ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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学級裁判編2

 

 はぁ〜い、みんなお待ちかねのモノクマだよ〜。はあ・・・え?なんでそんなにテンション低いのかって?そりゃテンションも下がるよ!だって、前回で六浜さん殺しの事件の謎はほとんど解かれちゃったんだよ?あいつらの辿り着いた、生存者全員がクロ、それが六浜さんの目的だってことは揺るぎないよ。でもそう考えるとだよ?あいつらがどう投票しようが、クロをおしおきする流れにならないんだよ!イコール全員希望ヶ峰学園に生還するんだよ!ボクが決めたルールとはいえこんな風に利用されたら悔しくて悔しくてギシギシ歯ぎしりで前歯が粉々になっちゃう!ちくしょー!六浜さんめ!猪口才なマネを!

 でもでも、なんだか聞いてたら全部が全部六浜さんの思い通りになってないみたいだし?なんかこのままクライマックスの謎に挑むっぽいし?うぷぷぷぷ!案外ここが最後の学級裁判になる感じなのかな?そしたらボクもそれなりの準備をしとかなきゃいけないね!うぷぷぷぷ!うぷぷぷぷぷぷ!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色を失い、血のような色の×の向こうで薄く微笑む六浜。あいつが最後に知ったことはなんなのか。回りくどくて、無謀で、綿密で、巧妙な計画を実行するほどの『何か』の正体を、俺たちで暴いてやる。それは決して六浜のためなんかじゃなくて、死んでった奴らのためでもなくて、俺たち自身のためでもない。

 何も知らないままここを出て行くのが気にくわねえ、それだけの理由だ。

 

 「そんなこと、どうでもいいではありませんか」

 

 いつものように、穂谷は心底呆れ果てた口調で言った。裁判の流れをねじ曲げたい時、穂谷はいつもそう言って自分の意見を押し通す。

 

 「六浜さんは、自分を含めた生存者全員をクロにする計画を考案し実行した。最低限の犠牲で最大の生存者を出すために。それでいいではありませんか。これ以上何が要るというのですか?」

 「六浜童琉の真意を知ることで何か明らかになることがある可能性がある。私たちがまだ何かを見落としている可能性は否定できない」

 「望月さん。貴女ともあろう人が、こんな非合理的な展開になびくのですか?」

 「・・・非合理を無闇に否定することもまた、非合理だ。その気になればあらゆるものに意味づけが可能だ」

 「何言ってっかわかんねえよ。どっちにしろ、投票タイムにならねえんじゃ議論を続けるしかねえんだろ?ウダウダ言ってねえで気張りやがれ」

 「貴方にだけは言われたくありませんね」

 

 といいながら、穂谷は渋々やる気を起こしたらしい。確かに、犯人の動機なんて今までろくに考えてなかったし、考えて分かった試しもない。それでも、考えて、議論すれば、何かの結論が出るはずだ。

 

 「うぷぷぷぷぷ!!なんかオモシロソーな展開になってきましたね!!もしかして、ここで全てが明らかになっちゃうのかな?どうなのかな?コーフンしてきたよ!こんなにコーフンしたのは活きの良い鮭を丸かじりした時以来だよ!」

 「キミはそれでいいのかい?おそらくここから先は、キミが本来この後の裁判でやろうとしてたことだけど?」

 「いーんじゃない?仕切り直すのも面倒だし、オマエラがやる気になってるし!何より、オマエラにあげられる情報はすべてあげたからね!」

 「さらっと重要なこと言いやがる・・・」

 「しかしそれならこちらとしてもやりやすい」

 

 後からモノクマしか知らねえような新事実なんて出されても、俺らにはどうすることもできない。今分かってることが全てなんだったら、それはそれでマシだ。モノクマからのストップもかかりそうにねえし、これで存分に六浜の奴が何考えてたかを議論できる。

 

 「でだ。六浜はなんでこんなことしようと思ったんだ?」

 「目的は明らかですね。謎が解けようが解けまいが、私たち全員を生きて希望ヶ峰学園に返すためです。他に手段がないとはいえ、六浜さんも相当追い詰められてたのでしょう」

 「それは違うぞ」

 

 早速というか、唐突にというか、望月が穂谷の言葉に待ったをかけた。

 

 「六浜童琉が自殺紛いなことをしなくても、私たちは全員で希望ヶ峰学園に生還することができる可能性は存在していた」

 「モノクマが言ってる、最後の学級裁判ってやつか」

 「晴柳院命が処刑された直後、モノクマは確かに言っていた。この合宿場の謎を全て解き明かし、学級裁判に勝利すれば希望ヶ峰学園に生きて返すと」

 「非常に今更な提案でしたが・・・なぜそんな気になったのですか?」

 「うぷぷ!言ったでしょ!ボクはただレールをなぞってるだけなの!タイミングを見計らって、然るべきことを然るべき時にやるだけの簡単なお仕事だよ!」

 「しかもその謎解きのために必要な情報は、ファイルで全部よこしたんだろ?なんでそんなことしたんだ?」

 「それも、ボクの意思じゃないよ!決められたことを決められた通りにするだけ!」

 

 意味が分からん。今に始まったことじゃねえが。

 

 「聞きたいことは山ほどあるけど、いきなり話が逸れそうになったね。モノクマはボクらに希望ヶ峰学園に帰るチャンスを与えてた。その条件は、合宿場の謎を全て解き明かして、モノクマとの学級裁判に勝つこと」

 「六浜さんもそれを分かっていたでしょう?でしたら、こんな大袈裟なことをしなくとも学級裁判に勝てばいいでしょうに」

 「簡単に言ってくれるなあ。ボクもしかしてナメられてる?」

 「モノクマは、必要な情報は全て与えられたと言った。これらの情報から、合宿場の謎やモノクマの正体に関して正確に推理することが可能だという意味か?」

 「モッチローン!ま、それがオマエラにできればの話だけどね!」

 「いや、できたはずだ。あいつなら」

 

 あくまで情報に関してはフェアだってことか。ウソや間違いはねえが、曖昧な情報はある。俺たちが勝つために必要な材料は全て与えられてるってことは、後は俺たち次第だったってわけだ。

 

 「六浜なら・・・“超高校級の予言者”のあいつならできたはずだ」

 「そうだよね。予言者って言っても、やってることは統計や分析、それから計算。頭の中で全部やっちゃうんだからとんでもないけど・・・裁判までに一通りの仮説を立てて検証して、自説を作ることくらいはできちゃうでしょ」

 「曽根崎弥一郎がファイルに記載されていた情報は全て共有したため、不完全な根拠ということもない。しかしそうなると、より理解不可能なことがある」

 「まったくですね」

 

 むつ浜だなんだ言ってて忘れてたが、あいつは“超高校級の予言者”だ。俺たちの中の誰よりも、頭を使うことにかけて秀でてる。だからあいつがファイルだけである程度の推理ができたことは疑う余地もねえことだし、特段驚くことでもねえ。望月が言ってる、更に理解不可能なことってのは、その後だ。

 

 「六浜童琉は、学級裁判に勝利する条件を満たしていながら、私たちを巻き込んで自殺したのだ」

 「意味が分かりませんね。学級裁判に勝利すれば、六浜さんも生きて帰ることができたというのに・・・わざわざこんな手に出る理由があるとは思えませんが」

 「うぷぷぷ!簡単に言ってくれちゃうね!ボクがそんなにチョロいクマだと思う?」

 「でも事実、学級裁判に勝てる可能性があるのにそれを選ばずに自分の命を投げ捨てるようなことをするなんて、どういうことかな?」

 

 普通に考えたらあり得ねえことなのに、そんなあり得ねえことが起こっちまってる。どういうことだ。六浜はなんでモノクマとの学級裁判をしなかったんだ?

 

 

 【ノンストップ議論】

 「合宿場の全ての謎を解き明かし、おそらくモノクマの正体にも六浜童琉は辿り着いていた。しかしながら、私たち全員をクロにする手段を選んだ。これはどういうことだ?」

 「学級裁判に勝利することができれば、全員が生きて帰ることができたのです。彼女は何かを知って、学園に帰ることを拒んだのではありませんか?」

 「だったらボクたちを説得して他の方法をとるはずだよ。彼女は全てを知って、“学級裁判で勝つ条件を満たしていた”のに、こんなことをしたんだ」

 「・・・それは、違えぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もしかしたら・・・六浜は、モノクマと学級裁判を避けたんじゃねえか?」

 「避けた?なぜですか?ここから出るには何らかの形でモノクマを打ち負かさないと出られないのですよ?」

 「モノクマ、俺らがここから出る条件をもう一回言え」

 「うぷぷぷぷ!いいけど、怒らない?」

 「どういうこと?」

 「いいから言え」

 「オマエラが希望ヶ峰学園に帰る条件は、この合宿場の謎を全て解き明かし、ボクとの学級裁判に勝利することだよ!」

 「分かり切っていることですね。ただその一つのためにこんなことになっているわけですが」

 「いや違う。一つじゃねえ」

 

 望月と穂谷が首を傾げ、曽根崎がはっとした顔の後にモノクマに一瞥くれた。たぶん俺と同じことに気付いたんだろう。ったく、底意地の悪い言い方しやがる。

 

 「俺たちに与えられた条件は二つあったんだ。一つがこの合宿場の謎を全て解き明かすこと、これはファイルを使えばできることだ。もう一つが、モノクマとの学級裁判に勝つことだ」

 「その二つは同一のことではないのか?」

 「謎を明らかにすることと、学級裁判に勝つことは違うことだよ。前者がファイルだけで推理できることなら、裁判を開く必要がないしね。それに裁判の結論は投票で決まる。謎を明らかにしただけじゃ投票結果は確定しないでしょ?」

