ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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殺意編

 

 「ッソがあぁ・・・!!!クッソがあああああああああああああああああッ!!!!」

 

 俺が吐き出したものは、ホールの壁に反響してあえなく消えた。いくら喉を痛めても、床を踏みつけても、手のひらに爪を食い込ませても、目の前の現実は無情だ。そこにある死は鮮やかに脳裏に張り付いて、真っ暗な闇が背後に忍び寄るような不安を押し付ける。これが絶望だ。

 

 「・・・?おい、清水翔」

 「ふざけんなよ!!もう終わりじゃなかったのかよ!!モノクマと裁判して終わりじゃねえのかよ!!なんでまだ死人が出なきゃならねえんだ!!!」

 「ハハハハハ!!アハハハ!!ハハハ、ハハ・・・なんですかこれは?六浜さん?死体というのは・・・彼女のことですか」

 「ッ!!テメエ!!!嘲ってんじゃねええええええッ!!!」

 「あ゛あぅっ!!」

 

 思わず手が出た。ただただ悪意しかない笑い声と、冷酷な言葉に。今まで何度も見てきた奴らと同じように、俺もそうなってたんだろう。冷たいほどの悲しみと、血が沸き立つような怒りと、何かに突き動かされて勝手に動く身体。曽根崎と望月に二人掛かりで押さえ込まれて、ようやく落ち着きを取り戻した。

 

 「ハァッ!ハァッ!」

 「清水クン、落ち着いて。動揺する気持ちは分かるけど、それじゃダメだって分かるでしょ?」

 「大丈夫か、穂谷円加」

 「い、痛い・・・!このわ、私にぃ!!手をあげるとは!!」

 「どうどう」

 「裏切り者が死んだのです!笑わずにいられましょうか!」

 

 俺を挑発するように穂谷はまだ六浜を嘲る。曽根崎に襟首さえ掴まれてなきゃ、何してたか分からねえ。冷たくなった六浜を前にして、冷静に考えて行動することなんて無理だった。なのに、奴は何度目か分からねえ同じことを繰り返し、繰り返させる。

 

 「ハイハイハーーーイ!ストップストップ穂谷さん!清水くん!このままじゃまた人が減りそうだからそこまでにしといて!」

 「モノクマ・・・!!大人しくしてたと思ったら、これはどういうつもり?」

 「ん?質問の意味が分からないなあ曽根崎くん!どういうつもりも何も、ボクは相変わらずオマエラのことを見守ってただけだよ!そこで何が行われようとも!」

 「・・・」

 「それにしても、裏切り者の六浜さんが死んでこんなにみんなが混乱するとはね。やっぱキャラは第一印象が大事だよね!裏切り者だろうが殺人鬼だろうが黒幕だろうが、第一印象がキャラのほぼ全てを占めるよね!」

 「失せろ!!」

 「ヒ、ヒドイ言い草・・・!綿のハートに突き刺さるゥ!!はいはい、モノクマは去りますよ。ファイルは生徒手帳に送っておいたから」

 「ファイルがあるということは、やはり・・・」

 「モッチローーーン!!オマエラには最終決着の前に、もう一度学級裁判をしてもらうよ!六浜さんを殺した犯人が誰なのかを、オマエラだけで!」

 「ッ!?ッだと!!ふざけんな!!話がちげえだろ!!」

 「話が違うはこっちのセリフだっつーの!!わざわざボクとの最終決着の場を設けてやったのに、オマエラはそれを無視してまたコロシアイをしたんだ!せっかく用意したお年玉を携帯ゲームのガチャに突っ込まれた気分なんだよ!!」

 「痛み入ります!!」

 

 俺以外の奴らは特に動揺した素振りもなく、モノクマの言うことを受け入れた様子だ。ふざけんな、晴柳院が犠牲になった裁判が最後じゃねえのか。モノクマを直接ぶっ飛ばす裁判になるはずじゃなかったのか。

 

 「ま、なんだかんだ五回連続正解で生き残ってるオマエラだし、こんな事件はテキトーにこなしちゃって、さっさとボクに挑戦しておいでよ」

 「簡単に言ってくれるね」

 「うぷぷ!じゃ、また後でーーー!!」

 

 言うだけ言って、モノクマはさっさと行っちまった。ふざけた話だ。俺たちの中にまだこんなことをする奴がいるなんて信じられねえ。たった四人になって、自分の隠れ蓑なんてほとんどねえのに、バレないまま学級裁判を生き延びるなんてことできるわけがねえ。どいつか知らねえが、そいつこそ立派に裏切り者だ。正体暴いて地獄に叩き落としてやる。

 

 「離せ、曽根崎」

 「大丈夫?」

 「ああ。やらなきゃしょうがねえだろ。クロが合宿のルールで六浜殺して出てこうとしてんなら、俺は同じルールでクロをぶっ殺してやる」

 

 どうせ逃げ場はねえんだ。俺たちにも、クロにも。それじゃあ、捜査を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《捜査開始》

 

 

 「モノクマファイルは・・・相変わらず情報が少ねえな」

 「情報が少ない、ってことも情報だよ。それにしても、外傷がまったく無いっていうのは気になるね」

 

