最近忙しくて更新できませんでした…
しかーしもうすぐお気に入りが400人を突破します!
これをきに小ネタと13話を同じタイミングで投稿しようと思います
テスト前?シリマセン
課題?シリマセン
12話
『ギフトゲーム"The PIED PIPER of HAMELIN"
・プレイヤー一覧
・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
・太陽の運行者・星霊 白夜叉。
・ホスト側 勝利条件
・全プレイヤーの屈服・及び殺害。
・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスターを打倒
二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓
上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
"グリムグリモワール・ハーメルン"印』
舞台上にいた上条と春日部はその"契約書類"を理解するのに数秒かかった
魔王が現れた
行動を起こす前に本陣営のバルコニーに異変が起こる。突如として黒い風が吹き荒れる
何人かが此方に吹き飛ばされるのがわかった。飛鳥を抱きかかえて着地した十六夜がいた。状況を確認するために上条は十六夜に近付く。十六夜は上条に声を掛けられた事により振り向く
「十六夜!」
「あぁ、魔王が現れた。…そういうことでいんだよな。黒ウサギ?」
「はい。」
黒ウサギが真剣な表情で頷くと、メンバー全員に緊張が走る
舞台周囲の観客は大混乱に陥っていた。しかしそんな中でも十六夜は軽薄な笑みを浮かべていた。しかし瞳には余裕などなく、真剣な瞳をしていた
上条も頭の中で整理をつける、これはゲームではないと。いつでも戦えるように拳を握る
「白夜叉の"主催者権限"が破られた様子はないんだな?」
「Yes。黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、誤魔化しは利きません。」
「だけど連中は現にゲームを仕掛けてきたんだぞ?」
「そこを考えるのは後回しだ。今は迎え撃つ事が先決だ。けど全員では迎え撃つのは具合が悪い。それに"サラマンドラ"の連中も気になる。」
「では黒ウサギがサンドラ様を捜しに行きます。その間は十六夜さんとレティシア様の2人で魔王に備えてください。ジン坊ちゃん達は」
「いや、俺も魔王の所に行く。」
上条が魔王の所に行きたがるのはわかってはいた。それは飛鳥や耀も同じなのだから、しかし2人は黒ウサギの提案には不満はあれど、白夜叉がゲームマスターと明記されているため、仕方なく納得していた
しかし上条はそれだとマズイと考える
「白夜叉に護衛が必要なのもわかるけど春日部、飛鳥、俺がいると過大戦力すぎる。」
これは自惚れではない。上条が飛鳥と耀の実力を知っているから言えることなのだから。護衛に手を回しすぎて攻めが緩んではいけないと考えたからだ
「し、しかし…。」
黒ウサギは不安だった。相手は魔王だ。自分のコミュニティを潰した存在なのだから
「大丈夫。心配はいらない。」
しかし上条の瞳を見ると何故か今まであった不安が消えた。この男なら必ず帰ってくる。あの時みたいにはならないと
「…わかりました。では上条さんを含めた3人で魔王に備えてください。ジン坊ちゃん達は白夜叉様をお願いします。」
「分かった。」
皆が頷く。飛鳥は不満なのか十六夜が宥めていた
「お待ちください。」
皆が声の方向に振り向く。そこには同じく舞台にあがっていた"ウィル・オ・ウィスプ"のアーシャとジャックがいた
「おおよその話はわかりました。魔王を迎え撃つというなら我々"ウィル・オ・ウィスプ"も協力しましょう。いいですねアーシャ。」
