言い訳をさせてもらうと
就活
課題
テスト
トリプルブッキング‼︎
いや…あのすいません
夏休みももう少しなのでそしたらスピードが上がる…かも
あれから数日が経ちゲームの最終戦果成績だが。
上条は頑張ってはいるが戦果は芳しくなかった。理由としては参加できるゲームが少ないのと、ペストの事もありゲーム自体に参加出来ない状況だった。そもそも何故、参加できるゲームが少ないというと上条は普通の人間だ、身体能力がインフレしている箱庭においてこれ以上ないハンデとなっている。また上条はオティヌスや、十六夜と違い頭が悪い。よって謎解きのゲームをやろうにも知識がないので出来ない。オティヌスを頼ればいいと思うが、上条自身の戦果ではないのでカウントされなくなってしまう。
クリアしたゲームは片手の指で数える程度でしかなく、報酬も寂しいものとなっていた。
なかば諦めていた上条はリリの手伝いをするため農園区で泥と格闘していた。
同じく泥と格闘していたリリは上条が手伝ってくれるのは嬉しいが、気になっていた事がある。
「上条お兄ちゃんはギフトゲームをしないんですか?」
上条はお兄ちゃん呼びに未だに慣れないが、そう慕ってくれている事だと思い嬉しく感じていた。
「あー…ただリリが1人でやってるのを見たら手伝いたくなっただけだよ」
「リリなら1人でも大丈夫です!」
胸を張りながら後ろにある2尾を元気良く振る。そんなリリの姿を見て上条は学園都市でも中々居なかった、会話してて癒される存在を見つける。
「強がらくていいんだぞ?確かにリリは子供達の中だと年が上で頼られているけど。俺はリリよりも年上だから、もっと頼ってくれて」
「そうですけど…いつまでも甘えていたらリリは成長できません。リリは黒ウサギのお姉ちゃんみたいに立派になれないです」
さっきまで元気に振っていた尻尾が、今度はリリの表情と共に弱々しくなる。
「今のリリだって十分立派だよ」
「そんなことはないです…」
「なら確かめてみるか?」
「え?」
リリが顔を上げると上条はあるものを見ていた、リリも追うように視線を向ける。
視線の先には遠くならがらも金属で出来た巨人がとある3人を乗せて屋敷に向かっていた。
「えっと…」
「アイツらにリリが頑張ってるか聞いてくる、リリはあそこに隠れていてくれないか?」
上条は流石の問題児達でも本人が目の前に居たら本音が言えないだろうと考える、十六夜は除き。
屋敷へと続く道へ向かい3人に上条は声を掛ける。
「おーい、今帰りか?」
「ん…上条か、何で泥だらけなんだ?」
「ちょっと農園区の手伝いをしていたからな」
鉄の巨人…ディーンと呼ばれる神珍鉄と呼ばれる特殊な金属で出来ており、飛鳥の命令でその真価を発揮するギフトである。
ディーンの両肩と頭に乗っかる飛鳥、耀、十六夜が泥だらけの上条を珍しそうに見ていた。
「悪いけど泥だらけの人をディーンには乗せられないわよ」
「それは残念だけど、聞きたいことがあるけどいいか?」
「…聞きたいこと?別にいいけど」
「リリの事どう思う?」
上条の質問に十六夜達は目を丸くした。
それはいきなりの質問もそうだが上条が誰かの評価を聞くようなことは一度もしていなかったからだ。
「…リリ?」
「おう。何でもいい、普段のリリを見ていてどう思う?」
耀と飛鳥は考え込み、十六夜は何処かををじっと見ていた。
「…私は上条よりも子供達と遊んでいないし、関わりが少ない。けど、それでもリリは子供達をよくまとめていると…思う」
「それには同感よ。私より小さいのにとてもしっかりしているし、それにあの子のおにぎり、私は好きよ」
