星の扉目指して   作:膝にモバコイン

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仮面舞踏の内幕

向こう見ずで虚栄に溢れ、その場その場で騙し騙し躱すしか出来ない……自分はとんでもない嘘つきだ。

他人や家族どころか自分すら欺いて、作った嘘が露見するのを恐れる哀れな道化。止まることすら許されずハリボテを必死に繕い続けるも何れあっさり、己が作った重みに圧し潰される定めでしょう。

 

 

小鳥のさえずり響く早朝、頭から被った布団から微かに垣間見えるカーテンを超えて降り注ぐ日差しに辟易する。この光量からして見上げるまでもなく蒼一色で塗りたくられた空であることは疑いようもなかった。洗濯物がカラッと乾くのには感謝してもそれとこれとは別、芋虫のように包まった毛布から手だけを出して彷徨うこと数秒……エアコンのスイッチをつけ再び殻に籠もり数分手を擦り合わせてじっと待つ。

 

暦は旧暦でいう睦月、冬真っ盛り……如何に快晴であろうと室内をも寒気が支配する。実際エアコンのデジダル温度計が起き抜けに指す数字は大体十度前半、暖を取らねばやっていられないし、さもなければ生来の怠け者気質が堕落を囁くのは想像に難くない。

 

明日やろう明日やろう、明日やれることは明日やろう。屑そのものだった頃に愛用していた標語だ。こんなことを言い出す前に行動あるのみである……もう一度繰り返すのだけは願い下げだからーーー

 

 

ジャージに着替えて微睡める幸せにさよなら。

 

「っ!?相変わらず寒む……」

 

首筋を撫でる冬の室温に思わず独り言ちてしまう。自動発熱機もとい人間がいない廊下は当然部屋より冷たい……温度計を見なくてもそう確信できる程度には。

木造の階段を軋ませて居間に降りてもそれは同じで、両親の寝室は未だ寝静まったまま。時計の短針は6と7の中間、共働きの二人が夜遅くまで働いて残業までこなして来たのだ。当番は特に決まっていない曜日だが、夕食に引き続き朝も自分が用意することになりそうである。

 

溜息1つ、意識切り替え献立をざっと組み立てて、日課の軽いジョギングに向かうのであった。今日やろう今日やろう、今日できることは今日やろうとお決まりの呪文を唱えて。

 

さて、脈絡もなく突拍子であるが皆は転生って信じられるだろうか?

―――答えるまでもなく大半の奴はファンタジーメルヘンじゃないんだからと一笑に付するに違いない。因みに自分も一度目の人生では己を投影した自慰に耽るも……心の何処かでは虚しい妄想の類と絶望してた。

 

でも……もう信じてる……納得する以外ない。宗教なんて普段は忘れて、都合のいい時だけ神頼みの信心深くもない癖、二度目の人生、二度目の小学生が訪れ、降って湧いた奇跡に困惑しつつも腐った一周目をやり直すチャンスを与えられたのだから。

 

かじかんだ手をお湯で解きほぐしながら、運動で生まれた汗を流すための風呂場で、水蒸気で曇り気味の鏡をじっと見つめる。鏡に写る女性というには幼い女の子がこちらを覗きこむ、無論偶然の一致なはずもなく見てる者と映る者は同一人物。腰にまで届かんとする光も飲み込みそうな黒陽色の髪と瞳は出来の良いドールを連想させる。体つきが丸みを帯び始めても、女性機能として一人前と見做される通過儀礼には達していないおかげか未だ性差の戸惑いは薄いが……逃れられぬ赤飯を思うと憂鬱にならざるを得ない。他にも何時まで耐えられるかと悩みの種は尽きないが……

 

 

「もうすぐ起きる時間ですよ。お疲れのところ申し訳ないですが朝になりました。一日を始めましょう」

 

体と髪を乾かし、着替えを終えたら現在進行系で寝こけている両親に声をかける。

 

「……う~う~ん……あーあと一分、いえ五分」

 

「…………………………」

 