 「ありゃりゃ、バレちゃったか!うぷぷ!そうなんです!オマエラは謎を解くこととボクを倒すことを同時にしなくちゃいけないのです!そりゃそうでしょ。謎を解き明かしたくらいで出て行かれちゃたまんないよ!」

 

 含み笑いが耐えきれなくなって、モノクマは一気に吹きだした。バカにしやがって。実際にその裁判が始まって謎が解けてから言うつもりだったなこの野郎。ギリギリで勝ったボスに第二形態があったみてえな絶望感とかなんとか言うつもりだったんだろ。そうはいかねえ。

 

 「まるで詐欺師のような言い分ですね。で、それが六浜さんとどう関係あるのですか?」

 「六浜もそのことに気付いたはずだ。謎を全部明らかにした上で、モノクマを倒す必要があることに。だからモノクマとの学級裁判を回避しようとした」

 「回避、というのは何か含意があるような言い方だが」

 「謎を解くところまでは、六浜サン自身できると思ってたはずだ。でもそこから先、学級裁判でモノクマに勝つことには、自信が持てなかったんじゃないかな。いや、“超高校級の予言者”の六浜サンに自信なんて似合わないね」

 「何を一人でぶつぶつ言っているのです!端的に言いなさい!」

 「六浜サンは、モノクマには勝てないと予言して、最後の学級裁判の議題を上書きしたんだ」

 

 曽根崎は穂谷の注文通り、端的に言った。それが今の俺たちの推理だ。

 

 「か、勝てない・・・?六浜さんが・・・そう考えたと?」

 「なるほど、筋は通る。“超高校級の予言者”がそう結論付ければ、その後の行動にもうなずける」

 「黒幕との勝ち目のない学級裁判に挑んで全滅するか、自分一人が命を落として他全員を超高確率で生還させるか。六浜サンならどっちを選ぶかは明らかだよね」

 「・・・」

 

 同じ考え方だったとは言え、その推理に俺は思わず拳を握った。理由も分からず俺たちをこんな目に遭わせたモノクマへの憎しみもあった。何の相談もなく勝手なことをして死んだ六浜への怒りもあった。だが何より、六浜一人に全部背負わせちまった自分の不甲斐なさが悔しかった。あいつはいつもいつも自分一人で全部背負い込んで、勝手に人のこと心配して、俺たちを置いて行く。

 

 「そうなんだよね〜、あんちきしょうめ!せっかくボクがお膳立てして華々しく立ち振る舞って、オマエラを絶望のどん底に突き落としてやろうと用意してたのにさ!あんなことされたボクだって学級裁判を開かざるを得ないし!」

 「では、彼女は本当にすべて分かっていたのですね・・・?自分の命を懸けるほど、その推理に確信を持っていたのですね?」

 「そういうことになるな。そうでなくては自殺する理由など存在しない」

 「・・・なんなんだよ」

 

 自然と言葉が漏れる。脳みそに口が生えたみてえに、思った事が、考えたことがそのまんま出て行く。

 

 「なんなんだよ!誰なんだよ!何勝手なマネしてんだよ!ふざけやがってバカ野郎が!役立たずが偉そうな口ばっかききやがって・・・!!なにやってんだよ・・・!」

 「そうだよ。ボクらは六浜サンの力にはなれなかった。助けを求められることもなく、ただ護られるだけの存在だったんだ。彼女はボクらのことを思ってしたことだろうけど、こんな残酷なことはないよ。一緒に戦ってきた仲間だと思ってたのにさ」

 

 六浜を恨む気にはならない。“才能”の塊みてえなあいつが、俺みてえな無能を見下すことは当たり前のことだ。“才能”のねえ奴が“才能”のある奴にバカにされるのが世の常だ。そんなこと分かってた。ずっと前から分かってた。

 なのに、なんでこんなに悔しいんだ。いつから俺は悔しがれる身分になった?いつからあいつを助けられると思ってた?いつからあいつと同列になったと思い込んでた?つけあがって、調子に乗って、いい気になって、うかれて、図に乗って、舞い上がって、自惚れて、バカみてえにはしゃいでただけじゃねえか。これが現実だ。こっちが現実なんだ。なにを勘違いしてたんだ・・・。

 

 「ん〜?なになに?清水くん、勝手に絶望してる?仲間だと思ってた六浜さんに見下されてたことに気付いて悔しがってる?隣に立ってるつもりが同格にすら扱われてなかったことに気付いて悲しんでる?有頂天になってた自分に嫌気が差してる?うぷぷぷぷ!」

 「六浜サンはボクらを見下してなんかないよ。たぶん、義務感だったんだ。自分がリーダーで、ボクたちを引っ張らないとっていう責任感だよ」

 「でもそれって、オマエラが一人で歩くことができないと思ったから、やってたわけでしょ?いいって言ってんのにやたらと世話焼いてくるお母さんみたいにさ!少なくとも同格だと思ってる相手にそんなことしないでしょ!」

 「ふざけやがって・・・!!」

 

 見下してるってのも、ナメてたってのも、あいつがそんなつもりでこんなことをしたんじゃねえことぐらい、俺が一番よく分かってる。けどモノクマの言うことを否定することもできない。俺は、六浜に頼られるような存在にはなれなかった。

 

 「何者なのだ?」

 「何が?」

 「六浜童琉が私たちとモノクマの直接対決を避けたことは理解できた。しかしそれは、私たちではモノクマに勝利することができないと考えたからなのだろう?では、モノクマとは、このコロシアイの黒幕とは一体何者なのだ?」

 「何者って・・・それは分からないけど、なんでそんなことを?」

 「合宿場の謎を全て解き明かせば、残るは学級裁判でモノクマに勝利する条件のみ。おそらくそれは、投票によってモノクマを処刑する結論を出すことだと考えられる。私には、それが六浜童琉の計画よりも不可能なこととは考えられない」

 「確かに・・・むしろ謎を全て明らかにするよりも簡単ではありませんか?モノクマが参加した時点で、私たちの投票先は決定しているようなものです」

 「だけど六浜サンはその裁判を避けた。それが黒幕の正体に繋がってるって思うの?」

 「直感的な推測だ」

 

 こんなときでも、望月は冷静だ。こいつにとって、他人からどう思われてるかなんてどうだっていいんだろう。六浜に対して何の感情も抱いてなかったんだろう。今となっちゃそれが良かったのか悪かったのかなんて分からねえ。ただ議論を進めるだけだ。

 

 「でも確かに、黒幕がどんな奴なのかは気になるね。あらゆる可能性を想定できる彼女が、それでも勝負を避けるような相手ってなんなんだろう」

 「え、もしかしてこれ、ボクの話になってる?あわわわわ!いきなり議題に取り上げられてビックンビックンしちゃうよぉ・・・!この裁判はいきなりクライマックスだぜ!」

 

 このコロシアイの黒幕、モノクマの正体、六浜が勝負することすら諦めた存在。そんな奴の化けの皮を、剥がせるのか?俺なんかが?誰にもあてにされねえ、頼りにされねえ、期待されねえ俺が?

 

 「・・・」

 

 

 【ノンストップ議論】

 「このコロシアイの黒幕・・・六浜サンですら勝てないと判断するなんて、並大抵の相手じゃないってことだよね」

 「あら、黒幕の正体など、既におおよその当たりはついているものだと思っていましたが」

 「穂谷円加には心当たりがあるのか?」

 「え!?そうなの!ヤッベ!」

 「勿論です。資料館のファイルに、過去のコロシアイの資料があったでしょう。あの凄惨な事件はいずれも、超高校級の絶望、あるいは江ノ島盾子によって引き起こされたものです。この合宿場で起きたコロシアイは、あのファイルと非常によく似ています」

 「全員が希望ヶ峰学園の生徒、人数、学級裁判におしおき、モノクマ・・・確かにそっくりだ」

 「こんな意味不明で残酷なことをさせるのは、“超高校級の絶望”しかあり得ません!」

 「でもそれは違うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資料館の隠し本棚にあった、希望と絶望の戦いの記録についてのファイル。そこには、過去2回起きたコロシアイ事件についてのものもあった。あれを見れば、このコロシアイが似たような事件だってことは一目瞭然だ。だが、その論は曽根崎があっさり否定しやがった。

 

 「確かに過去のコロシアイは“超高校級の絶望”が引き起こしたものだけど、今回は違うと思うよ。2度目に起きたコロシアイ修学旅行でさえ、旧希望ヶ峰学園時代のものだ。清水クンが学園で出会った“超高校級の絶望”はとてもこんな大それた事件を起こせるような力はなかったんでしょ?」

 「そうですとも。あんなちんけな連中と一緒にしないでよ!確かに“超高校級の絶望”はかつて猛威を振るった集団だけど、今じゃコンビニ弁当のかまぼこくらいどうでもいい存在になってるんだからね!」

 「しかし、集団としての“超高校級の絶望”と江ノ島盾子は異なるものなのだろう?資料では、1度目のコロシアイで死亡した江ノ島盾子が、2度目のコロシアイでも暗躍していたはずだ」

 「データ上の存在としてね。でもそれさえも完全に消滅した。江ノ島盾子はこの世から完全に消えたんだ。今回のコロシアイに直接関わってるとは思えないよ」

 「・・・けどよ、笹戸だって大昔の狛枝って奴を崇拝してたんだろ?同じように、江ノ島盾子を崇拝してるような奴が他にいたっておかしくねえんじゃねえか?」

 「それは否定しきれないけど・・・でも、そもそもが何十年も前の出来事だ。その時の記録は希望ヶ峰学園によって厳重に管理されてたから正確な情報を外部の人間が得るのは難しいよ。それに」

 

 絶望だの、江ノ島盾子だの、コロシアイだの、現実離れした現実の話に頭がついていけなくなる。やたらと饒舌な曽根崎はあの手この手で江ノ島盾子が関与することを否定してるが、まだなんかあんのか。

 

 「ボクらがここに来てから3年の時間が経ってるんだよ。その間、“超高校級の絶望”絡みの事件は何も起きてないみたいだし、やっぱりその線は薄いんじゃないかな」

 

 さらりと言いやがった。俺たち全員が忘れかけてたことを。あまりに非現実すぎて、忘れようとしてたことを。

 

 「あ、当たり前みてえに言うが、それマジなのかよ・・・?3年だぞ?そんな時間が、俺たちの知らねえうちに経ってたってのかよ?」

 「お伽噺ではないのですよ!タイやヒラメの舞い踊りも見ていないのに、そんな時間が過ぎていたなんて、信じられません!」

 「仮に3年の時間が経過していたのなら、私たちの身体に何かしらの成長、あるいは変化が起きているはずだが」

 「さあ、その辺の詳しいことは、そっちの黒幕サンの方に聞いた方がいいと思うよ」

 「うぷぷ・・・」

 「それよりも問題なのは、なんで3年もの時間が経っていることを、ボクたちが言われるまで気付かなかったかってことだ」

 「・・・どういうことだ?」

 

 毎日の繰り返しの中に訪れた突然の非日常、それがこの合宿場だ。目覚めたらいつの間にか連れて来られてた。その間に3年もの時間が経ってたなんて信じられねえくらい、呆気なく。そもそも俺らは3年も寝てたってのか?