飛鳥と耀がそれぞれ自分の意見を言い終わる、皆の視線は十六夜に集まる。
しかし当の本人は未だにどこか見ていた。
何か思いついたのか軽薄な笑みを浮かべる。
「そうだな…、黒ウサギよりも料理は下手で子供達も黒ウサギの方が言うことを聞く。レティシアの方が洗濯や掃除は綺麗に仕上げる」
それを遠くから聞いていたリリは顔を俯かさせる。十六夜の言うことは百も承知で、あの2人が褒めてくれたのは飛鳥と耀が優しいからと自分に言い聞かそうとする。
上条が何か言おうとするが、それよりも早く十六夜が言葉を発した。
「だけど、俺はリリは立派だと思う。」
「え?」
リリは自分の耳を疑った。
「確かに黒ウサギやレティシアには家事では勝てないかもしれない。でもアイツはその差を埋めようと頑張っているし、農園区にだってよく1人で行っているのは俺だって知っている。ディーンがいるから気付きにくいがリリは年下の子供達をまとめあげて農園区の復興や、栽培に大きく貢献しているからな」
十六夜の言葉で周りが静まり返る。
リリはあの十六夜が自分の事を評価してくれている事に驚きもあるが、それ以上に嬉しかった。
「で、こんな事聞いてどうしたいんだ」
軽薄な笑みを変えずにただ上条を見る。
上条はその様子見を見てあることに察した。
「…お前もう気付いているだろ?」
「はて、なんのことだか」
十六夜は軽薄ではないただ笑っていた。
するとグウゥゥゥン!とディーンに乗っている3人の方から腹の音が鳴り響いた。
「…ぁ、えっと」
「…。飛鳥、はしたない」
「ちょ、ちょっと春日部さん⁉︎」
「全くこれだから箱入りのお嬢様は…」
頬が赤くなっている飛鳥が十六夜を鋭く睨む。
「お前らな…。確か昼飯の準備は出来ていたから簡単なおにぎり位は作れるけど、それで我慢してくれよ」
「じゃあ俺は梅鰹醤油を」
「私はしそ昆布ね」
「…。シーチキンマヨネーズを」
おにぎりがあるとだけとしか言ってないにも関わらず、勝手に具のリクエストをされた上条は肩を落とす。
飛鳥はシーチキンマヨネーズを知らないのか首を傾げていた。
「はぁ…俺は農園の方を片ずけて来るから先に行っててくれ」
「そうさせてもらうわ」
そういいディーンは道幅の広い道を歩き始める、軽く地響きがするがそんな事は気になどしていなかった。
上条は十六夜達を見送り、農園区の方に向かう道に戻ろうとする。
道の途中に瓦礫があり、その裏からリリの狐耳が見えていた。
「リリ、わかっただろ。皆お前の事を認めている。あとはリリだけだ」
リリは立ち上がり、上条の方へ振り向くがその顔は嬉しいのか、悲しいのか、涙を堪えようとしているのか目の周りは赤く、泥だらけの手で涙を拭ったのか顔も汚れていた。
「は…い。ありがとうございます…!こんなに嬉しいのは初めてです!」
笑顔をいっぱいにして答えるリリ。
すると先程も聞いた腹の音が鳴り響いた。
顔を紅くするリリ、上条は笑いながら手を差し伸べる。
「俺らも飯を食いに行くか」
「はい!リリも手伝います」
元気に後ろの2尾を振りながら手をとる。
昼食を取り終えたその後、リリは家事全般の仕切りに戻り、十六夜達は大広間に集まっていた。
収穫祭に誰が何日参加するのか決めるため、十六夜、飛鳥、耀、上条が戦果を報告し、審査役のジンとレティシアが席に着く。
「おい、黒ウサギは?」
「先ほど"サウザンドアイズ"に向かったところだ」
「審査基準は聞いていますから、僕とレティシアだけでも充分です。それに後は十六夜さんの報告をまつだけですから」
ジンは少し気取った咳払いをして始める。
