星の扉目指して   作:膝にモバコイン

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今回は6話が少し詰まっているので、先に出来た6.5話を投稿しました。
6話のネタバレはないですが、夢の形式なので日記風味です。


第六.五話 泡沫の幻実1

泡沫の夢を見ていた……目覚めれば露と消えてしまう夢を。

幻実の中の己は人生三度目となる小学校最年長を過ごしていた。現実の自分は湯島悠陽を含めて二度目ではある……がしかし彼女?は悠陽としての生だけで二度目だった。如何なトラブルに巻き込まれたか6年生に逆戻りしてしまったらしい。セカンドどころかサードライフとは恐れ入る。

 

混乱して一瞬原因を探ろうかとも考えたが、そもそも転生なぞという奇跡が降りかかった身。超常の解明なぞ手に余ると逆行を在るが儘に受け入れていた。己が居た未来が順風満帆なら元に戻りたいと悲嘆に暮れるところだが、生憎表向きはアイドルとしてスターダムを駆け上がり大成したものの、本当に欲しかったものは手から零れ落ち、後悔しがちな道を歩んだが故に……

 

これを奇貨と捉えた自分は、逆行の意識が明確化した7月初頭。正史より半年近く多い猶予を持って、シンデレラプロジェクトを無事成功させるための準備期間に充てようと行動を開始した。まず手始めに成長していた身体から、二次性徴を迎える前の少女へとなったがためのズレを正すべく養成所に所属しようと両親に相談する。

 

日常生活や学校の体育等、遊びの延長線上の類なら多少の労苦はあれ騙し騙し出来るのだが、練習漬けと実戦で磨かれ歌と踊りのスタイルは……当然大人びてきていた状態に合わせて進化、馴染んできたものだ。子供の身の上で再現しようにも土台無理だったろう。どんなに優れた兵器であろうと運用出来る下地がなければ無用の長物だった。言うなれば童女にデザートイーグルを撃てというようなミスマッチ、史実以上の影響力に発言力を得るにはアイドルとしての実力を魅せつけねばならない。

 

兎も角、早急に身体に合ったスタイルを確立させねばならず、自力が意志とはかけ離れて素人に毛が生えたぺーぺなのもあって、鍛え直す場が必要だったのだ。んな訳で白羽の矢が立った養成所、通う事自体は母の意向もあり、目論見通り諸手を上げて賛成してくれたのが……立地で一悶着あったりした。悠陽が提案したのは東京にある企業で、地元埼玉から往復だけで2時間近く費やされるせいで母から待ったの声がかかったのだ。

 

来年の受験先が都心というのを盾に、予行演習も兼ねていると理を持って説得し、地元では合格後美城に通学するようになれば自ずと地元から東京に移らればならず、せっかく仲良くなったとしても仲間とお別れしなければならない。それは嫌だ!と泣き落とし、両面から攻め立ててなんとか東京校に通う手筈を整えることに成功。その際、我儘を言って困らせたのに、怒られるどころか―――だったのが印象的だった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

シンデレラガールズ『星の扉目指して』 第六.五話 泡沫の幻実1

 

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己の筈なのに父母に逆らってまで何故に東京、しかも企業まで指名するという異様な固執っぷりに疑念が湧き上がってきたものの、どうやら三周目ことサードはその場所にいる島村卯月なる少女に執着があるようで……すべては彼女と出会うためだったらしい。中途半端な時期に、半場無理を言って入学したため、離脱者が多数出ている定数割れのクラスに放り込まれてしまうが、都合良く作用したみたいで目的の人物と一緒のクラスだった。万事塞翁が馬である。

 

しかし、夢のような日々の崩壊の切欠。己の一方的で色眼鏡でしかない信用を妄信したが故に危機を見過ごした罪科。混じりけのない笑顔を曇らせてしまい……曇った後はついぞ見ることが叶わなかった娘と邂逅して、見惚れるトレードマークのスマイルを見た結果、感極まって目尻が熱くなり、涙が零れてしまったのは痛恨事だろう。因みにセカンドたる自分は島村さんとは一切の面識もない。我が事ながらなんとも妄想逞しいものである。