 

 「モノクマが動機として与えたあの資料の数々・・・あれがなければ、ボクらは今のこの時間が希望ヶ峰学園で生活してた続きだと、3年前の最後の記憶の続きの日々だと疑いもしなかった。いや、ボクたちにとっては間違いなくそうなんだ。だって、その3年間をボクらは知らないんだから」

 「何を言っている?曽根崎弥一郎、お前は何を言いたい?」

 「まさか、俺ら全員揃って記憶喪失だとでも言いてえのか?そんな偶然あり得てたまるかよ」

 「偶然じゃない。この記憶喪失が・・・人為的に引き起こされたものだったら?」

 「え、ええ〜?記憶喪失を人為的に〜?そんなのあるわけないじゃあ〜ん」

 「白々しいですね」

 「過去に行われたコロシアイでも、記憶を操作していたような記述がある。1度目は“超高校級の神経学者”の技術によって、2度目はプログラムによって、どちらもコロシアイ直前の数年の記憶を消されてたみたいだ」

 

 ファイルに目を通しながら曽根崎は言う。記憶を消すなんてバカげた発想、普通あってもやろうとしねえ。だがこんだけむちゃくちゃなことをできる奴、黒幕なら、マジにやったっておかしくねえのかもしれねえ。けど分からねえことがある。

 

 「けど、なんでそんなことしたんだ?俺らの記憶を消す意味なんてあったのか?」

 「そもそも3年の間、私は一体どこで何をしていたのですか!なぜその記憶が消されているのですか!」

 「何言っちゃってんの?記憶がない3年間、その手掛かりは、もうオマエラ全員が知ってるじゃないか!」

 「俺たちが、知ってる・・・?」

 

 3年間もの記憶がなくなってることの手掛かりを、俺たちはもう知ってる?ただ過去のコロシアイに似せるためにしてるんじゃねえのか?もしこの3年間に、黒幕にとって都合の悪いことが起きてたとしたら?記憶を消すことでその不都合を消していたとしたら?

 

 「“超高校級の問題児”更正プログラム・・・」

 「それがなにか?」

 「俺たちは3年間・・・この合宿場で過ごしてたのか?“超高校級の問題児”として」

 「はあっ!?なにをバカなことを。私はこんなお粗末な合宿場、ここに来た日に初めて知ったのですよ。無論、貴方方のことなど頭の片隅にすら置いていませんでしたし置く必要すらありませんでした!」

 「知っていたとしても、その記憶すら奪われているのではないか?故に、ついこの前を初めてと錯覚しているに過ぎない。そう言いたいのか?」

 「詳しいことは知らねえよ。けど、もしここで俺らがコロシアイが始まる日より前に3年も共同生活をしてたとしたら・・・そこのクソぐるみにとって都合が悪いのは明らかだろ」

 「3年も一緒にいて、今更コロシアイなんてするとは思えないしね。過去のコロシアイでも、同じクラスの生徒同士でコロシアイをさせるために記憶を奪ってたみたいだ」

 

 穂谷が言うように、俺だってこんなところで3年も過ごした覚えなんてこれっぽっちもねえ。だが、大浴場で見つけたファイルや“超高校級の問題児”って名前から考えて、希望ヶ峰学園によってここで俺たちの共同生活が計画されてたのは確かだ。順当に考えりゃそこを黒幕が乗っ取ったってことになるが・・・。

 

 「この合宿場がもともと学園のものだってことは疑いようがないし、更正プログラムに関しては六浜サンが責任者として参加してたんだから、実際に行われてたと考えるのが自然だね」

 「・・・その3年の記憶があると、私たちはコロシアイをしないと想定されるのか?」

 「さあ。ボクにもないから分かんないや」

 「仮にそうであるなら、その3年の間に私たちは一定以上の関係を築いたということになる。少なくとも、互いに疑心暗鬼になるような関係ではない程度には」

 「なんだよ。そりゃ3年も共同生活してりゃ関係も変わってくんだろ。変か?」

 「いや、なんでもない」

 「うぷぷぷぷ!まあぶっちゃけちゃうとその通りだよ!この合宿場は、本来希望ヶ峰学園がオマエラの抱える問題を解消するために用意した場所なんだよね!しかも、オマエラはここで3年もの間、共同生活を送ってたんだよ!コロシアイなんてない、退屈で無意味で冗長な毎日をね!だからボクはそこに刺激を与えるためにですね・・・おっと、これ以上はまだやめとこうね!」

 

 議論した矢先にモノクマがあっさりと肯定してくる。それなのに話は一向に見えて来ない。謎は解けてるはずなのに、まったく進展がない。言いしれねえ気持ち悪さが胸の中で渦巻いてる。

 

 「それにしても、“超高校級の問題児”だなんて大仰な名前を付けて、こんなところに隔離するだなんて・・・希望ヶ峰学園は何を考えているのでしょう。ただの生徒指導にそこまでする必要があるのでしょうか」

 「ただの生徒指導じゃねえだろ。この更正プログラムにはまだ裏があるはずだ」

 

 記憶がなくなってるとか、3年の時間が過ぎてるとか、もしそれが本当だったとしても記憶がねえんじゃ考えたって仕方ねえ。記憶があろうとなかろうと確実に分かることに時間を割くべきだ。だから、言葉尻を捉えるようだが、この更正プログラムがただの生徒指導だとかレクリエーションの類なんかじゃねえって話をした方がいい。

 

 

 【ノンストップ議論】

 「ここにいる俺らは全員、学園にとっちゃ不都合な存在だったんだぞ?単なる厄介者どころじゃねえ・・・明るみになりゃ学園の威信に関わるような奴らだっていたはずだ!」

 「まあ、屋良井クンや笹戸クンに比べたら清水クンのなんか大したことないけどね。それでも、割と真っ当なプログラムだったんじゃない?少なくともコロシアイなんかよりはね」

 「真っ当と言いますが、生徒だけをこんな合宿場に閉じ込めて監禁するようなこと、それこそ学園の威信に関わります!」

 「いいや、きちんと方針は立てられてたよ。ボクたちがそれぞれ抱える問題を解決したとき、卒業という名目で学園に帰れる制度が用意されてた。ちゃーんと“ボクたち全員に帰るチャンスはあった”んだよ」

 「それはちげえぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 卒業制度。更正プログラムで、学園から課せられた条件を満たせば学園に帰ることができる制度。その可否を決めるのは六浜と学園だ。“超高校級の問題児”である俺たちには、それぞれ違う条件が課せられて、卒業までの道が示されてた。だが、全員じゃない。

 

 「更正プログラムのファイルの中で一人だけ・・・望月だけは、卒業条件がはっきり書かれてなかった」

 「・・・そうだったな」

 「“超高校級の問題児”の中でも、特に異常だということですね。まあそんなことはずっと前から分かっていたことですが」

 「単純に、私の問題が学園にとって安易には受け入れがたいものであるというだけではないのか?」

  「テロリストの屋良井だとか、学園の闇に通じてる曽根崎だとか、“才能”なんかとっくに捨てた俺にだって帰るチャンスがあったんだぞ!それなのに、なんで望月だけそれがねえんだ!」

 「卒業条件もそうだけど・・・そもそも望月サンの抱えてる問題自体、はっきりしないままだね」

 「・・・」

 

 自分のことなのに、望月は他人事のように冷静に言う。この合宿場で俺らがやってることが更正プログラムだろうがコロシアイだろうが、帰る手立てがないなら同じようなもんだ。そのことになぜ望月は疑問を持たねえ。なんでこんな理不尽を理屈で説明しようとしやがる。

 

 「私には何の問題もない。“超高校級の問題児”と呼ばれる理由は不明だ。私と希望ヶ峰学園には何の軋轢もない」

 「貴女のような人間が軋轢なく過ごせるわけがないでしょう!更正プログラムのファイルには、『計画』に関わっているとも書かれていました!『計画』とはなんですか!」

 「何も問題がない人はここにいないよ。キミだって希望ヶ峰学園に入学してから何かあったはずだ」

 「・・・私の素性が明らかになっていないことは否定しないが、それが今議論すべきことなのか?今は、このコロシアイの黒幕について話し合う時ではなかったのか?」

 「そうだよ。だからキミについて話し合うんだ」

 