 七つ目になったモノクマファイルには、六浜の死体の写真と死の状況がざっくりとした情報とともに載っていた。唯一の情報といえば、六浜の身体には何の外傷もなく、きれいな状態だったってことぐらいだ。それでも、血の色がなくなって蝋人形みてえに白くなった肌を見ると、その死がじんわりと心臓を締め付けるような気がしてくる。間違いなく、六浜は死んでる。

 

 「多目的ホールって、夜時間は鍵がかかってんじゃなかったか?」

 「そういう決まりはないよ。内扉の鍵をいつもかけてただけで。まあ、夜時間に多目的ホールに行くのも怪しいし、万が一のためだったんだろうね」

 「その鍵はどこにある」

 「これだよ。普段は六浜サンが管理してたんだけど・・・」

 

 そう言って曽根崎はポケットから鍵を取り出した。外の鉄の扉に鍵はないが、内側の木製の扉は簡単な鍵がかけられるようになってる。六浜が見回りついでに施錠してたらしいが、その六浜はホールの中で死んでた。妙だな。

 

 「ねえ清水クン、ボクはちょっと他のところを捜査しに行きたいから、ここの捜査は任せてもいい?」

 「他のところ?どこだ」

 「気になるところがいくつかあるんだ。捜査時間もあまりなさそうだし、頼むよ」

 「まあ、別に構わねえが」

 

 多目的ホール以外に捜査する必要のある場所なんて浮かばねえが、曽根崎の勘はよく当たる。こいつが犯人だって可能性もなくはないが、ここまで来てこんなことするほどバカじゃねえとも思える。どっちにせよ人手が少ねえ。任せてもいいか。

 

 「それじゃ、また後でね」

 

 それだけ言うと、曽根崎は足早に多目的ホールを去って行った。俺はそれを見送るまでもなく、ホール内におかしなところはないか見渡した。フロアに色とりどりのテープでラインが引かれてる意外には何もない。ど真ん中に倒れた六浜の死体を除けば、特に異変はないように感じる。

 

 「ん?」

 

 ぶるっ、と身震いして気が付いた。上の窓も下の窓も開けっ放しだ。外からの風がホール内を巡って外へ出て行く。だから肌寒いんだ。そういえば、昨日六浜と話した時に窓を開けさせられたんだったな。こいつはあの時からずっとここにいたんだろうか。もしあの時、俺が帰らずにいたら、こいつが死ぬこともなかったんだろうか。

 そんなことを考え始めるとキリがねえ。意味なんかねえって何度も思い知らされてきたはずだ。今は、ただ目の前の事実だけを受け止めてりゃいい。

 

 「窓は開けっ放し・・・なのに、なんなんだこの暑さ」

 

 ホール内は風が吹くと震えるほど寒くなるが、すぐに暑いくらいの空気に取り囲まれる。自然にこんな気温になるわけがねえ。空調が操作されてやがるな。ただの暖房なら六浜が付けたで済んだんだが、ここまで暑くする必要があるのか?

 

 「空調は確か・・・あの地下室でコントロールしてるんだったな。後で調べてみるか」

 

 目には見えないことでも重要なことがある。少しでも違和感を覚えたら逃さず覚えておかねえと、後で泣くのは自分だ。それはさておき、事件が起きたら必ず、捜査しなきゃならねえもんがある。目の前で横たわってる、変わり果てた姿の六浜だ。

 

 「・・・むつ浜」

 

 すかさず否定するあいつの声はもう聞こえない。冷たい床にうつぶせのまま、藻掻くような体勢で動かなくなった六浜の肌は、蝋燭のように白い。血の通わねえ人間の肌は、寒気を覚えるほど無機質な色になる。そんな六浜の手を取って、俺は六浜を調べた。と言っても、モノクマファイルにほとんどのことは書いてあるから、持ち物を調べるくらいしかやることはねえが。

 

 「・・・ん?」

 

 六浜の遺留品には別に事件の手掛かりになりそうなものはなかった。出て来たものといえば、ボールペンとメモ帳くらいだ。これが手掛かりになるとは思えねえが、遺留品は遺留品だ。一応覚えとくか。

 

 「相変わらずモノクマファイルは情報不足が否めない。私も直に六浜童琉を捜査したいのだが、いいか?」

 「好きにしろ」

 

 いちいち俺の了解なんかいらねえだろ。望月は死んだ六浜を前にしてもまったく動じず、その顔を覗き込んだ。目を閉じて静かに眠ってるようにさえ思えるほどの無表情だった。望月はその後、六浜の髪を触った。モノクマファイルには白い粉末がくっついてると書いてあるが、確かに半透明な粒がついてる。なんだこりゃ。

 

 「これが例の粉末か・・・どれ」

 「ッ!!?」

 

 望月は、六浜の髪からひとつまみそれを取ると、なんの躊躇いもなく舐めやがった。気持ち悪さと驚きで、思わず後ずさっちまった。普通こんな得体の知れねえもん舐めるか!?