 

すべて……という設定で、見知らぬ人間の経歴をよくもまぁすらすらとでっち上げられるものだと感心したほどだ。妄想とは言え随分と凝ったものだなぁとは思う、思うだけだが。

それに島村さんに対して、あの悠陽が含みのない渾身の笑顔を送っているのを眺め、改めて夢以外のナニモノでもないと確信した。潜在意識の現れだろう。

 

気の利いた映画のお供、ポップコーンやメロンソーダもなしにお一人様の上映会は続く。夏休みを目一杯利用して養成所に入り浸り、普段は使用されないお仕事に必要な筋肉の鍛錬とズレの修正を講師のお姉さんに確認しながら行う。

 

後にオーディションで発掘された際、独学で以前に近い領域に足を踏み入れていたらあまりに異常だからだ。己が授かった教えはプロに身を持って叩きこまれたもの……インターネットで聞き齧っただけの半端者では、到底到達無理の高さである。

 

だから一々質疑応答したわけで、そのためお姉さんからすると大変手の掛かる娘だったように思う。救いは迷惑がらず嬉しそうに付き合ってくれたことだろう。二学期が始まる頃には島村さんとも直接遊べる機会こそ少なかったが、その分長電話で穴埋めする如くお喋り出来る間柄になれた……呼び名も互いに名前、卯月さん、悠陽ちゃんへと深まった。

前世?ではプロジェクト入りする前に邂逅。名字呼びは一瞬なためもどかしかったので万々歳である。

 

季節が秋を経て冬へ突入し始めると元々、自分含めて片手で足りた生徒の数も……遂には親指と人差し指を曲げるだけで済むまで目減りしてしまう。卯月さんからすると純粋な同期は全滅である。芸能関係のポスターが所狭しと貼り付けられたボード、そこに存在する同期生の集合写真に写るメンバー大半の面識すらなかった。

 

片方が欠席すれば、生徒のみではストレッチすら出来ない最小単位に薄ら寒いもの感じなかったかと言えば嘘になる。でも、不謹慎ながら少数精鋭になった分、個別指導が捗ったし、彼女と更に親密さがアップしたのでメリットの方が正直大きかったらしく、サードも内心満更ではなさそうだった。

 

ギリギリ振り付けと歌唱に及第点を出せるようになった辺り、丁度11月の下旬には講師さんに、遠回しに勧め続けられていたオーディションへの参加を直球で求められ始めてしまう。燻っているのは惜しいとか、足踏みしているのは勿体ないです!と卯月さんにまで指摘され、進退窮まりつつあった。採用されても内定を蹴るはめになるのでのらりくらりと躱して、ただ一つの本命、シンデレラオーディションを待つのだった。

 

年暮れて師走、全国模試で受験先の中学を文句なしでA評価通知。これを免罪符に相も変わらずレッスン漬けの毎日を送っていたところ、養成所からの推薦で特例として346プロの冬フェスのライブ見学を許可され、スタッフとして参加する卯月さんと供に舞台裏を覗くこととなった。

 

その折、プロダクションの顔。第一線をときめくそうそうたる顔触れ、ドレスで着飾った瑞樹さん、美穂さんに愛梨さんや……繋がりが深かった美嘉さんの楽屋裏担当に抜擢されたので、尊敬は抱きつつもしゃちこばることなく接すると感心され、大物になるねと茶化されたりした。夢なので当然の如く糞度胸である。チートすぎて己との乖離が酷い……オリーシュかなにかかな?