「細かい戦果は後に置いておくとして。まず皆さんがあげた大きな戦果から報告しましょう。まず飛鳥さんですが、牧畜を飼育するための土地の整備と、山羊10頭。手に入れたそうです」
「子供達も色々と喜んでいた。派手な戦果や功績ではないが、コミュニティとしては大きな進展だと思うぞ」
後ろ髪を掻き上げ、得意そうな顔をする飛鳥。華やかな戦果ではないが、コミュニティとしては重要な戦果となった。
レティシアは報告書をめくり続きを話す。
「次に耀の戦果だが…ふふ、これはちょっと凄いぞ。火龍誕生祭にもさんかしていた"ウィル・オ・ウィスプ"がわざわざ耀と当麻に再戦するために招待状を送りつけてきたのだ」
十六夜の片眉が跳ねる、3枚の招待状の内1枚だろうと。
「"ウィル・オ・ウィスプ"主催のゲームに勝利した耀さんは、ジャック・オー・ランタンが製作する、炎を蓄積できる巨大なキャンドルホルダーを無償発注したそうです」
「これを地下工房の儀式場に設置すれば本拠と別館にある"ウィル・オ・ウィスプ"製の備品に炎を同調させることができる」
「なのでこれを機に、釜戸、燭台、ランプといった生活必需品を"ウィル・オ・ウィスプ"に発注することになりました。これで本拠内は恒久的に炎と熱を使うことができます」
「へぇ?それは本当に凄いな」
十六夜から嬉々と関心のこもった声が上がる。
彼からしてみれば夜中も読書をするので蝋燭を消費しなくて済む。読書家の十六夜にとしてこの上なくありがたいギフトだった。
「知らない間にそこまでの設備の強化プランが進んでいたとはな。やるじやねぇか、春日部」
「うん。今回は頑張った」
いつになく得意気に微笑みを浮かべる耀 。
レティシアが報告書をめくり内容をめくり話を続ける。
「…当麻の戦果がその"ウィル・オ・ウィスプ"製の品を30%値引きしてくれるらしい。これには黒ウサギが大喜びで、この戦果も評価は高いとのことだ」
「「…えぇ」」
飛鳥と十六夜が微妙な反応を見せる。いや上条の戦果も充分なのだが、飛鳥や耀がさらにすごい活躍をしているため霞んでしまう。
「上条も"ウィル・オ・ウィスプ"のゲームに招待されたんだろ?」
「あー、俺は春日部のおまけみたいなもんだよ。だからゲームも春日部が参加して、俺は観戦してたんだよ」
「何だそれつまんねぇ」
十六夜は1度ため息をつく。
上条の戦果も聴き終わり十六夜は椅子の背もたれに大きく仰け反り、一同の顔を見回してニヤリと笑う。
「いや意外だったぜ。金銭を掛けた小規模のゲームが多い7桁で、中々大きい戦果をあげてるみたいじゃねぇか」
「上から目線でご親切に。…それで十六夜君はどんな戦果をあげたのかしら?」
飛鳥が鋭い目線で十六夜を睨む。
不敵な笑みを浮かべた十六夜は席を立ち、一同にもそれを促す。
「それじゃ今から戦果を受け取りに行くとしようかね」
「受け取りにって、何処に行くんだよ」
「"サウザンドアイズ"にさ。黒ウサギも向かってるなら丁度いい。主要メンバーには全員に聞いておいて欲しい話だからな」
十六夜の言葉に首を傾げる。
一同は大広間を後にし、"サウザンドアイズ"の支店に足を運ぶことにした。
上条とレティシアはある事を思い出し汗を流すのである。
噴水広場を抜け、"サウザンドアイズ"の支店に向う一同
箱庭に来た当初あった桜の木に似ている木だが、今はもう花弁は散らし始めていた。
いつもの割烹着をきた女性店員が竹箒でせっせと掃いていた。
彼女は忙しいにしていたが、十六夜の顔をみるや否や嫌そうな顔をした。
「…また貴方ですか」
「そういうお前はまた店前の掃除か。よく飽きないな」