 

 「ほう」

 「お、お前・・・正気か!?毒とかだったらどうすんだ!」

 「食塩だ」

 「あぁ!?」

 「ただの食塩に過ぎないが・・・それがなぜ頭髪に付着しているのだろうか」

 

 俺の言葉を無視して望月は一人で考える。白い粒の正体よりこいつの行動の方がよっぽど意味分かんねえ。得体の知れねえもんを、しかも死体の髪についてたものなんか普通舐めねえだろ。それで死なれてもどうすりゃいいか分からねえ。そもそもなんで俺がこんな奴のことを心配しなきゃならねえんだ。

 

 「ふむ、では後はあそことあそこを捜査して・・・」

 

 ぶつぶつ何か言いながら、望月は多目的ホールを出て行った。俺のことはさっぱり無視して、捜査のために気になるところを調べに行った。なんなんだあいつ。いい加減にしろ。もうどうでもいい、俺は俺で六浜を調べなきゃならねえ。

 冷たい肌の質感が、改めて六浜の死を否応なく実感させる。なんでこいつが死ななきゃならなかったんだ。俺は結局、こいつが背負ってた重荷の一つも背負わせてもらえなかった。全ての重荷を抱えたまま、こいつは死んだんだ。最期の瞬間、どんな想いだったんだ。

 やっと楽になれると清々しかったんだろうか、無責任に死んじまうことを悔やんでたんだろうか、ただただ死の恐怖に怯えてたんだろうか。それさえも分からないまま、俺らはこいつの死と向き合うことを強いられてる。向き合うことでしか、こいつに顔向けできねえ。

 

 「・・・今更言っても遅えよな」

 

 まだこいつに言わなきゃならねえことはあった。けど、それはもう意味を成さない。これは俺が抱え込んでりゃいいことだ。んなことより、今は捜査だ。いつかの六浜の二の舞にはならねえ。

 現場の捜査はあらかた終わったが、これだけで済むような事件じゃねえはずだ。それに、もし犯人が短い時間の中で犯行をしたのなら、この近くに証拠品を処分してる可能性は高い。現場だけじゃなくその周辺も捜査しておくべきだ。

 

 「?」

 

 案の定だ。多目的ホールの舞台袖、スポーツ用品が仕舞われてる小せえ倉庫に、バケツが落ちてた。このバケツには見覚えがある。ホール横の掃除用具庫にあった物だ。本当なら、こんなところにあるものじゃねえ。

 

 

獲得コトダマ

【モノクマファイル7)

場所:なし

詳細:被害者は“超高校級の予言者”六浜童琉。死体発見場所は多目的ホール。死亡推定時刻は午前1時ごろ。目立った外傷、衣服の乱れ、薬物を服用した形跡は一切ない。頭髪に白い粉末が付着している。

 

【多目的ホールの鍵)

場所:多目的ホール

詳細:多目的ホールの内扉を開閉する鍵。六浜が管理していたが、死体発見時には曽根崎が持っていた。

 

【全開の窓)

場所:多目的ホール

詳細:死体発見時、多目的ホールの窓はすべてが開放されていた。外から風が吹き込んできて風通しがよくなっている。

 

【室温)

場所:多目的ホール

詳細:ホール内は空調が効いていてとても暖かく、よく乾燥している。窓が開けられていてわかりにくいが、温度の設定はかなり高めにされている。

 

【六浜の死体)

場所:多目的ホール

詳細:血の気が引いて冷たく硬直しているが、死斑以外に目立った外傷などはない。髪の毛に付着していた白い粉末は塩。

 

【六浜の遺留品)

場所:多目的ホール

詳細:六浜が使用していたボールペンと小さなメモ帳。見た目だけは立派なモノクマブランド。

 

【バケツ)

場所:多目的ホール

詳細:多目的ホール内の用具倉庫にて発見。本来はホール横の掃除用具入れにあるはずの物。底に水滴が残っており、使用した形跡がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多目的ホールで気になるのはこの辺か。いつの間にか、穂谷もどっか別の場所に捜査に行ったらしい。俺が出て行くと多目的ホールには誰もいなくなるが、調べることは全部調べた。時間も限られてるわけだし、さっさと次の捜査場所に行くか。ちと遠いが、例の地下室に行くか。多目的ホールだけじゃなく合宿場の空調設備は全部あそこで管理されてたはずだ。多目的ホールのあの妙な室温の謎が解けるかも知れねえ。

 埃臭え倉庫を通り過ぎて、下手をすると気が狂いそうな真っ白な地下室に来た。空調をはじめとしたあらゆる電子機器を管理してる管理室に入ると、もうそこには先客がいた。こいつがいるとは予想外だ。てっきり近場しか捜査してねえんだと思ってたが。

 

 「お前がいるとは思わなかった、穂谷」

 「いては迷惑ですか?」

 「別に」

 

 薄暗い部屋の中でやつれたこいつがぽつんと立ってると、なんとも言えねえ静かな迫力がある。だが、一人でこんなところまで来れるってことは、前みてえなトチ狂った行動は収まったのか?

 

 「多目的ホールの空調は確かにここで操作されています。誰にでも操作が可能だったようですね」

 「そりゃ、あの気温が六浜殺しに関係してると思ってるってことか?」

 「あら、その程度のことも分からないのですか?モノクマは私たちの生活に関してはかなり気を配っていました。あんな乾燥して気温の高い不快な空気、誰かが操作したとしか思えませんわ。そうでしょう?」

 

 その程度のこと、俺にだって分かる。だが分からねえのは、穂谷がいつの間にか完全に元の調子に戻ってるってことだ。鳥木が死んでからのあれはなんだったんだ。

 

 「ずいぶんと調子がいいみてえだな、女王様よォ」

 「はい?なんですか?」

 「つい昨日までのキチガイっぷりがウソみてえだっつってんだよ。まあ、ずっとあの調子よりはマシだが・・・どういうつもりだ?」

 「どうもこうも、私は決めたのです。こんなところに閉じ込めた黒幕を見つけ出してやると。彼を、平助さんを死に追いやった者を許さないと・・・!必ずこの手で・・・!!」

 

