絢の軌跡Ⅱ   作:ゆーゆ

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12月31日 緋色の魔城

 

12月31日。七耀歴1204年が、最後の日の出を迎えた頃。

クロウを除いた私達トールズ士官学院生は、1人として欠くことなく、登校した。

行方知れずとなっていた学生、一度は艦を降りた学生に、体調を崩していた学生も。

 

1学年と2学年生を合わせた総勢183名が再び一堂に会した、あの瞬間。

あれが私にとっての、最後の士官学院生活。最後の登校日。

 

12月31日は、薄暗い朝の冬空から始まった。長い長い、1日だった。

沢山の再会で満ちていて、唯一の出会いが舞い降りて。私は――――――

 

_____________________________________

 

解放作戦に参加する実動班は、《Ⅶ組》を含めた計41名。

それ以外の学生は、カレイジャスの運航をサポートする役目を割り振られた。

乗艦日数の長い学生が音頭を取る、人海が可能だからこその常時フル稼働体制。

食事を用意する人間すら不足していた日々が懐かしく思える程の、充実振りだった。

 

そして―――カレル離宮解放作戦を間近に控えた、午前11時45分。

実動班はカレイジャス1階の船倉で、言葉少なに準備を進めていた。

 

「みんな、静かだね」

「ん」

 

私が言うと、フィーが小声で答える。

解放作戦が近付くに連れて漂い始めた、ピリピリと張り詰めた空気。

リィンとマキアスは言わずもがな。離宮には2人の肉親も幽閉されているのだから当然だ。

 

それにどう転んだって、今日が内戦の節目となるであろうことが容易に想像できる。

カレイジャスが動くと同時に、第3と第4機甲師団も帝都方面への進軍を開始する。

帝国東部における二大勢力の総力戦、その行く末や如何に。そんな緊張感に満ちていた。

 

「こういう空気、私は嫌いじゃない。少し懐かしいかも」

「・・・・・・猟兵団にいた頃の話?」

 

フィーは専用の器具で双剣銃の微調整をしながら、小さく頷く。

何かしら思うところがあるのだろう。フィーが浮かべた表情は、郷愁を想わせた。

 

「ふーん。私のイメージとは、ちょっと違うかな」

「どんなのを想像してたの?」

「『血が騒ぐぜぇ』とか『ヒャッハー』とか、そんなの」

「・・・・・・そういうのは極一部だと思う」

 

フィーとこんな話をするだなんて、何だか変な感じだ。

一度は忌み嫌っていた人種と一緒くたにして、彼女を拒絶したのはいつの出来事だったか。

人間変われば変わるものだ。思わず顔がほころんでしまった。

 

「でも私達の相棒は大丈夫そうだね」

「え?」

「ほら」

 

フィーの視線の先には、エーデル先輩とドロテ先輩の姿があった。

ドロテ先輩はギラギラとした眼光を放ちながら、黒のカバーが掛けられた本を読み込んでいた。

一方のエーデル先輩は、鼻歌混じりに麦わら帽子の綻びを繕っていた。

 

「意識して日常的な行動を取ることで、戦闘前の緊張を解してる。本番に強いタイプ」

「ま、マイペースなだけのようにも思えるけど」

 

ともあれガチガチに緊張されるよりかは余程マシだろう。

こちらも幾分か身体が解れたような気がするし、心強い限りだ。

 

カレル離宮への突入班は、《Ⅶ組》メンバーを中心としたA班が担う。

私とフィーはC班。離宮東部に陣取っている近衛兵部隊を食い止める、A班の砦役だ。

班は基本的に4~6人で編成され、2人がペアとなって行動する。

1年生は必ず2年生と組むよう配慮がなされており、私とフィーも例外ではない。

フィーの相棒は園芸部の部長、エーデル先輩。私は文芸部のドロテ先輩といった具合だ。

 

何とも奇妙な組み合わせのようでいて、とても頼もしく思える。

エーデル先輩は導力杖の扱いに長けているそうだし、ドロテ先輩の器用さはよく理解している。

一時私と行動を共にしていたことも、私とドロテ先輩がペアになった理由の1つなのだろう。

 

『作戦開始、3分前です』

 

2人で先輩らの様子を窺っていると、艦内にトワ会長の声が響き渡る。

カレル離宮近辺への着陸が作戦開始の合図となる。既に目的地へ接近しつつあるに違いない。

 

「アヤ、準備はいい?」

「うん。頼んだよ、リーダー」

「頼まれた」

 

皆が船倉の中央に集い、リーダーを先頭にして規律正しい列を形成していく。

サラ教官と向かい合う形で、私達は隊列の左から3番目。

C班のリーダーは学年に関係無く、こういった作戦行動に精通したフィーが担っていた。

 

「全員、揃ってるわね」

 

サラ教官が言うと同時に、一度切りの小さな振動が両足から伝わってきた。

カレイジャスが地上へと降り立った音だろう。カレル離宮は目と鼻の先だ。

 