「喧嘩なら別な機会にやってくれ。悪いけど、今日は白夜叉に用があってきたんだよ」
上条は今にも喧嘩しそうな2人の間に割って入り、宥めようとする。
「貴方もいたんですか。…はぁ、白夜叉様なら中に居ます。どうぞお入りください」
彼女は上条の顔を見ると、何かを悟ったように諦め道をあける。
いつもの様に暖簾をくぐり、白夜叉の部屋に向う一同だが、障子の向う側からあられもない声が聞こえ足を止めた。
「や、やめてください白夜叉様!黒ウサギは"箱庭の貴族"の沽券に掛けて、あれ以上きわどい衣装は着ないと言ったでありませんか‼︎‼︎」
「く、黒ウサギの言う通りです!この白雪も神格の端くれとして…こ、このような恥ずかしい格好をして人前に出る訳には‼︎」
黒ウサギともう1人女性の悲鳴が響き、一同は顔を見合わせる。
上条は視線の先にチラチラとこちらを見ている白い斑模様のメイド服をきたペストと目が合ってしまう。
「俺トイレ行ってくるから先に入っててくれ!」
上条はペストの所まで走り抜け、腕を掴み、十六夜達には見えないように隠す。
「ちょ、ちょっと何をするのむぐっ⁉︎」
「何でお前はこっちをチラチラ見てんだよ⁉︎」
上条は怒鳴ろうとするペストの口を押さえつけ、小声で制した。
「確かに全員いるけど、今はタイミングが悪いだろ⁉︎大体ペストはまだ料理だって完璧に覚えたわけじゃないだろ?それに」
口を押さえられたペストは上条の手を取り払い軽く咳き込んだ。
「わかった、わかったから‼︎それよりも何で集まってるのよ?」
「十六夜が自分の戦果を発表したいから、ここまで来たんだけど…さっき黒ウサギ以外の悲鳴も聞こえたんだが…」
「あー…それ多分白雪ね。確かギフトゲームで負けて隷属させられたって嘆いたわよ」
「隷属って事は十六夜の戦果はその白雪って子か…」
それは十六夜が胸を張って戦果を自慢するには充分な程だった。
しかし、それで耀の戦果を突き放すとなると少し無理がある。
上条は十六夜の事だから他にも隠し球があると思い部屋に向う。
「ありがとうな。そしてもう少しだけ待っててくれよな、ちゃんとお前の発表会と歓迎会を開くからさ」
「べ、別に頼んでもないわよ」
上条が部屋に入ると黒ウサギが十六夜に抱きついていて、飛鳥と耀が落胆したように顔を見合わせていた。
「な、何があったんだ…」
レティシアから話を聞く限りでは十六夜の戦果は白雪だけではなく、彼女を利用し外門の利権証を手に入れ“ノーネーム”が”地域支配者”という箱庭の外門に存在する様々な利益を取得できるようにした。
この決定的一打で前夜祭の1枠が決まった。
その夜"ノーネーム"上条は本拠に戻り"地域支配者"になった事を記念に小さな宴が設けられていた。
黒ウサギが手料理を振る舞い、子供たちもはしゃいでいたが、十六夜が余計な一言を言い台無しになってしまった。
宴が終わると前夜祭に行く残りの1枠をどうするか飛鳥と耀とで話し合うことになった。その中に上条が入っていないのは戦果不十分ただそれだけだった。
黒ウサギとしては耀の方を推していたが、子供達は山羊を連れてきた飛鳥を推してしまい、喧嘩になるのを避けるため双方話し合いをして決めるということになった。
結論としては耀が折れるという形になってしまったが。
十六夜がリリとレティシアとでお風呂に入っている頃、上条は談話室でオティヌスと黄昏ていた。
夜空を見上げている上条はオティヌスにある事を問う。
「なぁ、オティヌス」
「何だ、人間」
「こっちの時間軸と、学園都市の時間軸ってどうなっているんだろうな。もしかしたらこっちのが進んでいたりするのかな、それともこっちの方が遅いのか?」