 立ち直ったわけじゃねえんだな。鳥木が死んだのはあいつが明尾を殺したからだ。だが、そんな状況を作ったのはそもそも穂谷が妙な隠し事をしてたせいだ。憎らしそうに言う穂谷に微妙な感情になったが、あのままよりは同じ方向を向いて立てる方がまだいい。

 

 「それに、彼が仰ったんですよ。もうコロシアイは起こさないで欲しいと。だからこのコロシアイを終わらせるために・・・できることをするしかないでしょう?それが私の、彼の気持ちに応えるただ一つの方法なのだから・・・!!」

 「笹戸が余計なことする前にそうなってりゃよかったな」

 「彼らには興味がありませんでしたので」

 

 元に戻ったというより、前よりサイコな面が強くなっただけかも知れねえ。ただ、その殺意が黒幕に向いてんのなら俺らにとっちゃ好都合だ。

 

 「清水くんは私のことを信用されていないようですね」

 「まあな」

 「当然ですね。これまで私は貴方がたに敵意しか向けてきませんでしたから・・・」

 「俺が言えたことじゃねえが、仕方ねえな」

 「貴方がたの、私に気に入られる努力が足りないのではありませんこと?」

 「マジか。逆の流れだと思ってた」

 

 どうも反省してねえらしいな。やっぱり俺の言えたことじゃねえが、こいつには協調性ってもんがまるでねえ。だがまあ、敵じゃねえなら別にいい。

 

 「ところで、多目的ホール以外に操作された空調はあるか?」

 「どうごご覧になってください。過度の暖房機能も乾燥機能も、多目的ホール以外には働いていません。それに多目的ホールにはその二つ以外の空調機能は働いてないようです。まあ、犯人が六浜さんを殺した後で元に戻しただけかも知れませんが」

 「妙なことするんだな」

 

 やっぱあの室温はここで意図的に操作されたもんか。誰がどういう意図でやったか知らんが、元に戻さなかったってことは、あの室温は殺人に必要だったってことか?

 

 「それと、大したことではないかも知れませんが、六浜さんの部屋には行きましたか?」

 「あ?」

 

 

コトダマアップデート

【室温)

場所:多目的ホール

詳細:ホール内は空調が効いていてとても暖かく、よく乾燥している。窓が開けられていてわかりにくいが、温度の設定はかなり高めにされている。空調機能を管理している管理室は誰でも入ることができ、そこで暖房と乾燥機能のスイッチが入れられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件に関係してそうな場所は一通り調べたが、曽根崎と望月はそのどちらの場所にもいなかった。どっか別に、手掛かりが残されてる場所があるってのか?思い当たる場所といえば、被害者である六浜の個室だ。穂谷はそこで何か見たらしいが、手掛かりになるかも知れねえ。ひとまず寄宿舎まで戻った。

 六浜の部屋に入るのははじめてだったな。よく掃除が行き届いてて、物が整理されてる。他の女子の部屋は知らねえが、やたらと少女趣味なもんはない。あるのは無機質な事務用品ばっかりで、あいつらしいと言えばあいつらしい。

 

 「花?」

 

 そんな部屋だからか、小さなテーブルの上に飾られた白い花がやけに目につく。浅い皿に薄く水を張って活けられてるが、普通こんなもん部屋に置くか?あいつが部屋に花を飾るような奴とも思えねえし、水や花がまだ新しい。

 

 「これがなんだってんだ」

 

 穂谷が言ってたのはたぶんこれのことだろう。けど意味が分からねえ。妙っちゃ妙だが、これが事件に関係してるとは到底思えねえ。まさか花を凶器にしたわけでもあるまいし。

 

 「無駄足だったか」

 

 他に気になるところはねえし、タンスやベッドの下を調べてみても特に怪しいものは出て来なかった。この場所の捜査は打ち切って、もう一度多目的ホールの六浜を調べに行こうと廊下に出た。そしたら寄宿舎の出入り口で、望月と鉢合わせた。

 

 「清水翔か。六浜童琉の個室でも捜査していたか?」

 「そうだが、お前はどこ捜査してんだ」

 「少し気になったことがあってな。なぜ動機が与えられなかったにもかかわらず殺人が発生したのか・・・あるいは我々の関知しない間に、誰かが動機を得た可能性もある。そして、各人が最初に配られた動機は保有したままではなかったかと思い出した」

 「それを調べてたのか。まあ、最初の動機でいまさら人を殺すなんてのも妙な話だが・・・なくはねえな」

 「しかし、私のもの以外は発見できなかった」

 「なんだそりゃ」

 

 そう言う望月の手には、例の動機のビデオがあった。その内容も気になるが、今は六浜の事件だ。結局、寄宿舎には大した手掛かりはなかったみてえだ。

 

 「他に手掛かりがあるとすれば・・・資料館などはどうだろうか」

 「あんな場所に何があるんだよ」

 「六浜童琉は、曽根崎弥一郎から希望ヶ峰学園や未来機関についてを聞いた次の日に殺害された。犯人が曽根崎弥一郎の話に何か感化された可能性は十分に考えられる。資料館にはそれに関連する資料が蔵されていたはずだ」