「ドロテ先輩、宜しくお願いしますね」

「フフ、こちらこそ。でもこの間みたいに、無茶は禁物ですよ?」

「あはは、分かってます」

 

深呼吸をして身体を伸ばしていると、船倉のハッチが開き始め、隙間から陽の光が漏れ出てくる。

ARCUSで現時刻を確認すると、作戦開始まで1分を切った11時59分を示していた。

 

『カレイジャスを介した複回線通信は全員切らないでね。常時オンにしておくことっ』

 

耳元の小型イヤホンとスピーカーの位置を直し、トワ会長の声を確認する。

感度良好。こちらから操作しない限り、トワ会長の指示は一方向に私達の下へ届く。

昨日の反省とやらを活かし、機器を含めジョルジュ先輩が一晩で仕上げた体制だそうだ。

カレイジャスが近距離にいる間は、効率の良い情報伝達が可能となっていた。

 

『―――午前12時。作戦を開始します』

 

サラ教官を先頭にして、地上へ繋がるハッチから駆け降りる。

すると目が光に慣れ始めるに連れ、周囲に広がる光景の全貌に、釘付けとなってしまった。

 

「うわぁー・・・・・・」

 

切り立った崖から流れ落ちる滝と、水飛沫が織り成す虹の架け橋。

そして緩やかな水流の小川の中心、厳かに佇むカレル離宮。

帝都近郊とはとても思えない、壮麗で風光明媚な世界が眼前に広がっていた。

足は止まっていなかったが、誰もが一様にして同じ表情を浮かべていた。

 

「A班はあたしに続いて、B班からG班は所定の位置に付きなさい。いいわね」

「「イエス、マム!」」

 

A班の後尾、ガイウスと視線で会話をしてから、小さく手を振る。

きっと上手くいく。そう自分に言い聞かせ、私はフィーの背中を追い、東を目指して走り始めた。

 

離宮周辺の地形は、ブリーフィングで頭に入れてある。

B班からD班は東、E班からG班は西をケアする手筈となっていた。

石造りの街道を挟み、私達の反対側にはフリーデル先輩が率いるB班。

後方にはクレイン先輩らD班が既に陣取っている。あとは敵勢を―――

 

「C班フィーからカレイジャス。敵勢力を視認」

 

フィーがトワ会長へ一報を入れた途端、緊張感が頂点に達した。

私の右目もハッキリと捉えている。装甲車2両を中心にして展開した、複数人の歩兵部隊。

少なく見積もっても20人以上はいるだろう。数はこちらと同程度だ。

 

『了解だよ。B班からD班は私の指示を待たないで、状況に合わせて応戦して』

 

さあ、どう打って出る。相手はラマール州領邦軍の精鋭達だ。

これまで対峙してきた兵士とは練度が段違いと考えた方がいい。

 

「フィーちゃん、どうしますか?」

「待つ必要は無い。こちらから・・・・・・うん、もう来た」

 

突然フィーの声が険しさを増し、両手に双剣銃が握られる。

それで私も漸く気付いた。複数の明確な殺気が、異常な速度で接近してくる。

人間以外が身に纏う、野性味に溢れた独特の気配。近衛兵のものではない。

 

「あれって・・・・・・軍用魔獣犬!?」

「あらあら。では、オープンコンバットといきましょう」

 

エーデル先輩の柔らかい声を皮切りに、私達前衛は剣を抜いた。

 

______________________________________

 

「「クリスタルフラッド!」」

 

エーデル先輩とドロテ先輩の水属性アーツが、地面に向けて放たれる。

兵士が凍り付いた両足に気を取られた刹那、私とフィーは岩山の影から躍り出た。

 

剣の峰で1人の背中を打ち、返す刀でもう1人の意識を刈り取る。

フィーの非殺傷弾も的確に敵を捉え、痛みに耐えかね蹲る兵士らが続いた。

 

「ん、いい感じ」

 

無力化した兵士らに注意を払っていると、先輩らが私とフィーに合流する。

ドロテ先輩の手には、簡易な拘束具が握られていた。

 

「手当てはしますから、大人しくしてて下さいね」

 

先輩らは後ろ手に兵士の両腕を縛り上げ、銃器を後方へ投げ飛ばした。

少々気は退けるが、今は誰一人としてカレル離宮へ近付ける訳にはいかない。

 

状況はこちら側が優勢だ。相手が学生ということに、躊躇いと戸惑いが生じているのだろう。

後手を踏んでくれさえすれば、オーバルアーツを含めた搦め手は、近衛兵にも十分通用する。

カレイジャスからの報告では、西側も敵勢を押し返しているそうだ。

 

『D班クレインからB班C班へ。後援は任せろ、この勢いでガンガン行こうぜ』

 

カレイジャスを経由した声に振り返ると、後方で導力銃を構えるクレイン先輩らがいた。

B班のフリーデル先輩らも私達の後方まで来ている。こうなれば先制あるのみだ。

 