「う、うん。頑張る。」
前触れもなく魔王のゲームに巻き込まれたアーシャは、緊張しながら頷く
「では御2人は黒ウサギと一緒にサンドラ様を探し、指示を仰ぎましょう。」
一同は視線を交わし頷き合い、各々の役目を果たすため走り出す
逃げていた観客が悲鳴をあげたのは、その直後だった
「見ろ!魔王が降りてくるぞ!」
上空に見える人影が落下してくる
十六夜は見るや否や両拳を強く叩き、上条さんとレティシアに向かって叫ぶ
「んじゃ行くか!黒い奴と白い奴は俺が、デカイのと小さいのはお前らに任せた!」
「「了解!」」
レティシアと上条が返事をする。十六夜は身体を伏せ、舞台会場を砕く勢いで境界壁に向かって跳躍した
上条は白くデカイ的に向かって走り出し、振り向きながら叫ぶ。レティシアとそれに続く
「春日部!白夜叉の言葉任せたぞ!」
耀は驚いたかのように目を開き、そしていつもより強く返事をした
「…‼︎わかった!」
上条とレティシアは落下してきた陶器のような巨兵と斑模様のワンピースを着た少女と対峙していた
上条は巨兵と少女を見比べる
「レティシア…あのデカイが魔王だと思うか?」
「無いな。可能性があるとすれば隣にいる女の方がまだある。」
レティシアは過去に魔王をしていた事もある。いくら小さい少女だからといって油断はできなかった
オティヌスはいつの間にかに上条の肩に乗っており静かに観察していた
「斑模様…さしずめハーメルンの笛吹き男…いや女と言ったところか。あと」
グリム童話ハーメルンの笛吹きには、斑模様の鼠取りが笛を吹き鼠をおびき寄せるという話がある。その斑模様のワンピースを着た少女をオティヌスはハーメルンの笛吹きではないかと考察する
そこにゆっくりと地上に降りた少女はゆっくりと右腕をあげる
「別に考察するのは構わないけど、ぼんやりしてると死ぬわよ?」
「BRUUUUUUUM‼︎」
巨兵は全身にある風穴を使い、空気を吸い込むと四方八方に大気の渦を造りあげようとする
しかし上条は右手上空に向かってあげる
それだけで渦は霧散し、無風状態になる。その事に少女は少し意外そうにし上条を見る
「あら、シュトロムの渦が消されちゃった。」
そしてオティヌスは先ほどの攻撃を見てある事を発見する
「ふむ。嵐に笛吹き女か…。残りはヴェーザー川、ネズミと言った所か?」
少女は沈黙し、口元に薄く笑みがこぼれる
「…へぇ。貴方達、面白いわ。生かしておいてあげる。シュトロム下がってていいわよ。私が生け捕りにするわ。」
そういいシュトロムと呼ばれる陶器のような巨兵は行動を停止させる
しかしその隙をレティシアが見逃さなかった。翼を畳み、急加速して少女の懐に攻め込む
「油断していて平気か?」
不敵に笑うレティシア。金と黒で装飾されたギフトカードから長柄の槍を取り出し、疾風の如き一刺しで少女の胸を貫こうとする
「やったか⁉︎」
「やってないわ。」
抑揚のない声で返す。レティシアの突き出した槍は少女の身体を持ち上げただけに留まり、槍の先端は胸元で拉げていた
斑の少女は無造作に槍を掴んでレティシアを引き寄せると、その手から黒い風を発生させてレティシアを捕縛する
それはレティシアの知識にもない、不気味な風だった
影のように漆黒でもなく、嵐のように荒々しくなく、熱風のように熱いわけでもない
ただ黒く、温く、不気味な風
うごめく様に生物的な黒い風は、徐々にレティシアの意識を蝕んでいく
斑模様の少女はレティシアの胸倉と顎を掴み薄い微笑を浮かべた
「痛かった。凄く痛かった。だけど許してあげる。貴方もいい手駒になりそう。」
くすりと笑う少女。黒い風はレティシアを蝕むように全身に覆おうとする
「レティシア‼︎」
