CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ホーニャンが自室でクエストに出かけるための身支度をしていた時だった。
外からドアが乱暴に叩かれた。
「はうー、なにさー」
ホーニャンは髪を梳かすのをやめ、ブラシを持ったまま部屋のドアを開けた。
「ナナリーさん?」
「ホーニャン! よかった。まだ船降りてなくて。ねえ、ホーニャンって不思議なことを解決する力があるんだよね?」
「あ、あの、落ち着いて。急にどうしたの? 何かあったの?」
「アンジュがしゃべれなくなったんだ!」
持っていたブラシが手から滑り落ちた。
ホーニャンはナナリーに付いて、ケルベロスともども医務室に飛び込んだ。
「アンジュさん!!」
医務室員のアニーが、ベッドに座るアンジュを診ている。アンジュの横にはリカルドとロックスが付いていた。
アンジュはホーニャンたちを視て驚いた顔で口を開いたが、その口からいつもの、高く、それでいて落ち着いた声は出てこなかった。
「アニー、どうだい?」
「風邪じゃありませんし、喉にもこれといった異常は見当たりませんでした。力が及ばなくて、すみません」
ケルベロスがアンジュの前に飛んでいって問うた。
「ねーちゃん、声出えへんなったんか」
アンジュは無言で肯いた。
「これがさくらカードのせいやとしたら、
「
ホーニャンはアンジュに対して勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!
すると、アンジュはリカルドを指でつつき、口だけを動かした。
「『謝らないで。あなたがやったことじゃないんだから』だそうだ」
「わかるんですか?」
「セレーナとは付き合いが長いからな。――で、だ。問題は二つ。一つはどうやってセレーナの声を取り戻すか。もう一つは、セレーナの声が戻るまで、誰がギルドの受付業務をやるかだ」
「「「あ」」」
ホーニャンと、それにナナリーとアニーで声が揃った。
「ロックスは」
「……僕も考えたのですが、毎日のコンシェルジュの仕事とクエストカウンタは両立できそうにありません」
「だよねえ……」
「わたしもナナリーさんも、医務の仕事がありますし――」
輪になって悩んでいると、アンジュが今度はホーニャンの肩を指で叩いた。
ふり返ったホーニャンたちに、アンジュは笑顔で、どこに持っていたのかメモ帳を見せた。
“受付も料理みたいに当番制にするわ。もちろん声が戻るまで。それならいいでしょ?”
「向かん奴に当たったらどうするんだ」
“その時はその時。それに、他に案なんてないでしょう?”
「――確かにな」
王侯貴族の人々はともかく、天然だったり神経質だったりする一部の特徴人がクエストカウンタに立つ絵面を想像したホーニャンは、別の意味でとんでもないことになったのだと気づいて蒼ざめた。
「すぐに! 可及的速やかに
当番制となったクエストカウンタ――の下。船倉にて。
ホーニャンは
「『
「そもそもアンジュねーちゃんの声を気に入ったっちゅう時点で、
「となると、できるだけセレーナに近い声か、もしくは特に上質な声の持ち主をオトリに使わんと、さくらカードは出てこないわけだ」
「うん……って、わ!? リカルドさん!? いつのまに」
「さっきからおったで」
「歌の邪魔にならないよう気配は消していたがな」
ホーニャンはとっさにリカルドに謝罪しようとした。声が出なくなったアンジュを、リカルドは特に案じているように見えたからだ。
(――ん? 歌……)
ホーニャンは
「リカルドさん、ごめんなさい! あたしちょっと用事思いつきました! 失礼します!」
ホーニャンは、ホール階にあるエステルの部屋を訪ねるべく、急いで船倉の梯子を登った。
――結論から言うと、エステルはホーニャンのお願いした
「実は
「クエストカウンタの当番がわたしに回ってきた日に、実際に仕事をしてみて知ったんです。あそこに毎日立つアンジュが、どれだけ大変で重要な仕事をしてくれたのか。そんなアンジュのためでしたら、協力は惜しみません」
「何より、今はわたしもアドリビトムの一員ですから」
決行はエステルに依頼した翌日。これは、被害の余波がギルドのメンバーに行かないよう、さくらカード捕獲中はホールに誰も近寄らないよう周知するためだ。特に、女性で、歌が巧い者は固くお断りさせていただいた。
作戦参加者は、エステルと、彼女の護衛としてアスベル。エステルの個人的希望は「聴かれるのが恥ずかしいのでホーニャンたちだけでいい」だったが、アスベルが頑として譲らなかったためこのメンバーとなった。
ホーニャンたちがホールで待っていると、点呼に行っていたケルベロスが戻ってきた。
「大丈夫や。みんな大人しゅう部屋に入ったで。……一部、妹やらお相手さん大事で、部屋に押し込んだっちゅう組もあったけど」
「ありがとね、ケロちゃん。――エステルさん」
「はい」
「最後の確認、です。今からすることはとても危ないです。
「エステリーゼ様……」
「心配しないでください、アスベル。――やります。ホーニャンがいるなら『絶対、大丈夫』です」
ぱちくり。ホーニャンはまじまじとエステルを見つめ、ふっと脱力した。――母・さくらの「無敵の呪文」。語ったのは一度だけでずいぶん前のことなのに、エステルは覚えていてくれた。
ホーニャンは一度、深呼吸。そして、気を引き締めた。
「始めてください」
エステルは頷き、大きく息を吸った。見守るホーニャンたちは息を殺した。
――それは、別れの歌。
優しいメロディラインなのに、詞は愛する人にさよならを告げていた。
うっかり聞き惚れていたホーニャンだったが、なじんだ気配を察知して我に返った。
「さくらカードの気配!」
「来おったな。ホーニャン、遠慮せんとやったれ!」
「うん!」
ホールに舞い込むのは、ヒトだと腕に当たる部位が羽根となった、ケープを羽織っただけの真白い少女。
ホーニャンはエステルと
「汝の在るべき姿に戻れ! さくらカード!」
星のロッドを振り下ろした。星飾りの先端にカードが形を結び、魔力へと還元されていく。
やがてさくらカードはホーニャンの手に舞い降りた。
ホーニャンは一目散に、アンジュが控えている医務室へ駆け出した。
「アンジュさん! さくらカード捕まえたっ! どう!?」
ベッドに腰かけたアンジュは驚いたように喉を押さえている。ホーニャンを見たアンジュは、口を開いて――
「ホーニャン」
声で、ホーニャンを、呼んだ。
ホーニャンは堪らず膝を突き、アンジュの太腿に頭を押しつけて泣いた。
「…かった……っ、よかっ、たぁ……!」
「心配をかけたわね。もう大丈夫。頑張ってくれてありがとう、ホーニャン」
アンジュはホーニャンの頭を抱き寄せて撫でた。
拙速で申し訳ないのですが、書けるだけ書いてみました。
CCさくら、じきに新章が始まりますね。一ファンとして楽しみです。