CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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再び、ザヴェートへ

 

 

 フーリエの情報を得て、ソフィらは帝都ザヴェートへ戻った。

 

 

 ――パスカルは今まで自分がフーリエを知らず傷つけていたと気に病んでいたが、ヒューバートの説得と同行を願う言葉に涙し、離脱せず付いて来てくれた。

 

 ヒューバート曰く、

 

「兄弟のことで悩む気持ちは、ぼくにも一応わかりますから。それに、賑やかな人がいたほうが寒さもまぎれます」

 

 後半は照れ隠しなのだと、人の言葉の裏を読むのに疎いソフィでもわかったくらいだった。

 

 

 一度はフェンデル兵から逃亡した身の上だから、シューイがフェンデル兵の扮装をまたやろうと言い出した。

 雪の中で震えながらもどうにか着替え、彼女たちはザヴェートへ入ろうとした。

 

 だが、その前に、ソフィにはどうしても確かめたいことがあった。

 

「アスベル。お願いがあるの。あのね、わたしと戦ってほしいの」

「戦うって……俺とお前で? 突然どうしたんだよ」

「いいから。お願い。ね?」

「……戦いの練習ってことでいいなら」

「それでいい。でも、手を抜かないで思いきりやってね」

 

 

 ――結果としてソフィはアスベルに負けた。

 その結果に、ソフィは言い知れない安堵を感じた。

 

(大丈夫。ともだちは、殺したいとは思わない。だから、リチャードも)

 

 くしゃみをするアスベルに対し、シェリアが温かいショコラータを小型コンロで作っている。甘い香りが漂ってきた。

 

 それを見ていたため、肩に被せられた重みは完全にソフィには不意打ちだった。

 

「っ、シューイ?」

「街に入るまで羽織っておけ。汗が冷えて風邪ひくぞ」

 

 フェンデル兵の扮装をしたソフィに、同じ服装のシューイがいつものロングコートを肩からかけたのだ。

 パスカルは前にこれを「重い」と言ったが、ソフィにはさほどには感じなかった。

 

 

 

 アスベルとソフィの模擬戦の消耗を回復がてら、ソフィらは近くの洞穴に入って、全員でショコラータを飲みながら、ザヴェートに入る前の小休止を取ることになった。

 

「街の北に、軍や政府の関係機関が集まっている政府塔がある。技術省もその中にあるはずだ」

「その政府塔にどうやって入るか、ですね? 教官」

「マリクさんの兵隊証はもう身バレしてるんで、入るには使えませんね」

「では……現職の方に入場証か何かをお借りする、もっと言うと掠め取るしかありませんね」

「パスカル。フーリエさん以外で政府に協力してて、かつあんたの顔見知りのアンマルチア族っているか?」

「んー……あ! いるよ。フェルマー。前に一度フェンデルに戻った時に会ったんだけど、政府塔で働いてるって言ってた!」

「Exactly. じゃあこれ飲み終わったら、そのフェルマーさんのとこにまず行ってみるのがいいな。どうだ?」

「ああ、そうしよう。パスカル、案内を頼む」

「あいよーっ」

 

 決定を合図に、全員が飲み終えたショコラータの紙コップをシェリアが回収して行った。

 

 シューイはシェリアが集めた紙コップの束をひょいと取り上げ、一枚の符を出した。

 

「火神、招来」

 

 シューイの手の中で使用済みの紙コップが一瞬にして燃え尽きた。灰も残らなかった。

 

「ありがとう。助かったわ。これからゴミが出たら全部シューイのとこに持って行っちゃいましょうか」

「ナマモノ以外にしてくれよ」

 

 片付けを終えた一行は、ついに帝都ザヴェートに再び踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ソフィらがパスカルの知り合いであるフェルマーを訪ねると、ちょうど彼女は政府塔に通って仕事をしているということだったので、パスカルが頼み込んで彼女の入場証を借りた。

 

「フェンデルに入ってからは、ずっとあんたに助けられ通しだな、おれたち」

 

 元の服装に着替えてから政府塔へ向かう道すがら、シューイがふいに口にした。

 

「げ。シューイがあたしを褒めた」

「別に今回は何かやらせようってんじゃないぞ」

「うそー!? 明日は大雪だよ!」

「もう降ってる。というかこの程度で天候が変わるなら、おれ、あんたのこと褒め殺しにしてる」

 

 ソフィは歩きこそ止めなかったが、俯いた。

 

(何だろう。この感じ。前に宿から逃げる時にも感じた。シューイがパスカルと仲よくしてるのを見ると、なんだか、胸が重くなってくような気がする)

 

 考えるソフィを心配してか、シェリアが声をかけてくれたが、ソフィは自分でもわからなかったので「なんでもない」と答えるに留めた。

 

(そういえばシェリアも。シューイとひそひそ話してること、多い。初めて会ってからすぐ、ずっと)

 

 ――けれどもソフィは、シューイに一度だけ、抱き締められたことがある。

 

 

 “死ぬのが怖いなら守ってやるから!”

 

 

 あれはきっとソフィだけのもの。

 そう考えると、シューイがパスカルやシェリアと親しく接する姿を見ても、ほっとすることができた。

 

 

「着いたぞ。――変わらないな、20年前から」

 

 マリクの声にソフィは顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 フーリエの研究所が小さく思えるほど、高くそびえ立つ塔。ここがフェンデル政府の要なのかと、シューイは塔を見上げた。

 

「そういえば、例のカーツさんとやらはマリクさんの知り合いだったな」

 

 シューイがマリクに水を向けると、ヒューバートも同じくマリクに問いかけた。

 

「名前が出ていた時、ずいぶんと驚いたようですが、一体どんな方なんですか? 場合によっては戦うことも覚悟しなければなりません。教えていただけませんか」

「――、元々オレは、フェンデル軍の士官学校にいた。カーツはその時の同期だ」

 

 そして始まった、マリク・シザーズという男の、決して明るくはない青春の昔語り。

 

 

 フェンデルという国は、シューイらが通ったベラニックから分かるように、マリクが若い頃から困窮した国だった。

 その状況を打破するための改革運動に、マリク、そしてカーツ・ベッセルも参加していた。

 

 だが、改革運動は保守派勢力にあっさりと潰された。

 

 命の危険を感じたマリクはフェンデルを出たが、カーツは国に残り――今日に至った。

 

 

「元改革派が将校に登り詰めた、か。血を吐くような道のりだったんだろうな――」

「カーツは理知的な男ではあるが、同時に鉄のように固い信念の持ち主だ。国を捨て、志を捨てたオレが話をしても、受け入れられるかどうか」

「それでも俺たちは、可能性に賭けてみるべきだと思います」

 

 アスベルは迷いのない声と瞳で言い切った。

 マリクがそれに何を思ったかわからないが、同意を返した。

 

 シューイら一行はついに政府塔に足を踏み入れた。




 今回はソフィにハイライト。
 徐々にシューイを意識し始めていますねえ~。

 火神の符は原作で小狼が剣なしで使った時もあったので、こういう小規模な便利アイテムとして使うのもありかと思って取り入れてみました。

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