 「・・・」

 

 なんとなく、今の話の流れに作為めいたものを感じた。殺しが起きた時、いつもモノクマは動機を与えてた。だが今回の事件に関しては動機は発表されず、むしろモノクマは最終裁判だと言って生存者全員と学級裁判で戦うつもりだった。だが、もしかしたらこの事件の動機は・・・。

 

 「時間は限られている。行くぞ、清水翔」

 「ん、お、おう」

 

 望月に声をかけられて、俺の思考は強制的にストップした。いつ終わってもおかしくねえ捜査時間に、考えて立ち止まってる暇なんかねえ。とにかく手掛かりをかき集めるんだ。

 

 

獲得コトダマ

【白い花)

場所:六浜の個室

詳細:白い花びらで中心が黄色い花。もともと六浜の部屋にあったものではなく、新しいものである。合宿場に自生している種類ではない。

 

【望月の動機ビデオ)

場所:なし

詳細:コロシアイ合宿生活でモノクマから最初に配られた動機のビデオ。望月のものには、望月にそっくりだがまったく異なる性格の人物が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 積み上げられたファイルは崩れそうで、整理されてねえように見える。なのに曽根崎は、必要なものをその山から一発で引き出して開く。

 

 「ここに仕舞われてたファイルはこれで全部だよ。モノクマが最後に配ったファイルは、ここにあるファイルをまとめたものだね。どれもこれも希望ヶ峰学園にとっては、1ページでも流出したら大火傷なものばっかりだ」

 「これで全部なのか?」

 「うん、これで全部」

 「そんなものがなぜここに集められているのでしょう?モノクマは希望ヶ峰学園にとってどういう存在なのですか?」

 「知らねえよ。俺はこんなもん調べにきたわけじゃねえんだよ」

 

 資料館には曽根崎がいて、地下室を調べ終わった穂谷も来てた。図らずも全員集合ってわけか。ただ、このファイルは、モノクマとの最終決戦で必要になるもんだ。いま、俺らは六浜を殺した犯人を見つけなきゃならねえ。こればっかりに構ってる暇はねえんだ。

 

 「やはり、“超高校級の絶望”とやらが関わっているのではないですか?」

 「どうかな。それはここで考えてても仕方ないことだと思うよ。取りあえずボクは、この資料も事件の手掛かりとして持って行こうと思ってる。みんな手伝ってね」

 「これらが六浜童琉殺害に関係しているということですか?」

 「ないとは言えないはずだよ」

 

 さっき望月が言ってたように、六浜が死んだのは曽根崎からカムクライズルの話が出て翌日だ。六浜を殺した奴は、その話で何かに気付いたか、それとも六浜が何かに気付いて口封じに殺したか。“超高校級の絶望”やら未来機関やら、わけの分からねえ組織が絡んできて頭が痛くなってくる。

 まあ、今までだって動機を考えたって大した手掛かりにはならなかったんだ。人が人を殺す理由なんて色々だって、5回も繰り返してりゃイヤでも分かることだ。しかし困った。もうこれ以上の手掛かりがある場所なんて思い付かねえぞ。

 

 「ん?おい曽根崎、これはなんだ?」

 「ああ、それ?ボクが来た時にはもうあったよ」

 

 資料館の机の上に、あるページを開いたまま伏せられているハードカバーの本。タイトルは『人類の生活』。どうやら人類が生まれてすぐの古代文明の生活から、現代までについて書かれてるらしい。ずいぶんと分厚い。開かれたページのまま、本をひっくり返す。インドあたりの文明での生活が書かれてた。機械もなしに、飲み水を確保したり氷を作ったり物を運んだり灯りを点けたり・・・別段興味もねえが。

 

 

獲得コトダマ

【“超高校級の絶望”)

場所:なし

詳細:旧希望ヶ峰学園での事件を発端として人類を壊滅寸前まで追い込んだ、人類史上最大最悪の絶望的事件を引き起こした主犯格。江ノ島盾子個人を指す場合もあれば、彼女を崇拝する集団や思想そのものを指す場合もある。新希望ヶ峰学園ではかつての勢力は見る影もなく、細々と活動する数名が残るだけである。

 

【『人類の生活』)

場所:資料館

詳細:四大文明や幻の古代文明などの生活から現代までについてまとめられた学術的にも価値の高い1冊。インドで栄えた文明の生活様式について書かれたページを開いて伏せて置かれていた。象が踏んでも潰れないハードカバーで綴じてある。

 

 

【スペシャルファイル①『新希望ヶ峰学園における“才能”研究の概要』)

場所:食堂

詳細:希望ヶ峰学園は、人類の希望を保護し育む希望の学府であり、教育施設であると同時に研究施設である。

 学園の創始者である神座出流は、人の持つ“才能”の研究を行っていた。“超高校級”と呼ばれる生徒たちはみな“才能”に溢れ、未来人類の希望であると同時に学園にとっては興味深い研究対象である。この研究の目的は、人の持つ“才能”を完全にコントロールすることである。すなわち、内に眠る“才能”を引き出し覚醒させるだけに留まらず、“才能”を個人から抽出あるいは個人に付与することをも可能にすることである。これは言わば、“才能”の物質化である。あまねく人々は、自らの望む“才能”を得ることができ、また持て余す“才能”を他者へ分け与えることができるようになる。これこそ、新たなる人類の進化の形と言えよう。故に希望ヶ峰学園は未来の希望である“才能”を保護し育む機関であると同時に、希望ヶ峰学園そのものが人類の希望となるのである。