 今までの裁判でも何度かあった。そこまでの話を根底からひっくり返す、望月の根本的な疑問。それに対して曽根崎は、真っ向からぶつかっていきやがった。その意味するところは理解できるが、納得はできねえ。だが議論を続けるためには、その流れを受け入れるしかねえ。それくらい俺にも分かる。

 

 「望月サン、この合宿場は閉鎖空間なんだよ?その中でコロシアイをさせられて、今ここに生き残ってるってだけで、ボクたちは等しく黒幕と疑われても仕方がない。その中でもキミは、特に素性が明らかになってない。黒幕を追及する議論の場で、キミを置いて他に誰について話し合うっていうんだい?」

 「素性が明かされていないのは私に限った話ではない。第一、私はコロシアイなど首謀していない」

 「それを決めるのは貴女ではありません!私は前から睨んでいたのです。貴女の行動は私たちとは全く異なります!夜中に一人で天体観測をしたこともありましたね?誰もがパニックになるような状況でたった一人冷静でしたね?疑われるには十分ではありませんか!」

 「なるほど・・・合理的行動に徹していたつもりだったが、合理的故に非合理的な思考では理解できないということか。しかし、それだけで私が黒幕だと言うには、論理が飛躍しているのではないか」

 「だからそれを話し合うんだよ。キミは果たして、黒幕なのか、そうじゃないのか。“超高校級の天文部”望月藍サン・・・キミは一体誰なんだい?」

 

 疑問系ではあったが、話し合うとは言ったが、二人は完全に望月が黒幕だって前提で話そうとしてる。決めつけてるわけじゃねえが、十中八九そうだろうと思ってる。俺だってそうだ。こんなわけのわかんねえ状況を強いるような奴の正体は、わけのわかんねえ奴に決まってる。俺らの中で一番わけがわからねえのは、望月だ。だが、何かが引っかかる。望月が黒幕だって言い分の何かが、喉に引っかかって飲み込めねえ。

 

 

 【ノンストップ議論】

 「望月藍さん!貴女はこの合宿場に来てからずっと冷静で、コロシアイにも全く動揺していませんでした!危機感もなく夜中に“一人で”行動したり、あまりにも異質です!貴女がこのコロシアイの黒幕なのではありませんか!?」

 「状況を分析するのに動揺は障害となる。天体観測は安全と判断したので行った。異質かどうかの判断は各自に委ねるが、私は過剰に警戒するお前たちの方が非合理的だと考える」

 「素性が分からない上に、更正プログラムの中でも“卒業条件を保留にされてた”なんて、学園からも特別な扱いを受けていた証拠だよ」

 「卒業条件を保留にされていた理由は不明だが、学園が私に対して何らかの特別措置を講じているのであれば私が関知していないはずがない。問題児とされたとしても、私には“特別なことなど何もない”」

 「それは違えぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追及されることを何とも思っていない。事実を事実としてしか捉えられねえ無機質な奴だ。それが望月という人間だ。だが、今俺の目の前にいる望月の姿に、少しだけ綻びが見えたような気がした。

 

 「望月。お前いま、ウソついただろ」

 「ウソ?望月サンが?」

 「私は嘘など吐かない。意図的に事実を隠匿あるいは歪曲することにより不測的変化を誘発することは非合理的かつ非生産的だ。仮に事実と異なることを述べていたのだとしたら、それは私がその事象を誤って観測しているか理解に必要となる知識を有していないが故の錯誤に過ぎない」

 「だったら見せてみろよ。お前に配られた、最初の動機を!」

 「・・・ッ!」

 

 そのとき、望月の表情が変わった。ほんの僅かだけ、眉がぴくりと動いた程度だ。だが今まで目の前で人が死のうが、自分が殺人犯だと疑われようが、何が起きても無表情を貫き通した望月に揺らぎが見えた。

 

 「最初の動機?あの出来の悪いビデオのことですか。望月さんのビデオがどうかしたのですか?」

 「どうということはない。私に殺人を教唆する内容として与えられたものだ。得られる情報など皆無だ」

 「それを決めるのはお前じゃねえ。そいつの内容が、テメエのウソを証明するんだよ。いいから見せやがれ!」

 「・・・時間を浪費するだけだ」

 

 そう言って望月は、ポケットからプレイヤーを取り出した。まだ誰も死ななかった時に部屋に置かれてたのと同じ、笹戸が死んだ夜に多目的ホールで見せられたのと同じ、あのプレイヤーだ。俺がモノクマに目配せすると、モノクマはやれやれという風にため息をついて、望月の手からプレイヤーを奪ってスクリーンに繋げた。荒い砂嵐が数秒続き、真っ黒の映像と風の音が再生され始めた。

 

 『え〜っと、時刻は光文22年9月31日0時05分・・・20秒、場所は希望ヶ峰学園第一棟屋上の生物室の真上、方角は北14度東、風は西北西から微風、気温は摂氏19度2分、湿度44.6%』

 

 聞き馴染みのあるような、初めて聞くような、そんな声が聞こえてくる。画質が荒いせいで星空が暗闇にしか見えねえ。ラジオ気取りで話すその声の主に、初めて見る穂谷も曽根崎もとっくに気付いてた。目を丸くしたり口をバカみてえに開けてたり、射貫くような視線で眺めてたり、関心なく手持ち無沙汰になったり、映像が終わるまで俺たちは一言も話さなかった。

 

 『お相手は、1年3組の“超高校級の天文部”こと望月藍でした♫バイバイ♫』

 

 そう言って映像は暗闇に戻った。そして、これで望月のついた嘘が明らかになった。

 

 「ウ・・・ウソでしょう・・・?でも今のお顔は・・・いえ、でも・・・!」

 「そうだったんだね。もう、そんなところまで・・・」

 「望月、今そこに映ってたのは間違いなくお前だ。これがお前の動機で、笹戸が死んだ夜に俺に見せてきた。テメエはこの映像を観て、昔の自分と今の自分が全然違えことを俺に相談してきた。忘れたとは言わせねえぞ!それでもまだ、特別なことは何もねえとか言いやがるのか!!」

 「・・・それはあくまで、この映像が本物であった場合の話だ。モノクマによる捏造である可能性を否定できない内は、これが私が学園で変化したことの証拠にはならない」

 「けど、テメエがウソついてこれを隠そうとした証拠にはなるよな?隠そうとしたってことは、テメエはこの映像に何かを感じてたはずだ。それにもし、今の映像が本物だとしたら、もう一つ納得できるもんがある」

 「納得できるもの?」

 

 こいつは確実にウソを吐いた。なんでそんなことをしたのか、それで何を隠そうとしたのか、そんなことはどうでもいい。こいつがウソをつくってことは、非合理的で不確かなことをするってことは、機械的で無機質じゃねえ『望月藍』が出て来始めてるってことだ。

 

 A,【スペシャルファイル①『新希望ヶ峰学園における“才能”研究の概要』)

 B,【スペシャルファイル②『希望プロジェクト プランD経過報告書』)

 C,【スペシャルファイル⑤『希望プロジェクト プランS経過報告書』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『希望プロジェクト プランD経過報告書』・・・大層な名前の上に意味の分からねえ中身だったが、今の映像と合わせて考えたら気色悪いほど説明が付くんだよ!」

 「希望プロジェクト・・・!じゃあやっぱり望月サンは・・・!」

 「記憶にないな」

 

 こんな堅そうな資料なんて持つだけでムズムズするが、これを使えばできる。まだしらばっくれる望月を、自分で自分を見失ってる望月を、変わり始めてる望月を、完膚なきまでに論破できる!

 だが問題は、ここに書いてある小難しい用語の意味が分からねえってことだ。だからここは、その手に詳しそうな奴に任せとこう。

 

 「おい曽根崎、この実験がどんな内容なのか説明しろ」

 「えっ、ボク?なんでボクが」

 「いいから説明しろ」

 「・・・ここに書いてあることを読む限り、プランDは、特殊な投薬によって被験者の精神的エントロピーを減少させ、相対的に脳機能の“才能”が占める割合を増やすことで“才能”を成長させる実験みたいだね」

 「で、平たく言うとどういうことだ」

 「分かってないなら自信満々に証拠として提出しなければよろしいのに」

 「うるせえ!それしかねえんだしょうがねえだろ!」

 「えーっと、平たく言うとね」

 

 読まれてもまったく分からん。穂谷に図星を突かれたが、これで望月の本性を暴けるならどうだっていい。曽根崎がため息をついて、今の内容をまとめた。

 

 「記憶や感情、思考、葛藤・・・そういったものが詰まってる脳の中身を空っぽにして、“才能”を伸ばすことにだけ専念するように薬で人を改造する計画ってこと」

 「感情や記憶を・・・薬で消すということですか!?そんな名探偵も腰をぬかすような代物、あり得るのですか!?」

 「できなくはないと思うよ。精神安定剤や睡眠薬みたいに脳や感情に働く薬は実際にある。まあ、“才能”以外の全部を消すとなると、相当な劇薬には違いないだろうね」

 「それが私とどう関係しているのだ?」

 

 ここまで言って、望月の頭で理解できねえわけがねえ。こいつはまたウソを吐いた。何も分かってねえってウソだ。だったら分からせてやる。もうテメエは言い逃れできねえってことを!

