突然の急展開です。
あと数話で完結できると思うのでよろしくお願いします
(*注意:今更ですが作者はアニメのみなので現時点の放映で判明している点以外は把握しておりません。他に、端折ったりオリジナルを突っ込んだりしている点も有ります。これらの点は全て二次創作ということでご容赦ください)
3年E組。
そんな椚ヶ丘中学における落ちこぼれクラスに進級してから既に1週間が経過していた。
相変わらず誠也は僕の中にいるし、朝のジョギングも強制させてくる。まるでそれが日常と言うようにだ。
だけど僕の学校生活は日常の中にあるように見えて、本質は混沌とし始めていた。周りの面々の表情がこんなお払い箱のようなクラスなのに以前より明るいのもそうだが、その理由も全て1人、いや【1体】の出来事に集約される。
全ての冒頭は進級初日に遡る。
進級初日、苦労しながら山中に存在する隔離校舎へと僕は歩いていた。
体力を多く消耗する厳しい道のりの中、僕はどうでもいい会話でこの苦しさから抜け出そうと思って最適な話題を思いつく。
「そういや一昨日月の7割方が無くなったんだよね?」
虚空にそう語りかける。当たり前だけどエアー友達とか独り言だとかそういうものではない。
『ああ、そうだな。…あれは少し俺にも理解ができないが』
そう、僕の中には人間が住んでいるのだ。…何かほんと、いくら中にいると分かっていても何もない所に話しかけるのは少し慣れないな…。
「…ちなみに何で?」
そう聞くと少し間を置いて誠也はこう断言した。
『そもそも月の7割方を爆発させるにはどのくらいのエネルギーがいる?そして仮にこの犯行は人間が行ったとしなくても何故月を壊す?
…まあこの通り、分からない事だらけだ』
「それは確かに…」
そしてこれがもし人間の手によるものだとしたらどんな技術を持っているのか想像だに得ない。
「…本当に、何なんだろうね」
『全くだ』
そうして迷いつつ登校した僕は木造校舎の教室に入り、早くも鬱になりかけていた。
それというのも、クラスの雰囲気が暗すぎるせいだ。
…いや分かってはいたんだけどさ、それでももう少し会話あってもいいと思う。何と言うか、ポジティブ思考でいる僕が間違っているみたいだ。
右を見ても左を見てもどの生徒も暗い面持ちをしていて、全員がうつ伏せになっていたり顔を下に向けていたりしている。エンドのE組、その言葉はこのボロい校舎にいるという現実のよって僕たちにその意味を再確認させたのだ。
そんなクラス中で負のオーラが放出されている中、僕はノートを書いていた。当然勉強しているわけではない。
その時誠也の声が頭の中で響く。
『にしても噂以上だな。酷すぎるの一言に尽きる。この校舎、何とか電気や水のライフラインは通っている事だけが唯一の救いみたいなものだ。どう見てもここは地震がきたら直ぐに下敷きになってもおかしくない、この学校は生徒の安全を何も考えてないのか?』
『ここは落第生の集まりだからね。多分学校もあんまりこの隔離校舎について考えてないのか、それとも意図していてその上で放置しているのかのどちらかだよ。
あんまり考えたくないけどね。』
僕は誠也に対する返答をシャーペンで書く。そう、これは筆談だ。誠也と会話するには口に出して言葉を発音しなければならないがそれをすれば当然不気味な生徒だと思われてしまう。初日からそんな称号をつけられるのは勿論嫌なので、それを避けるための筆談である。僕たちは思考は共有できないけど視覚は共有できるから、これだったらノートを他人に見らない限りは問題ない。誠也の声が僕の頭の中に響くのは未だ謎ではあるんだけどね。
『それで、担任はいつ入って来るんだ?もう開始時刻を10分過ぎているぞ』
『まあこんなクラスの担任だし、きっと意識も低いんだと思うよ』
そこまで書いたところで廊下から人の足音がする。僕はノートを閉じて、机の中に入れる。
…それにしても妙だ。足音は一人分じゃない、二人分以上は聞こえる。なぜなら足音が揃ってない、だからそのせいで音がバラついて聞こえてくるんだ。
さらにもう一つ、先ほどからヌチャヌチャっとした音も一緒に聞こえてくるけどこれは何だろうか?例えるなら使い古した雑巾を見で濡らして床に落としたような音だ。その音も足音と一緒にこの教室へと向かってくる。
そして、廊下の扉は開かれた。外には二人のスーツを着た男の人と、アカデミックドレスを着た何か訳のわからない黄色い何かが居た。
『…何だ、アレは…』
あの常時自信の塊のような誠也ですら驚きを露わにしている。それほどにこの黄色い何かは僕たち、クラス全体には訳が分からなかった。
そして片方の男の人は壇上の脇に立ち、黄色い何かはそれを追い越して壇上に立つ。というかだからそれは何なの…。
「…ってあれは烏間さん?」
ついつい小声で呟いてしまい、隣の人に見られてしまう。でも、あの厳しい表情、ピシリと決まったスーツ姿、昨日会ってダーツを一緒にした烏間さんに間違えない。
烏間さんも僕の存在に気づいたのか、視線が合うと軽く会釈をしてきた。お返しとばかりに僕も軽く会釈を返す。
そうしていたら、突然黄色い何かはこう言った。
「初めまして、私が月をやった犯人です」
「「「「「…は?」」」」」
『…何だ、こいつ』
思わず僕らクラス一同はそんな声を上げてしまう。誠也は聞いたまんまの率直な感想だった。
というか月をやった?三日月になった事件だよね?随分タイムリーな話題だな…じゃなくて、本当に今目の前の教壇に立っているこいつがやったの?
