CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
シューイは砦の影で、ソフィ、パスカルと共にアスベルとシェリアの帰りを待っていた。
アスベルはシェリアを含む救護団が活動しやすいようにと、シェリアを連れてリチャードに会いに行っている。
「あ」
ソフィがツインテールをひらめかせて走り出した。
すぐそばの階段から、アスベルとシェリアが暗い顔で下りてきたからだ。
「じゃあ……わたしは救護活動に戻るから。ちゃんと捕虜の治療もさせてもらうから。アスベルの先生もいるんでしょう? 任せて。シューイ、アスベルをお願いね」
シェリアは歩き去った。
「何があった」
「……ちょっと、な。デール公から謹慎を命じられただけだ」
「リチャード王子から不興を買ったのか」
「どうもそうらしい。『僕が目をかけているからと言って、少しいい気になっていないか』って言われたよ」
「王子に目をかけられたら、いい気にもなりたくなるさ」
「けど……見えないんだ。リチャードの気持ちが」
ソフィが俯いた。
「わたしもリチャードが気になる」
「あんなふうに怒ったりする人間じゃなかったのに、なぜ……」
友を心配する友。大変麗しい光景だが、シューイには現実問題が優先した。
「結局、おれたちはどういう扱いになったんだ?」
「リチャードのそばにはいられなくなった。引き続き共に戦ってもいいが、特別扱いはしない、と。これから軍に付いて戦うなら、扱いは遊撃隊になるそうだ」
「遊撃隊か」
「要は好きにやれってことでしょ?」
「ああ。やはり俺はこのままリチャードの軍に加勢する。たとえ立場が変わっても、できることはあると思う」
「ま、リチャードだってその内、機嫌治すかもしれないしね」
軍の支給品を受け取れないとなると、食事や武器は自力調達しかない。
シューイらは全員で街の武器屋と食品店へ行き、旅装を整えてからウォーターブリッジに戻った。
ちなみに、パスカルとソフィの荷物は、シューイとアスベルで分担して持った。こういうのは男子の意地の見せ所なのだ。
砦の入口で、誰かがこちらを向けて待っている。バラ色のツーサイドアップヘア――シェリアだ。
ソフィが一番に駆け出し、シェリアの前に立った。
「お仕事、終わったの?」
「ええ。アスベル、シューイ、その荷物は?」
「デール公の口ぶりだと、俺はもうここにいてはいけないかもしれない。それでも俺はリチャードの助けになりたい。リチャードの剣でありたい。だから、遊撃隊でも困らないように色々買い足しに行ってたんだ」
「あなた……と、パスカル、も?」
「まあね~」
シェリアは表情を戸惑いから、きりっとしたものに変えた。
「私も一緒に行っていいかしら。今後戦場が王都に移るのであれば、そちらでまた、私たちのやれることもあると思うの。それに、あの子のことも放っておけないから」
シェリアが見たのはソフィ。
「ソフィがあたしに懐いてくれれば、いくらでも面倒見るんだけどなあ」
「まあ、シェリアがそう言ってくれるなら」
「ありがとう」
翌日。シューイらは南バロニア街道を進み、王都地下の入口まで来た。
門を守るように立つグレルサイド兵だが、アスベルを見て「様」付けで呼んだ。まだ末端までアスベルが遊撃隊になったことは伝わっていないらしい。
「もしや殿下のご指示でこちらに?」
何か言おうとしたアスベルの口を、シューイは手で塞いだ。
「ああ。殿下はどれくらい前にここに入った?」
「つい先ほど、部隊を率いて突入を開始されました」
アスベルがシューイの手の平から逃れた。
「と、とにかく、俺たちもすぐに追おう」
シューイらは地下からバロニア城に潜入した。
例によって灯りは持っていなかったので、シューイが「
地下階段を登って王城へついに入り込み、さすがのシューイもたたらを踏んだ。
多くの兵士が倒れている。その中にぽつんと立つリチャード。何も言われなければ、リチャードがこれをやったと思いかねないほどの光景だった。
「この先は危険だ。後のことは俺たちに任せてもらえないだろうか」
「それはできない。僕は何としても自分の手で叔父と決着をつけたいんだ」
「ならせめて俺たちを同行させてくれないか」
「……いいだろう」
王城に出てからはライトがあったので、シューイは「
城に一番詳しいリチャードを先頭に歩かせる不安はあったが、今はそうする以外に方法がない。
ついに玉座の間に着いた時、玉座の壇の下に、大剣を構えた中年の男がいた。
「リチャード! よくもここまで……!」
「王都は我が軍勢により完全に包囲されています。あなたはもう終わりです」
「貴様……本当にあのリチャードか?」
「何を当たり前なことを。父上の仇を取らせてもります」
シューイとアスベルは剣を、ソフィは格闘技の構えを、シェリアは投げナイフを、パスカルは長いロッドをそれぞれ構えた。
だが、それらの助勢を、リチャードは手を上げて制した。
「これは僕の戦いだ」
言うなり、リチャードは剣を抜いてセルディクに斬りつけた。
セルディクもまたリチャードを斬り返した。
剣をめちゃくちゃにぶつけ合うばかりの戦いが始まった。
――王位を巡る激しい戦いを制したのは、リチャードだった。
しゃがみ込むセルディクに合わせ、リチャードは優しい顔で片膝を突いた。
「玉座は王を選ぶ。貴方は選ばれない存在だった。それだけのことです。死ぬ前に理解できてよかったですね、叔父上」
リチャードの剣がセルディクの胸を深く刺し貫いた。
セルディクは倒れ、リチャードは立ち上がった。血濡れた剣を手に。
「おっと忘れていた。これは父上の分です」
リチャードは剣の血も払わずセルディクの死体に刃を突き立てた。
「見るな!」
シェリアとパスカルが条件反射的に目を逸らした。
「リチャード! もうやめろ!」
リチャードは剣を抜き、一度振ってから鞘に納めた。
すると、呼応するように、デール公とグレルサイド兵が数名、玉座の間に雪崩れ込んだ。
「デール、外の首尾は」
「抵抗を続けている兵の数は多くありません。まもなく制圧できるはずです。これで、終わりましたな」
「いいや、終わりじゃない」
リチャードは玉座の壇に上がり、マントを翻してふり返った。
「これは始まりだ。今日ここからウィンドルの新たな歴史が始まるんだ。そうだろう?」
デール公とグレルサイド兵たちがひれ伏した。
アスベルとシェリアもそれぞれに跪いた。
シューイは両脇のソフィとパスカルを引っ張って、とりあえずは頭を低くさせた。
(この男が王になる国。不穏なんてものじゃない。きっと何か起きる。それまでおれはウィンドルを離れない。少しでも彼女の力になれるように)
彼女とは言わずもがなソフィのことです。
反乱軍編は無事に終わりましたが、これからがグレイセスは本番。
自分も気合を入れて行こうと思います。