上条が少女を右手で殴ろうとする。少女はレティシアを離し距離をとる。すかさず拘束されていたレティシアを抱きかかえる
拘束していた黒い風は右手で触れるとガラスを砕く音を立てながら霧散していく
レティシアは無くなりかける意識を無理矢理に起こしながら片膝をついて蹲る
「すまない…助かった。」
一方少女は先程から口元に笑みを浮かべながら上条を観察していた
別段、足が速いわけでもない、先ほどの拳だって回避する程のものでもない。注目したのはシュトロムの渦を消し、自分の黒い風を消したそのギフトに興味が湧いていた
「女の子を殴ろうなんて失礼ね。」
「気遣って欲しいのかよ。」
「いたいけな少女に気遣いできないなんて、紳士失格よ?」
「お生憎様、紳士なんて目指した事ないんでね。」
上条と斑模様の少女
2人は視線を交わしながら次の一手を考える。動こうとしたのは少女の方だった
しかし紅い閃光がシュトロムを撃ち抜く
「BRUUUUUUUM‼︎」
撃ち抜いた中心から溶解する陶器の巨兵。焼き爛れた巨兵はその場に崩れ落ちる
少女は動きを止め、天を仰ぐ
「…ようやく現れたのね。」
上空にある光
それは轟々と燃え盛る炎の龍紋を掲げた、北側の"主催者権限"サンドラが龍を模した炎を身に纏い見下ろしていた
「待っていたわ。逃げられたのではと心配していたところよ。」
「目的は何ですか、ハーメルンの魔王。」
「あぁ、それ違うわ。さっきの妖精さんも勘違いしてるみたいだけど、私のギフトネームの正式名称は"黒死斑の魔王"<ブラック・パーチャー>よ。」
「…24代目"火龍"サンドラ。」
「自己紹介ありがと。目的は言わずともわかるでしょう?太陽の主権者である白夜叉の身柄と、星界龍王の遺骨。つまりは貴方が付けてる龍角が欲しいの。」
軽い口調でサンドラの龍角を指差す
「…なるほど。魔王と名乗るだけあって、流石にふてぶてしい。だけど、このような無体、秩序の守護者は決して見過ごさない。我らの御旗の下、必ず誅してみせる。」
「そう。素敵ね、フロアマスター。」
轟々と荒ぶる火龍の炎を、黒々とした不気味な暴風で受け止める
2つの衝撃波により境界壁を照らすペンダントライトがその余波で砕け
る
上条はレティシアを庇いながら何とか堪える
オティヌスは上条の肩でしがみつきながらもあることに気づく
「斑模様の服装に、ギフト名が"黒死斑の魔王"。そしてグリム童話ハーメルンの笛吹き…まさか、奴の正体は」
「何かわかったのか⁉︎」
オティヌスの発言によりサンドラと斑模様の少女の攻撃が止め、オティヌスに注目が集まる
「…私がだれだかわかったのね。だけど、もう遅いわ。」
「どういう意味ですか⁉︎」
再び構えるサンドラだが、突如として激しい雷鳴が鳴り響いた
「⁉︎…雷か?」
上空から黒ウサギの声が音響装置を使っているかのように響く
『"審判権限"の発動が受理されました!これよりギフトゲーム"THE PIED PIPER of HAMELIN"を一時中断し、審議結果を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備を移行してください!繰り返します…』
そして立ち去ろうとする少女だが、一度立ち止まり振り向く
「ふふっ、そこの妖精さん。お名前を聞いてもいいかしら?」
「答える必要はない。」
「冷たいのね。」
くすりと笑い黒い風を周囲に撒き散らし、霧散する頃には姿がなかった
上条は一息をつき空に浮いているサンドラに話しかける
「サンドラだっけか?とりあえず何処に集まればいいんだ。」
「大祭運営本陣です。ついて来てください。」
「わかった。レティシア立てるか?」
サンドラは少し急ぐように本部の方に向かって飛行していく
「…少し厳しいが問題ない。」
「キツイならキツイって、そう言えよ。」