 

 「今の映像とこの資料、そして今のお前の態度。合わせて考えりゃ、誰でも分かることだろうが!」

 「何が分かるというのだ」

 「このプランDの資料、被験者のところが黒く塗り潰されてやがる。だが今なら分かる。この実験を受けてたのは・・・テメエだ、望月!」

 「私が?投薬実験を受けていた?」

 

 とぼけた様子で望月は繰り返した。本当に分かってねえのか、分かってねえフリをしてんのか。どっちか分からねえのは、こいつ自身が確信を持ててねえからだ。こいつはまだ、俺たちとは違う。俺たちが持ってるものを、こいつはまだ持ってねえ。

 

 「映像のお前は感情があって“才能”が未熟だった。今のお前は感情がなくて“才能”は圧倒的に伸びてやがる・・・殺人が起きてもお構いなしに夜中に天体観測するなんて、“才能”のことしか考えてねえってことだろうが!」

 「合理的に判断すれば私が殺害される理由がなかった。故に安全と判断して行ったまでだ。“才能”など関係ない」

 「テメエはこの実験で“才能”を伸ばす代わりに感情を失くすことを選んだ!さっきの映像でテメエは確実に『感情』を持ってた!他愛ねえ独り言も、天体観測の実況中継も、いい加減で不完全な星座の知識も、あんな真っ直ぐな笑顔も、今のテメエには何一つねえだろうが!同じ人間なんて思えねえくらいに違った!」

 「同じ人間ではない。それだけだ。それ以外の答えなどない」

 「“超高校級の天文部”望月藍が、テメエをおいて他に誰がいるってんだ!!」

 

 どんだけ否定しても、もう撤回はできねえ。望月は確実に、この希望プロジェクトってもんに関わってる。間違いねえ。そんなことは考えりゃ分かるし、望月だってそれが分からねえほどバカじゃねえ。なのに否定する理由は一つだ。

 

 「望月、テメエは言ったよな?理解するのに必要な事実を知らなけりゃ間違うって」

 「当然だ。前提知識もなく物事を理解することはできない。お前のその論も、物的証拠が存在したとしても、そんな計画が存在したことも、私が過去に感情を持っていたことも証明できなければ、その知識がなければ単なる憶測の域を出ない」

 「証明すりゃいいんだろ・・・?」

 

 これは賭けだ。俺の論を証明するのは俺じゃねえ。望月自身だ。

 

 「モノクマ」

 「ん?なに?もう投票タイム?」

 「望月の記憶のパスワードを教えろ」

 「ほへ?」

 

 一瞬、モノクマはきょとんとした表情をした。あの時モノクマが俺たちに与えた五つ目の動機。希望ヶ峰学園にいたときの記憶がその正体だ。だが、望月はまだその動機を受け取ってねえ。パスワードを目にしねえと、その記憶は眠ったままだ。

 その記憶が証拠になるかどうかは知らねえ。だが、こんな実験に参加したことが望月にとって些細な記憶であるはずがねえ。何らかの形で記憶の中に眠ってるはずだ。

 

 「んー、あんまり望月さんの動機ばっかりバラすのはどうかと思うけどねー。それってなんか不公平じゃない?他にも隠し事してる人だっているんだから・・・」

 「そんなもん後でいくらでもバラせばいいだろ。いいから見せろ」

 「・・・んまあいっか!どうせこれが最後の裁判っぽいしね!出血大サービスで、“超高校級の天文部”こと望月藍さんの記憶パスワードを大公開しちゃいまーす!」

 

 ついさっき望月の動機ビデオを流したスクリーンに再び砂嵐がかかる。晴柳院の時みてえにあそこにパスワードを映し出すつもりか。どんな言葉が出るか、それによって呼び起こされる記憶は何か、その結果望月がどう変化するか。何が起きるか分からねえが、もうこれに賭けるしかねえ。

 

 「では、いってみましょーーーう!オマエの記憶のパスワードはこれだよ!」

 

 モノクマが指を鳴らす仕草をすると、かかってた砂嵐の向こう側にうっすら文字が浮かび上がる。ノイズは徐々に晴れていき、やがてその言葉ははっきりと読めるくらいになった。

 

 

 

 

 ーー カ ム ク ラ イ ズ ル ーー

 

 

 

 

 「!」

 「カムクラ・・・イズル・・・?これは・・・確か・・・!」

 「・・・ッ!!ぅうううっ!!んぐぅっ・・・!!?」

 

 映し出された文字に、全員が身構えた。これは人の名前だ、俺たちがよく知ってる名前だ。希望ヶ峰学園にとっては・・・希望の象徴であり、絶望の権化でもある。

 その名前を見た瞬間、望月は呻き声を上げた。冷や汗をかいて、頭を押さえ、大きくふらついた。表情は見えねえ。だが漏らす息が、腕の隙間から覗く目が、仰け反るような姿勢が、明らかに『動揺』を表していた。その望月は確かに、感情を持っているように見えた。

 

 「カムクライズルが望月サンの記憶のパスワード・・・!ってことはやっぱり望月サンは・・・!」

 「この名前は確か、曽根崎君が話していた希望ヶ峰学園の研究目的とかなんとか・・・」

 「んな話は今どうだっていい!おい望月!何を思い出した!」

 「ぐぅっ・・・!うっ・・・くっ、はぁ・・・はぁ・・・!!」

 

 息を切らしてふらつく望月は、今まで聞いたこともねえような声色で溢す。

 

 「お、もいだした・・・!わ・・・わたしは・・・!わたしは・・・!!」

 「!」

 

 なんとか倒れずに踏みとどまった望月は、伏せた顔を手で覆ってて顔色が見えねえ。漏れる声からは動揺だけじゃなく、焦りと、混乱と、驚きがうかがえる。覆ってた手をゆっくりと外したその表情は、相変わらず無機質で締まりがない。だが薄ぼんやりと、表情を見ることができた。

 

 「私は・・・カムクライズルになろうとした・・・!!」

 「えっ・・・?」

 「曽根崎、弥一郎の言う通りだ・・・!妙な薬を渡され・・・それを飲んだ。胸の窮屈さが・・・身が軽くなったような錯覚を覚えた・・・。“才能”が劣っていたことを気にしなくなり・・・興味深い授業にも意欲が失せ・・・だが点数は向上した・・・。周囲との繋がりに意味を求めるようになって・・・再び孤独になって、誰もいないと・・・夜空が、澄んで見えた」

 

 ぽつぽつと語る口調が明らかにおかしい。回りくどくて、やたら堅くって、意味が分からねえ言い方じゃなかった。ただの高校生が話すような口調と、望月の無機質な喋り方がごちゃ混ぜになったような。まださっきまでの喋り方が抜けてねえのか。それとも、望月自身がまだ混乱してるのか。

 

 「“才能”のことだけ思案するようになり、その他のことは何一つ問題ではなくなって、自己を見失ったように曖昧な・・・私に何が起きたのだと、不安定になった。だが、もう一度あの薬を飲んだら・・・それすらも思考を放棄して・・・天文学以外のことは考えないようになっていた・・・」

 「プランDの報告書に書いてある通りだ。本当に“才能”に関すること以外を脳から消すなんて・・・」

 「カ、カムクライズルになろうとしたというのはなんですか!そんなことをして、結局貴女は自分が望月さんであると自覚しているではないですか!」

 「私は・・・単なる実験台だ。そんなことは理解していた・・・なのに、“才能”を伸ばすことができると唆され・・・一時の安堵で不安を掻き消して・・・いつの間にかそのどちらも感じなくなっていた・・・」

 「・・・バカ野郎が」

 

 ファイルにも書いてあったが、この実験はただ薬の効果を見るためだけの実験だ。その結果、望月が“才能”を極めようが、潰れようが、どうだってよかったはずだ。まさかモルモットにお前はモルモットだなんて言うはずがねえ。あの感情がある望月を誑かしたんだろう。自分から実験に参加するように。

 

 「じゃあ望月サン、キミは何も知らないわけだね?プランD以外の実験についてとか、カムクライズルについてとか」

 「そんなわけないでしょう!カムクライズルになろうとしたって言っていましたよ!貴女、カムクライズルについてどこまでご存知なのですか!すべて話しなさい!」

 「今までの話を総合し、自分の身を振り返ったとき、最も端的に表す言葉だと判断したまでだ・・・。でも私は、他の実験については何も知らないし、曽根崎、弥一郎から聞いた以上の情報は知らない」

 「そうなんだ・・・旧学園派がその手の実験をしてることは知ってたけど、望月サンも被害者の一人だったとはね。これで卒業条件が明記されてない理由も分かったよ。カムクライズルの可能性を持つ生徒なんて、新学園派は何があっても戻したくないだろうしね」

 「正体の分からない不気味な方でしたが、暴かれてしまえばどうということはありませんね!所詮貴女も、“才能”なんかのために身を滅ぼしたお馬鹿さんだったということです!そこの彼のように!」

 

 穂谷の言う通りだ。簡単な話だ。望月は、“才能”を得るために人格を捨てた。“才能”のために過去の自分を捨てた。そこまでして手に入れた“才能”を喜ぶための感情も捨てた。結局こいつに残ったのは、中途半端な人間味と“才能”だけだ。

 

 「それがキミの正体ってわけだ。それで、キミは黒幕なのかい?」

 「・・・え?」

 「カムクライズル創造の実験台だったんでしょ?ファイルにもあるけど、望月サンが受けた実験は端からカムクライズルを造るための実験じゃない。中途半端にカムクライズルになったキミが、自分を切り捨てた学園への復讐として、学園生のボクらにこんなことをさせてると考えれば、動機の説明もつく」

 「って、んなわけねえだろ!六浜は黒幕との直接対決を避けて自殺したんだぞ!あいつが、望月なんかに負けたってのか!」

 「カムクライズルの可能性まで彼女が予言してたならあり得るよ。“超高校級の希望”でありあらゆる“才能”の保有者・・・六浜サンが勝負を投げる相手としては申し分ないと思うけど?」

 「だとしても、望月はカムクライズルのなり損ないだ!六浜はそんな奴に勝負を投げたりしねえ!望月は黒幕じゃねえ!」

 「どうしてそんなことが言えるの?」

 

 いつもいつもそうだ。曽根崎は自分勝手に真相に辿り着いて、それを他人に押しつけようとする。相手がどんだけ理屈を並べても、感情で責めても、自分の結論と違うものを認めようとしねえ。それこそ、決定的な証拠でも叩きつけてやらねえとこいつは曲がらねえ。そんなもんがねえことは、俺もよく分かってる。