この場にいる全員がマッハ20くらいでやってきた訳の分からない情報に戸惑っていると、またもや目の前の黄色い何かはその言葉に続けて発言する。
「来年には地球も殺る予定です。君たちの担任になったので、どうぞヨロシク」
(((((………どうでもいいからまず5・6箇所突っ込ませろ!!)))))
クラス全員、そう思ったのは間違い無いと思う。
この僕たちの先生と名乗る何かが自己紹介を終えたと判断したのか、隣で立っていた烏間さんが重い口を開く。
「…あー、防衛省の烏間という者だ。まずは君たちにここからの話は国家機密だということを理解頂きたい」
そんなどこかのコメディーのような状況だったのが烏間さんの重みのある言葉によってクラス全員に少し緊張感が走る。
『国家機密か。初めて聞くがどのような物なのだろうな』
1人内心ウキウキしながら待っている完璧超人もいるが、まあ僕の中にいるから良いか。もしこの場にいたら場違い過ぎて居た堪れないと思うけど。
烏間さんはどこか緊張した面持ちで言うのを躊躇った様子になりながらも、一回呼吸するとハッキリとした口調でこう言った。
「単刀直入に言う。
ーーーこの怪物を、君たちに殺してほしい」
その言葉にまたもや僕は戸惑いを覚える。殺すことに対し、何で、どうしてと考えることは不思議となかった。
むしろ今感じていることは、どうして国家機密を僕たちのようなE組に依頼してくるのか、日常を壊してくるそんな国の処置のことだった。
意味が分からない。現実味がない。まるでタチの悪い三流SF小説のようだ。そんな思考が頭の界隈をぐるぐると回る。
『だが、なぜこの化け物はこの学校、そしてこのクラスに来たんだ?それに俺たちには地球の危機を救うのを差し引いてもこいつを殺す義理は無いはずだ。…何でこんな事になっている?』
僕が混乱を露わにしている中でも僕の中で誠也はいつも通り、冷静に疑問点を纏めていく。その手際は流石としか言いようがない。
そのおかげで僕も幾分か落ち着いた。
確かに僕らは落ちこぼれで、そして今全人類のヒーローになる特急券を握りかけている。だけど僕らは、少なくとも僕はこんな訳の分からない殺しで謂れのない名誉を受け取るのは少し、心につっかえを覚える。
…そう、僕ら全員には未だ地球を壊すのが本当なのか半信半疑の中でこの生物を殺す動機はないし、道理にも合っていないというわけだ。
そんなことを考えていると、烏間さんはその思考を見透かしたようにこんな事を僕たちに言ってきた。
「あと、これは国からの正式な依頼だ。だから報酬も出る」
「報酬?因みにどんな感じですか?」
爽やか系の雰囲気を漂わせる男子生徒がそう聞き返す。僕らはかなり気軽に質問したけど、その返事は予想外のものだった。
「この暗殺が成功したら100億、国が支払う」
「ひゃ、100億…⁉︎」
「そうだ。この暗殺に成功すれば冗談抜きで地球は救われる、それを考えれば妥当な額だろう。」
淡々と烏間さんはそう言い切る。
『確かにな。端的に表すならば大金を出し惜しみして絶滅を避けれぬものにするか、或いは決算して地球が救われる可能性を少しでも上げるかということだ』
誠也はそう内容を纏める。
誠也の言う通り、このまま一年間何もせず手をこまねいていたらきっと、地球は消滅するのだろう。月を七割も破壊できる事が何よりあの先生は地球だって壊せることを裏付けしている。
それに、多分これに気づいているのは日本政府だけじゃないだろう。他の主要各国だって月の三日月化の原因を調査し、この自称先生にたどり着くことだって十分有り得る。いや、恐らく既に日本政府と提携、それどころか世界中で一丸となってその上層部が機密事項を把握し対策していもおかしくない。性別、人種、宗教、肌の色、この世界には沢山の人と人とを隔てる要素はあるけど、地球破壊を企む存在が出てきた以上そんな事は言ってられないだろう。
つまり、皮肉なことにこの地球を壊そうとする先生の行動はそのリスクを代償に世界を一つに束ねる潤滑油になっている、もしくはなりかけている。
そしてその最前線に僕たちは、今いる。
そこで、無言の教室に烏間さんの注意を促すような発言が響き渡る。
