
「入ってくれ」
フレアがそう言うと、入って来たのはメイドであった。
メイドはフレアに一礼すると要件を伝える。
「失礼致しますフレア様。間もなく御時間となりますので、そのお知らせに参りました」
「ああ、もうそんな時間か……」
メイドの言葉にフレアは頷くと、近くに置いていた鞘に入れられた一本の剣を手に持った。
だが、腰に掛ける訳でもなく、まるで土産を持ってゆくかの様に剣を手に持つフレアはもう一度だけ窓から外を眺め呟いた。
「良い天気だな」
「はい。今日は譜石や衛星ルナがよく見えます」
フレアの言葉を拾い、メイドは笑顔でフレアへ答えるとフレアは笑みを浮かべながら部屋を出ると、そこには屋敷の入口までを兵とメイドが左右に並び、フレアの見送りをする。
「「「いってらっしゃいませ! フレア様!」」」
メイド達が一斉に頭を下げ、フレアを見送る。
そんな中、一人の近衛がフレアへ近付いてきた。
「フレア様。護衛を付けず、本当に宜しいのですか?」
「別に遠出をする訳ではない。少し、父上達の屋敷に行くだけに護衛は付けれんよ」
「で、ですが……」
近衛はそれでも心配してしまう。
自分達の役目はフレアを守る事にあり、万が一等があっては許されない。
そんな近衛の心配をフレアも察してはいたが、やはり遠くない距離で護衛は寧ろ邪魔になる。
「俺は大丈夫だ。お前たちは私の帰る場所を守っていてくれ」
「……分かりました。ですが、何かあればすぐに御呼び下さい。我等『
光焔騎士団はファブレ公爵の私兵の白光騎士団とは違い、フレアの私兵である。
白光騎士団同様にバチカルを警備しているが、それ故なのか白光騎士団とはライバル関係にある。
ファブレ公爵とフレアの仲が別に悪い訳ではないのだが、騎士としての誇りなのか他の騎士には負けたくないと言う気持ちが強い。
そして、そんな自分の騎士からの言葉にフレアも頷いて応える。
「ああ、頼りにしている。我が騎士達よ」
そう言ってフレアは皆に背を向け、屋敷を出て行く。
後ろから騎士達が自分に礼をしているのが分かり、皆に背を向けながら両親と弟の待つファブレ公爵邸へと足を進めて行った。
だが、この時フレアは気付く事は出来なかった。
これから先、弟と己の生き方を変える旅の始まりになる事態になろうとは。
そして、己の胸に存在する”計画”についても……。