星の扉目指して   作:膝にモバコイン

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第三話 マリオネットの激動 中編

気付け代わりに両手パンパン頬を叩く。深呼吸して平常心、腕時計が指し示す時刻も約束まで半刻を少し割ったぐらいと余裕あり。大手だけあって、行き交う人々の中を縫って正門へ……自動ドアに手招きされると玄関ロビー。意識して緊張を飲み下すも効果はイマイチ振るわない。計二十余年、三十路近くまで積み重ねてるとはいえ、前半部は白紙多数で中身スカスカ。社会経験皆無に近いのにいきなり一部上場に特攻……スライム飛ばしてドラゴンだ。

 

しかも立ち位置勇者じゃなく村人Aがな……割りと絶望。風雲急を告げる超展開の連続に思考停止に陥ってたのが今更復旧。落ち着いて整理したら、落ち着けるわけなかった。雰囲気は張り詰めてないのに勝手に気圧され自縄自縛、早くも暗雲が立ち込めてる……対策の間もない未知との遭遇。それは恐怖以外の何物でもない―――

 

 

 

「し、失礼します!湯島悠陽と申します。本日午後―――時の約束で面接に参りました」

 

「はい承っております。こちらに記名をお願いします」

 

顔を務める受付嬢だけあって華やかな方に促され、記帳に氏名と用事をサイン。

 

「確認できましたのでこれをどうぞ。新館30階のシンデレラプロジェクトルーム前でお待ちいただければとのことです。お嬢様頑張ってくださいね。ファイト!ですよ」

 

微笑ましい物を愛でるように見送られる辺り、餓鬼が無理して背伸びしてる風に受け取られてる。初っ端から手痛い失敗……でも落ち込んでる暇はない挽回あるのみ。

 

 

手渡されたゲスト登録を首に引っ提げ、備え付けの地図で現在地と目的地を確かめる。記された社章は漢字そのまま西洋のお城、高級レストランに家具店以外じゃ珍しいシャンデリアが照明具なのも準えた結果だろう。それにしても改めて分からされる……建物の多さ、ちゃちなビルは皆無でどれもが聳え立つ塔。首都ド真ん中には不釣り合いな大きさ、敷地面積、予備知識無しで挑めば迷う確率高し。覚悟を決めて連絡通路へと踏み入れる。

 

「う~ん、やっと休憩だね智絵里ちゃん。一杯動いちゃったからお腹ペコペコだなぁ」

 

「レッスンついて行くので精一杯だから疲れちゃったかも……カフェでお茶するかな子ちゃん?」

 

ほんの僅か、向かうだけでチラホラ見かけた顔ぶれが行く先々で鉢合わせ。芸能プロダクションの看板に偽り無し、擦れ違った一組の無名すら花開く前の蕾。平均が天井知らずに上がってく……昔なら嫉妬に狂ってたかもしれなかった。これで愚痴れば刺されても文句は言えんが。

 

「そうだ!新メニューに苺パスター始めましたって、冷やし中華みたいにお品書きされてたから一緒に食べようよ」

 

感性奇抜であらせられる。苺パスタ……うっ…頭が割れそうに痛い。

NGワード削除削除したところでお目当て到達。お手洗いで精神統一図るか悩むも、グチグチ考えて余計悪化もあり得るので却下。エレベーターを独り待つ。

 

「別に怖がんなくても大丈夫、ロックに決めるだけ。おっし!やるぞ~」

 

「…………………………」

 

「きゃっ!?」

 

空気が凍る音幻視した……お手洗い退出、心機一転な場面を目撃された、してしまった。

独り言で拳振り上げるのを……キメ顔颯爽ライバル宣言しただけに先方の羞恥は恥死量。女の子らしい叫び声も霞んで、気不味さだけがそこにある。どうすんだよこの空気……

 

密室と化した箱に息遣いだけ響いてた。過失はないのに罪悪感すらある現状は、大変によろしくない。打開策を用意せねば痼りが残って実力発揮出来ずに不完全燃焼―――足踏みは却下、前へ前へ。

 

「最近受験勉強の休憩がてら、雑学漁りしてたのですが、驚いたことにインフルエンザの予防注射って、予防とは銘打っていても他の効果のあるものと違って予防効果自体は相当低いようですね。ある種気休め、プラシーボ」

 

「なっ……本当!?嘘じゃない?いやでも例年罹らないのにワクチンした時だけ、ベッドに釘付けされたもんね。やっぱりおかしいとは思ってたんだ。マジで契約違反!ネトオクでiPhone頼んだのにメーカー品の外箱のみ持って来たようなもんさ。詐欺だよ詐欺!……注射結構痛かったのに……」