「だが簡単に暗殺できると思うな。例えばこのナイフ、これは刃物も実弾が一切効かないこいつの皮膚を研究して生まれた、こいつを殺すことのみに特化したナイフだ」
そう言ってスーツの内ポケットから取り出した青緑の色をしたナイフを烏間さんは、持ち手と刃先を持って軽く曲げたり、そのナイフでスーツの上から左腕をペチペチ叩いたりする。…どうやらそのナイフは金属製ではないみたいだ。
「まあ、こんな感じで俺たち人間にこのナイフは一切害は無い。これはある程度の強度はあるゴムのような物と思ってくれても構わない。
…そして、君たちにはこのナイフと、もう一つこの素材で作られた弾が込められた拳銃でこいつを殺してほしい!」
瞬間、烏間さんは突然先生に向けてナイフを投擲する。
しかし先生はナイフが投げられた場所には居なかった。…いや、アレは多分高速で少し移動しただけだ。その証拠に先生の位置が30cmはズレてる…やっぱりマッハ20は本当なのか…。
しかしそこは防衛省でもエリートの烏間さん、それを予想していたのか先生が避けた時には投擲には使っていない左手で銃を構え、撃った。
まるで無駄の無い動き、プロフェッショナルということが僕のような素人でも一見で分かる。
だが今度は、さっきの微妙な高速移動と違い僕にも分かるような移動を先生はした。本当に刹那にしか視界では捉えられなかったけど、確かに先生は烏間さんの真後ろへ移動した。爪切りを持って。
…え、何で?
「あなたは少し爪の切り方が甘いようですね。その証拠にヤスリを使っているのは分かりますがそれでもまだ角々しい所が残っている」
…はい?
「…この通り、こいつは素早い。狙いを付けて撃ったと思って、気付けば背後に回られ手入れをされる。要するに、決して油断はするなということだ…」
先生は烏間さんの爪を高速で磨き、そしていつの間にか終わった。その間、烏間さんはなぜか無抵抗でどこか遠い目をしていた。…何かこの二人、というか一人と一体にあったのだろうか?
クラス全員がこの流れに唖然としていると烏間さんは先生が移動したため空いた教卓の前に立った。
「では、後ほどこれらの武器を君たちに配布する。そして一つ、この隔離校舎外への持ち出しは原則として禁止する。繰り返すようで悪いがこれは国家でもトップレベルの機密だ、心してかかってくれ」
烏間さんはそう言うと、ずっと端にいたもう一人の男の人は教室から出て、烏間さんもそれに続いた。そして残されたのは僕たちと、この先生。
しかし放置したわけではなく、その後すぐ二人は大きなダンボールを抱えて戻り僕たちに武器を回した。まさか学校で課題プリントのようなノリで武器を回すなんて経験をするとはこれまでの僕は絶対思わなかっただろう。
ーーーまあ、そんなこんながあり、僕たち3年E組は暗殺教室に変わり果てた。
例えば具体的に言えば今日の二限、英語の授業中。先生は関係代名詞に線を引きながら英文の解説をしていたところを金髪で少しギャルのような容貌をした中村さんが先生に向けて発砲した。当然銃弾は直ぐに止められた、だけどこんな光景このクラス以外では存在しないだろう。
他にも休み時間。
「そういやー、先生って何でこの学校のこのクラスで教師してるんですか?」
「…そうですね…先生は大切な人との約束を守る為ここに赴任しました」
「ふーん…そうなんだー」
和やかそうに先生の身の上話を聞く茅野さん。もし彼女の手に振りかざされたナイフさえなければ本当に和やかだっただろう。残念ながら先生の触手に止めれているけど。
まあ、そんな感じで僕たちはこの異常な学校生活にだんだん慣れ始めていた。
そうして今日も4限のチャイムが鳴る。
「お、昼休みですね」
触手で持っていたチョークを黒板に起き、先生はヌルヌルと教室の出口へ移動する。
「では先生は少し麻婆豆腐を食べるために中国まで行ってきます」
そう言われてすぐに僕が感じたのは圧倒的な風だった。突然の事で瞼を瞑ってしまい、目を開けば既に先生はそこにはいなかった。多分本当に中国へとマッハで飛んで行ったんだろう。
『…いつまで経っても俺はアレに慣れる気がしない。俺の中の常識が軒並み積んだドミノの上から10tハンマーを振り落とすかのように崩れていく…』
「それ潰すの間違いなんじゃ……」
「あれ?渚なんか言った?」
