CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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穢れを「撃」つ

 悲しい。戦場で命を散らす兵士たちが。

 苦しい。戦場に穢れを撒き散らす憑魔が。

 痛い。自分をバケモノのように見る敵と味方が。

 

(それでも、オレがやらなきゃ、誰も救われない)

 

 走った。肺の痛みを無視して。

 剣を揮った。腕の疲れを無視して。

 立った。かの者に相対する恐怖を無視して。

 

(オレは導師だから、みんな守らなきゃ)

 

 なのに。

 ミクリオを呼んでも。ライラを呼んでも。エドナを呼んでも。

 神依は発動しない。

 姿さえ視えない。声さえ聴こえない。

 

 災禍の顕主の穢れに侵された兵士らに対し、スレイは一人。

 

 スレイは今、完全に、「独り」だった。

 

 

 兵士のめちゃくちゃな剣を儀礼剣で受け止めながらも、スレイは徐々にその圧力に負けて、膝を突いた。

 

(こんなとこで死ぬのか、オレ。ひとりぼっちで。何も成せないまま……)

 

 死への恐怖より、一人も仲間がいない寂しさが、スレイの剣を握る手を緩めようとさせた時だった。

 

 

「『(ショット)』!!」

 

 

 ここで聞こえるはずがない声がして、衝撃弾が穢れた兵士らを全て的確に打ち抜いた。

 ここにいるはずのない人物が、槍を構えてスレイを守るように立っていた。

 

「あ、あぁ……!」

「大丈夫か!? スレイ!」

 

 ――アリーシャだった。

 もう逢えないと思うだけで泣きたいくらい寂しくなった、アリーシャが、スレイの窮地を救ったのだ。

 

「立てるか?」

「うん……っ、だいじょぶ」

 

 スレイは儀礼剣を杖代わりに立ち上がった。

 アリーシャがいる。もうスレイは独りではない。それだけで戦い抜ける。

 

「ではスレイ、ここから逃げるぞ」

「逃げるって」

 

 ふわり。スレイらの前に、重力がないかのように舞い下りたのは、コタローだ。

 

「アリー、導師さん、掴まってて」

 

 言うなり、コタローはスレイとアリーシャの腹に腕を回し、断崖から飛び降りた。

 

「う、わ――っ」

「『(フロート)』!」

 

 コタローが叫ぶや、落下の勢いががくんと落ちた。代わりにピンク色のシャボン玉らしき球が、スレイとアリーシャ、そしてコタローを包んで、ゆっくりと下り始めた。

 

「何だ、これ……コタロー、これって」

「魔法ですよ。カードの。この中から出ないでくださいね。でないと下の川にダイブイントゥですよ」

「じゃ、じゃあさっき助けてくれたのも」

「あれはアリー。ね?」

 

 振られたアリーシャは、にこ、と笑んだ。

 

「私も少しだけ、さくらカードを使えるようにしてもらったんだ。さっきのは『(ショット)』。狙った相手に必ず攻撃を当てるカードだ」

「アリーシャが、魔法を……」

 

 話す間にもピンクの球はふわりふわりと漂い、川岸に着地した。

 

「もういいよ。ありがとう」

 

 すると、ピンク色の球体は消え、コタローの手の中にピンク色の札が現れた。いや、戻ったというべきなのだろう。

 

 スレイは興奮のままアリーシャの両手を取った。

 

「すごい。すごいよ、アリーシャ! こんなことできるようになったなんて。なあライラ、今なら従士契約、復活してもだいじょ…………あ」

「そういえばライラ様たちは?」

 

 アリーシャがきょろきょろと周りを見回した。

 

「……わかんないんだ。戦場で災禍の顕主に会って、それからみんなどこにも……呼んでも答えないし、神依も、でき、なくて」

 

 がくん。

 スレイはその場で膝を突いて、両手も突いた。

 

「スレイ!?」

 

 アリーシャがスレイの背中に手を置き、顔を覗き込んできた。

 スレイは自分より細いアリーシャに掴みかかった。

 

「アリーシャ……どうしよ、オレ、オレのせいでミクリオたちが穢れてたら……憑魔になってたら、オレは……!」

 

 頭を撫でられる感触がした。アリーシャが縋るスレイの頭を撫でてくれているのだ。

 

「落ち着いて、スレイ。大丈夫。みんな、お強い方じゃないか。何よりスレイの契約してる方たちだ。簡単にいなくなったりするものか」

「そうかな……」

「そうだよ」

 

 スレイはようよう顔を上げた。目の前には、真名にしたいと思ったほどに美しい、笑顔のアリーシャ。

 

「あの~」

 

 スレイはしゅばっ! と、音が立つ勢いでアリーシャと離れた。

 

「二人の世界なのはぜんっぜんいいんですけど、おれの存在忘れてません?」

「ご、ごめん! コタローもありがと。おかげで助かった」

「いいですよ、礼なんて。大変でしたね、導師さん。お疲れ様です」

「っ、うん……っ」

 

 自分は恵まれている、とスレイは思った。こんなに優しい人たちがスレイの周りにはいる。

 

 スレイは立ち上がり、笑いかけるアリーシャとコタローに向けて、笑顔を返した。




 「撃」をどこで手に入れたのかの経緯はまた次回。
 アリ&コタ、満を持してスレイを救出に来ました。
 ロゼ、出番先送りしてごめんよ。

 そしてなぜかメンタルだだ弱のスレイ君。
 何故自分が書くと男性キャラは女々しくなるのでしょう……?

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