CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ここ数日、ソフィはとても不思議で、けれども決してプラスではない感情を抱えていた。
(シューイ、最近、わたしがいなくてもララのとこに行くことが増えた)
ソフィがいない時を狙ってシューイは出かける。ソフィが「一緒に行く」と行っても、シューイははぐらかして、決してソフィを連れて行ってはくれない。
「ねえパスカル、シェリア。シューイはわたしがキライなのかな」
宿屋での夜。同室の二人に思いきって打ち明けてみた。
「どうしたの、急に」
ほどいたツインテールをブラシで梳いていたシェリアが、手を止めた。
「あのね。なんだか最近、シューイがわたしを避けてる気がするの」
「あ~。そういえば、ララだっけ、その子んとこに通ってんだったね」
「うん。何してるの? って聞いても、『出来上がってのお楽しみだ』としか答えてくれないの。ララに聞いても、『ひみつ』って」
シェリアとパスカルが顔を見合わせ、彼女たちは同時に笑顔でソフィを見やった。
「大丈夫よ。シューイがあなたを嫌うはずないわ。現にそうやって何かを贈る準備をしてるじゃない」
「おく、る? 誰が? 誰に?」
「シューイが、ソフィに」
「何を?」
「そこまでは私にも分からないけど。けど、隠すってことは、きっとその贈り物に驚いて、喜んでほしいのよ。他でもないソフィにね」
贈り物なら貰ったことがある。小さな頃のアスベルがくれた、クロソフィの花一輪。その一輪はシェリアにあげてしまったが。
あの喜びをまた貰えるのだろうか。アスベルでもヒューバートでもシェリアでもなく、シューイから。
「シューイはララとは何もないからソフィは心配無用ってこと」
ララとは何もない。そのフレーズはことんとソフィの胸に落ちて、ふわりと安心感を広げた。
「そっか――」
「安心した?」
「うん。した」
するとパスカルもシェリアも意外そうな顔をした。そんな顔をされる覚えのないソフィは首を傾げた。
まるでソフィの不安を払うように、翌朝、シューイのほうからララの見舞いに行かないかと誘われた。
ソフィはもちろん「行く」と答えた。
「あ、でも、ぬいぐるみ、もうない」
「いいんだよ。お前は手ぶらで来ればいい」
「シューイが持ってるから?」
ソフィはシューイが抱えた小さな紙袋を指した。
「……ま、そんなことだ」
ソフィたちは宿を出てララの家に向かった。
ララの家に着いて、ソフィは一番にドアノブを掴んだ。
だが、ドアノブはガチャガチャと鳴るだけで回せない。ドアを開けられない。
「おねえちゃん」
ふり返る。そこには防寒着を着たララと、見覚えのない女性が立っていた。
「お母さん。ソフィおねえちゃんとシューイおにいちゃんだよ」
女性は深々と頭を下げた。
「ララの母です。今日まで娘に良くしてくださってありがとうございました」
「おねえちゃんが、ぬいぐるみをたくさんくれたから、心が元気になったの。だから、行かなきゃ。ともだちになってくれてありがとうね、ソフィおねえちゃん」
「――やっぱり霊魂だったんだな。ララ」
シューイの台詞に対し、ララは泣きそうな顔で笑った。
「レーコン?」
「もう死んだ人の魂だけが現世に留まってたんだ。死んだことが理解できず彼岸に往けない者、現世に強い未練があって留まる者。それがララだったんだ。ララも、ララのお母さんも、本当は何年も前に死んでるって街の人が言ってた」
愕然とする、というのがどういう心地なのか、ソフィはこの日初めて知った。
「シューイ、知ってたの? ララが、本当はいない、って」
「知ってた。おれは家系的にそういうのが視える体質だから」
シューイはわずか俯いたが、すぐ顔を上げてララに微笑みかけた。
「ララ。そっちにおれのお祖母さんとひいひいお祖父さんがいるから、よろしく伝えてくれるか?」
「どんな人?」
「天使みたいに美しい女性と、とても穏やかで優しいご老人だよ」
「わかった。シューイおにいちゃんもありがとう」
「手作りくまさん、間に合わせてやれなくてごめんな――それじゃあ、さよなら。おやすみ」
ララは母親と手を繋いで、空気に透けるように消えた。
消えるまで、ずっと、手を振り続けて。
「――ねえ、シューイ。手作りのくまさんって、なに?」
「おまじないだよ。『自分の名前をつけた手作りのくまを好きな人にプレゼントしたら、その二人は一生両想いでいられる』。ララと一緒に作ってたんだが、やっぱりどうしても、大人と子どもとじゃスピードが違って、おれのほうが先に完成した」
シューイは抱えていた紙袋からぬいぐるみを取り出した。茶の毛並みで、花柄のリボンを巻いたくまだ。
「シューイはくまさんあげる人、いるの?」
「…………」
シューイはそれなりに長い間を置いて、ソフィにくまを差し出した。
「わたし?」
「元々お前にやるつもりだった。名前は『シューイチ』だ。可愛がってくれると有難い。別に両想いになりたいとかじゃなくて、おれの自己満足だから。いらないならシェリアあたりにやってくれ。ララの家に置いてきてもいい。――さ、宿に帰るぞ」
シューイが歩き出した。
ソフィはすぐにその背を追うことができなかった。
(シューイチ。シューイの本当の名前。これ持ってたら、わたしとシューイ、両想いになっちゃうのかな。両想いって、シューイがわたしをスキで、わたしがシューイをスキになるってことだよね。そうなったら、どうなっちゃうんだろう。今の関係は、崩れたり、しないのかな……? 少し、怖いよ、シューイ)
ソフィはくまのぬいぐるみを胸に抱いた。
心に芽吹いた感情に、上手く名前をつけられないまま。
一度はやりたかった、手作りのくまさんネタ。
ララのサブイベントを知り、ここしか投入のしどころはないと思いました。
聞き込み調査は長引いたのだと解釈いただければ幸いです。