『B班了解よ。C班、先行して』

「C班了解。みんな、あそこまで前進する」

 

フィーの声を合図にして、前方の大きな岩山に向かって走り出す。

すると突然、耳をつんざくような鋭い銃撃音が、前方から鳴った。

 

「「っ!?」」

 

地面が爆ぜ、一気に砂埃が周囲へ舞い上がり、視界が遮られていく。

飛び散った石や岩の破片が身体中に当たり、痛みを覚える。

息をする間も無く五感の全てが混乱し、イヤホンからはフリーデル先輩の悲鳴が聞こえていた。

 

「っ・・・・・・アヤ!」

「分かってる!」

 

踵を返し、後方で頭を抱えていたドロテ先輩の身体を両腕で抱えた。

フィーも双剣銃を放り捨て、上背のエーデル先輩を拾い上げる。

迷っている時間は無かった。私達は2人の先輩を抱いて、最寄りの岩山の影へと滑り込んだ。

 

(何なの、これ?)

 

ドロテ先輩を覆いながら身を縮めていると、やがて激しい銃撃は止んだ。

小石や砂がパラパラと頭上から降り注ぎ、耳鳴りが治まるに連れて、五感を取り戻していく。

 

「痛ぅ・・・・・・ドロテ先輩、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫です。その、ドキドキはしてます。ちょっとだけ」

「部長、怪我は?」

「フィーちゃん、私重くありませんでしたか?」

 

何だかよく分からない返答だ。ともあれ誰にも目立った外傷は見られない。

少々強引に回避してしまったが、無事でいてくれたようだ。

 

『おいC班、無事か!?』

「C班フィー、4人共大事無い」

 

全身の砂埃を払い落としながら、深呼吸をして気を落ち着かせる。

息を飲んでそっと岩山から顔を覗かせると、装甲車前方の大きな銃身が、黒光りを放っていた。

大振りの銃器は、装甲車の上部に座る兵士の手に握られていた。

 

「・・・・・・C班フィー。1.27リジュ重機関銃だと思う。装甲車の前面に装備されてるみたい」

 

冗談じゃない。歩兵が使用する小銃はともかく、あんな物を使われたら反撃の手立てが無い。

弾速も威力も桁違いだ。ヴァルカンが愛用していたガトリング砲が可愛く思えてくる。

装甲車は2両。私達は勿論、おそらくサラ教官でも無理だ。人の手に負える物ではない。

 

「威嚇、なのかな?」

「多分ね。連中も形振り構っていられなくなったんだと思う」

『B班フリーデル・・・・・・手に余るどころの話じゃないわね』

『D班クレイン、同感だ。仕掛けたのはこっちだし、文句は言えないな』

 

これが本物の戦場だったら、今し方の銃撃で私達はやられている。

元々真正面からやり合えば、近代兵器で固めた軍隊を相手にして敵う訳が無い。

それに威嚇射撃とはいえ、これでは前にでることさえ不可能だ。

 

『カレイジャスよりB班からD班へ。みんな、カレル離宮の中まで退いて』

 

考え倦ねていると、カレイジャスのトワ会長から指示が下った。

 

『突入班は順調に離宮を制圧しつつあるの。後は総出で守りを固めて、幽閉されている人達の確保を優先しよう。E班からG班も、今離宮に向かってるところなんだ』

「B班フィーからカレイジャス。ピックアップはどうするの?」

『エマさんの転移術で離脱できる筈だよ。時間は掛かるけど、何とかなるみたい』

「あ、なるほど」

 

トワ会長の指示に、皆が首を縦に振った。

そもそもこの作戦の目的は、カレル離宮へ幽閉されている人間の救助にある。

真面に領邦軍とやり合う必要は何処にも無い。なら、戦略的撤退を選ぶまでだ。

 

私達は背後の敵勢に気を払って、D班を先頭に離宮を目指して走り始める。

一方の私は、皆と同様に足を動かしながら、トワ会長へ告げた。

 

「B班アヤからカレイジャス。トワ会長、殿は私とユイに務めさせて下さい。形振り構っていられないのは、こちらも一緒です」

 

トワ会長の指示は尤もだが、離宮の屋内まで進攻される訳にはいかない。

総力戦になればこちらが圧倒的に不利な以上、最後の砦が必要だ。その為の力が、私にはある。

あちらが手段を選ばないなら、私だって同じ手に打って出るまでだ。

 

「トワ会長、聞こえてますか?」

『・・・・・・うん、聞こえてるよ』

 

少々の間を置いてから、トワ会長の応答が返ってくる。

どうしたのだろう。ユイの力は、会長だって十分に理解している筈なのに。

 

『ごめんねアヤさん。でも、無理はしないでね』

「分かってます。危なくなったら、私も退きますから」

 

カレイジャスが降り立った地点まで来たところで、私は足を止めた。

既にE班からG班は離宮の中に入っているのだろう。

 

