CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ルドガー・ウィル・クルスニクは、ある日から不思議な「夢」を見るようになった。
憧れのクランスピア社。尊敬する兄・ユリウスと同じ、エージェントという仕事。その試験に不合格になった日からだ。
その日でさえ、何故かユリウスと剣を交え、意味深な問いを投げられる悪夢を見たというのに。
例えば――
真鍮の懐中時計を首から提げた女の子を、ルドガーが守る「夢」。
新聞でしか知らないDr.ジュード・マティスと背中を預け合って戦う「夢」。
暗い穴に落ちそうな、金蘭の髪の女の手を必死に掴んで離すまいとする「夢」。
ルドガーが「夢」の中にメインキャストとして登場する時は、決まって二つのものがある。
まずは、一人の女がいる。ルドガーの知らない女だ。大きな帽子で目を隠し、スレンダーなドレスを纏った、神官を思わせる女。その女だけは「夢」にキャスティングされることなく、傍観に徹している。
次に、桜の花吹雪が舞っている。桜吹雪が見えるのはルドガーだけで、他のキャストはそんなものなどないように動く。
「どうした、ルドガー」
考え込んでいたルドガーは、正面の椅子に座るユリウスの声で我に返った。
「ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
ユリウスの膝からルルがどき、テーブルの上を歩いてルドガーの前で止まった。
「ルルにまで心配されてる」
「最近、夢見が悪くてさ。それだけ」
ルドガーは残り少ないホットミルクを飲み干し、カップをキッチンのシンクへ持って行った。
カップを洗って片付けてから、何でもない顔でユリウスにおやすみを告げ、自室へ入った。
…………
……
…
その夜もルドガーは「夢」を見た。
今度は、例の女の子を、別の女の子が精霊術というリーゼ・マクシア特有の技術で懸命に助けようとしている場面。
そんな緊迫した場面にも、やはり桜吹雪が舞い散っている。
(今日こそ明日こそって思って、でも先延ばしにしてきた)
ルドガーは海岸の砂を踏みしめ、渾身の力で体ごとふり返った。
「お前は一体何なんだ! お前が俺にこんな『夢』を見せてんのか?」
ぴた。全ての光景が時を止めた。
景色が消えた。残ったのはルドガーと、女と、舞い落ち続ける桜吹雪。
ルドガーは腹に力を入れて女を睨んだ。
女がどう受け止めているかは、目を隠す帽子のせいで分からない。
「見つけた――」
ルドガーは最初、女がしゃべったのだと思った。
だが、それにしては声が高く、幼い。
次いで第三者の足音がしたため、ルドガーはその声が第三者のものだと確信した。
「誰だっ」
「ひゃっ、ご、ごめんなさい」
第三者は少女だった。蜂蜜色の長髪が空色のジャケットに映える、翡翠色の目をした少女。手に星モチーフの長杖を持っていなければ、普通のエレンピオス人の女子だ。
「『
厳しく問い質しているのであろうが、声質が声質なだけに迫力がない。
「予知夢……?」
「今までに変な夢を見ませんでしたか? その、夢で体験したことが、現実でも起こったり」
「いや、特にしてないけど」
「あ、あれ? おかしいな、『
すると女が、初めて、動いた。
女はふわりと少女の前まで漂っていくと、少女の顔を包んで額を重ねた。
「……あの人が気に入った? カナンの、地? オリジンの審判? クルスニク? 待って。一度に言われても……どうしてもあの人のそばにいたいの? ……分かったわ。今はまだ封印しないであげる。でも、しばらくはあの人に『夢』を見せないこと。いい?」
「
「
「ごめんなさい! その子が迷惑をおかけして……その、それで、申し訳ないんですけど、その子がどうしてもあなたから離れたくないって言ってて。もうちょっとだけ預かってもらって、いい、ですか?」
「あ、ああ、いや、その」
「わたし、ツバサっていいます。もし夢見が悪くて眠れないなら、わたしに言ってください。すぐに連れ戻しに行きますから」
言えと言われても、ここは夢の中だ。どう伝えればいいか分からない。
するとツバサはジャケットのポケットからGHSを出した。
「ここは夢の中ですから」
ルドガーも部屋着のポケットを探り――かくして、自分のGHSは出て来た。
「番号交換しましょう? それで何かあったら、かけてください」
「分かったよ」
どうせ夢だ。ルドガーは腹を括り、番号とアドレスを、ツバサの水色のGHSと赤外線交換した。
「それじゃあ、おじゃましました。おやすみなさい」
ぺこりと頭を下げたツバサは、踵を返して桜吹雪の向こう側へ去って行った。
…
……
…………
アラームの振動でルドガーは目を覚ました。
寝起きのぼんやりした頭のまま寝返りを打ち、GHSを開いた。
「……マジかよ」
GHSの電話帳には「ツバサ・キノモト」というアドレスがばっちり登録されていた。
ここまではそのまま。
加筆修正を本格的に加えるのは次話からです。