CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
桜吹雪の夢を見た。
なのに、ルドガーは「夢」の通りに進む現実を変えられなかった。
絶えず雪が降り積もる雪原で、ルドガーは斜め前を進むミラをこっそり窺った。
「うう、もう寒すぎっ! 何なのよ、ここ」
「口を動かす力で体を動かせ。お前なら、かなり温まるだろう」
「つまらないことをつまらなさそうに言うのね」
「つまらない愚痴には似合いだ」
――分史世界破壊の初任務。ルドガーは分史世界からミラを正史世界に連れ出してしまった。
「
(正史世界のミラが本格的に出てくる前に、こっちのミラをどうにかしなきゃいけない。『
「ちょっと! 遅れないでよね。こんなとこ早く突っ切っちゃいたいんだから、こっちは!」
「あ、ああ悪い、今行く」
――突っ切ったはいいが、首都カン・バルクに入っても寒いものは寒いと予知夢で知っているルドガーは、今から憂鬱の白い息を吐いた。
無事に分史世界破壊が終わって正史世界に帰って来てから、ガイアスは一人、トリグラフでの拠点にしている宿に向かって歩いていた。
「おかえりなさい」
その途上で街路樹にもたれてガイアスを待っている者がいた。ツバサだ。
「よく俺がここを通ると分かったな」
「何となくですよ」
ガイアスはツバサと並んで再び歩き出した。
「ルドガーさんのお仕事、ちゃんとできてました?」
「ああ。見事だった」
――その分史世界の
ガイアスは「リイン」を戦って降した上で、ルドガーに分史世界の破壊を任せた。
ルドガーは無言で「リイン」に骸殻の槍を突き立て、“カナンの道標”を回収し、その世界を破壊した。
「お前の首尾はどうだったのだ」
今回、ツバサは「迷い猫を探して飼い主に届ける」というクエストのために、同行を断った。
「無事に猫さん、飼い主さんにお届けしました。気のいいおじいちゃんで、
楽しいと答える割に、ツバサの表情は寂しげな微笑。
「――笑うな」
「はい?」
「俺の前でまで無理をして笑わなくていい」
「……そんな顔してました? わたし」
「していたから言ったんだ」
ツバサは笑みを消した顔でガイアスを見上げてきた。
焦がれ、乞う、二つの翡翠色。
「好きです」
……しばらく何を言われたか理解できなかった。
理解してようやく、ツバサは自分に恋心を明かしているのだと分かった。
「お前……」
「今日、猫さんの飼い主さんとお話した時、娘さんを二人亡くされてるって聞いたんです。それは寿命とかじゃなくて、娘さんたちが望んだ死に方でもなくて。それで思ったんです。わたしが今好きな人たちも、いつか伝えようって思ってる内にいなくなっちゃうかもって。そしたら一番にアーストさんの顔が浮かびました」
無理に笑うな、と言ったばかりなのに、ツバサは寂しさの色を浮かべて笑う。
「応えてほしいんじゃないです。ただ、この気持ち、伝えずに元の世界に持って帰るのは無理っぽくて。ごめんなさい。言っちゃいました。――じゃあわたし、家こっちなんで、失礼しま」
ガイアスは歩き出そうとしたツバサの手を掴んだ。ツバサは軽く困惑したようにふり返った。
「一つ聞きたい。お前が伝えたい相手は“アースト”か? それとも“ガイアス”か?」
「……あ」
「どちらかによって俺の返答も変わってくる。ツバサ、お前の心は、どちらの俺に向いている?」
「……かんない……分かんない、です。わたし、だって、“アーストさん”しか知らない。王様してる時のアーストさん、一つも知らない」
呆然と答えるツバサの目尻が潤んでいく。
ガイアスは手をツバサの頬にやり、指で涙を拭き取った。
「そろそろ一度カン・バルクに戻ろうと思っていた。お前も一緒に来い。カン・バルクで王としての俺をお前に見せてやる。そこで見極めればいい。お前が真実好いているのが、“アースト”なのか“ガイアス”なのか」
ツバサは俯き、こつ、とガイアスの鳩尾の辺りに頭を預けた。
「ありがとう、ございます」
その声が涙声であることをガイアスは追及せず、ただツバサの肩を手で包み込んだ。
これが恋になるのか別の関係になるのか。
ツバサが答えを出せるまでしばしお待ちいただければ幸いです。