 この研究の最終的な目標は、ありとあらゆる“才能”を有した人間を造り出すことである。神座出流はそれを、“超高校級の希望”と呼んだ。しかし旧希望ヶ峰学園は“超高校級の絶望”との争いの中で、志半ばでその研究を断念せざるを得なかった。

 

 

【スペシャルファイル②『希望プロジェクト プランD経過報告書』)

場所:資料館

詳細:XXXX/〇〇/△△ 報告者:晴貫 邑吉  被験者:(真っ黒に塗り潰されてやがる)

  ①前回からの経過

  AH-0625による変化は少しずつ、しかし確かに表れています。課題であったプランへの疑念は軽減あるいは消失したものと思われ、それ以外にも言動・思考に変化が表れ始めています。“才能”の伸長という点においては非常に大きな結果を残しています。定期健診の点数も日が経つに連れて向上し、既に入学時の2倍に及ぶポイントを示しています。

  また、抗絶望性は基準値を大きく上回る値を示しており、旧学園における験体『(ここも真っ黒だ)』や他験体で課題となっている抗絶望性に対する一つの解決策を提示しているものと考えられます。

 

  ②プランの問題点または失敗点

  定期的な投薬による身体への影響が懸念されます。現時点で確認できる身体的異常はありません。一方、AH-0625の効果による精神的変化から、複数の生徒に怪しまれています。以前に報告した、引地佐知郎からのマークが懸念されています。

 

  ③その他の報告事項

  引地佐知郎の他に、不穏な動きを見せている生徒がいます。詳細は添付の資料をご確認ください。

 

 

【スペシャルファイル③『コロシアイ』)

場所:発掘場

詳細:・コロシアイ学園生活

 人類史上最大最悪の絶望的事件による世界の崩壊から“才能”あふれる希望ヶ峰学園生を守るため、当時の希望ヶ峰学園学園長、霧切仁氏は生徒の了承の下で、彼らを希望ヶ峰学園に幽閉した。彼らは外部からの影響を受けず、また外部への影響を与えることもなく、学園の中で人類の希望を保持し続けるという計画であった。

 しかし、学園内に残った生徒の中に身を潜めていた江ノ島盾子と戦刃むくろにより、希望のシェルターは絶望のコロシアイ場へと姿を変えた。江ノ島盾子は共に幽閉されたクラスメイト全員の記憶を奪い、外へ出ようとする彼らの感情を煽りコロシアイを強いたのである。結果として江ノ島盾子は自害し、超高校級の絶望の根源は絶たれたが、彼女を含め10名の死者を出す大惨事となった。

 次のページより、コロシアイ学園生活内に死亡した生徒の詳細を記述する。

 

 【舞園さやか】 死因:腹部を刺されたことによる失血

 “超高校級のアイドル”。桑田怜恩の殺害を計画するも反撃に遭い、桑田怜恩によって殺害される。中学時代の同級生でありクラスメイトの苗木誠に濡れ衣を着せようとするが、自身が死亡したことによりトリックが未遂に終わり、失敗する。

 

 【戦刃むくろ】 死因:全身を槍で貫かれたことによる出血性ショック死

 “超高校級の軍人”。“超高校級の絶望”メンバーであり、江ノ島盾子の姉。江ノ島盾子による処刑のデモンストレーションにより死亡。江ノ島盾子になりすましてクラスメイトに接触し、死亡することによって江ノ島盾子が全ての黒幕であるという事実を隠匿するために参加していた模様。頭部が一部焼失している。

 

 【桑田怜恩】 死因:全身の粉砕骨折と打撲

 “超高校級の野球選手”。舞園さやかを殺害したため、処刑される。

 

 【不二咲千尋】 死因:頭部殴打による心機能の停止

 “超高校級のプログラマー”。大和田紋土によって殺害される。自身の死を予測し、事前に人格をプログラミングにより再現し、アルターエゴを作成する。江ノ島盾子は後にこれを利用し、コロシアイ修学旅行を引き起こす。

 

 【大和田紋土】 死因:内臓破裂と全身四散

 “超高校級の暴走族”。不二咲千尋を殺害したため、処刑される。壮絶な処刑が行われたため死体が原形を留めていない。

 

 【石丸清多夏】 死因:脳挫傷

 “超高校級の風紀委員”。山田一二三によって殺害される。

 

 【山田一二三】 死因:脳挫傷

 “超高校級の同人作家”。安広多恵子に石丸清多夏の殺害を教唆され、実行後に安広多恵子によって殺害される。

 

 【安広多恵子】 死因:轢死

 “超高校級のギャンブラー”。山田一二三を殺害したため、処刑される。

 

 【大神さくら】 死因:毒物の摂取

 “超高校級の格闘家”。自ら毒物を摂取し、死亡。死亡直前に葉隠康比呂・腐川冬子・朝日奈葵と会い前2名から頭部に殴打を受けるが、死に至るものではなかった。

 

 【江ノ島盾子】 死因:多様な傷痕があり、また死体の損傷が激しいため検証不可。

 “超高校級の絶望”。自分自身を処刑にかけ、死亡。通常の肉体ではあり得ないような傷痕が複数みられ、死亡当時の状況の詳細は解明途中である。記憶操作の研究を幇助した松田夜助を殺害したことが確認されている。また、験体『(ここも読めねえ)』に自らの絶望性を一部移植したとの研究結果がある。