「みんな!そういう訳だから、先に行ってて!」

「ん。任せた」

「任された!」

 

皆の背中を見送り、振り返ってから周囲の様子を窺う。

追手が来ている気配は感じない。時間を掛けてくれるなら言うことは無い。

いずれにせよ、離宮には誰一人として通さない。ここからは私の戦いだ。

 

「ユイ、出番だよ」

『まっかせるの!』

 

上着から飛び出たユイが巨大化し、強靭な脚が地面に付くと、地面が揺れた。

勢いを付けて飛び上がりユイの背に立ち、陽の光を手で遮りながら遠方を見やる。

 

「よし。ユイ、高度を上げて」

『飛ぶの?』

「うん。周りを見渡せるぐらいに」

 

ユイの両翼が羽ばたき、周囲へ風が吹き荒れる。

ユイは見る見るうちに高度を上げ、カレル離宮を囲む一帯が見下ろせる位置にまで飛び立った。

睨みを利かせるだけでも効果はあるだろう。ユイの存在は領邦軍の間にも広まりつつある筈だ。

 

「・・・・・・東は動いてないね」

 

西の状況はよく分からないが、東の軍勢が進軍している様子は窺えなかった。

随分と慎重のように思える。こちらが退いた今こそが、攻め入る好機だというのに。

 

『アヤさん。これは通常の無線だから、アヤさんにしか聞こえないよ。よく聞いて』

「え?」

 

遥か頭上を飛行しているであろうカレイジャスから、トワ会長の声が届く。

 

『実は作戦開始前に、領邦軍側から通達があってね。『これ以上、灰の騎神や聖獣の力を揮おうものなら、こちらも手段を選ばない』っていう内容だったんだ』

「・・・・・・それ、どういう意味ですか」

『分からない。でも、嫌な予感がするよ』

 

ヴァリマールとユイを名指しした、領邦軍からの通達。

漸く合点がいった。私が殿を願い出た際にトワ会長が躊躇った理由は、そこにあったのだろう。

手段を選ばない、か。確かに近衛兵部隊は本腰を入れつつあるが、どうにも引っ掛かる。

 

「ユイ、もっと高く飛べる?」

『勿論なの』

 

ユイが更に高度を上げ、見渡せる範囲が広がった。

やはり東側は動いていない。西の軍勢も視界に捉えたが、随分と距離が離れている。

一体どういうつもりだ。どうしてこの状況下で、攻め倦ねる必要がある。

 

―――いや、違う。

東側から、来ている。

 

『あ、アヤさん。今導力波レーダーが―――』

「見えてます。こちらからも、ハッキリと」

 

遥か東の方角から、こちらへ向かって進軍して来る一隊。

カレイジャスがこの距離まで気付かなかったということは、特別な機体なのだろう。

導力波レーダーは、耐アーツ性に優れた機体を検知し辛い傾向にあるそうだ。

 

数は5体。先頭の機体は他の4体と違い細身で、黄金色の輝きを放っていた。

近付くに連れて、機種も判別できた。確か『ケストレル』と呼ばれる、高速機動型の機甲兵だ。

 

「・・・・・・ユイ、もう降りていいよ」

 

不思議なことに、操縦者が誰かはすぐに脳裏へ浮かんだ。

外れていて欲しいが、どうせ間違いではないのだろう。

 

ユイと共に待ち構えていると、機甲兵部隊は私達の眼前で前進を止めた。

直後に響き渡ったのは、透き通るように美しく力強い、女性の声だった。

 

『そなた1人か。灰の騎神と共に迎え撃ってくると思っていたのだがな』

 

オーレリア将軍が駆るケストレルが、右手に握る大剣の切っ先を向けてくる。

胸の奥底から込み上げてくる感情を抑え、私は声を張った。

 

「理解できません。どうしてあなたが、こんな場所にいるんですか」

『まあよい。ルーファス卿から直々に討伐指示が下ったのだ』

「・・・・・・ユーシスの、お兄さん?」

『フム。そなたはもう少々、己の立場を理解した方がよいのではないか』

 

ケストレルは大剣肩に乗せ、人間の溜め息のような仕草を見せてから、続けた。

 

『帝国東部における躍進は、第3や第4によるものではない。背後には常に、そなたや灰の騎神の遊撃があった。とりわけ聖女が従える獣は、ルーファス卿にとっても余程煩わしいと見える』

「買い被り過ぎ、だと思いますが」

「だから自覚が足りぬと言っている。これ以上気紛れで東部の情勢を乱されては堪ったものではない。帝都中央駅では、戯れに興じてやったが・・・・・・そなたの懐刀、折らせて貰うぞ」

 

反論の余地は無いのだろう。

ユーシスのお兄さんの真意はどうあれ、目を付けられても不思議ではない。

それにこれだけの軍勢を当てられている以上、本気でユイを叩きに来ている。

ユイを最上級の脅威として捉えていると考えていい。

 