ふらふらと何とか立とうとするレティシアを見てられなかったのか上条は無理やりおんぶする
「ちょ⁉︎何をする⁉︎」
抜け出そうと足をジタバタしようにもそれをする力すら今のレティシアには残っていない
「何って、歩くのが辛いんだろ?無理はすんなって。」
「しかし、これは中々に…。」
頬を赤くしながらも何か思い抵抗をするのをやめた
「早く来てください!時間はあまりないのです!」
「わかった!」
上条が大祭運営本陣に着き、真っ先にレティシアを隔離部屋まで行き寝かせようとしたのだが、既にレティシアは眠っていたため上条は部屋を出た
大祭運営本陣にある大広間
宮殿内に集められた"ノーネーム"一同と、その他の参加者達。負傷者もいるなかで上条は周りを見渡すと、見慣れた兎耳が見えたので、そこに向かい走り出す
「十六夜!黒ウサギ!」
「上条さん!無事でしたか‼︎」
「まぁな。だけどレティシアは敵の攻撃の影響であまり動けない。そっちは?」
「それ以上にヤバイな。春日部が"ラッテン"の攻撃で動くことすらままならない。それにお嬢様は…多分に敵に捕まった。」
その報告を聞き上条は静かに拳を握る
オティヌスは黙る上条の代わりにあることを報告する
「そうか…。そうだ、魔王の正体がわかったぞ。」
「本当ですか⁉︎」
「魔王のギフトは"黒死斑の魔王"。童話ハーメルンの笛吹きでは斑模様の道化が黒死病の伝染させたという。つまりは黒死病のによる悪魔と捉えていいだろう。」
黒死病の悪魔と聞き黒ウサギの耳が飛び跳ねる
十六夜は自分の考えが概ねあっていたのか頷く
「まぁ、そうなるよな。」
「正体はわかっても、あの夜叉が封印されている理由まではわからない。すまない。」
「いや、敵の正体を掴んだだけでも優秀だと思うぜ。」
大広間の扉が開く。扉から入ってきたのはサンドラとマンドラの2人だった。サンドラは緊張した面持ちで参加者に向けて告げる
「今より魔王との審判会議に向かいます。同行者は4名です。まずは"箱庭の貴族"である、黒ウサギ。"サラマンドラ"からはマンドラ。その他に"ハーメルンの笛吹き"に詳しい者が居るのならば協力して欲しい。誰か立候補は居ませんか?」
参加者の中にどよめきが広がる。これは童話の類で知られている範囲が狭すぎたせいもある。何しろグリム童話ハーメルンの笛吹きを詳しく知る人物など、余程の文学者か、限りない知識欲を持つものだけだからだ
十六夜は横目でオティヌスみる
「オティヌスにも行かせた方がいいんだろうが…。」
今回、会議に参加できるのは4人までとなっている。黒ウサギ、サンドラは確定として他の枠が2つしか空いていない状況では十六夜のある計画が進行させ辛くなる
「私に気を使う必要は無い。どうせ例の宣伝がしたいのだろ。」
例の宣伝とは前に白夜叉にも言った"打倒魔王"を掲げるコミュニティのリーダーがジン=ラッセルであることを広めたいためであるからだ
「まぁな。じゃ遠慮なく。」
オティヌスの了承を得ると十六夜は躊躇わずにジンの首根っこを掴み
「ハーメルンの笛吹きについてなら、このジン=ラッセルが誰よりも知っているぞ!」
「…は?え、ちょ、ちょっと十六夜さん⁉︎」
突然声を上げ、自分を持ち上げたことに驚くジン
オティヌスは十六夜がジンを捲し立てるのを見て上条に話しかける
「後はこいつ等に任せるとしよう。」
「いいのか?」
「私が居なくても、あの小僧が居ればことたりるからな。」
「…それじゃ春日部とレティシアの容態でも見にいくか。」
オティヌスはジンと十六夜の知識は相当な物だと知っていた。それはあの2人がよくコミュニティの図書室で本を何回も読み返し、いつ来るのかもわからない魔王に対抗するために。だからこそ信頼もできる