 

予想外に実感の篭った熱い猛り。言い回しからクールタイプかと察したものの、意外と愉快な人かもしれなかった。

 

「話題振っといてあれですけど、そう悲観しすぎることありませんよ。予防効果は薄くとも罹患した場合の重篤率は、統計上目に見えて下がりますから―――それに厚生省も推奨してますし」

 

「ふぅ~ったく、驚かせないでね。ロックな私じゃなかったら狼狽えて、無様晒すところだったよ。大袈裟なんだから……めっ!」

 

巻き戻し、歓迎の身でも突っ込みをそそる振りに思わず苦笑。渾身のボケを持って仕切り直とは恐れ入る。藪蛇を避けるため敢えての隙……侮れない。

 

四方山を打ち切って30階、窓から見下ろせばミニチュアサイズと錯覚する街並み。案内板にはフロア一帯シンデレラの文字がズラリと並ぶ……期待された企画なのは誰の目にも明らかだった。ことここに至ってはケセラセラ、鼓舞してノック三回返事待ち。トイレじゃないので二回はアウト。

 

「どうぞ、お入りください」

 

決戦の時は今!返事して入室ドア閉め一礼、名乗ってまた一礼。

 

「どうぞ、お二人ともお掛けください。あぁ、それと多田李衣菜さん耳当ては仕舞っていただけると助かります」

 

「あっ、はい」

 

この時李衣菜意外に素直。ポリシーだぜと強情張らずそそくさバックに……常識人なロッカー。ロック……君を見失う。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

シンデレラガールズ『星の扉目指して』 第三話 マリオネットの激動 中編

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――以上でこちらからの質疑応答は終了とさせていただきます。なにか質問があれば遠慮なくどうぞ」

 

「これまでのご説明で気になっていた点は解決しましたので、大丈夫です」

 

無理に質問作って減点も阿呆らしいので畳み掛け、お隣も右倣え。面接通して分を弁える生真面目さを多少脚色、過度に飾らず売り込み掛けたが……買い手の琴線に触れたか危うい。一般企業であればアピールになる常識普通さからなる画一された量産性も、オンリーワンが求められる戦場ではむしろ減点の対象。他にセールスポイント皆無な苦肉の策ではあったものの早まった感すらある。

 

―――やはりつまらない人間にはアイドル向いてない。一貫してビックマウス吐いてたヘッドフォンの君と違って……

 

「よし、じゃあ君たちには次は実技試験をやってもらうので、まずは同館―――にあるダンスルームに向かってくれるかな?」

 

プロデューサーと二人試験管を務めるも一歩引いた態度で、無言に徹してたご老人が締めを取る。無言でもプレッシャーを与えるタイプではなく日向の縁側を連想させる穏やかな男性。強面の脅し役と並ぶと刑事モノで仏の通り名が脳裏を掠めた。

後ろ向き溜息キャンセル、切り替え大事。取り返せる失点だと自己暗示。

 

「詳しい内容については会場の試験監督にお聞きいただければと……ではご退出お願いします」

 

「「はい!ありがとうございました」」

 

三度一礼、実技後またお呼ばれする隙の生じぬ三段構えらしいが、さてはてどうなるや―――

 

「みりあチャン!?あんまり押さないで欲しいにゃ~ファーストキスが無機物になっちゃう!」

 

「でもでも~私もお話聞きたい~新人さんがどんな人なのか知りたい~ねぇねぇみくちゃん譲ってよっ!」

 

単独ではない複数の喧騒が防音すら突き付け嫌でも届く。開け放ったら、雪崩れ込んでくる場面が安易に想像できるので退出を逡巡せざるを得ない……

 

 

「駄目にゃ~!年功序列を疎かにするとゆとり化してしまうのにゃ」

 

「二人共うるさくしすぎだにぃ……新人さんもプロデューサーもお仕事中、邪魔しちゃうのは、めっ!なんだよー☆それにトレちゃんも油売ってたらプンプン怒り心頭かも」

 

「きらりチャンは心配性だにゃ~あの鬼軍曹も獄卒レベルじゃないんだから、パパっと調査して、パパっと戻ればバレるわけないにゃ~。そう思うでしょ?」

 

「あっ、レッスンやらなきゃ~……」

 

僅かに隙間作ると、志村後ろ後ろ。傍目には綺麗にフラグ建てする芸人そのもの……待ち受ける喜劇に合掌。

 

「ほぉーそんな風に思われていたのか……生の声だけに勉強になるな」

 

「ふぇっ……?―――って!ふにゃああああああ!?」

 