「随分と嬉しげに話すんですね」

『・・・・・・何だと?』

 

本当に気付いていないのだろうか。

自覚が足りていないのは、寧ろこの人だ。

 

「ハッキリ言ったらどうなんですか。あなたはこの内戦を利用して、名を馳せたいだけです。ユイの討伐だって、あなたが自分から買って出たんじゃないんですか?」

 

帝都中央駅で対峙した時以上の感情が、声から滲み出ている。

あの時もそうだった。取って付けたような言い回しで、己を正当化しようとする。

軍人としての言動の裏には、力や武勲に固執するオーレリア将軍がいる。

近衛兵部隊の攻勢も、結局はユイやヴァリマールを引き摺り出す為の布石だったに違いない。

 

『何度も言わせるな。我ら軍人は戦場へ赴き、勲を立てることが―――』

「止めて下さい」

 

この内戦を何だと思っている。ふざけるのも大概にしろ。

武人として尊敬に値するとしても、それ以外は全部偽物だ。

 

「それにもう1つ。私がこの場を退いたら、みんなのことは見過ごしてくれますか」

『戯れ言を。国賊の愚行を見逃すと思うか』

 

もう迷わない。私はユイと一緒に、正しいと信じる道を行く。

私を獣の聖女と呼びたければ、好きに呼べばいい。

 

「・・・・・・真・月光翼」

 

絢爛の輝きが全身から溢れ出るに連れて、力が漲っていく。

力はリンクを介してユイへと注がれ、ユイの四肢が同様の光を纏い始める。

私とユイの全てが溶け込み、あらゆる感覚が一体化し、繋がる。

 

昨日の一戦で見い出した力。

二心一体となった今。私達はもう、止まらない。

 

「行くよ、ユイ。存分に使って」

 

___________________________________

 

大きく身を屈めたユイが地面を駆ると同時に、機甲兵を操る5人の視界から、その姿が消える。

真正面からの光の如き突進は、5体のうち1体の下半身を奪い去った。

 

「え?」

 

唯一反応したオーレリアの機体が振り返ると同時に、2撃目。

ユイの口部から放たれたクラウ・ソラリオンは、2体の機甲兵を貫く。

霊力の槍は人間の反射を遥かに凌駕する速度で、リアクティブ・アーマーの発動を置き去りにした。

 

「な―――」

『グオオォォォッッ!!!』

 

間髪入れず、ユイが残り1体のシュピーゲルを地面へと押さえ込む。

ユイは一度咆哮を上げ、容赦なくシュピーゲルの頭部へと噛み付いた。

牙は装甲を物ともせず噛み砕き、金属が軋む不快な音が周囲へと鳴り響く。

 

「おのれっ・・・・・!」

 

瞬く間に窮地へ追い込まれたケストレルが、右手に構える大剣をユイへと振り下ろす。

ユイは猛然と牙を以って剣を受け止め、鍔迫り合いのような攻防に変わる。

すると鋭い牙は大剣の刀身を砕き、衝撃でたたらを踏んだケストレルが体勢を崩してしまう。

その隙を見逃さず、ケストレル目掛けてユイが飛び付く。

背中から組み倒されたケストレルに、反撃の手立ては無かった。

 

頭部を砕き、腕をもぎ取り、胸部の装甲を剥がす。

一片の容赦も無いユイの牙は、オーレリアを徐々に丸裸にしていく。

最後の装甲がユイの牙に掛かると、コクピット内に陽の光が当てられた。

 

突然の光にオーレリアは瞬き、思わず顔を背けてしまう。

やがて陽の光に慣れたオーレリアの目には、剣の切っ先を喉元に向ける、アヤの姿が映っていた。

 

______________________________________

 

「・・・・・・化物か。そなたらは」

 

自嘲気味の笑みを浮かべたオーレリア将軍は、力無い声を漏らす。

私は剣を鞘に納め、剣に代わって右手を差し伸べる。

 

「兵達を連れて退いて下さい。私達の目的は幽閉されている方々の解放です」

 

オーレリア将軍は私の手を取ろうとせず、よろめきながら立ち上がる。

私が機甲兵の胸部から地上へ降りると、将軍も私に続いてから向き直り、言った。

 

「その異様な力。そなたは何の為に揮うつもりか?」

「正しいと信じることができる物の為に」

「青いな。この戦の行く末に関わらず、生涯付き纏うぞ」

「構いません。何があっても、私は私です。そう決めましたから」

 

小鳥へと身を縮めたユイを肩に置いてから、答える。

もう迷わないと心に決めた。皆が信じてくれる私を、私は信じる。

たとえこの内戦の先に何が起ころうとも、私はユイと一緒に生きる。それだけだ。

 

「やれやれ。末恐ろしいっ・・・・・・?」

 

肩を竦めたオーレリア将軍が口を開き掛けた、その時。

 