揺り籠が恋しいのかさきちょっだけ、さきちょっだけ並に信用できない寝惚けに苦笑してしまう。気持ちはわかる……わかるわ。

遅刻阻止限界点までを考慮して、可能と判断。無言で立ち去ろうとするも。

 

「……え?……えっ?起こしてくれないの!?」

 

「違います……その位なら余裕を切り詰めれば捻出できますので然程問題ないかと」

 

「あら……そう?じゃあもうちょいだけ、蓑虫の気持ちにならせて貰うわね」

 

蓑虫の気持ちになるってなんなんだと思わなくもないが、その場の思いつきな反射のあれ故に深く考えるだけ無駄だったり。

 

「どうぞご自由に……ですが十分後には席に座っててください。朝食が冷めてしまいますので」

 

「ねぇねぇ忘れ物あるじゃない。ちょっとこっち来て目線合わせて」

 

母の顔を見つめると瞬きの間に額に湿り気を帯びた感触……所謂おはようのチュウ。

 

「むむ、どうしたのかしら?」

 

悩ましげな表情晒してしまったせいで怪しまれてしまった。人間……寝起きの口臭は控えめにいって臭い……特にニンニク系をしこたま食べて歯磨きうがいを適当に済ませた次の日は……それはもう……

 

「…………………………」

 

葛藤するも素直に注意を促すとロスが激しくなること請け合い。誤魔化しにかかって、未だ爆睡する父を尻目にすごすごと退散するのであった。

 

 

 

冷蔵庫から朝食の材料を取り出して調理する。メニューオムライスにコンソメスープにデザートは市販のヨーグルト。朝から重いが家の者はオムライス……もとい卵系料理が大好物ので気にしない。まな板の上で危なげなく玉ねぎをみじん切りし、ボウルへ投下。他にはミックスベジタブルと買い置きの一口ササミにご飯を一膳。味付けにケチャップと塩コショウを振りかける。均等に混ぜ、もう一つのボウルで卵を解きほぐす間を有効活用すべくフライパンに火を付けると供にバターを敷けば、ケチャップライスを電子レンジへ。

 

傍目には淀みなく作業する風体で……実際そうだが、引き継ぎありでも最初からこうだった訳じゃない。前周回の腕前は野菜を洗剤で洗ったりこそしないものの、乾燥ワカメを水切りしないで味噌汁の具にする阿鼻叫喚の塩分地獄を爆誕させた逸話持ち。屁の役にも立たないヤツ……と来れば最初は卵を割れば殻も入るは零すわ焦がすは失敗のオンパレード。そうやって経験を重ねて現状へと徐々に近づいていったのだ。転生なんて奇跡をこの身に宿しても経験なくして成功なし、覚悟があっても実績は一瞬では積み上がりはしない。

 

中火で熱したフライパンに卵を加えて菜箸でグルグル。ある程度固まってきたらはみ出無いよう中央にレンチンしたケチャップライスを投下する。ふちを剥がして、合わせ目を下にするため慎重に器に返すように盛れば、はい完成。後はこの工程を二度繰り返す。朝は基本適度に手を抜くのが長く続けるのがコツ。

 

 

 

冷凍以上洋食屋未満のオムライスをごちそうさまして休憩。通学鞄の留め金に掛かった流行り廃りで四季折々のキャラクターのグッズにストラップをなんとなしに眺めつつ、学校指定のジャージにスパッツに金曜の教科の教科書参考書を指さし確認。眼下に並べられたそれらは在りし日に触れられるような距離にあっても確かな隔たりがあった品々。

 

……だが苦い古傷を疼かせるものであっても今では違和感なく着こなせる自信があった。

名札代わりにローマ字の頭文字を取ってY,Yの刺繍漢字明記で湯島悠陽……仰々しい由来でも名前負けはしたくない。

 

