潮田渚は二重人格である   作:Mr,嶺上開花

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今回は視点が変わる関係で話が長く見えますが、実際は何時もより短いです。

…なんか、最初より暗いし、原作よりコメディー成分薄いのは気にしないでください。後の方で明るくなる…はずなので。


Ps.皆さんのおかげで日間ランキング14位に入りました、本当にありがとうございます!


4時間目 睡眠の時間

 

「…お前、何言ってるんだよ…」

 

少し顔を引きつながらこちらを見る寺坂。強気ではあるが、そこには明確な怯えが見てとれる。

…この程度で、殺すとか無理だよ寺坂。

 

「同じだよ。人を殺すのと、あの先生を殺すのは」

 

「どこがだよ!アレはどう見ても人じゃねぇだろうが」

 

「だけどちゃんと人間の社会に適応しかけてる。それは人間としての行動ができるって事だよね?」

 

そう言って僕と寺坂は睨み合う。前までは怖くてこんな事は出来なかったけど、今じゃ普通にできる。

…いや、できるようになったと言うべきなのかもしれない。

 

 

「…それで、殺るのか殺らねえのかどっちなんだよ」

 

「殺らないよ。僕はあの先生を殺さない」

 

「………チッ」

 

舌打ちをして去っていく寺坂。それを終始何も話さなかった2人が追いかける。

…何の意味もない、会話だった。それはまるで僕の今の生き方、そしてこれからの人生を暗示しているかのように、まるで意味がない。

 

 

E組堕落、その事実に一番僕への評価を改めたのは周囲だった。僕を貶し、見下し、哀れみ奮起する。それはこの格差社会において正しいのかもしれない。

だけど、やっぱり僕自身は納得できていない。何か、見返す方法が欲しい。

手っ取り早いのはテストの点数で上に上がることだ。だけれど、そうしてまたあの、一度僕を見捨てたクラスメイトのいる校舎へ帰りたいとは正直思わない。

次に何らかの大会での活躍、謂わば勉強外での成績提示。…だけどこれは多分無理だと思う。ここは勉強でしか人を測らない学校だから。幾らスポーツとかで頑張っても結局は成績が低ければ何も変わらない。

そうして最後に思いつくのは自殺。これは簡単なことだ、直ぐそばにある崖から足を踏み外して落っこちれば良い。事故を装えば、この学校だって公に問題にされるだろう。そもそも校舎が山間部にあるのもおかしいし、その近くに切り立った崖が存在するのもおかしい。少なくともひと泡吹かせるくらいはできるかもしれない。

 

 

 

…自殺、か。誠也が来てからもうやらないと思ってたんだけど、やっぱりこうなるんだね。誠也は寝ているのか全く話しかけてこないし、何よりまたあの時のように絶望感と、それに加えて無気力感が溢れ出しているを感じる。正直なことを言えばもうこの人生を誠也に譲っても良いくらいだ。

 

…僕は何で生きていて、そして誰なんだろう。

 

 

 

 

「これは渚くん、一人でどうしたんですか?」

 

突然背後から声をかけられる。この声は振り向かなくても分かる、先生だ。

背後を振り向けば中国から本当に帰ってきたのか、四川省土産の黒酢を手に持っていた。…料理にでも使うのか、というか先生は料理をするのだろうか…?

 

 

「お帰り先生、…別に何もしてないですよ」

 

「…そうですか、ならそろそろ教室に入りましょう。5時間目が始まってしまいます」

 

僕ははい、とだけ返事をして先生と教室に戻る。後ろで寺坂がイラついた様子でこちらを見ていたけど、僕には関係ない。

 

 

…僕は、どうすればいいのだろうか。

 

 

そんな事を考えてたからか、僕は窓から入る心地よい春の風に揺られて、授業中なのにいつの間にか寝てしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、俺は外で昼食を摂っていると偶然喧嘩になりかけている四人の生徒を見つけた。

その内の一人は俺も良く知る、と言うほどではないが一緒にダーツをした事のある水色の髪をした生徒だった。

 