突如として、地面が揺れた。

縦揺れの振動が、両足から伝わってくる。

 

「じ、地震?」

 

振動は徐々に強まっていき、轟々とした地鳴りが地面の奥底から上がり始めた。

気味の悪い地震だった。通常の地震とは、何かが違っていた。

揺れと共に、得体の知れないざわめきが込み上げてくる。

大破した機甲兵から這い出た兵士らも、一様に不安気な表情を浮かべていた。

 

 

 

―――其は緋色の皇、千の武具を持ちて天冥の狭間を統べる者なり。

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

声が、聞こえた。

在る筈のない声が、耳元で何かを囁いてくる。

 

 

 

―――焔の護り手が末裔、今より御身に言祝ぎの唄を贈らん。

 

 

 

女性の美声が古めかしい言葉を並べるに連れて、振動が強まり、陽の光が弱まっていく。

次第に冬の青空が蔭りを見せ始め、目を疑うような光景が、頭上へと広がった。

 

「そ、空がっ・・・・・・!?」

 

中心地は帝都。目が冴えるような青が、禍々しい緋に染まっていた。

バルフレイム宮殿があるであろう地点を中心として、邪悪な色に上塗りされていく。

 

水に血が滴り落ちるかのように。

ゆっくりとゆっくりと。全てが緋へ、変貌していく。

 

『ま、まさか、これって』

 

肩に止まっていたユイが、声を震わせた。

明確な恐怖を露わにしたユイの声が、同様の感情を駆り立てる。

 

「ユイ、何か知ってるの?」

『わ、分からないの。知ってるのに、記憶に蓋がされたように・・・・・・でも、初めてじゃないの』

「な、何それ。分かるように言ってよ!」

『私も分からないの!でも、遥か西の空が緋色に染まった時に、何かが、起こるの』

 

どうなっている。ランの記憶はユイの物だ。

それに私だって、ランの過去に触れた。過去から今への旅路の中に、こんな空は無かった筈だ。

 

「っ!?」

 

一際強い振動が身体を大いに揺らし、轟音が地下深くから迫ってくる。

落雷のような鋭い音が空を貫くと―――『それ』は、全貌を露わにした。

私はユイと共に、言葉を失った。

 

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真っ先に連想したのは、碧の大樹。

神々しさに満ちていた碧とは真逆、対となる邪悪な緋。

この世の終わりを具現化したかのような、緋色の城塞。

魔城としか形容のしようがない建物が、バルフレイム宮が在った筈の地に、聳え立っていた。

 

「オーレリア将軍・・・・・・オーレリア将軍!!」

 

私は縋るように、前方へ立っていたオーレリア将軍へと詰め寄る。

 

「何ですかあれは!?帝都で一体、何が起きてるんですか!?」

「私とて知らされてはいない。だが、あれは・・・・・・カイエン公の仕業かもしれん」

「か、カイエン公の?」

 

オーレリア将軍は語った。

カイエン公が内戦の水面下で、何かを目論んでいたこと。

結社をはじめとした裏の協力者達をバルフレイム宮へ集い、何かを進行させていたこと。

その中心には、蒼の深淵。身食らう蛇が第2柱の、ヴィータ・クロチルダがいたこと。

 

「結社が・・・・・・じゃあ、あれって」

 

繋がった。全てが繋がった。

結社が貴族連合の後ろ盾となっていた理由。

クロスベルとの共通点と、私が抱き始めていた不安の正体。

 

やはり一緒だったのだ。あの魔城の顕現こそが、結社の目的だった筈だ。

クロスベル同様、表の動乱を隠れ蓑にした企みが今、最悪の形で現実となっている。

 

もう一刻の猶予も許されない。何が起きたって不思議ではない。

誰かが動かないと、このまま事が進行してしまう。

 

「お願いです。正規軍との戦闘を今すぐ中止して下さい」

「何だと?」

「あれが見えないんですか?クロスベルに現れた碧の大樹と同じで、あの城は普通じゃない。このままだと取り返しの付かない事態になります」

「しかし、我々は―――」

「いい加減にして!!」

 

私はオーレリア将軍の胸倉を掴み、声を荒げた。

 

「あなたは何を見てるの!?カイエン公と結社の企みの存在に気付いていて、どうして放置したの!?こうなる前に、止められた筈なのにっ・・・・・・!」

 

感情に身を任せて怒鳴り散らしていると、イヤホンから男性の声が耳に入って来る。

私は一度手を離し、呼吸を整えてから応答した。

 

「聞こえてるよ。リィン、皇帝陛下は?」

『全員無事さ。皇妃殿下にレーグニッツ知事、エリゼもな。外の様子はどうだ?』

「こっちも大丈夫。ていうか、もうそれどころじゃないって感じ」

『ああ・・・・・・そうだな。一度離宮の中へ来てくれ、みんなで話をしよう』

「分かった。すぐに行くよ」

 