 

月の中頃とうとう、シンデレラの選考が始まった。参加はするとして最終選考時に病欠してセカンドに倣うかどうか悩んだものの、違う行動を選択しっぱなし故、補欠が出ずにスカウトされない最悪の未来もあり得たので結局は止めにした。懸念事項で自分だけ受かってしまうと問題が生ずる可能性があったが、介入が功を奏したらしく卯月さんと二人して見事審査員から合格をもぎ取る。悠陽も抱き合い飛び跳ね、報告するとお姉さんも同じぐらい喜んでくれたのが嬉しかった。

 

善は急げと会社訪問、プロジェクトルームへと向かう道中に兼ねてから仕込もうとしていた種を蒔く。「卯月さん、一端夢は叶った訳ですけど、貴方はどんなアイドルになりたいんですか?」とこれはゴールではなくスタートラインだと意識させ、魔法が溶けた時に備えてであった。

 

幾つもオーディションを受けて、お祈りメールを届けられた相手に受かった先のことばかり問うのは……無神経だろうから我慢を重ねていた台詞を吐き出せて胸下ろす。実感が伴わず質問がピンと来ない様子の彼女だったが、タイムリミットは数カ月先、問題提起しただけでも充分である。

 

名物プロデューサーと対面すると案の定、正規組の面々は例外を除き、息を呑む者、顔を青褪め言葉を失う者と多かれ少なかれ動揺を隠せなかった。尚卯月さんは叫びだす寸前まで怯えるレベルであったと追記しよう。慣れればぴにゃこら太みたいに愛嬌があって、悪くないのだけれど、初見は致し方無いと苦笑するのだった。

 

イニシアチブと後のデヴューでみくさん以下に不満を抱かせよう、合同練習を全力全開で望む。新人離れした動作にトレーナーさんも呆気に取られ、正に強くてニューゲームの様相を呈したのは言うまでもない。サードは隠しても本職の目は誤魔化せず痼を残すぐらいなら、初っ端から開き直って道標たらんとするらしい。他の娘たちが少しの間打ちのめされても、糧にして追いつこうと奮起してくれると知っていたから選べた選択だった……腐らずに前に進むと。

 

反則じみた知識を前提に、さり気なく且つ怪しまれぬ速度でメンバー間の交友を深め、連帯感の醸成に勤しむ。前の通りとは行かないが、皆とまた仲良く出来るのがたまらなく幸せだったのだろう。気力が漲ってくるのが分かる。プロデューサーは、実務面はかなり優秀でアイドルに対する情熱は本物でも……過去に囚われ、アイドルと接するの恐れているという問題を抱えているらしく、夢の中の自分はこの問題にどう対処したかというと―――ただ強引に突っ切った。

 

トラウマを刺激する移籍や辞表を仄めかす禁じ手こそ使わないものの、「私を見出してくれた貴方を信じます。だからプロデューサーも踏み込んでください」とか「自分で選んだ娘である私は、直に触れてみて見損なったりしました?」等々、仕事の邪魔とならない時は押しかけてでも構い倒し続けたのである。切り札に未来の貴方に向けていた親しみを込めた笑みで勝負に打って出て、見事根負けさせたのだ。

 

しかし無条件とも思える信頼に思い当たる節がなかったのか、困り顔で首筋に手を回していたのだが、お決まりの癖に舞い上がって、余計不思議そうにされてしまうのだった。

 

さて、最初の関門をぶち破り、自分も卒業式を経てセカンドと同じく、346有する寮住まいと相成った。正史より離れ、コミュ不足も解消されていたのでトラブルが起きる筈もなく平和にイベントは過ぎていったのだった。あぁ……嫉妬の衝動に駆られそうな程度には羨ましいな、おい……

 

厭な感情が渦巻くのを覚えつつもカーテンコールの兆しは遠く、退席の許しは先だった。

―――どうせ朝になれば醒める夢なのに儘ならない。

 




今回の夢が本編に直接関係有るのかないのかどうかは、読者の方々のご想像にお任せし致します。
―――それでは次の話でまた。

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