CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ラント東門でのウィンドル軍との戦闘を終え、アスベルが真っ先にしたのは、北ラント道に展開するフェンデル軍の哨戒だった。
当然、シューイも付いて行った。ソフィがアスベルから離れなかったから。
すぐに攻めてくる気配もないということだったので、シューイらはラントの街へ取って返した。
広場ではシェリアを初めとする救護団が忙しなく動き回り、負傷したラント兵の手当てをしている。
その中で、“光”による治癒の煇術を使っているのはシェリア一人だけだった。
「お疲れさん、シェリア」
「シューイ。お帰りなさい。何もなかった?」
「特には」
一人の兵がシェリアに声をかけた。兵は救急箱をシェリアに渡した。
「ありがとう、バリーさん」
「バリー。何か手伝うことはあるかな」
シェリアに対しては普通だったバリーの態度が、アスベルの一声で尖ったものに変わった。
「自分たちのことは自分たちでやれますから。肝心な時にいなくなっていたお方に頼るほど、俺たちは愚かではありません」
バリーが去ってから、シェリアは悲しげに面を伏せた。
「バリーさんは誤解してるのよ」
「バリーは俺が7年間、王都へ行ったきりだったことも含めてああ言ったんだあろう。立場もわきまえず、自分のことだけ……俺はラントにいないほうがいいのかもしれないな」
皮肉げに言ってはみせているが、アスベルから漂う哀愁はシューイにも感じ取れるほどだった。
「いいのか。お前、一応はここの領主だろ」
「俺がいなくなってもヒューバートがいる」
「そのことなんだけど」
シェリアが顔を上げた。
「ストラタ軍の方に聞いた話なんだけど、ヒューバートのやり方がストラタ本国に良く思われていないらしいの。それでヒューバートに本国への召還命令が届いたとか」
「首をすげ替えるつもりか。敵、多そうだもんな、あの弟」
初めて会ってから二言三言しか会話していないが、なんとなく、そういう印象を抱いた。
「ヒューバートの所へ行ってくる!」
アスベルは屋敷の方向へ走って行ってしまった。
「わたしたちはどうするの?」
「そうだな――」
考えていると、シェリアの様子が目に入った。
ありありと不安を呈した表情。彼女がこんな顔をするなら、アスベル絡み――今の話を合わせて考えると、アスベルとヒューバートの心配ということになるのだろう。
「シェリア。ここは引き受ける。行って来い」
「え。でも」
「あいつが心配なんだろう?」
「……ごめんなさい」
シェリアは立ち上がり、リボンを振り乱す勢いで走って行った。
シューイはソフィをふり返った。
「シェリアの代わりに仕事しようか」
「うん」
幸いにして、シェリアほどではないがシューイにも治癒の西洋魔法の心得がある。
シューイはシェリアが置いていった救急箱を、ソフィに渡した。
「マリクさんの補助を頼む」
マリクは元騎士学校教官。ケガの手当ては慣れているはずだ。パスカルは――メチャクチャな処置をしかねないのでカウントしないでおこう。
「わかった」
ソフィは救急箱を受け取って走って行った。一瞬だけ頬を長いツインテールが掠め、熱を感じたが、シューイは大きく頭を振った。
ラント兵の治療があらかた終わった頃、アスベルが図ったようなタイミングで広場へ戻って来た。
「みんなに頼みがある。俺と一緒に、これからストラタへ行ってもらえないか?」
話によると、アスベルはヒューバートの召還命令撤回のため、ストラタ大統領に直談判をしに行くという。大統領との面会のための信書もヒューバートが書いて持たせてくれたとか。
「安全は保証できない。その上で、あえて頼む。俺に力を貸してほしい」
ソフィはもちろん、マリクもパスカルも同行を即答した。
――何のてらいもなく他人に頼み事をできるだけの精神力。
(おれもそういうふうに言えたら、少しはソフィに見てもらえるかな)
「シェリアは。いないのか」
「お前を追いかけて行った。すれ違わなかったのか?」
「いや、俺は見てな……」
「君たちが探しているのはシェリアという娘かな」
全員で声のしたほうを見やると、ヒューバートの副官だというストラタの軍人が、いかにも愉しげな顔をしてそこにいた。