リィンとの通信を終えると、後方から迫ってくる数台の装甲車が視界に入る。

思わず身構えたが、よくよく見れば領邦軍の物ではなかった。

装甲車の側部には『TMP』の3文字と、鉄道憲兵隊の紋章があった。

 

「アヤさん、ご無事でしたか」

 

急停止した装甲車から降り立ったのは、クレア大尉と2名の兵士だった。

大尉は私とオーレリア将軍を交互に見ながら、疑問の声を上げた。

 

「・・・・・・どういった状況でしょうか」

「いえ。何でもありません、離宮へ向かいましょう」

 

クレア大尉に答えてから、再びオーレリア将軍へと向き直る。

ここで言い争っていても仕方ない。それにもう、事は内戦の範疇に収まらない。

私は非礼を詫びてから、カレル離宮を目指して走り始めた。

 

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カレル離宮3階の大広間へ向かう道すがら、クレア大尉は直近の状況を教えてくれた。

大尉は数名の精鋭を帝都へと送り込み、都内の動きを密かに探っていたのだそうだ。

 

「じゃあ、直接の被害はまだ出ていないんですね」

「先日から宮殿の周辺へ近付かないようにと、都民へ勧告が出されていました。今日になって勧告は指示に切り替わりましたので、我々も注視していたのですが・・・・・・」

 

結果としてあの魔城が顕現した、に繋がる訳か。

クレア大尉もまさかこんな事態に陥るとは考えていなかったのだろう。

被害が出ていないことが唯一の救いだが、安堵は微塵も感じられない。

 

「領邦軍の動きはどうですか?」

「・・・・・・あまり芳しくはありませんね」

 

クレア大尉曰く、領邦軍内でも動揺が広がっているらしい。

異変を境にして指示系統に支障を来しているようで、足並みが狂い始めている。

正規軍も思うように帝都方面へ進軍できず、二の足を踏んでいるそうだ。

 

一方の都内では大変な混乱が生じており、帝都民は自主的に避難を開始している。

その先導をしようにも人員が足りていないばかりか、避難場所の確保すらままならない。

明確な避難指示すら出されていないせいで、混乱が混乱を生む負の連鎖が始まりつつあった。

 

「広がりが早いですね。あんな物が現れたら、無理もないですけど」

「いずれにせよ状況を見極めながら、最悪を想定して都民の避難を優先するしかありません。場合によっては、皆さんにも手を貸して頂く必要があります」

「分かってます。大広間、ここですよね?」

 

先導していた2人の兵士が、両開きの大きな扉に手を掛ける。

扉の先には実動班の士官学院生と、幽閉されていた4名の姿があった。

真っ先にこちらに気付いたのは、ガイウスだった。

 

「アヤ。無事だったか」

「私は大丈夫。ガイウスに、みんなも」

 

ガイウス、そして皆に笑顔を向けてから、前方の光景を見やる。

大広間は奥側の壁が硝子張りとなっており、屋内からも外の様子を窺い知ることができた。

 

複数の小さな滝が流れ落ちる岩肌の向こう側に聳え立つ、緋色の魔城。

リィンとの通信で察してはいたが、皆もこの異常な事態を前に、言葉が無いといった様子だった。

 

「委員長が教えてくれたんだが、あれは『煌魔城』と呼ばれる魔宮だそうだ」

「煌魔城・・・・・・」

 

煌魔城。250年前の獅子戦役の際にも顕現し、騎神同士が衝突したとされる決戦の場。

獅子心皇帝と槍の聖女によって封印された筈の魔城が今、再びその全貌を露わにした。

引き金は皆の耳にも届いていた。蒼の深淵による、最大の禁呪とされた『唄』だった。

 

ユイとランは250年前、緋色の染まった西空を知っていたのだろう。

記憶に蓋がされた理由は分からないが、この異変は帝都のみに留まらない。

既に帝国全土、もしかしたら隣国にも知れ渡っているのかもしれない。

 

「はい、クレアです」

 

硝子越しに煌魔城を睨んでいると、クレア大尉が無線機で通信を始める。

やり取りを開始するやいなや、大尉の表情は見る見るうちに青褪めていく。

事態が好転する要素が見当たらない以上、何かしら悪い報せが入ったのだろう。

通信を終えた大尉に、サラ教官が険しい表情で尋ねる。

 

「ちょっと、何があったの?」

「帝都へ潜入していた部下からの報告ですが・・・・・・ドライケルス広場周辺に、巨大な魔人が複数体、出現したとのことです」

「巨大な、魔人?」

「まさかっ・・・・・・魔煌兵!?」

 

リィンが声を上げると、《Ⅶ組》の皆を中心にして異様な雰囲気が広がっていく。

私は直接対峙した経験は無いものの、魔煌兵に関する話は聞き及んでいる。

 