まぁ……何の因果か女子小学生やってます。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

シンデレラガールズ『星の扉目指して』 第一話 仮面舞踏の内幕

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

靴ずれを爪先から軽く地面に数度ぶつけて位置調整、いってきますの挨拶を送って最寄りの集合場所へと足を運ぶ。近隣の子供たちが一緒に学校へと向かう習慣、集団登校であった。

 

「皆さん、おはようございます」

 

「「は~い。ゆゆお姉ちゃんおはよう!」」

 

引率は勿論最上位学年の自分。低学年は箸が転んでもおかしいのか、興味を惹かれたら我慢を知らずに突っ走るため目が離せず気苦労が絶えない。特に前科数犯、執行猶予なしの監視対象がメンバーにいるので余計に……。被害が出れば上が叩かれるのは世の常だ、直接の罰はなくとも評判ガタ落ちは確定事項。まぁ……不幸中の幸いにそいつはインフルエンザ罹患中で向こう一週間は悩まされる必要が救いーーーってダメだ!ダメだ!!この考え方はあまりよろしくない。

 

人の不幸を喜ぶ卑しい性根は忌むべきもの……負の遺産。前の人の幸福を喜べずに不幸を蜜とする畜生さが気を抜くと、ふと首をもたげる。三つ子の魂百までとはよくいったもの、心がけても矯正が足りないのが歯がゆかった……

 

 

 

校門で別れを告げて道すがら、遠回りに人気のない裏手を抜けて下駄箱へ。スマホを起動してラインの未読にざっと目を通すのが日課、一言三言とマスコットのスタンプを貼ってアピールする。内容はくだらないが学校生活を円滑に進めるには非常に役立つ。

 

―――というかないと大きく水を開けられるのは間違いない。一昔前風に例えると電気鼠がイメージキャラクターを務めるゲーム全般の話題に何一つ関われない惨めなそれ。これでも表現としては大分温い部類と言えば不味さが伝わるだろう。ラインは性質上極端な話、常時繋がっているツール……もう一つの共通言語。クラスという閉じた狭い共同体で皆が英語ペラペラなのに己はからっきしだと致命打になりかねない。

 

子供は無邪気で純粋……だからこそどこまでも残酷になれる。蟻を探しては踏み潰し、捕まえた蜻蛉を面白がって縦に引き裂くみたいに、異物には容赦無い。幸せになるには認められるしかなかった……己を偽ろうとも。

 

 

 

毎度毎度六階まで昇り降り。中高なら逆に学年が上がれば上がるほど下層部で学食等の恩恵も受けやすいが、大抵市立小学校はその逆で移動時間が増えるから困る。

 

「「ゆゆっち、はよ~」」

 

廊下にまで響き渡る喧騒の最中、スライド式のドアを潜ればクラスメートのお出迎え。

 

「ゆゆーこれみてこれ!カリスマギャルのファッション最高にイケてるよね!!アタシも着てみようかなって思ってるんだ」

 

「放課後手伝うから、俺の宿題手伝ってくれよ。なんでもしまむら!」

 

「今日コンビニでコーラがなくてペプシしかなかったの……品揃えがこーらあかんよね……ふふっ」

 

全方位から濁流の如く押し寄せてくるのをいなすのも嫌でも慣れるというもの。小学生が初々しかったのなんて入学式から僅か数日である。今や勝手知ったるなんとやらで教師以外の脅威を払拭した彼らは我が世の春を謳歌していたのだった。

 

「へーちゃんは、カリスマさんの駆け出しの頃からのファンですものね。アンテナ高くて参考になります。おーくんはなんでもと仰ったので期待していますよ。こうくん……それは食い違って悔いが残りますね」

 

正直女子小学生が高校生のカリスマギャルこと城ヶ崎美嘉の真似をするのは不格好になる可能性が色濃いだろうけど、別段止めはしない。正論を求められてる訳じゃなく肯定、太鼓持ちを求められているのだ。彼女が己の中で高い位置を占めていた時は、多少無茶しても諫めるけれど、知人止まりでそうじゃない。別の方向を向いても互いを尊重し合える真の仲間ではなかった。

 

