まるで、夢のようだった…。夢中になってチャリンコのサドルを蹴った。
重みも心地良く永遠にこの時間が続かないかと思う位、胸がときめいた。
大好きな優美子を今、後ろに乗っけているんだから。
俺は中学2年、自分で言うのもなんだが背も高い方じゃない、
成績も全く普通、スポーツも普通の何の取り柄も無い平均的中学生だと思っている。
優美子とは同級生だ。同じクラスの学級委員を務めていて勉強は当然できる。
背は小柄な方かな?どちらかと言うと華奢な感じする。
だけど可愛い瞳がよく動いて透き通るくらいに色が白く髪はセミロングで
艶やかな黒髪は遠くからでもエンジェルリングがよく分かる美少女だ。
俺は優美子がそばにくるだけで心臓がバクバクする。
体育祭の時、同じ応援団をやったのだが優美子のチアリーダーの可愛さときたら
アイドル顔負けで俺の少ない脳内フォルダの中にしっかりと焼付けをして永久保存
をしてある。
勿論、その時写真部の小池が撮った彼女の写真はプレミアムが付いて
高値で取引をされたのは言うまでもない。
組体操が終了して恒例のフォークダンスで回ってきた優美子の柔らかい手を触れた
時、感動のあまり俺は完全に息の根を止められて今でも余り思い出せないくらいだぜ。
まだ、優美子を好きな理由がある。それは同い年なのに妙に色っぽいのだ。
髪をうるさそうに微かに眉間にシワを寄せかき上げる仕草や話をする時の微笑み、
誰にでも優しい振る舞い。
他の女子が猿に見えてしまうのは仕方がないのかもしれない。
学校でも3本の指に入るその美少女が何故俺みたいに冴えない奴のチャリンコの後ろに
乗っているかと言うとこれにはいささかの訳があるのだ。
「大丈夫っ?」チラッ
「うん、平気だよ。助けてくれてありがとね…。」
「そんなのいいって、膝っ子、血が出てたけど痛くないか?」
「うん、ありがと。絆創膏貼ったから後で洗って消毒しとくよ。」
白い膝がしらが少し赤くなっている。チラ見したけど色が白い分やけに痛そう。
「そっかぁ」
「ゴメンね、私、重いでしょ?」肩に掛かった手にほんの少し力が入った
「お前、チビだから重くないって。」
少しの段差を超える時にあの子が添えてた手が俺の腰のあたりを僅かに
力を入れたのが分かる…。好きな子に頼られている人生で最高の通学時間
だろう、うひよ~~てっ、天にも昇る気分まさに我が一生に一片の悔いなしである。
「遅れちゃうから、掴まってろよ。」
「うん、ありがとう…。」
手な具合で何とか登校時間にギリ間に合ったけど、体育教師のイボジに二人乗りを
怒られたが俺より遥かに学校で信頼のある、あの子がすぐに助け舟を出してくれて
助かった。
俺はいつもこのイボジに怒られているのを優美子は知っている。
「あぁ、よかった。聡志君、ありがとう。私、保健室にちょっと行くから、またね。」
「うっ、うん、だよな。担任には遅れるって言っとくよ。」
我ながらカッコつけているんだけど舞い上がってるから声がうわずってるのが
自分でも分かるほどだ。「キモっ!」と思われなかったか後で心配しちまったぜ。
でも、満更でもない自分の対応にご褒美をあげたい気持ちを抑えて教室にダッシュで
駆け込み担任に簡単に報告したのだった。
一時間目の授業は国語だがあの子は20分過ぎ位で戻ってきて俺に僅かなアイコンと
笑みを送ってくれた様な気がする。
国語の授業は何事も無かった様に進んで行ったのであった。
国語が終わった休み時間に隣の俺の親友である裕也が俺にエルボーを食らわせながら
聞いてきた。
「朝、一体どうしたんだよ!」
「うん、朝、学校行く途中に優美子がチャリでコケてて膝っ子怪我してたんだ。
それで学校まで二人乗りで送って来ただけだよ。」
「やるなぁ~!優美子の奴、絶対お前の事見直したり惚れちゃうんじゃないかぁ~?」
「そっ、そんなんじゃ~ないよ!困ってたし痛そうだっからじゃん!」
「でも、満更でもないんだろ?」
「チゲ~って!」
俺は親友の裕也の事が大好きである。べっ、別に変な意味じゃなくて
こいつとは妙に気が合う。弁当も一緒に食うし、
好きな漫画も同じ好きなアイドルも同じだし、何しろ裕也の話題の多さときたら
半端じゃない。
俺が知らない様な話題が次から次えと出てくる。
いつも俺は夢中になって裕也のJリーグの予想やお笑いタレントのオチネタを聞いて
大満足しているのだった。
また、裕也は背も高くイケメンで頭も良くモチ、スポーツ万能で学年でも
トップクラスなんだ。
そんな奴だからスゲーモテる!ビビる程、モテる!しかし、いつも女の子を
振ってるんだなこれが。
ある時不思議に思って聞いて見た事があった。
「オメぇ~、スゲーモテるのに何で女の子をフルの?」
「ハァ~?別に好きでもないのに付き合っても仕方ないじゃん。」
「だけど、可愛い子も結構いるし勿体無いような…。」
「あいつら、俺の事表向きしか知らないし、なんかそういうの得意じゃないんだよな。」
さっぱり分かららない。そばで見ている俺なんかいつも羨ましくて目が点で
もし俺が裕也だったら、速攻で舞い上がってOK出しまくりなんだが…
裕也といるといつも女の子の目線がする、当然奴を見ているのに決まっているのだが
何だかモテてる気がするし実に気分がいいんだよな。