そして上条達は"サラマンドラ"から用意された隔離部屋に向かう
先にレティシアの部屋に行ったが寝ている筈のレティシアが居なかったため耀の部屋に行くことにした
耀はラッテンの攻撃から体調を崩したらしい
「そういえば黒死病ってどんな病気なんだ?」
ハーメルンに笛吹きにも出てくる黒死病
黒死病の事は小萌先生から聞いた事はある上条だが、もちろん詳しい事など覚えているはずもなかった
「14世紀にヨーロッパで流行し、当時の人口の3割の命を奪った病気だ。発症すると全身に黒い痣ができることから黒死病と呼ばれ、ペストとも呼ばれている。」
「さっきも言ってたけどハーメルンの笛吹きと黒死病って関係あるのか?」
「ハーメルンの笛吹きは斑模様の服装をした男が、ネズミを操った笛を吹き鳴らし子供130人を誘拐し殺したと言われる。その殺害方法には諸説あるが黒死病が有力説となっている。ネズミ等のげっ歯類に感染し、人間に伝染したのではないかと言われているからな。」
14世紀に起きた実際にある事件を元にし、作られたのが今のハーメルンの笛吹きの元の話の一部でもある
「ん?じゃあ、どうやって白夜叉を封印したんだ?」
そう。黒死病と白夜叉
どういう繋がりで封印したのか。これがわからず黒ウサギは審判会議を開いたのだと推測した
「だからそれがわからないんだろ…。恐らく先ほどの審判会議は白夜叉の封印に不正があるのではないか?と抗議するためのものだろう。」
「白夜叉って太陽の運行者だっけか。太陽とハーメルンの笛吹きって関係性があるのか…?」
「クッ、何かが頭に引っかかるんだが。もう少しで何か出てきそうなのに。」
「まっ、いま考えてても仕方ないだろ。」
2人が耀の部屋の前に着き、扉の前に立つ
「入るぞ。」
入る前に一言だけ言いドアノブに手をかける
『えっ、ちょ…⁉︎」
耀の声が聞こえたが時はすでに遅い
「…あっ。」
目の前には上半身裸の耀がメイド衣装のレティシアに汗を拭いてもらっていた
すぐさま扉を閉める上条
肩からは魔神の時のようなプレッシャーを放つオティヌスがいた
「おい人間。」
「何も言うな。俺は何も見てない。」
目を閉じ何も考えないようにする上条だが、扉からメイド衣装のレティシアが笑顔で上条に問いつめる
「…主殿。何をしている?」
「か、春日部が倒れたっていうから様子を見に来ただけです。はい。」
肩と正面からくるプレッシャーに押し潰されるように正座する上条
「そうか。抵抗も出来ない耀を狙ってきたのか。」
「違うからね⁉︎というかレティシアは大丈夫なのかよ?」
「お陰様でな。まだ本調子とはいかないがな。」
ベットに運ばれたあとレティシアは身体が動く事を確認して服装を変え、本陣の大広間に行こうとしたが廊下で倒れている耀を見つけ看護しているとの事だった
そして扉の前で正座している上条の前にいつもの服装を着た耀が現れた。顔は真っ赤で汗が流れ落ちている。さらに立ってはいるもののすぐにでも倒れそうだった
「…着替えたよ。上条も次からはノックしてね。」
「ご、ごめんなさい。ってふらふらじゃないか‼︎」
土下座をしお咎めがない事に違和感がある上条だが、耀もそんな事を考えられるほどの余裕はなかった
上条が顔を上げると、足から崩れそうになる耀。それを上条は受け止め、ベットまで運ぶ
上条も備え付けの椅子に座る
「大…丈夫。さっきもレティシアに身体を拭いてもらっていただけだし。」
「体調悪いんだろ?だったら横になってろよ。」
「…ごめん。」
「謝るよりも」
耀は上条から顔を逸らす
今にも泣き出しそうな声を出しながら
「ううん…。私は飛鳥を置いて逃げた。私がちゃんとしていれば飛鳥を守れた。」
「それこそ春日部のせいじゃない。むしろ俺のせいだ。俺が残っていれば」
上条の言葉を遮るように起き上がり俯く