 

 ・コロシアイ修学旅行

 未来機関が作製した『希望更正プログラム』によって、江ノ島盾子の手で絶望に堕とされた旧希望ヶ峰学園77期生を“超高校級の絶望”から更正させようという計画が執り行われた。この計画を主導したのは、先のコロシアイ学園生活を生き延びた者のうち、苗木誠・霧切響子・十神白夜の3名である。

 仮想空間内で共同生活を送ることで汚染された精神を矯正する目的で行われたものであったが、このプログラムが執り行われる直前、77期生の一人である日向創がプログラムにバグを混入させた。このバグこそが、不二咲千尋が発明したアルターエゴを改造した、江ノ島盾子のアルターエゴである。これにより、『希望更正プログラム』は江ノ島盾子に乗っ取られ、77期生は電脳空間内でコロシアイをすることになる。

 次のページより、コロシアイ修学旅行内に死亡した生徒の詳細を記述する。

 

 【(読めねえ)】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の詐欺師”。花村輝々によって殺害される。プログラム内では、腹部を刺されたことで死亡処理が行われている。常に自分以外の他者の姿を模倣しており、プログラム内では十神白夜の姿に変装していた。

 

 【花村輝々】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の料理人”。(読めねえ)を殺害したため、処刑される。プログラム内では、急激に高熱に晒されたことで死亡処理が行われている。

 

 【小泉真昼】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の写真家”。辺古山ペコによって殺害される。プログラム内では、頭部を殴打されたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与している証拠が発見される。

 

 【辺古山ペコ】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の剣道家”。小泉真昼を殺害したため、処刑される。プログラム内では、全身を刀で刺されたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与しているとの証拠が発見される。

 

 【澪田唯吹】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の軽音部”。罪木蜜柑によって殺害される。プログラム内では、気道が長時間圧迫されたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与している証拠が発見される。死亡直前、バグに感染していたことが確認されている。

 

 【西園寺日寄子】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の日本舞踊家”。罪木蜜柑によって殺害される。プログラム内では、頸動脈を損傷し大量に出血をしたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与している証拠が発見される。

 

 【罪木蜜柑】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の保健委員”。澪田唯吹・西園寺日寄子を殺害したため、処刑される。プログラム内では、致死量の薬物投与をしたことで死亡処理が行われている。プログラム内で、九頭龍菜摘の事件に関与している証拠が発見される。

 

 【弐大猫丸】 死因:脳機能の停止

 “超高校級のマネージャー”。田中眼蛇夢によって殺害される。プログラム内では、全身殴打で生命維持機能が停止したことで死亡処理が行われている。田中眼蛇夢による殺害以外に、強い衝撃と熱刺激を受けて死亡処理が行われるも中断された形跡がある。

 

 【田中眼蛇夢】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の飼育委員”。弐大猫丸を殺害したため、処刑される。プログラム内では、激しい衝撃を受けたことで死亡処理が行われている。

 

 【狛枝凪斗】 死因:脳機能の停止

 “超高校級の幸運”。更正補助プログラム「七海千秋」によって殺害される。プログラム内では、毒性物質を吸引したことで死亡処理が行われている。七海千秋が自身を殺害するように誘導した。

 

 

【スペシャルファイル④『“超高校級の問題児たち”』)

場所:大浴場

詳細:以下に、『“超高校級の問題児たち”修正・改善プロジェクト』参加者を列記する。尚、各自が有する問題については極秘事項であり、原則的に当事者・非当事者を問わず秘匿すべし。

 

 氏名:明尾奈美

 性別:女

 才能:超高校級の考古学者

 事由:学園内での危険物所持。主にツルハシや電動ドリル、ノミとカナヅチなどの発掘作業用工具。再三の注意にも耳を貸さず、特別対応が必要と判断。また、希望ヶ峰学園理事会員及び一部教職員に対し、生徒にあるまじき態度を見せるとの報告多数。

 卒業条件:工具不携帯による通常生活の遂行及び、希望ヶ峰学園生としての慎ましく誠実な精神養育の確認を以て『可』とする。

 

 氏名:有栖川薔薇

 性別:女

 才能:超高校級の裁縫師

 事由:「袴田事件」の中心人物である、袴田千恵と親交の深かった生徒であり、事件について過剰に関与しようとしているため、静観すれば危険な生徒。少々ヒステリックな面があるため、接触時には注意されたし。また、飯出条治との接触には十分に注意すべし。

 卒業条件:「袴田事件」への関与を抑止し、飯出条治との対話・和解を以て『可』とする。

 

 氏名:(仮名)アンジェリーナ・フォールデンス

 性別:女

 才能:超高校級のバリスタ

 事由:本名及び基本情報の著しい欠損。ティムール・フォールデンスは養子と主張しているが、保護機関や出身国などの情報の提供を頑なに拒絶。同氏の農園では複数の奴隷の就労が確認されているため、様々な可能性が考えられる。

 卒業条件:当生徒の生徒基本情報文書の作成を以て『可』とする。

 

