CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
桜吹雪の夢を見た。
ルドガーはベッドの上で起き上がり、途方もなく重い気分で頭を抱えた。
朝食の席で、ルドガーは正面に座るエルを見ていた。
「エル、付いてるわよ」
「だいじょーぶだよー。ミラ、カホゴ」
「ほんと、口だけは一人前ね」
ミラがナプキンでエルの口周りを拭いた。最初に比べればこの二人の仲もずいぶんと縮まった。
「どしたの、ルドガー。食べないの?」
「食べるよ」
言われてしまってやらないのは不審なので、ルドガーはトーストに軽く齧りついた。
――今日見せられた予知夢への対策を考えるには、食べる時間さえもったいないが。
今日、ヴェルから連絡が入る。“カナンの道標”があり、かつ、ユリウスが進入したらしき分史世界へ入れという指令を下される。ルドガーは、エルとミラ、そしてエリーゼとミュゼでその分史世界に入る。そこでユリウスと再会して話している間に、エルが海瀑幻魔という魔物に襲われる。海瀑幻魔をおびき寄せるため、ルドガーは自らの腕を切って血を大量に流す。――大筋はそんな感じだ。
(死にはしないんだとしても、エルみたいな子供にできれば痛い目見てほしくない。それに、いざって時に俺、自分の腕切るなんてできるのか?)
「
ルドガーが予知夢を見られることはエルとジュードにしか教えていない。
その二人には口止めしてある。あまり
それに未来を知る人間が増えると未来そのものが揺らぐ、とツバサに忠告された。そして、悪用した場合は飛んできて「
(知ってるのに、助かるからって夢の通りにエルを苦しませるのは人としてどうなんだ? あー、先に知ってるってお得なばっかじゃないんだなあ)
「ちょっと、ルドガー? 本当にどうしたのよ。早く食べないと片付かないじゃない」
「……片付けていいよ。今日は食欲ない」
「もったいなーい! かしてっ。エルがれーぞーこに入れといたげる」
ヴェルから連絡が入るまでルドガーは悩み続け。
決して最善とは言えない、それでもエルを傷つけずにすむ方策を立てた。
ユリウスの捜索という名目でイラート海停に全員が集められた。
街道の西はジュード、レイア、アルヴィン、ローエン。海路はリドウ、イバル、ガイアス、ツバサ。ハ・ミル方面はルドガー、エル、ミラ、エリーゼ。
ここまでは夢と変わらない。
(予知夢と同じ行動取るのって初めてかも)
視界の隅を長髪がよぎった。
見上げれば、ルドガーにしか視えない夢の
(大丈夫だよ。上手くやってみせる)
ハ・ミルにいたミュゼを捕まえ、夢の通りのメンバーになったところで、ルドガーはすぐさま目標分史世界に進入した。
分史のキジル海瀑に出たところで、エルは一目散に波打ち際へ走って行った。エリーゼがエルを追いかけて行った。
それを見届け、ルドガーは近くの洞窟に入って行った。
「ちょ、あなたまで!? もう、エルとそっくり」
ミラが文句を垂れつつも付いて来る。――これも予知夢の通り。
洞窟を抜けると、岩の上でユリウスがお気に入りの曲をハミングしていた。
「余裕ね。追われてるのに鼻歌なんか歌って」
「癖なんだよ。我が家に伝わる古い歌でね。会いたくて仕方ない相手への想いがこめられた“証の歌”というらしいが……本当に、会いたい相手が来た」
ユリウスは岩から飛び降り、一瞬前の優しい兄の顔を、冷徹なエージェントの顔に変えた。
――
「ユリウス。先に俺の話を聞いてほしい」
「何だ?」
「ユリウスはさ。もし俺が魔物に襲われてて、割って入ったら自分が大怪我するけど俺は助かるって場面に遭ったら、どうする?」
「割って入る」
「……ストレートね。迷いなし?」
「俺は兄貴だからな。弟を庇うのは当然だ」
隣でミラが唇を噛んで顔を逸らした。姉に冷遇されてきたミラにとって、ユリウスの言葉は痛いものだっただろう。
「ありがと、兄さん。おかげで腹が据わった」
ルドガーは言うなり、踵を返して洞窟を抜けるべく走った。
ツバサのカード探しとルドガーの予知夢の扱い方でW主人公っぽくなってきた気がする今日この頃。