 

 「・・・んなもん、納得できねえからだ。納得できねえことには賛成できねえ。望月が黒幕じゃねえって証拠も・・・実際のところねえしな」

 「ダメだね、議論にすらなってないよ」

 「元からまともに議論ができる方ではありませんでしたが」

 「だけどな、望月の他にも怪しい奴はいるぞ・・・カムクライズルに関係してる奴なら、誰だってその可能性はあるんだろ!」

 「へえ」

 

 呆れたような言い方だったが、曽根崎の視線が望月から俺に移った。カムクライズルの名前を出せば、曽根崎はその話に食いついてくる。

 

 「望月が受けてたプランDの報告書と、更正プログラム参加者の中に同じ名前がある。このインジサチロウってのは誰だ」

 「インジ?・・・すまない、私は関知していない」

 「誰ですかそれは?」

 「インジじゃない、ヒキジだよ。引地佐知郎」

 

 なんて読むか分からねえから適当に読んだ。それだけで、曽根崎は敏感に反応してきた。プランDの報告書の中で、実験を嗅ぎ回ってる奴として、そして更正プログラム参加者名簿の中には、曽根崎が関係を持ってる可能性がある奴として、その名前があった。こいつは、一体なにもんだ。

 

 「引地佐知郎は、ボクの2つ上の学年の先輩だよ。“超高校級のハッカー”として、希望ヶ峰学園に入学したんだ」

 「・・・それだけではないのだろう?私が受けていた実験の報告書に記名があるということは・・・少なくとも旧学園にとって何らかの影響力を持っていたはずだ」

 「更正プログラムの名簿には、お前と引地との関係を切ることが卒業条件になってた。お前はこいつのことをもっと知ってるはずだ。場合によっちゃ・・・カムクライズルにも関係してくるんじゃねえのか!」

 「もしそうなら、曽根崎君、貴方も私とは異なる立場であると考え直す必要がありそうですね」

 

 ただの学園生じゃねえことはもう分かり切ってる。問題は、曽根崎とどういう関係にあったか、カムクライズルのことをどこまで知ってたか、そして今どこで何をしてるのかってことだ。希望プロジェクトが生徒に知られた時点で、そいつも問題児として隔離されたっておかしくねえのに、この合宿場に引地佐知郎なんて奴はいねえ。

 今俺たちがそれについて手にできる手掛かりは、曽根崎だけだ。

 

 「先に言っておくよ、清水クン」

 

 その言葉からは、その言葉が意味する以上の意思が伝わってきた。全てを話してやる、だが絶対に譲らないって強い意志だ。

 

 「引地先輩が黒幕だって言うんなら、それは絶対にあり得ない」

 

 用意してた武器を一つ、出す前に封じられた。カムクライズルに関係しててこの場にいねえ奴は、黒幕としてこれ以上なく疑わしい。だが十分に議論する前にその可能性を曽根崎は潰してきた。

 

 「引地先輩は、ボクと同じ学園で広報委員だった人だよ。ただそこに書いてある通り、ボクが入学する前から、未来機関のスパイとして学園で活動してたんだけどね。もちろんカムクライズルのことは未来機関から聞いて知ってたよ。そもそも未来機関からカムクライズルのことまで、ボクに教えてくれたのは引地先輩だからね」

 「そんなことは私の実験について調べていたことから推察可能だ。私が問題児としてここにいるのは、引地佐知郎の調査によるものということだな」

 「だろうね。先輩は望月サンが希望プロジェクトに関わってることを知って、それを未来機関に報告した。だけどそれと引き替えに、先輩も未来機関のスパイであることを旧学園派に知られたんだ。キミと先輩の間に何かあったかは知らないけどね。だけど、ボクはキミがそういう人間だっていうことは知ってたよ。ここに来た時からずっとね」

 「し、知っていた・・・?で、ではなぜそれを言わなかったのですか!彼女は私たちとは違うと!」

 「言ってどうなるの?いきなりこんな話をして、それをキミたちは信じたかい?それに望月サンがボクたちとは違うってことは知ってたけど、未来機関のことは忘れてたんだ。いや、忘れさせられてたんだ。曖昧な部分のある情報を伝えるわけにはいかないよ、ジャーナリストとしてね」

 「あのファイルでお前が取り戻した記憶は、それか」

 「はっ!?お前記憶取り戻してたのかよ!聞いてねえぞ!」

 「話す人を選ぶことだったからね。結局みんなに知られちゃったけど・・・」

 

 微妙に話がズレてきたが、どうやら望月が問題児として学園にマークされるようになったのは引地佐知郎のせいってわけか。未来機関の差し金で曽根崎の先輩ってことは、新学園派の方ってことになる。だがそれだけじゃ黒幕じゃねえ根拠にはならねえ。

 

 「で、それがなんだってんだ!引地が未来機関のスパイだってのは学園にバレてたんだろ!同じ立場のお前が合宿場にいるのに、なんでこいつはいねえんだ!」

 「厳密には同じ立場じゃないよ。先輩は望月サンの件で完全にバレちゃったけど、ボクはその時まだ何も行動はしてなかった。先輩との繋がりを問題視されてる段階だ」

 「大差ありませんね。むしろ引地さんの方が問題としては重大なのではありませんか?なのに、なぜいないのですか?」

 「死んだからだよ」

 

 端的で、ストレートで、明確だ。その言葉を発する曽根崎の目は、少しも揺れてない。事実を事実として受け入れる、あの目だ。

 

 「先輩は“知りすぎた”んだ。望月サンの件で旧学園派にバレてからは、それ以上深くまで知るべきじゃなかった。だけど先輩は希望プロジェクトで何人もの生徒が実験に参加してることを突き止めて、その全てを調査しようとした。そんな動きをして、旧学園派が何もしないわけないよね。ハッカーである以上、身元がバレたらおしまいなのに」

 「では死んだというのは・・・旧学園に口封じをされたということですか?まさか、たかが研究のためにそこまで・・・」

 「希望ヶ峰学園はなんでもやるよ。自分にとって都合の悪いことには特にね。先輩だってそれを知ってた。だからこそ敢えて目立ったんだ。そのおかげで・・・ボクがここにいるんだから」

 「囮になったってことか?」

 「うん、初めからそのつもりで、ボクを引き入れたんだと思う。いつバレるとも分からない中で、任務を引き継げる誰かを探してたんだ。それがたまたまボクだったってだけだよ」

 「そりゃあ・・・お前もこの話に巻き込まれたってことになるよな?お前が俺らを巻き込んだように、お前だってこんな話知らなきゃこんなところには・・・!!」

 「だけどボクは、先輩を恨んだりしないよ。だって先輩は、ボクを庇ってくれたんだから。単なる任務の引継役じゃなくて、広報委員の後輩として、学園の生徒としてボクに色んなことを教えてくれた。だからボクは、その使命を受け継ぐ義務がある。旧学園派の闇を暴いて、カムクライズル研究を止めさせる義務がある。だから、望月サンがどこまで知ってるのか興味があったんだけど・・・どうやらここまでみたいだね」

 

 だから曽根崎は、引地が黒幕じゃねえと言い切ったのか。曽根崎が問題児と認識される前に死んだ奴なら、ここにいなくても納得だ。そして同時に、曽根崎もこれ以上望月を追及しても無駄だと分かったらしい。

 

 「ありゃりゃ?行き詰まっちゃった感じ?議論ストップで投票ゴー?こんな中途半端なところでやめられたらやだよ!ボクだっていくなら最後までいきたいよ!」

 「だったら貴方の方から証拠や議題を提供しなさい」

 「それはボクの立場上できません!オマエラががんばってるところに野次を飛ばしたり茶々を入れたりするのがボクのキャラなんだから!大体必要な情報は全部あげたって言っただろ!」

 「それはつまり、俺たちの集めた情報の中にお前の正体の手掛かりがあるってことか?」

 「どうかなー?」

 

 モノクマははっきりとは言わねえが、意味してるところは同じだ。今まで俺たちが集めてきた証拠の中にモノクマの正体に繋がる手掛かりがあるはずだ。だが今までに出た証拠じゃ黒幕まで辿り着けねえ。他に何かねえか。黒幕の正体に繋がる何かが。

 

 A.【スペシャルファイル③『コロシアイ』)

 B.【六浜の遺留品)

 C.【スペシャルファイル⑤『希望プロジェクト プランS経過報告書』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえば・・・望月が実験台になってたやつ以外にも、似たようなファイルがあったよな?」

 「似たようなファイル?なんですかそれは?」

 「望月サンが参加していたのがプランD。もう一つは・・・プランS」

 「プランS?」

 

 希望プロジェクトという名前で、同じような名前で、関係がないはずがない。プランDで望月がカムクライズル化の踏み台にされてたんなら、このプランSの目的も、おおよその予想はつく。問題は、その報告書がどうやって続いてるかだ。

 

 「資料から読み取る限りでは、プランSは一人の人間が保有できる“才能”の限界数を調べるものみたいだね。カムクライズルはありとあらゆる“才能”を持つ存在だ。普通の人間の限界を調べて、どう改造するべきかの参考にしようと思ったんだろうね」

 「し、しかし・・・この“才能”とは“超高校級の才能”を指すのだろう?一人一つがほとんど、二つ持つのも稀だというのに、その限界などどう調査するというのだ。それにその言い方では、まるで“才能”を後天的に得ることが可能であることが前提となっているようだ」

 「“才能”を後天的に得る?それはどういうことですか?“超高校級の才能”はそう簡単に手に入れられるものではありません!だからこそ希望ヶ峰学園が特権的な学園たりうるのです!」