「それだって違う。上条は私達を信じて行ったのに、飛鳥達を守らないといけなかったのに…私はそれに応えられなかった。だから私が悪い。」
全てを自分1人でやろうとする耀の言葉に上条はつい熱が入ってしまう
「春日部だけで全てを守ろうとするなよ!周りには飛鳥やジンだっていたじゃないか。」
上条が叫んだせいか、耀も叫び返す
胸に手を当て上条の方へ振り向き、苦しそうにしながらも叫ぶ
「あの時は逃げるのが精一杯だった!他に手が無かった‼︎私の力が足りなかったから‼︎」
「違うだろ⁉︎大会だって春日部の力で優勝出来たんじゃねぇか‼︎ペルセウスの時だって春日部が居なかったら負けてた!自分の事を過小評価しすぎだ‼︎」
「違う‼︎私だけじゃ何もできなかった!あれは上条が居たから私は優勝できた‼︎」
2人の叫ぶ声がさらに勢いを増し、2人とも譲る気がないのを見兼ねたのかレティシアが仲裁しようとする
「やめないか2人共。今喧嘩しても何も解決はしないし、耀の体調が悪くなる一方だぞ。」
「ッ…悪い。熱くなりすぎた。春日部もゆっくり身体を休めろよ。」
上条は椅子から立ち上がり部屋を去る。それに続くかのようにレティシアも部屋をでる
「私も失礼するよ。また後で来るからな。」
1人になった耀は横になる、瞼を閉じ寝ようとする、耀の瞳からは雫が溢れていた
「…うん。」
耀の部屋を出て廊下を歩く上条を追いかけるレティシア
「当麻…。いくら耀が悪いと言っても」
「あぁ、分かってる。分ってるよ…!」
自分が言ったことの浅はかさに気づく。耀は強くない。肉体的、精神的にまいっている耀に追い打ちをかけるようなことをした自分を殴りたいとさえ思った
沈黙が続き、気まずくなったのかレティシアはある事を思い出し話しかける
「そういえば審判会議はどうなったのだ?」
「騒ぎ声とかも聞こえないし、まだ続いているんじゃないか?」
レティシアは耀から聞いた事をつぶやく
「白夜叉が参加条件に満たしていないから行動を制限している…か。」
その呟きにより上条はある事に気付く
「オティヌス、ハーメルンの笛吹きには太陽の事なんて書かれているのか?」
「私の記憶ではそのようなことは一切ない。」
「黒死病自体には何もないのか?」
「当麻…これはハーメルンの笛吹きのギフトゲームであって、黒死病そのものとは関係性が薄いと思うのだが。」
「…黒死病そのもの……そうか、そうか。ふふっ、わかったぞ。」
上条の一言により、オティヌスの足りなかった何かに気づき、不敵に笑い出す
「本当か⁉︎」
「人間のお陰だよ。いいか。そもそも私達は大きな誤解をしていた。あのペストとやらは自分の事をハーメルンの魔王などとは言ってなかった。」
「あぁ、確かに自分の事を"黒死斑の魔王"って…」
「おかしいとは思わないか?普通ならハーメルンの魔王ではなくても、他に何か言うはずだ。しかし奴は自分を"黒死斑の魔王"としか言っていない。つまり奴はハーメルンの笛吹きとは全く無縁の、太陽が氷河期に入り、太陽の力が弱くなり、14世紀以降に約8000万の命を奪った黒死病…ペストそのものだ。」
「つまり白夜叉が封印されたのは…」
「太陽の力が弱くなる氷河期の影響だろうな。」
「それじゃあ、今やってる審判会議は…。」
「無意味だ。」
その言葉は衝撃だった。今あそこで十六夜達が頑張っているのは無意味だと
レティシアは過去に審判会議に携わったことがある。つまりこの事の重大さを知るのも彼女だけだった
「それが本当だとすれば、無意味どころかマズイ事になるぞ⁉︎下手したら此方が不利になってしまう!」
「どういう意味だ?」
「今回の審判会議、此方がいちゃもんをつけたみたいなものだ。それを黙って見過ごすほど奴等も馬鹿じゃない。」
「今から止めに行くのは?」
