夢のようだった   作:ふたなり2

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知美の電話

俺達はお互いに黙ったまま帰って行った。そう、決して無視したり

喧嘩の続きをしている訳でもない、何を話していいか分からないからだ。

 

 

しかし、帰ってもやる事がないからモンモンとしていた。

 

 

そこへ、俺の携帯が鳴った。相手は知美からだった。

 

 

「聡志君、大丈夫?」

 

 

いつもと変わらず、優しい知美の声である。

 

 

だがいつもイラつくこの声を聞いていると何だが妙に穏やかになっている自分がいた。

 

 

「あぁ、大丈夫だよ。心配してくれて悪い…。」

 

 

「ううん、いいよ、そんな事。あのね、優美子ちゃんの事だけど

パパに私の同級生だっていって様子を少しだけ聞いたんだ…」

 

 

俺は話を聞きながら両頬から涙が溢れるのがわかった。最近の俺は泣いてばかりだ。

こんな状況まで俺の事を心配をしてくれる知美に初めて感謝の気持ちで一杯になった。

 

 

いつも俺のフォローをしてくれたり心配をしてくれてる。

 

 

小学校時代も図工や理科の実験でモジモジやっていると必ず甲斐甲斐しく横から

世話を焼いてくる。絵の具の色が上手く出せない時や薬品の分量が分からないと

慎重に計り準備をする。

 

 

だが、馬鹿な俺はそんな知美をいつも邪険にして嫌っていた…。

 

 

知美が今までどんな気持ちで俺と優美子とか裕也が楽しくしてたのを見ていたか、

どんなに辛いかがやっと分かった気がする。

 

 

人の気持ちはその人の立場にならないと本当に分からない。

 

 

知美の奴、こんなバカで情け無い奴の何処がいいんだ?サッパリ、分からん。

やっぱり分かってないか?

 

 

「本当は言っちゃあダメらしいけど、少しだけ…」

 

 

知美の話によると優美子は薬で少し落ち着いたらしく眠っているとの事だった。

 

 

「うん。分かった。おかげでスゲー楽になった。ありがとう…」

 

 

「ううん、いいよ。良かったね」

 

 

こんな安らいだ気持ちになったのは本当に久しぶりだ。

 

 

知美にお礼をいい、見舞いが出来るようになったらまた教えてくれるのを

約束して携帯を切った。

 

 

少し安心したのかそのまま眠りについたのだった。

翌朝は日曜日も重なって寝坊を決め込んでゴロゴロとしでいた所を

母親に叩き起こされ、遅めの朝食をとってた時、又、携帯の着メロが響いた。

それは、知美からだった!

 

 

「何度もゴメンね、いい?」

 

 

「あぁ、どうしたの?」

 

 

「あのね、優美子ちゃんが病室からいなくなっちゃったの…」

 

 

「えぇっ!」突然、大きな声を出したから母親が横でビックリしている。

 

 

「今、病院中を探している所で後、行きそうな所があれは教えて欲しい

のだけど…。」

 

 

「分かった…。もし気が付いたら連絡する」

 

 

「うん、お願い」

 

 

早々に携帯を切って身支度をした。

 

 

いても立ってもいられないのだ!優美子の行きそうな所…分からない…、

プライベートまで由美子の事なんて分かるはずも無い。

 

 

だけど気が付いたらチャリのサドルを漕いでいた。

何となく知美の家、そう、K病院は俺の近くでまずそこへ、チャリを走らせた。

 

 

知美の家は病院のすぐ近くにあり何年かぶりに知美を訪ねたのであった。

少しだけ驚いたようだが知美は喜んでくれた。知美の弟マルも俺には懐いていて

すぐジャれてくる。昔サッカーの相手をしてやったのを未だに覚えていて

今すぐやろうといいはる。何とかそれをなだめて、自宅に上がらさせてもらった。

 

 

知美の母親である知美ママは突然の訪問も気を悪くせず其れどころか、

大歓迎で懐かしんでくれた。

 

 

リビングには知美の兄である孝一さんがユックリと熱いコーヒーをススっていて

美味そうにしていた。孝一さんは大学の医大生で今は3年と聞いている。

病院の跡取り息子で穏やかで実に頼りがいある兄貴である。

 

 

俺は孝一さんが好きで子供の頃、知美と勉強を見てもらった覚えがある。

懐かしく思ったのか、一緒にコーヒーを勧めてくれた。知美パパは病院に

行っているそうだ。

 

「急にどうしの?」

 

 

「うん、何となく落ち着かなくてあれから考えたんだ」

 

 

「ひょっとして行きそうな所が分かるの?」

 

 

感のいい知美が聞いてくる。

 

 

「それが、サッパリ分からないんだ」

 

 

「そう…。」

 

 

もう、俺は知美の前では絶対に嘘をつかない事を心に決めているのを、

それを知ってか知美も何も聞いてこない。軽い沈黙の中、

口を開いたのは孝一さんだった。

 

 

「学校の友達がうちの病院を脱げ出して行方しれずなっているのは

知ってるが君たちが余り心配しても仕方ないがない事もあるから

気を楽にしなきゃあ。」

 

 

勝手な事を言ってると思うが正論だと思う。

しかし、気持ちが抑えきれないだ。

 

 

「はい、分かっています…分かっていますが」

 

 

「うん、気持ちは十二分に分かるよ」

 

 

孝一さんは穏やかに俺を諭してくれた。

 

 

「何か心当たりかあればと思うが…例えば、楽しかった想い出の場所とか…」

 

 

「……… ………☆☆!!!!」

 

 

身体中に電流が走った気がする!孝一さんの言葉を一言つづ自分に言い聞かせながら

頭の中にある景色が浮かんだのである、間違えない!あそこだ!!

 

 

急に立ち上がった俺にみんな驚いていた。

 

 

 

 


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