「お前の言いたい事はわかったが、それは箱庭次第だと私は思うぞ」
オティヌスの返答に首を捻る上条。
「つまりどういう事だ?」
「もし学園都市との時間軸が同じならあの不良や、小娘達はどうなる。それぞれ違う時代から来ている。ということは余り時間を気にすることは無いと思うがな」
「そういうことか。ステイルには悪いことしちまったな」
ガチャと扉が開く。
「…何の話をしているの?」
入ってきたのは耀だった、幸いにも今の話は聞かれておらず少しだけ安堵する。もし上条の話が聞かれていたらややこしくなるところだろう。
しかし耀の表情は明るくなく何処か思いつめていた。
「春日部か、俺達のいた所の話をしていただけだよ」
「…上条のいた所気になる」
「俺のか?あんまり面白くはないと思うけど」
「人間のは面白いと言うより、殴りたくなるぞ」
「「え?」」
オティヌスは窓に顔を向け黄昏れ、呟く。
「主にこいつをだがな」
「俺かよ!」
2人のやり取りをみて耀は笑う、そして耀は前から気になっていた事があった。
「…ねぇ、上条の右手はあらゆる恩恵を無効にするんだよね?」
「恩恵というか異能というか、まぁそういうことになるのかな」
上条の話が本当だとしたら辻褄が合わないことがあり、耀はそれが気になっていた。
「だったら、どうやって此処に来れたの?」
上条の右手は、上条自身を対象とした恩恵すらも消してしまう。それは協会門にも適応される。それ故に上条が遠くに移動するには右手の力が及ばない程の力を持つ白夜叉しかいないわけだが、招待状から箱庭に来るため転送される。それは上条も例外ではない、だけど上条には右手があり転送ができるはずがない。
この矛盾が耀が気になっていた事だった。
「それが…俺もよく覚えてないんだ。知り合いと話をしている辺りから記憶が曖昧で…」
これはウソだ、本当はハッキリと覚えている。オッレルスに何をされたのか、しかし上条はこの話をしても耀が信じてくれるとは思けず話さない事にした。
「そう…。オティヌスは?」
「私も同じだ。思い出そうとしても頭が痛くなるだけでな」
オティヌスは上条が何故話さないのかを察し、話しを合わせた。
「じゃあ知っているとしたら、その知り合いだけ?」
「「まぁ、そうなるな」」
「…そう。だったら上条の話を聞かせて?」
「お、俺の話?なんて話せばいいんだか…」
「なら私が代わりに話そう」
オティヌスは上条の話をまるで自分の事のように詳しく語る、時折上条がその時どう考えていたのかを混ぜながら。
話を聞いた耀はある意味信じられないものを見る目で上条を見る。
「…何だが上条って凄いね」
「俺は別に…俺より凄い奴は沢山いた」
「ううん。誰かを助ける為にそこまで出来る人は中々居ないよ」
流石にロシアでのあの一件までは話せなかったが、あの時の上条はただ大切な人を救いたかった、今もそう変わらないかもしれないが根本が違う。魔神オティヌスとの出会いが上条を大きく変えたのだから。
今の上条では昔みたいにはなれないだろう。
しばらくの沈黙、オティヌスが続きを話そうとすると
コンコンと扉をノックする音が鳴る。
「失礼するぞ」
レティシアかと思い振り返る上条だが、それは見た瞬間に否定される、何故なら目の前にいるのは彼女とはまるで違う。幼女のような体型ではなく、上条よりも年上で何処か神裂にも似た雰囲気を持つ美女が居たからだ。
しかしその美女はレティシアに似ていた。その疑問を晴らすべく上条はレティシアに問う。
「レティ…シアなのか?」