「いやーこんにちわ烏間さん。いえ、それとももう烏間先生とお呼びした方が良いでしょうか?」

 

「…別にどちらでも構わない」

 

「そうですか、じゃあ生徒にも親しまれやすいよう烏間先生とお呼びしますね」

 

俺の後ろに突如現れた言葉を話すこの生物、こいつが俺がお目付役にされたターゲットだ。

こいつは来年に地球を破壊すると言っているが、何故かこの学校での暗殺されながらの教師生活は受諾した。その理由は分からないが、とにかく複数の人間が同時にこいつを殺せる機会が1年も貰えるというのはとても大きい。そう考えた国は多額の金を払いこの学校のこのクラスへと先生としての編入を許可した。

 

…正直、まだ若く学ぶ事も多い中学生に暗殺なんて血生臭いことを依頼するなど大人としては失格だ。だが国には、それどころか世界中でもこの地球消滅を防ぐ手立てはこれ以外無い。

彼らにこいつを殺ってもらうしか…ないのだ。

 

 

「…アレを止めなくて良いのか?」

 

俺はそう言って視線を潮田のいる場所へ促す。

潮田渚は階段の下で、他の三人は階段で座って何かを話しあっている。

一見すれば潮田がパシリのように見えるが、彼らは何を話しているのだろうか。

 

「…彼なら、渚くんたちなら大丈夫でしょう。それに彼らは私を殺す計画を立てているだけです」

 

自身を殺そうとしているのにこの平然とした振る舞い、何もないかのように立っている。それが強者の余裕なのか、それとも教師としての余裕なのか、俺には全く分からなかった。

 

階段に座っていた1人の生徒が潮田に詰め寄る。何やら言い争いに発展したのだろうか、内容は距離的に聞き取れないが一方の詰め寄っている側の声は断片的にこちらまで届いてくる。

 

「仕方ない、お前が行かないつもりなら俺が止めに行く」

 

「いえ、烏間先生はそこで控えていてください。私もこれから5時間目の授業があるのでそのついでに行ってきます

それに…彼はとても不安定です」

 

 

そう言ってこいつは学校の校舎へと向かっていく。時計を見れば既に授業開始5分前になっていた。

 

…潮田渚、初めて会ったのは一週間と少し前のゲームセンターでだった。その時は一社会人のお節介で彼と少しの間ダーツを投げあった。だが、思えばその時にも彼は性格的にも身体的にもフラついていた。

一投すれば少し身体が震え、また一投すれば身体震える。その間隔はダーツをするごとに長くなってはいったが、今から考えてもやはりあの時のダーツの刺さりようと関連性があるように思える。

中心に当てたかと思えば的から大きく外し、また高得点の位置へ投げ込んだかと思えば何もないところへダーツを投げる。そのテクニックはまるで別人のようだった。それに最後の投げ合い、あの時の接戦は今でも俺の中では腑に落ちない。二回に一回は的から外していた彼がどうすればあそこまで綺麗に狙った場所へと放てる。

 

それに、潮田はどこか虚空を見つめていた。まるで空想と話すように。

 

 

…恐らく潮田渚には何かある。この学校で一番の最底辺に落ちたのにも関わらずああしてられるのは、どこが歪んでしまったのか。それとも誰かがそうしているのか、それも俺には分からないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ?」

 

目を覚ますと既に夕日が灯り、空は赤く染まりかけていた。…僕はそんなに寝ていたのか?

 

その間先生もクラスメイトも、またしては誠也も起こしてくれなかったのだろうか?…まあもしかしたら勉強に夢中で気付かなかったのかもしれないけど。

 

 

「…あれ、もう机の中にある荷物が鞄に入ってる」

 

少なくとも昼休みには入っていなかったはずなのに、誰かが入れてくれたのだろうか?…なら起こしてくれればいいのに。

 

 

鞄を持ってそのまま教室を出る。

校舎から出るとそこにはプールサイドにあるような椅子で寝転がりながら何かをノートに書き込む先生の姿があった。

 

「先生、まだいたんですか?」

 

すると先生は一瞬唸るような速さの触手を止め、僕の方へ顔を向けた。

 

「…はい、この場所は夕方になると光が綺麗なんですよ」

 

少し間を空けてそう言う先生。

確かに空を見上げるとそこにはいつも生活している時よりも夕日が近くにあった。春の昼間の日差しより眩しい物はないとは思ったけれど夕方の陽の光はそれと同じくらいか、それより眩しい。

ふと下を見てみると、陽に照らされた僕たちの影はより濃く、黒く映っていた。この中に、誠也がいるのだろうか?それとも既に影に溶けて、何処か行ってしまったのだろうか?