某三国志乱世の奸雄が嵌められてげえっ、する表情コンテストなら優勝もある再現率。寿命が縮んだなあれは。

 

「いい度胸だ前川……余程私に可愛がって欲しいようだな。期待されちゃ応えないと肩透かし、鬼軍曹喜んで演じてやるよ。なぁっ前川っ!」

 

「あばばばばばば」

 

逃れることなど出来ない。猫耳は首根っこ掴まれドナドナ。デジャヴュ覚える光景……最近のトレンドは知らぬ間に出荷になったのだろうな。

 

「お騒がせしちゃったから申し訳……そのにゃははー☆」

 

「なんだったんでしょうね……あれ?」

 

「さっ、さぁ?」

 

台風一過、出没も脈絡なければ退散も唐突。疑問だけ残してフェードアウト……連想力を鍛える試練か……或いは聞けば答えが返ってくると思いがちな我々に対する警鐘なのかもしれなかった。

 

 

 

事務所にある簡易台所で蛇口を捻り、水を汲む。湯沸しポッドに残ったお湯を急須で使いきって追加。異動を言い渡されて数ヶ月、彼女は既に備品の使用は目を瞑って出来るぐらいに把握してた。

 

「お疲れ様です。喉を潤すのにお茶を淹れてきました。部長もそれでよろしかったですよね?」

 

「あぁ千川くん、日本茶を持って来てくれるとは嬉しいねぇ」

 

気遣いも含んで入るが、本題への足掛かり。無意識に三つ編みの毛先を弄って切り込む。

 

「それでどうだったんです?今回の娘たちを面接してみた手応えは……」

 

「はい。この後の結果に問題なければ、どちらも採用の方向で進めて行こうかと」

 

「実技、踊りと歌唱が壊滅的でもなきゃ合格でいいと私も思うよ」

 

悲しい擦れ違いの果てに生まれた人員不足だけに、早急な軌道修正が望まれる中の吉報に苦さも綻ぶ。俄然気になってくるのは人柄、影に日向にサポートする職務上他人ごとではない。

 

「受験されたお二方は一体どんな方なんです?私、気になります!」

 

「うん―――そうだね」

 

部長曰く、多田李衣菜ちゃんは冷静沈着装っていても隠し切れない詰めの甘さが生む、素の反応とキャラの落差。知識の浅さが露見しそうになった時の誤魔化しきれてないのに乗り切ったと勘違いするドヤ顔っぷりが愛らしい、だそうである。

 

「湯島君は年の割に大人びて世間慣れしているね。プロジェクト内の年少組、赤城君、城ヶ崎君は活動的。勿論そこが長所で天真爛漫大いに結構だけど、目上に素直に従い続けられるかといえばそうじゃない。グループでの不安要素を取り除く緩衝材、橋渡し役も任せられるかもと期待しているんだ」

 

「確かに、毎回大人が出張っても対処療法。その場は収まるかもしれませんが、不満は解消されず。限界超え段になって爆発しちゃう未来が訪れるかもですし……」

 

取らぬ狸の皮算用と冗談めかしてるけれど、彼にかけられた呪いの魔法を解かずとも和らげる一助にと願わずにはいられない……アシスタントは灰かぶりですらないのだから。

 

「総じてこの企画で落ちたとしても、いずれ他の企業からデビューするであろうポテンシャルの持ち主と……私は判断しています。ユニットの幅も広がりますので」

 

「なら、決まりだね。ウチが業界で胡座をかける王者なら兎も角、頭角を表していても未だ地位定まらず。故に挑戦者らしく―――貪欲にいこうじゃないか」

 

好々爺の鶴の一声。舞台裏で人知れず、少女たちのレールが敷かれた。

 

 

 

―――偶像に求められるパーフォマンス力を舐めてたつもりは毛頭ない。生々しいが慈善ではなく対価、札束動めく魔境で揉まれるが故に当然。しかしここに落とし穴がある……見聞きのみで百を知ったつもりでも、実戦経験なくば頭でっかちなだけ。

そして知ったかが、実地で荒波に遭遇すると痛い目に会う良い見本が己だった。

 

「はっ……はぁ~~~……」

 

用意された運動着に着替え、指示通りダンスレッスンを開始。当初はコーチに追従するのも頭で動きを理解出来たので、ぎこちなさが残るもやりきれたが、反復する内に普段使わない筋肉を酷使したせいで徐々に破綻。脳と体のズレ、意識しても間に合わないもどかしさ。ターンとステップの食い違いで足が縺れ、立て直しに必死で内だけ見てる。客に向けるべきを自分にしか向けれないのはざまぁないったらありゃしない。文句なく不合格。