 「ああ、普通はな。けどこれは、希望プロジェクトだ。カムクライズルなんてもんを造り出そうとするようなヤベえ奴らだぞ?どうにかして“才能”を手に入れる方法を確立してたとしたら・・・ッ!」

 「そんなの確立されてたら、カムクライズルなんてすっ飛ばして“才能”の物質化の第一歩クリアしてるじゃないか!」

 

 自分で言ってて、脳みその中で急に点同士が繋がった気がした。プランSの報告書を見る限り、旧学園派は何らかの方法で“超高校級の才能”を植え付けてたらしい。

 

 「プランSの報告書には、“才能”が一ヶ月単位で何個も開花したって書いてあった。こんなもん、明らかになんか妙な手を使ってるとしか思えねえだろ!」

 「でもそれ以上のことはこの資料からは読み取れないね。最終的にはこのプランも失敗に終わってるみたいだし」

 「“才能”をいくらでも身につけることができる人間・・・ですか。確かに曽根崎君の言うカムクライズルになり得る人間ですが、どうやら既にどこかに連れて行かれてしまっているようですね」

 「・・・どこか、じゃねえ」

 

 身体が震えてきた。なんでだ。今まで学級裁判で同じようなことを何度もやってきたじゃねえか。この仮説があってるかどうかなんて何の保証もねえ。根拠というのも憚られるような、直感の集まりみてえな主張だ。だが・・・真実を捉えてる。そういう感覚には覚えがある。

 

 「どこか、じゃないとはなんだ?」

 「・・・何か、気付いたの?」

 「いや・・・」

 「気付いたのなら、言いなさい。なんでもいいです」

 「とんでもなく、バカげてるぞ」

 

 自信がないわけじゃねえ。あんまりにもバカバカしくて、突拍子も脈絡もなきゃ、不条理の極みみてえな話だ。だからそう前置きでもしねえと、自分の気持ちを落ち着けて話せねえ。

 

 「プランSに参加してた奴は・・・何らかの方法で“超高校級の才能”を手に入れることができた。それはもともと持ってた“才能”を開花させたわけじゃねえ。むりやり手に入れたんだ」

 「・・・?」

 「地下の資料室を見たか?あそこにあったのは、今まで希望ヶ峰学園に入学した“超高校級”の奴らの名簿だった。それがいくつもあって・・・俺たちのものもあった」

 「ああ。あれね。棚にあったものは一通り目を通したけど、全部に『済』のハンコが押されてたね。ボクらの分だと、もう死んじゃった人たちにだけに押されてたよ」

 「なんですかそれは。ずいぶんと悪趣味な部屋ですね」

 「あの『済』のマークの意味・・・死んだ奴らの分に押されてるのかと思ってたが、そうじゃねえ。死んだ奴らは、もう“才能”のサンプルにならねえって意味の『済』だったんだ」

 「“才能”のサンプル?清水、翔。お前は何を言おうとしている?」

 「黒幕がもともと、たった一つの“才能”しか持ってなかったとしたら・・・!そいつが他の“才能”をサンプルにして・・・新しく“才能”を手に入れられるような奴だったとしたら・・・!だ、だから・・・!黒幕は・・・!黒幕も・・・希望ヶ峰学園の生徒だってことは・・・黒幕が持ってた“才能”が・・・!」

 

 自分で言ってて、あり得ねえと思った。そんな話あるわけがねえ。だってそれじゃまるで・・・まるで俺が・・・!

 

 

 Q『黒幕の“才能”は?』

 

 【“超高校級の歌姫”)

 【“超高校級の陰陽師”)

 【“超高校級の棋士”)

 【“超高校級の考古学者”)

 【“超高校級の広報委員”)

 【“超高校級のコレクター”)

 【“超高校級の裁縫師”)

 【“超高校級の釣り人”)

 【“超高校級の天文部”)

 【“超高校級の努力家”)

 【“超高校級の爆弾魔”)

 【“超高校級のバリスタ”)

 【“超高校級の冒険家”)

 【“超高校級のマジシャン”)

 【“超高校級の野生児”)

 【“超高校級の予言者”)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ち、“超高校級の”・・・“努力家”だったとしたら・・・!!」

 「・・・ッ!!」

 「他人の“才能”をそのまま学習するような“才能”だったとしたら・・・説明がつくだろ・・・!」

 

 勝手に止まろうとする言葉を無理矢理に吐き出した。こんな推理が合ってるなんて自分でも思いたくねえ。だけどあの資料室にあったものや、プランSの報告書を読んだら、一度仮説を立てちまったら。もうそうとしか思えなくなっちまった。言うしかなかった。

 

 「・・・な、なにを言っている・・・?」

 「黒幕が“超高校級の努力家”・・・それってつまりさ・・・。キミは、キミ自身が黒幕だって」

 「ッなわけねえだろ!!!」

 

 何の意味もねえのに、その言葉を遮った。ついさっき自分が言ったことと同じことなのに、他人から言われるとそれがもう間違いのねえ事実のように思えて、つい否定した。

 

 「そんなバカなこと・・・あるわけねえだろ!!なんで俺がそんなことする必要があるんだ・・・!!俺にこんなことできるわけねえだろ・・・!!俺はなんの“才能”もねえんだぞ・・・とっくの昔にそんなもん捨てたんだぞ!!ただの“無能”なんだぞ・・・!!」

 「黒幕が“超高校級の努力家”だと、貴方がいま言ったのではありませんか!言うなり否定して、何がしたいのですか!」

 「知らねえよ!!ただそう思ったから言っただけだ!!俺だってこんなこと信じられねえよ!!もしそうだったら・・・六浜はなんで・・・なんで俺なんかに・・・!!」

 

 身に覚えがねえ。何も知らねえ。それなのに、“超高校級の努力家”なんて肩書きだけで、俺は今までのこと全てが自分の上に乗っかってきたような、重圧を感じた。マジでそうなのか?黒幕がこんなことしたのは、全部そんなことのせいだってのか?その黒幕は・・・。

 

 「ねえねえ、あのさあ」

 

 どこかに飛びそうな意識が、間抜けな声で呼び戻された。対面の玉座に座るそいつは、シンプルな言い方で俺に尋ねた。

 

 「なんかまとまりがなくなってきたからちょっと口出させてもらうけどさ、オマエラ、なんか早とちりしてない?」

 「え?」

 「なんで清水くんがオロオロしてんの?もしかして、実は自分が黒幕でした!!ってオチを想像してビビっちゃった?」

 「は?な、なにを・・・?」

 「うぷぷぷぷ!それじゃあオマエラのために、ボクが一肌脱いであげましょうか!文字通り、こんな綿だらけの身代わりなんか捨て去っちゃってね!」

 

 モノクマはそう言うと、玉座の上で跳び上がった。次の瞬間、玉座が大きく揺れて床の下に沈み込み、モノクマも続いてその中に消えた。

 

 「はっ!?」

 

 真っ暗な穴が裁判場に忽然と現れた。どこまでも深く続いていそうな、どこまでも暗い闇だった。モノクマが消えてすぐ、穴から噴き出すスモークが周囲一帯を白く塗り潰した。その向こうでさっきの玉座がゆっくりとせり上がる影が見える。

 そこには、明らかにモノクマとは違う誰かが腰掛けてた。左足を右膝に乗せて、空いた膝に肘をついて頬杖をついてた。所在なさげにぶら下げた右腕と、スモークが晴れた向こうに見えた退屈そうな眼、長い黒髪を乱雑に伸ばした風体なのに、シワ一つない希望ヶ峰学園の制服に身を包んでた。

 

 「んなっ・・・!?」

 「これは・・・!」

 「・・・」

 「ま、まさか・・・!」

 

 まともに口が動かず、言葉を失う俺たちを一瞥して、『そいつ』はため息交じりに言葉を発した。

 

 「どうも、黒幕です」

 

 至極面倒だ、とでも言いたげな声色だった。なおも呆気にとられる俺たちに畳みかけるように、『そいつ』はまた口を開いた。

 

 「『“超高校級の希望”になる者』と呼んでください」

 

 意味が分からなかった。いきなり出て来て、『そいつ』は自分が黒幕だと名乗った。“超高校級の希望”になる者ってなんだ?っていうか、さっきまで黒幕は“超高校級の努力家”だって話だったのに、なんでいきなり出て来た?

 

 「清水翔くん。キミの推理は正解です。私はもともと“超高校級の努力家”という肩書きで希望ヶ峰学園に入学しました。もっとも、キミたちとは離れた学年だったので、ほとんど知らなかったことでしょう」

 「“超高校級の努力家”・・・!お、お前が・・・?」

 「そう驚くことではありません。“超高校級の幸運”のように、同じ“才能”をスカウトすることはあり得ることです。まあキミの場合は、少々事情が異なりますが」

 「黒幕と・・・言いましたね・・・。それはつまり・・・貴方がこのコロシアイを企てたと?」

 「もちろんです。合宿場を乗っ取り、希望ヶ峰学園との繋がりを断じて、過去のコロシアイを模倣しました。モノクマというゲームマスターは江ノ島盾子のものを再現してみたのですが、上手くできていたでしょうか」

 「記憶を奪って、学級裁判を仕切って、処刑をして・・・全部お前一人でやったということか?」

 「はい。私は一人であって一人ではありません。資料室を見たんですよね?今までこの努力の“才能”によって培った無数の“才能”を使えば、難なく実行することができました。時間こそかかりましたが」

 「希望プロジェクトでカムクライズルになろうとして・・・失敗したって書いてあったけど、死んでなかったんだね」

 「ええ。私はあのまま続けていても問題なかったのですが、当時の担当者の方がひどく心を病んでしまいまして、私の“努力”を中断させてしまったのです。ああ、彼はもう生きてませんよ。あのまま生きていても気の毒なので、私の“努力”ついでに殺してあげました」

 

 聞かれたことを、聞かれてないことも含めて、ペラペラと『そいつ』はしゃべり出す。その言葉は淡白で、自然で、異常なことなのに異常なくらい異常さを感じさせねえ。

 

 「どうして今になって急に出て来たの?」

 「本来は姿を現すつもりはなかったのですが・・・清水翔くんがあまりにも自分を追い込んでいるように見えて、このままでは出る機会を逃してしまうと思ったので出ました。議論も煮詰まりかけていたので、答え合わせついでにでもと。他に何か質問はありますか?」

 

 まるで、さっさとこの場を終わらせてえというような意図を感じる。答え合わせだと?今までの議論全部に、明確な答えを出すのか?投票も終わってねえのに、なんでそんなことをする?