「無駄だ。審判会議が始まった時点で奴等の思惑に見事嵌められた。」
だからあの時、審判会議が発令されたのにもかかわらず余裕だったのかと上条も納得がいく
「始まってしまったものは仕方ない。なら私達は出来る限りの対策を考えればいい。」
大広間の方からどよめきが聞こえ始める
「どうやら終わったみたいだな。」
オティヌスは手を顎に当て、少し悩んだが、すぐに手を外しレティシアに向かって話しかける
「吸血鬼。悪いがこの事をあの不良にでも教えてくれないか?」
「別に構わないが。当麻達は行かないのか?」
「結果は見えている。詳しい報告は後で聞くとして、今は少しでも対策を考えたくてな。」
オティヌスからするとレティシアの言うことが本当なら此方にハンデがついてるのは明白だったからだ
「了解した。…耀とは早めに仲直りするんだぞ?」
痛いところを突かれ、頭を掻く上条
「…わかってるよ。」
レティシアが立ち去るとオティヌスは廊下の窓枠に移り上条と向き合う
「人間…。先は魔王の正体が黒死病だといったよな。」
「それがどうかしたのか?」
「厳密に言うと少し違う。そうだな…。そもそも何でアイツは魔王となったのか、それがわかるか?」
「たしか白夜叉の身柄と、サンドラの龍角だっけか。」
「そうだ。では質問を変える。何でアイツは白夜叉の身柄を望んだと思う。」
「それは…白夜叉と何かしら因縁があるから?」
「正解だ。いいかよく聞けよ。奴は」
審判会議によるハンデにより1週間の待機命令があったが、その間に十六夜と人の活躍によりゲーム攻略の糸口は見えた
そして今日でその1週間が過ぎようとしていた。あと数分もすればまた魔王との戦いが再開される
上条は大祭運営本陣なら離れた所にいた
「本当によかったのか?癪だが吸血鬼にでも。」
「いや。これは俺がやりたいと決めたことだからな。他の奴らを巻き込みたくない。」
右手を見つめる。今回やるべきことは決まっていた
倒すべき相手も、救いたい奴らも
そんな上条をオティヌスは心配そうに見つめる
「やれやれ…別に人間のその癖が悪いとは言わない、せめて何かやる時は私には相談しろよ?」
「当たり前だろ。」
上条のその言葉に自然と口元が緩くなる
「ならいいんだがな。」
ゲーム再開の合図は激しい地鳴りと共に起きた
境界壁から削り出された宮殿は光に飲まれる。あまりの眩しさに目を瞑る上条だが、目を開けると先程の景色は跡形もなく、見渡すと木造の街並みに姿を変え、パステルカラーの建造物が一帯を覆っていた
しかし上条とオティヌスは変わり果てた街並みを前にしても冷静だった
「…始まったようだな。」
「あぁ。行くぞ。」
上条は走り出す
あるところを目指し
これはゲームが再開される少し前、美術展、出展会場。魔王側本陣営
斑模様のワンピースを着た少女はある手紙を読んでいた
そこにラッテンと呼ばれる女が後ろから物珍しそうに話しかけきた
「マスターマスター。その手紙はどうしたんですかー?」
「街に置いてあったのよ。」
ラッテンに続くように軍服を着たヴェーザーが苦笑しながらも興味津々だった
「何だよそれ、果たし状か?」
「…ふふっ。ただのダンスのお誘いよ。」
「マスターはモテますね それで何人と踊るんです?」
「1人と1匹よ。」
ラッテンは一瞬戸惑い固まった、この少女が嘘をつくはずもないとわかっていたからだ
「え…?またまたお冗談を。でもそんなマスターも可愛いですよ 」
「そんなの罠に決まっている。止めておいたほうがいいぜマスター。」
少女はくすりと笑う
「…いえ。彼にも興味が湧いたわ。殺さずに私のペットにするわ。貴方との死の舞踏を楽しみにしてるわ。」
手紙を黒い風で飛ばす。少女は振り向く。見据えるはプレイヤー側運営本陣のある方角
魔王との戦いは最終局面へ移る