正しさを常に振りかざす野郎は煙たがられる……清すぎる水には誰も住めないのだから。

 

「お~いチャイムはなってないが、最上級生がこのザマじゃ下への教育に悪い。静かに着席しろ」

 

痺れを切らした担任が窘めると、仕方ないとばかりに溜息混じりの着席。教師の強制力も即効性は失われて久しい。

 

「はいは~い、お行儀よくしないと帰りのHRでお説教確定です。したいようにするためにも手早く座っちゃいましょう」

 

援護が必要な程度には……。しかし携帯機器全盛期の時代で尚、アイドル人気が留まることを知らないせいかテレビっ子も多いまま。影響力半端無くて未だに吃驚だね。今朝だけで駄洒落大好き25歳児に女子小中高生憧れの的な方に触発されたのを目撃したし、色々変わりすぎだ正直。

 

 

 

大過なく迎えた放課後、お手伝いを引き連れて定番となったお勤めを果たす。

 

「ホントゆゆが委員長だからって、仕事押し付けてるよなあのセンコー毎日大変だろ。俺だったら三日でバックレてる自信があるね」

 

「いうほど大変じゃないですよ。みなさん手伝ってくれますので、独りでやる日の方が珍しいぐらいですから……楽とはいいませんけどね」

 

頼られっぱなしなのは期待に応え続けたせいもあるので、一概に担任を責める気にはなれなかった。人は一度便利さに浸かると手放せなくなるもの……実体験伴うから気持ちは分かる。

 

ただ、サボれるならサボりたい。まぁ……無理な相談だけど。評判は積み重ねるのは難しいけど崩すのは一瞬、不良がおばさんを助けたり、子犬を拾えば好感度が鰻登りでも、優等生がポイ捨て、割り込みなどすれば一気に凋落の憂き目に遭う。であれば優等生ポジの己が不真面目さを露わにするとどうなるのかは火を見るより明らかだろう。世間はよくも悪くもギャップに弱い。

 

「―――っと、職員室はもう目の前ですのでここまでで結構です。放課後に態々お手伝いありがとうございました」

 

「何時も世話になってるのはこっちだし、いいってことよ!それより今度どっかに遊びに行こうぜー場所は任せといてくれよ。じゃあな!!」

 

一気呵成に捲し立て返事の隙も与えず立ち去るとは、これ如何に……照れた顔からして日頃の感謝より別の気持ちが多分に含まれてのは間違いない。身から出た錆とはいえ複雑な気分だ。

 

 

「先生、これ頼まれていた課題のノート一式です」

 

「おっけ、後で確認しとくから適当に置いといてくれ」

 

書類と教本にプリントが不規則に並んでは、積み重なって混沌の坩堝を形成している机を顎でしゃくって指す。片付けられない捨てられない見本そのものだ……下手に触ればジェンガの末路を遂げるので、慎重に狙いを定め置く。

 

「あぁ、まだ帰えんないでくれ、別途で話がある」

 

踵を返しかけていたのを静止され、逆戻り。声音からこっちが本命だろうか?

 

「湯島は中学受験組だったよな。最近調子はどうだ?」

 

「まだまだ油断は出来ませんが、順調です。先々週の模試の結果でA判定貰えましたので」

 

「そうか……お前なら心配ないとは思ってたが、改めて聞けて安心したぞ。唯でさえ少ない私立希望の中で、都内有数の進学校が受験先だからな。好奇心が疼いて質問せざるを得なかったんだ。先生も鼻が高い」

 

「期待に背かないよう頑張ります」

 

―――そう頑張り続けなければならない。アニメ漫画の二次創作が生み出したオリ主と違って転生チートなぞとは無縁なモノが輝き続けようとすれば、足掻き続ける以外に道はない。

 

 

 




原作はシンデレラガールズでも現在放映中のアニメ版を基本としているTS転生モノです。続きを読んでも構わないと思って貰えたなら、これ以上に嬉しい事はありません。
では週六の収録に行ってきます。

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