CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ララとのお別れを経てソフィらが宿屋に戻ると、残った仲間は全員が食堂のテーブルに集まって話し合っていた。
「ただいま」
「ソフィ。シューイ。お帰りなさい。待ってたのよ」
「わたしたちを?」
「ここ数日で集められた情報を統合しようと思いまして。二人とも座ってください」
言われた通り、ソフィはシェリアの隣の椅子に腰を下ろした。シューイが男性陣側に座ったので、少しシューイと離れる形となった。
「今日までザヴェートの住民から集めた話を合わせると、フェンデル政府が
「肝心の
ララの見舞いに行く合間にも、シューイは聞き込みを続けていたのだと、ソフィはこの時初めて知った。
「アンマルチア族の協力を得て実験が進められている、と言った人もいたわ。もしかしてパスカルの知り合いがいるんじゃ」
シェリアが右隣のパスカルを向くが、パスカルは焦れったそうに頭を掻くばかり。
「まずいよこれは……まずいまずい、絶対まずいって」
パスカルが浮かべるのは、今までの旅では見せなかった、本気の困り顔。
「フェンデルの
パスカル以外の全員が目を瞠り、顔を見合わせた。
「ひょっとして、計画に協力してるアンマルチア族の人は、パスカルの技術を使って?」
「大いにありうる。しかもそうだとしたら、あたし、心当たり、一人しか思いつかない」
「誰です?」
「あたしのお姉ちゃんのフーリエ」
「なるほどな。同じ家の人間なら、レポートなりデータなりいくらでも持ち出せるってわけか。それでパスカルの残したものを応用、あるいは転用したと――」
宿屋のドアが乱暴に開け放たれ、フェンデルの兵士が入ってきた。
フェンデル兵はソフィたちのいるテーブルへと来た。
兵の視線が向いているのはマリクだ。
「貴様は一体何者だ! マリク・シザーズという人物はとうに死亡しているではないか!」
「なるほど。そういう扱いになっていたとはな」
マリクがシューイと、それにアスベルにも目配せした。この場を出て逃げよう、とその視線は語っていた。
シューイもアスベルも肯き返した。
マリクが殊勝に立ち上がる――と思わせ、近くのフェンデル兵に足払いをかけた。
「逃げるぞ!」
転んだフェンデル兵を避けて他のフェンデル兵が離れた隙に、全員が立ち上がり、宿屋のドアへ走った。
「逃がすか!」
「弟くん、危ない!」
パスカルが弾の射線上にいたヒューバートを突き飛ばした。
結果としてパスカルの肩を弾は貫通した。水色のシャツに赤がどんどん染み出していく。
「パスカルさん!?」
「っつ~……弟くん、大丈夫?」
シューイがさくらカードと剣を両手に持って前に出た。
「悪く思うなよ。――
室内にも関わらず電撃が生じ、フェンデル兵を全て昏倒させた。
「外に出よう。パスカル、動いて平気か」
「ん、なんとか」
「後で治してやるから、しばらく我慢な」
シューイが背をパスカルに向けた。パスカルも心得たもので、シューイの背に素直に負ぶさられた。
――ずく、と胸が軋んだ。
「ソフィ、どうした? 具合が悪いのかっ?」
「アスベル。あのね――」
「兄さん! ソフィ! 一度、ザヴェートを出ますよ!」
見ればすでに、ヒューバート、マリク、シェリア、そしてパスカルを負ぶったシューイが宿屋の玄関を半分出ている。
「――なんでもない」
悠長に胸の裡を打ち明けている場合ではないのだと、ソフィにも理解できた。
ソフィはアスベルと共に、先に行った仲間に追いつき、宿屋から出た。そして、帝都ザヴェートから脱出した。
雪原に出るなり、シェリアがパスカルの銃創に治癒術を施した。
「傷口はこれで塞がったわ。この程度なら痕も残らないでしょう。どう?」
「んー、ちょっと違和感はあるけど痛くはないよ。ありがと、シェリア」
「……どうしてぼくを庇ったりしたんですか」
ヒューバートの声は低い。
「あんなにあなたのことを疑ったのに」
「どうしてって。仲間がピンチだったんだよ?」
仲間、とヒューバートは呆然と反芻した。
「やっぱりあんたって人は、どこまでも素直だな」
「まあねえ。だって嘘つくのってめんどいじゃん」
ヒューバートがパスカルの正面に来た。目は、合わせられないようだった。
「ぼくが油断したせいで…………すみません」
「気にしないで。弟くん」
「何で笑えるんですか!」
自棄の色の強い目で、ヒューバートはマリクをふり返った。
「あなたも! もっとぼくを責めて構いませんよ、マリクさん。調査中にあなたがフェンデル兵に部隊証を見せた時、ぼくがあなたを責めたみたいに」
「君は自らの過ちを認めることができている。その素直さがあれば、二度と同じことはくり返さないだろう。それに、自らの過ちを責めている者を、さらに責め立てる趣味はないのでな」
「マリクさん……」
「皆、無事だったんだ。良しとしよう。なあ、パスカル」
「そうそう。問題なしだよ」
「それじゃあ僕の気がすみませんっ」
「じゃあねえ」
パスカルがヒューバートの両手を強引に握った。
「あたしと弟くんは今から友達ね!」
――まったく。初めて会った時から、パスカルにだけは敵う気がしないシューイだった。
ソフィは、パスカルを微笑ましげに見るシューイを見て、胸を押さえた。
宿を出る直前と同じ、あの軋みが、強くなった気がした。