これも最近見慣れてきた誠也の弱気な面だ。どうやら誠也は自分の常識が壊れるのに弱いらしく、又聞きとかなら良いらしいがこのように常識外の存在が目の範囲にいるとダメらしい。ここ最近ずっとこんな感じだ。
そのせいか、このように僕が誠也の発言に突っ込みを入れてしまう回数も飛躍的に上がってしまった。
「うん、何でもないよ」
「そっかー。私の気のせいか」
隣の席に座る茅野さんはそう言って納得してくれる。もしかしたらまだ疑っているのかもしれないけど、それでも追求をあえてしてこないのだとしたらとても優しい女の子だと思う。
昼ご飯も食べ終わるとやる事もなくなり、自然に外の月を眺めてしまう。本当に三日月だ。やはりアレはあの先生がやったのだろうか。
『まあ、あれに関しては気にしても仕方ないだろう。正直俺でも一生理解は出来ん』
そう僕の中で言う誠也。確かに考えるだけ無駄かもしれない。あの先生は決して人類がものさしで測れる存在ではないのだから。
対先生用ナイフをぼんやり眺めていると、僕を呼ぶ声が後ろから聞こえる。
「おい渚!暗殺の計画練ろうぜ」
そこには寺坂、松村、吉田の三人組がいた。悪ガキ三人衆、中学二年の時からそう呼ばれていた連中だった。
僕たちは教室の外に出て、三人衆はその後すぐの階段に座る。僕は階段の下で立っていた。正直に言ってしまえば僕はこの三人は苦手だからだ。一緒にいるなんていうのはあまり考えられない。
そうして始めに口を開いたのは寺坂だった。
「あのタコ、機嫌によって顔の色が変わるだろう?それについて調べとけって言ったやつ、ちゃんとやったか?」
威圧的な口調。それだけ言ってしまえば誠也と同じだが、誠也と目の前の三人衆とでは大きく違うところがある。それを上手く言葉にすることは出来ないけど、だけどその差が天と地ほどにあることは分かる。
「…まあね。舐めてる時の顔は緑のシマシマなのは知ってるよね。生徒の答案が違えば紫、合ってれば赤色、他にも昼休みの後は…」
「俺は知らなくて良いんだよ」
自分から話すのを誘導しておいて、そして理不尽な物言いをする。まるで見た目通り、ガキ大将のような振る舞いだ。
寺坂は僕に近づき、こう言った。
「作戦がある
……あいつが一番油断している時、お前が殺りに行け」
その時、僕の中に混沌とした感情が濁流の如く溢れ出した。これは何なのだろう、まるで押さえつけられた物が一気に流れ出したようなーーー。
そんな事を考え、脳裏に微かに浮かんだのはあの日の映像。鮮明に覚えている、冷たい血が流れ出していて、僕の両手は朱に染まって…。
…あれ、誠也って血を流して死んだんだっけ?
それとも頭を強打?
はたまた脊髄を折ったのだろうか?
…分からない。全く分からない、思い出せない。
僕の頭の中は激しく悲鳴を上げている、その悲鳴は僕に頭が割れるような痛みを与えてくる。
考えてはいけない。思い出してはいけない。感じてはならない。そう僕に言っているようだ。
痛みは加速する、だけど誠也は一向に僕の意識上で一言も発する事はない。いや、誠也は死んだ。違う、だけど僕の中で生きている。意志を受け継いだのは紛れも無い僕自身だ。
二つの意思のような物は僕の中でぶつかり合い、攻めぎ合った。やがてそれらは一つの妥協点、或いは客観的事実へと注ぎ込まれ、僕はそれに対して反論できなかった。認めざる終えなかった。
ーーー神田誠也。生きている彼を殺したのは、間違いなく、今この場にいる僕だ。
「…オイ渚、なんとか言えよ」
寺坂はそう僕に発言を求めてくる。
それなら、僕は言うとしよう。
「ねえ、寺坂」
「…んだよ」
「化け物じゃなくて、正真正銘の人を殺したことって、有る?」
僕の、事実を。
渚のキャラが誠也に影響され大幅に変わりました。
3月1日 ピックアップ1にて偶然96位で発見しました!
沢山の閲覧ありがとうございます!
追記:すみません、どうやら渚の両親は既に別居しているらしいです。しかも渚と一緒に住む渚の母はとてもヒステリックかつエゴの塊らしいです。
そうなるとこの作品に大きく変化をもたらしてしまう可能性が極めて高いと思ったので、敢えてその点は変更はしません。
オリジナル設定のようなもの、としてご了承下さい。