CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
その日、ホーニャンは甲板に出て、青空の下、コハクとファラと手合わせする形で格闘技を練習していた。
「た! や! とりゃ!」
「まだまだ――甘い!」
「きゃあ!」
コハクの鋭く重い蹴りを食らったホーニャンは、甲板に尻餅を突いた。
「うー。コハクさんにもファラさんにも一回も勝てない~」
「気にしない気にしない。いつかホーニャンももっと強くなるって」
「焦らないの。大事なのは続けることだよ」
その道の先達の有難い訓示に、ホーニャンは「はい」と肯いた。
ホーニャンの拳法は父から直に教わったものの一つだ。占術や魔法も習ったが、ホーニャンは特に拳法の伸びがよかった。
(あたしたちの中じゃ、こた兄が一番強かったけど。今頃どうしてるかな。こた兄、しゅー兄、つばさお姉ちゃん……)
「おったおった。――ねーちゃん、ここやで~」
ケルベロスがホールに通じるドアから飛んできた。ケルベロスのいたドアに今立つのは、アンジュだ。
「ホーニャン、ちょっとお願いがあるの。来てくれる?」
ホーニャンは首を傾げたが、アンジュが来いと言うなら行くまでだ。ファラとコハクに礼を言って頭を下げてから、アンジュのもとへ向かった。
アンジュは甲板から船内に入ってすぐのクエストカウンタに向かい、一枚の依頼書をホーニャンに差し出した。
「ジョアンさんを覚えてる?」
「あの赤い煙で病気が治った依頼人さん、だよね」
「ええ。そのジョアンさんの住むモラード村の村長さんから依頼があったの。魔物を捕まえたからカダイフ砂漠に捨ててきてほしいって」
アンジュが差し出した依頼書を受け取り、目を通す。アンジュが言ったことがそのまま内容欄に書いてあった。
「捨てる? 退治じゃなくて?」
「そうなのよねえ。そこは私も妙に思ったんだけど。依頼じゃしょうがないわ。ホーニャンは赤い煙の調査に積極的だったから、同じモラード村で起きたことなら、これもあなたに回したほうがいい気がしてね」
「覚えててくれたの?」
「これでもギルドのリーダーですから」
西洋美術絵画の聖女を思わせるアンジュに対し、ホーニャンは照れた。
「わかり、ました。この依頼、受けさせてください」
「そうこなくっちゃ。じゃあ、私は同行者の選定に入るわね」
そして、依頼の日。魔物が入っているというケージを載せた荷車を、村長はホーニャンたちに引き渡した。くれぐれもケージの中は見ないよう、しつこいくらい念押しして。
今回の同行者はクレスとイリアである。
ホーニャンはイリアと交替で、何度も砂に足を取られそうになりながらも荷車を押した。
もう一人の引手であるクレスは交替しようとしなかった。曰く、
「君たちは女の子で、僕は男だからね。剣をやってるから人よりは腕力もあるし。君たちは気にしないで」
好青年を絵に描いたような答えだった。
「それにしても暑い~。汗で体はベタベタするし、口は砂でジャリジャリだしぃ~」
「しかたないよ。ここは砂漠なんだから」
「あ~つ~い~。クレスかホーニャン! どっちでもいいから何とかして。ほんっと今すぐ、どうにか!」
今すぐ、と言われたので、ホーニャンはミニスカートのポケットから、李家伝来の魔法符を出した。
「水龍、招来」
ざっぱー
イリアに大量の水が降り注いだ。
「…………」
「涼しくなった?」
「あ~の~ね~! 服濡れちゃったじゃない! どーしてくれんの!」
「えと、乾かすなら火」
「これ以上暑いのは要らん!!」
「そうですか……」
ホーニャンはしゅんとして火の魔法符をポケットに戻した。
イリアが荷車を離れて、濡れた服の布地を絞り始めた。布から滴り落ちた水分は、熱砂の上であっというまに蒸発していく。イリアは最後に髪の水分を絞って、戻って来た。
もっとも、この暑さである。オアシスに着く頃には、イリアの服も髪もすっかり自然乾燥していた。
「あ~。やっと着いたぁ。さっさとすませて帰りましょ」
「あはは。お疲れ様」
クレスがケージの鍵に手をかけようとして――急に飛びずさった。
直後、ケージの上に、砂漠の魔物であるサンドワームが飛び乗り、ケージを叩き始めた。
「しまった。魔物に!」
「げ。まさかあんた、あれを追っ払う気? 向こう、こっちに目もくれてないじゃない。もうこのまま逃げりゃいいでしょ!?」
「だめだ。それでは依頼を完遂したことにならない」
「なんつード真面目人間……絶対結婚したくないタイプ」
「イリア嬢ちゃんの結婚したいタイプはルカのあんちゃんみたいな男やもんな」
「そういえば、前にルカさんがアニーさんと勉強会してた時、参考書隠してたのって……」
「ちょ!! 何さらっと爆弾発言してくれちゃってんのこの小娘とぬいぐるみ!!」
「ぬいぐるみちゃうわ!」
平和(?)な言い合いの最中に、それは、響いた。
「ひ、ひいいいい! 何が起こってるんだあ!」
「助けて、助けてくれェェェ!」
悲鳴。それも、人語。
これにはケルベロスとイリアも言い合いをやめてケージに注目した。
「あの中は魔物なんかじゃない! ヒトが入っているんだ!」