「彼女の身柄は、私が預からせてもらっている」
「どういうことですか」
「彼女は重要機密を盗み聞きしていたんでね。ほんのお仕置きですよ。彼女の罪を許してもいいが、それには条件があります。彼女の身の安全と引き換えに、ストラタ行きをやめてもらいたい」
「ちょっと! 人質に取ったってこと!?」
「シェリアいじめる人……許さない」
パスカルとソフィが身構えた。アスベルもマリクもまたおのおのの剣に手をかける。
シューイも、気づけばコートの内ポケットのさくらカードに手が伸びていた。
「私と事を構えるのはよしたほうがいいですよ。あの娘を無事に助け出したいのならね」
アスベルが悔しげに歯噛みし、剣の柄から手を離した。
「信書を渡してもらいましょう。早くしないと、あの娘が
「――なるほど。あなたはそういう手で来ましたか」
副官が驚きも露わにふり返った。
「ヒューバート……!」
「シェリアはどこです、言いなさい! 言わない場合、この卑怯な脅迫の事実を本国に知らせなくてはならない。それだけではありませんよ。あなたは、上官であるぼくの書いた信書を奪い取ろうとした。さあ、どうしますか?」
「くそっ、ここまでか……!」
すると副官は、自身の剣を抜いて自ら腹に突き立て、倒れた。
「レイモン! 早まった真似を……!」
ヒューバートは悔しげに歯噛みした。その表情がとてもアスベルに似ている、とふいに思った。
「ここはぼくに任せて。皆さんはシェリアを!」
「シェリア……どこに連れて行かれたんだ」
レイモンは「
「誰か。誰でもいい、シェリアの持ち物を持っていないか」
「持ち物? 急に何を」
「はいはーい! あたし持ってる」
パスカルがウェストポーチから小さな櫛を取り出した。
「前にソフィと一緒にお風呂入れられた時、借りたまま返してなかったんだよね~」
「初めてあんたを頼もしいと感じたよ、パスカル」
シューイはパスカルから櫛を貰うなり、それを石畳に置き、少し離れて片膝立ちで座った。
剣を召喚し、両手で水平に持つ。
「玉帝有勅 神硯四方 金木水火土 雷風 雷電神勅 軽磨霹靂 電光転 急々如律令」
櫛を中心に、李家伝来の魔法陣が広がる。魔力の余波が微風となって吹き、やんだ。
「――
魔法陣が消えた。立ち上がり、櫛を拾った。
「シューイ、今何をしたんだ?」
「おれの実家で習った人探しの魔法だ。シェリアは西ラント道の山小屋だ」
「魔法ってすごいんだな……」
「万能じゃないがな。例えば遺跡みたいにシェリアのとこへワープできるわけじゃない。急ごう」
アスベルたちは西ラント道を走った。その内、山小屋が見えてきた。
山小屋の前の光景に、アスベルの中で何かに火が点いた。
ウィンドルでは見たことのない巨大なボアが2頭、シェリアを追い詰めている。
「わざわざストラタの魔物を連れて来たのか? めんどくさい連中だな」
「シェリア!! 今助ける!!」
アスベルは剣を抜き、一番に飛び出そうとした。
「ばかっ、相手のでかさを考えろ!」
しかし、シューイに服の襟足を掴まれ、引っ張り戻された。
代わりに前に立ったシューイは、藍色のコートの内ポケットからカードを2枚取り出し、手に召喚した剣をカードに突き立てた。
「『
「『
シューイが2枚目のカードに剣を突き立てた。
雷が落ち、水によって伝導率の上がった
「相変わらず即決即断だねえ」
「ちまちま相手にするのがめんどくさいだけだ」
敵わない。
それがアスベルの偽りなき心情だった。
結果的にシェリアが助かったからいい、と思いたくても思えなかった。
シューイがシェリアに歩み寄る。
「ストラタの連中に何もされなかったか?」
「ええ、大丈夫……ありがとう」
シェリアのもとまで10歩と開いていないのに、アスベルはシューイのように踏み出せない。
その10歩もない距離を、シェリアとシューイが戻って来た。
何か言わなければ。何か。
「その、何だ。無事でよかった、よ」
どうかぎこちない声としてシェリアに聞こえていませんように。
アスベルは心からそう祈った。
シューイとシェリアは混じりっ気なき友人なのですが、外観だけ見ればアスベルも心穏やかではいられませんでした。
水と雷のコンボは、原作さくらと小狼が神社の銅像に襲われた時にやった連携を参考にしました。