暗黒時代に生み出された、魔導の力で動く巨大なゴーレム。

種によっては幻獣に匹敵する脅威となり得る古の魔人が、帝都の中心地。ドライケルス広場に。

最悪の事態が脳裏をよぎり、マキアスが声を荒げて言った。

 

「ば、馬鹿な!あんなものが帝都を徘徊し始めたら、とんでもない被害が出るぞ!?」

 

被害の程は想像も付かない。大型魔獣が中心街に放たれたようなものだろう。

この期に及んで後手に回っていたら、取り返しの付かない大参事に繋がってしまう。

 

「・・・・・・聞こえているんでしょう、ヴィータ姉さん」

 

すると突然、エマが頭上を仰いで、彼女の姉の名を口にする。

やがて天井の一部が青白く輝き、光の中から一羽の鳥が姿を現した。

 

12月12日、アルスターでの一件の再現だった。

輪の中心へ唐突に下り立った幻影は、ぞっとするような冷徹な微笑を浮かべていた。

 

『ウフフ。グリアノス越しに失礼するわよ、ご観客の皆さん』

「姉さん、どうしてこんなっ・・・・・・今何処にいるの!?」

『決まっているじゃない。終楽章を奏でるに相応しい、最高の舞台上よ。リィン君、あなたも感じているのでしょう?既に前奏は終わっているのだから』

 

名指しされたリィンが、私達の一歩前に出る。

リィンは幻影を睨み付けながら言った。

 

「そこには、クロウもいるんですね」

『言葉は不要。蛇足というものだわ』

「そこに辿り着けばっ・・・・・・全部、終わるんですね?」

『それはあなた次第、とだけ言っておきましょうか。待っているわよ、灰の起動者さん?』

 

蒼の深淵は身の毛がよだつような笑みを浮かべた後、光の粒となって消えた。

続いて天井近くまで羽ばたいたグリアノスが、一際強い輝きを放つ。

気高く滑らかな声の旋律は、私の胸元へと向けられた。

 

『聖しき獣様よ。転生して尚、人の子如きに入れ込むか』

『フンだ。ランはあなたが嫌いだったの。だから私も嫌いなの。話し掛けないで欲しいの』

『フフ、そう邪険にするな。すぐに相見えることになろう。待っているぞ、魔城でな』

 

ユイとの短いやり取りを最後にして、グリアノスも光の中へと消えていった。

私は胸元でいきり立つユイを宥めてから、顔を上げた。

 

大広間に一時の静寂が訪れ、複数の視線が交差していた。

山積みの『分からない』の中にある、たった1つの明確な事実。

言葉は蛇足というヴィータの言い回しが、41名の士官学院生によって体現されていく。

 

自然と、視線は一手に集まった。

リィンは耳元のイヤホンの位置を直し、カレイジャスに乗るトワ会長へと繋いだ。

 

「トワ会長。こちらのやり取りは聞こえていましたか」

『うん。こっちは満場一致で同意見だよ。そっちは?』

 

リィンが視線を上げると、口火を切ったのはE班のパトリックとヴィンセント先輩だった。

 

「フン、聞くまでもないだろう。僕も賛成だ」

「帝都が危機に瀕している今、尻込みをする訳にはいかないさ」

 

ハイベル先輩に、ロギンス先輩。

 

「肚は決まっているよ。元からその覚悟でカレイジャスに乗ったからね」

「こうなりゃ行くとこまで行くしかないからな」

 

エミリー先輩とテレジア先輩も。

 

「ここで燃えなきゃ士官学院生の名がすたるってものよ。ねえテレジア」

「ええ、そうね。迷っている時間は無いもの」

 

確かな意志が込められた声が続々と上がり、リィンの下へと舞い込んでくる。

最後に私達《Ⅶ組》へリィンが向き直ると、今度は非難の声が相次いだ。

 

「阿呆が。この期に及んで何を問うつもりだ」

「我らも最後まで巻き込ませて貰うぞ、リィン」

「みんな・・・・・・」

 

40人分の意志がリィンの中で1つとなり、最後に私達の恩師へ。

リィンは先頭に立って、サラ教官へ告げた。

 

「もう時間がありません。動けるのは俺達だけです。帝都を救う為に・・・・・・俺の、俺達の因縁の全てを終わらせる為にも、カレイジャスは今から煌魔城へ向かいます」

 

サラ教官は腕を組み、押し黙ったまま首を縦に振った。

教官の表情からは、私達の誰よりも重い、並々ならない覚悟の程が窺えた。

 

すると教官の左肩に、男性の右手が置かれた。

皇帝陛下は教官が背負う重責を肩代わりするかのように、厳然とした声を贈ってくれた。

 

「征くがいい、有角の若獅子達よ。帝国の未来ではなく、そなたらの明日を掴む為に。そして一人も欠けることなく帰って来るがよい・・・・・・そう、約束してくれるかね?」

 

―――イエス、ユアマジェスティ。

私達が声を揃えた瞬間から、煌魔城攻略作戦が、始まりを告げた。

 

 


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