「ん…あぁ、この姿で会うのは初めてだったな。勿論、私はレティシア=ドレイクだが」
上条はしばらく目を離せなかった、普段の彼女は美しいというより可愛いが先に立つからだが。しかし今のレティシアからは美しいという感想以外は出てこなず見惚れていた。
オティヌスが軽く咳払いをすると上条は見惚れていた意識を戻す。
「あ、あぁ。どうしたんだ?」
「すまないが、十六夜の頭につけているやつを見なかったか?」
レティシアが談話室を訪れた理由は十六夜が風呂から上がると、いつもつけている、あのヘッドホンが脱衣場から消えており、レティシアはその捜索を手伝っていた。
「ヘッドホン?俺と春日部は大分ここにいるけど見てないぞ」
「そうか…。所で何の話をしていたのだ?」
レティシアは談話室でどんな話をしていたのか気になったのか、上条を見つめながら問う。
それをオティヌスが代わりに答えた。
「こいつの昔話をしていただけだ」
「へぇ。それは随分と面白そうな話じゃねぇか」
次に扉から出てきたのは十六夜だった。レティシアの話どおり頭にはヘッドホンがなく髪が荒れていた。
「何も面白くはないぞ?」
「…十六夜的には面白い話かも」
「…え?」
「何ならお前も聞くか?」
「いや、非常に興味がある所だけど。あれがないと頭が落ち着かなくてな。今はそっちを優先させてもらうぜ。所でお前達はここでどのくらい話していたんだ?」
「2時間といったところか」
十六夜は顎に手を当てしばらく考える。
「なら俺達が風呂に入った時と同じくらいか…。他に誰か見なかった?」
「いや…俺達以外は誰も見ていないな。明日いくんだろ、探すの手伝おうか?」
その後上条、春日部も一緒に十六夜のヘッドホンを探したが夜も更けた所でその日の捜索は終了した。
翌朝。出発直前になっても、十六夜のヘッドホンは見つからずにいた。
上条と耀を寝かした後も十六夜は1人で探し続けたにも関わらず。
そのせいか本拠の前に十六夜は現れなかった。
初日から参加する飛鳥は日傘を傾け、少し心配そうに頬へ手を当てた。
「十六夜君、まだ見つけられないの?」
「Yes。子供達も総動員して捜しているのですが…うう。そろそろ出ないと間に合わないのです」
いつものミニスカートとガーターベルトを着込む黒ウサギは、ハラハラと十六夜を待っていた。
それらジンも同様に。
「…あ、来ましたよ!」
ジンが声を上げる。十六夜の頭上には髪を抑えるためのヘアバンドが載せてあった。
上条は目を丸くして十六夜に問う。
「それ…もしかしてヘッドホンの代わりか何かか?」
「頭の上に何かないと髪が落ち着かなくてな。それより話がある」
十六夜が道を開ける。後ろからトランク鞄を引く耀と三毛猫が前に出た。
「…本当にいいの?」
「仕方ねぇさ。あれがないとどうにも髪の収まりが悪くて聞けない。壊れたスクラップだが、ないと困るんだよ」
髪を掻きあげなから飄々と笑う十六夜。他の"ノーネーム"も状況を把握して顔を見合わせる。
つまり十六夜は本気へ残るというのだ。
耀は微笑んで十六夜に礼を述べた。
「ありがとう。十六夜の代わりに頑張ってくるよ」
「おう、任せた。ついでに友達100匹ぐらい作ってこいよ。南側は幻獣が多くいるみたいだからな。俺としては、そっちの期待が大きいぜ?」
「ふふ、わかった」
昨日の耀は何処か元気がなかったが、上条はその原因に心当たりがある。今はその素振りを見せてはいないが放って置くことも出来ない上条は手を振りながら叫ぶ。
「友達以外にもいい苗を取ってこいよなー!」
「‼︎…うん!」
耀は一瞬だけ驚いたが、すぐにその表情は華が咲いたような笑顔になった。