 

 

「…じゃあ、僕はこれで。先生、また明日」

 

「はい。帰り道は気をつけてくださいね、渚くん。」

 

 

 

そうすると先生はまた高速で採点を始める。それを見た僕は未だ慣れない登下校路へと入っていく。

…今日は色々、なんか疲れたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家へ入ると、ポストの中に一通の手紙が届いていた。しかもそれは珍しい事に僕宛だった。

部屋に戻ると僕はベッドに座りながらそのハガキに書かれた内容に目を通す。

 

 

「…神田…茉奈?」

 

そう表面に書かれていた差出人の名前に書かれている。神田、その苗字はとても見覚えがある。確か、いや確実に誠也の苗字だ。そしてその母の名前は友美さん、父の名前は和一さん。つまり僕に神田茉奈なんて名前の知り合いは居ない。

 

だけど、僕は裏面を見てその真相を知った。

 

 

【私は、神田誠也の妹です。明日の木曜日、放課後の午後4時30分に以前私の父と母が貴方と話した喫茶店で兄について話を聞かせてください】

 

 

妹。神田さんの一家は一人っ子じゃなかった。妹がいたのだ。

あの時のような恐怖感がまた湧いてくる。

責められる。非難される。見下げられる。全てを誠也のおかげで乗り越えられたと思ったのに、乗り越えていなかったのか。それとも世界は僕が気に入らなくて、この世の枠から外そうとしているのか。必死に努力したあの日々は本当は嘘で僕の妄想だったのか。

 

 

「…答えてよ誠也!僕は!何なの⁉︎」

 

 

叫ぶ。家には誰にもいないから、なんていうのはどうでも良い。ただ誠也と話したくて叫ぶ。

でも誠也は僕に語りかけてこなかった。寝ている…筈はない。良く良く考えてみれば彼は僕が起きている間はずっと僕の側にいた。僕に話しかけてくる時だって決まって起きている時だった。

 

つまり、何時の間にか誠也は、僕の中から消えてしまったのだ。

 

授業で寝ている僕に呆れて消えたのかもしれない、或いはあの時の夕日で影と一緒に外へと追い出されてしまったのかもしれない。全ては可能性、真実なんて分からない。

 

 

 

 

…そうだよ、どうでもいい。どうでも良いんだ。

真実も嘘も建前も現実も、空想だって結局は僕には確かめる方法はないじゃないか。

E組に落ちたことだって僕に何の影響を与えてるの?別にこれからの事を考えていなかった本校舎にいた頃と受験する違いはあっても状況は全く変わらないじゃないか。

勉強したってこの世の中は渡っていけない。文系だって理系だって、等しく人柄や才能の方向で全てが決まる。今までの勉学の多少は関係なしに。

 

 

ーーーそれに、誠也は最初からいなかったんじゃないの?

 

そんな事が僕の脳裏に浮かぶ。

 

誠也は空想、夢、妄想、幻覚。知らず知らずの内に見てしまった白昼夢。現実は、僕が殺してしまった1人の高校生。

 

 

「…誠也、…出てきてよ誠也…居るなら勉強教えてよ……」

 

 

ここまで僕は頭の中で全てを否定した、はずなのに僕の口から溢れ出るのは誠也の存在を信じる言葉。そこに居ると知った上で紡がれる言葉。

 

 

僕は、どこまでも情けなかった。

 




鬱病みたいになってしまった…。
後烏間さんの口調全然分からない…

次回も投稿日未定。
気分が乗っていて、かつ暇な時に書いているので遅くなると思います。
模試が近い…!(死)

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