 

「学生が自主練してきたにしては下地の出来栄えは悪くない……ただなんとなくの勢いや思いつきに流された……ありがちな軽い物味遊山じゃなさそうだな。これなら門前払い、足切する必要がないみたいで安心した。アイドルとしては流石に舞台に即出すのはドクターストップものだが……新人なら当然。拙くとも投げ出さず最後までやりきった―――に今はそれでいい」

 

試される中、余裕消え失せ惨めな姿は新鮮ですらある。湯島悠陽は常に水面に浮く白鳥の如く、人前では優雅、舞台裏にて足掻く。ここまで無様晒したのは恐らく初めて。破られた……破られてしまったのだ!屈辱で言い返そうにも実力伴わぬなら負け犬の遠吠え、黙々と繰り返す。もし、小中で半場義務教育化したダンス関連の授業イベントで、指導側に回され特訓した軌跡不在なら無事死亡してたろう……考えたくもない。万事塞翁が馬、人間なにが役に立つか分からないものである。

 

「あ~もう!じれったいにゃ。トレチャン新人下げてみくに踊らせて」

 

「別に構わんが、お前さっきちょっと大人気ないぐらい扱いたばかりだろ。保つのか?気遣う前に己を気遣えなきゃ優しさは成り立たないぞ……」

 

「あたぼうにゃ!伊達にアイドル志望し続けてなかった下積みを存分に発揮してやるんだから。そこの後輩共は座って、刮目して見てるにゃ~!!」

 

「ふぅ……なら無理にはとめん。危なくならない限り、手出ししないから思う存分やれ。おいっ!新人ども先任が努力の結果を披露してくれるそうだ。楽にしていいから僅かでも糧にしろ」

 

切羽詰って意識の外にいたギャラリーが乱入。呼吸の度に痛む肺のおかげでコンディションは最高に最低。限界間近、説教仲間は取り繕う気力すら削がれたのか息も絶え絶え瀕死状態。申し出は渡りに船。大人しく見学させてもらうとしましょう。

 

自信満々な態度は完成度に裏打ちされたもの。みくと呼ばれた少女の一連の動作が淀みなく、自分の時は自己主張して不揃いだったステップ、ターンが喧嘩せずに協力し合って一つへと昇華されていて舌を巻く。

 

見稽古を食い入るよう比較すると改善点が次々浮上。体力配分抜け落ちてたせいで途中から動作チグハグ、足や顔も下がり気味で見栄え不細工。可能なら穴掘って埋まりたいが……雑念走らせてるほど愚かじゃない。

 

「ふふ~ん、どう?みくの踊り……驚きのあまり声もでないかにゃ?」

 

「あんまり調子乗ると……前川。油断大敵ボロがでるぞ。この前総合やった時みたいに」

 

「トレチャン……それは言わない約束にゃ……」

 

片方でこの様、歌と踊り同時にこなす道はとても険しい。

 

「にゃっほーい!お疲れ様だよ。はいドリンクどぞ~☆」

 

「ど…どうも、ありがと……ございます」

 

気合で持ちこたえてるが、途切れがちなお礼が精一杯の強がり。手渡されたペットボトル入りのスポーツドリンクにはストローが指してある。キャップを開ける労も煩わしかったので気遣いが身に沁みた。

 

「辛さ分かるから大丈夫って聞かないにぃ。それからね……猫語尾の女の娘、風当たりが強い台詞ぶつけて来てるけど、あれ休ませる口実なのー。優しいよねー☆」

 

「きらりチャン!?さり気ない運びを態々説明されるとスンゴイ恥ずかしいんだけど!?」

 

「飲み物もきらりとみくちゃんで用意したんだーうぇへへへ!」

 

「みくの……みくの格好いい先輩計画が……台無しに」

 

想像してた世界との差異に拍子抜け。仲がいいのは一部だけでもっと殺伐としてると思ってた……或いは身構えすぎてたのかもしれない。

 

―――なら肩の力を多少抜ける優しい世界でありますようにと……都合の良い未来を描いてしまうのであった。

 

 

 




書きたいこと追加していたら何故か前後編に中の文字が……
次回後編とか言っていた阿呆は己なので……反省。
次こそは寮生編まで辿り着くと意気込みつつ、お別れしたいと思います。

アニメ最新話で出す予定の寮生とほぼズレがなくて一安心な今日このごろ―――それでは次の話でまた。


P.S.
トレさんの言動が筆者の不手際により損なわれていたので後半部改訂いたしました。
ストレス溜めさせる必要ないキャラにストレス性搭載するとか……申し訳ない。

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