 

 「六浜サンを殺したのは、キミなの?」

 「いいえ。あの時点で私は真っ当に学級裁判を開き、初めから姿を現して皆さんと対決する予定でした。しかし六浜童琉さんが私の正体に気付いてあのような行動に出て、予定を変えざるを得ませんでした。厳密には彼女が気付いていたのは、私が『“超高校級の希望”になる者』だという事実にだけでしたが、同じ事ですね。私との直接対決に勝ち目がないと判断したのでしょう」

 「しかしそれは、お前の意思に反する行動だろう。止めはしなかったのか?」

 「いついかなる時であっても、殺人に関する行動をモノクマが止めるわけにはいきません。あくまでコロシアイのルールを守る必要があったので、看過するしかありませんでした。そういう意味では、六浜童琉さんにはしてやられました」

 「ではやはり六浜さんは・・・私たち全員を生きて帰すために・・・!」

 

 違う、そうじゃねえ。そんなことじゃねえ。俺らが聞かなきゃいけねえのはそんなことじゃねえ。どうだっていいんだ、『そいつ』が何をしたか、誰かのか、なんでカムクライズルなんかになろうとしたのか、そんなことはどうだっていい。今きくべきなのは・・・!!

 

 「なんでだ・・・!!」

 

 『そいつ』が出て来た瞬間、黒幕がいたことに俺は安心してた。俺は黒幕じゃなかった。記憶を失って自分で自分の首謀したコロシアイに巻き込まれるなんて、そんなバカげた話じゃなくて良かった。それと同時に、怒りが湧いてきた。なんで俺らがこんな目に遭わなきゃならなかった。なんで俺らが命を懸けなきゃいけなかった。なんで奴らが死ななきゃならなかった。なんで・・・!!

 

 「なんでコロシアイをさせた・・・!!テメエの目的はなんなんだ!!」

 「“努力”ですよ」

 「・・・あ?」

 

 即答されて、思わず普通に聞き返した。

 

 「私の目的はただ一つ、『“超高校級の希望”カムクライズルになること』です。それはすなわち、ありとあらゆる“才能”を手に入れること。この“超高校級の努力家”の“才能”のおかげで、時間さえかければどのような技能技術も、どのような思考や精神や信義も、どのような“才能”も修得することができました。しかし問題はそのモデルです。世の中にどのような“才能”があるのか、その“才能”はどういった要素で構成されているのか、“才能”の保有者はその“才能”に対しどのような考え方を持っているのか・・・こうした、知らなければ予測し得ないものを修得するために、モデルが必要でした。私にとっては、希望ヶ峰学園がそれにあたります」

 「“超高校級の才能”を集めた学園・・・なるほど、打って付けの場所ってわけだ」

 「私は希望プロジェクトの一環で学園生活を監視しながら“才能”を修得する“努力”をしました。それらはプランSの報告書にある通りです。しかし、高校生活をダラダラと見続けるだけではあまりに非効率的でした。その上、プランS自体が没になる緊急事態。これにはさすがに参りました」

 

 やれやれ、というジェスチャーで『そいつ』は話す。当たり前のように言ってるが、他人の“才能”を努力で修得するなんて、そんなブッ飛んだ話、にわかには信じられなかった。

 

 「そこで私は、コロシアイに目を付けたのです。過去行われたコロシアイでは、“超高校級”の生徒たちが己の“才能”を使い、命を懸けてぶつかり合ったと聞きます。自分の命を懸けて“才能”を駆使する姿・・・それこそ、私が知りたかった“才能”の核となる部分が最も強く表れる姿です。だから私も、それを真似してみました。ちょうど、手頃な閉鎖空間と手頃な生徒たちがいたので」

 「・・・は?」

 「結果は上々です。これまでに亡くなった皆さんの“才能”に対する姿勢、考え方、行動、とても勉強になりました。これでますます洗練された“才能”を身につけることができます」

 「では・・・私たちがコロシアイをさせられていたのは全部・・・!?」

 「すべては、私がカムクライズルになるための“努力”の一環です。命懸けで付き合ってもらって感謝してます」

 

 ふざけんな、と言いたくなったのに、その言葉すら出て来なかった。人の生き死にを特に何とも思ってねえというような、当たり前の口調。重みもなにもない、感慨もクソもない、ただの音声の羅列。そんな声だった。

 

 「他に質問はありませんか?」

 「もうありません・・・もう、たくさんです!早く終わりにしましょう!こんな人、早く処刑して・・・!!」

 「それはできないよ。彼はあくまでモノクマの立ち位置。裁判の傍観者だ。参加してない人に投票することはできない。そうだよね?」

 「その通りです。それに、お忘れですか?この学級裁判は、私が予定していた議題とは違います。『六浜童琉さんを殺した犯人は誰か?』。それが今回の議題です」

 「六浜は・・・六浜自身と、俺たち全員に殺された・・・」

 「確認なのだが、私たち全員がクロである場合は、全員が同票で正しい指名という認識でいいのだな?」

 「ええ。間違いありませんよ」

 「クロ5人に対して票数は4票。誰か一人でも生存者に投票した時点で、クロの勝ちが確定するわけだ。でもそんな展開って、キミにとっては不都合なんじゃないの?」

 「ルールを変更することはできません。それに私は、皆さんの生死には興味がありませんので」

 「だからって・・・!!それでいいのかよ!!」

 

 黒幕が自分から正体を明かした。合宿場の謎をすべて話した。この裁判には俺たちが勝ったも同然だ。だから黒幕の奴をぶっ殺そうと思った。なのに、それができねえ。六浜が最後の最後にあんなことをしたせいで、裁判の議題が上書きされた。しかも、どういう結果になってもここでコロシアイが終わる形で。

 

 「クロの勝ちだと!?俺ら全員生きて希望ヶ峰学園に帰るだと!?そんなもん、逃げてるだけじゃねえか!!黒幕が目の前にいて!手の届く場所にいて!生身の人間だって分かってんのに!!死んだ奴らを捨てて俺らだけ逃げんのか!!しかも六浜に騙されて・・・俺らは知らねえうちに逃げ道を用意されて、知らねえうちに黒幕から背を向けさせられてて、知らねえうちに逃げさせられかけてた!!けどもう気付いちまった!!どうすりゃいいんだよ!!このまま俺らは何もしねえまま、ただ逃げんのか!!冗談じゃねえ!!」

 「ではどうするのですか?私たち全員、正しくお互いを指名して、全員処刑されようとでもいうのですか?それこそ冗談ではありません。貴方一人死ぬのならまだしも、残念なことに私たちは一蓮托生の身です」

 「だからって・・・このままじゃ六浜の思う壺じゃねえか!!そんな情けねえ話あるか!!そんな風に生き延びて・・・俺らは・・・!!」

 「そんな風に生き延びるのが、彼女の願いなんだよ。そのために六浜サンは命を懸けた。納得できるかどうかじゃないんだよ」

 「・・・・・・そんなこと・・・分かってんだよ・・・!!あいつの、気持ちは・・・俺が一番・・・!!」

 

 理不尽に突きつけられた、選択になってない究極の選択。六浜の命を無駄にして全員で死んで黒幕だけが勝つ結末(オチ)か、六浜の願いを受け止めて合宿場で起きたことを一切背負わずに逃げて生き延びる結末(オチ)か。そんなもん・・・選ぶ道は一つだ。だからこそ、俺は納得できねえ。できねえのに・・・。

 

 「念のため確認だ。どのように投票する?」

 「下手に投票をバラけさせると、万が一ってことがあるからね。誰かに集中させたいけど・・・いい気分はしないね」

 「でしたら・・・六浜さんに投票すればいいのでは?この計画を企てたのは彼女です。それにもし彼女が生きていたら、きっと自分に投票するように仰ったでしょう」

 「それでは皆さん、お手元のスイッチで犯人と思われる人物に投票してください。投票の結果、クロとなるのは誰か?果たしてそれは、正解か?不正解なのか?どちらでしょうか。ワックワクのドッキドキですね」

 

 『そいつ』は決められた台詞を、決められた通りに発する。これで全てが終わるなんて微塵も感じさせないほど、あっさりと。

 俺たちは誰一人、晴れ晴れしい顔なんてしてなかった。かといって悲痛に顔を歪めてたわけでもねえ。コロシアイから生還する喜び、命のやり取りから開放される安堵、黒幕を前に逃げるしかない悔しさ、死んでった奴らへの悼み。それらは全て、曖昧で釈然としない濃さで脳を埋め尽くす。

 こんな結末でいいのか。こんな不完全な形で、俺たちの物語が終わるのか。

 

 頭が痛くなるほど迷いながら俺はボタンを押し込んだ。無味乾燥で小さな音が、俺たちのコロシアイの終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り4人

 

  清水翔  【六浜童琉】 【晴柳院命】   【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎   【笹戸優真】

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




さよなら、ダイナミズム。いや〜大変でしたわ〜。面白い物語になったと信じてる。反省することも多いですが。
一番の反省は、これ書いてるとき風邪気味だったってことですね。気味でした。マジ風邪ではないです。

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