 氏名:飯出条治

 性別:男

 才能:超高校級の冒険家

 事由:異性に対し偏執的な好意を持つ傾向があり、複数の女生徒から苦情が寄せられている。また、「袴田事件」と関係しているとの報告もあり、有栖川薔薇との接触には十分に注意すべし。

 卒業条件:希望ヶ峰学園生としての誠実かつ清廉な交際を支える精神改革、及び有栖川薔薇との対話・和解を以て『可』とする。

 

 氏名:石川彼方

 性別:女

 才能:超高校級のコレクター

 事由:窃盗、詐欺、売春など、判明しているだけで十数件の前科有り。珍品や自身の蒐集品に強い執着を持ち、特にこれらが関係する事柄において衝動制御障害とみられる言動が報告されている。突発的な傷害行為や暴力行為に十分に注意すべし。

 卒業条件:本人による窃盗品を返却することの承認及び衝動制御障害の完治あるいは緩和を以て『可』とする。

 

 氏名:古部来竜馬

 性別:男

 才能:超高校級の棋士

 事由:極端な自尊心による他者との隔絶。また、他者とのコミュニケーション能力に大いに問題があり、集団生活の基礎となる協調性の著しい欠如を認める。加えて生活態度に問題があり、特に睡眠時間に関しての改善が望まれる。

 卒業条件:生活態度の是正、協調性の十分な発育を以て『可』とする。

 

 氏名:笹戸優真

 性別:男

 才能:超高校級の釣り人

 事由:学園内の過激派思想集団に所属しているとの情報があり、学園に対して反抗的な思想を抱いている。晴柳院命に強く執着しており、一般的な学生の交際範囲を大きく逸脱している。通常は大人しく柔和な性格であるため、慎重に対処すれば安全と考えられる。

 卒業条件:学園に対する反抗思想の消滅、過激派集団の離脱を以て『可』とする。

 

 氏名:清水翔

 性別:男

 才能:超高校級の努力家

 事由:生活態度に著しい問題あり。授業妨害、指導無視、集団逸脱が多く、円滑なクラス運営に大きく障害となる生徒。また、自らの“才能”を発揮することを放棄しており、これは学園の理念である“才能”を保護し育成することに真っ向から背くものである。“超高校級の絶望”との接触歴ありとの情報有り。本プロジェクトにおいて最優先で是正すべき生徒である。

 卒業条件:絶望因子の排除、通常の学園生活を送ることができるだけの精神構造の是正、“才能”の再保有を以て『可』とする。

 

 氏名:晴柳院命

 性別:女

 才能:超高校級の陰陽師

 事由:晴柳院義虎氏の孫であり、同氏が過去学園内に創設した思想集団の意思統一の象徴として奉られている。笹戸優真はこの団体のメンバーである。当人は非常に主張が弱い性格であるため、問題児の中で満足に生活できるかという点には疑問が残る。多面的なサポートが必要と考えられる。

 卒業条件:強い意思表示が可能な性格の構築、それに伴う笹戸優真や晴柳院義虎に毅然たる対応を以て『可』とする。

 

 氏名:曽根崎弥一郎

 性別:男

 才能:超高校級の広報委員

 事由:引地佐知郎との密な関係を持っていたとの情報有り。件の生徒と同様に、未来機関からの諜報活動を依頼されたものと推測される。通常の学園生活においては広報委員としての過剰な取材により、複数の生徒から苦情が届いている。

 卒業条件:未来機関との関係を明確にすること、場合によってはその関係を断絶させることを以て『可』とする。

 

 氏名:滝山大王

 性別:男

 才能:超高校級の野生児

 事由:特殊な出生に由来する、著しい社会性の欠如と精神的未熟さがみられる。身体的には高校生の平均を大きく上回るため、トラブルの際には取り扱いに十分に注意すること。

 卒業条件:高校生として最低限の基礎学力の定着、学園生活を送るにあたっての十分な社会性の発育を以て『可』とする。

 

 氏名:鳥木平助

 性別:男

 才能:超高校級のマジシャン

 事由:長期に亘る『Mr.Tricky』としての活動による出席不足かつ欠席理由が不明瞭。学園生活には特記すべき事項はないが、学外での活動が多いため有事の際の行動は不明。また、学園内で無許可の営利活動を行っていたとの情報アリ。

 卒業条件:欠席理由の明確化および欠席必要性の解消、営利活動に関する報告書の作成を以て『可』とする。

 

 氏名:穂谷円加

 性別:女

 才能:超高校級の歌姫

 事由:新52期生であるが、現在は新53期生と同学年である。欠席過多から、進級ができていない状況にある。欠席原因は持病によるものとの連絡が多いが、診断書類の提出はないため事実確認ができていない。また、複数の生徒と学生らしからぬ交際関係があるとの報告多数。詳細は不明である。

 卒業条件:欠席理由の明確化、進級資格認定試験への合格を以て『可』とする。

 

 氏名:望月藍

 性別:女

 才能:超高校級の天文部

 事由:詳細不明。『計画』に関与している可能性ありとの報告が上がっている。複数の生徒や教師から入学時と人格が大きく変化しているとの報告があるため、『計画』に関して非常に深い部分まで進行している可能性がある。場合によっては、特別処置が必要と考えられる。

 卒業条件:経過観察中につき、条件未定。

 

 氏名:屋良井照矢

 性別:男

 才能:超高校級の爆弾魔

 事由:テロリスト『もぐら』として大量破壊・大量殺戮を繰り返している、非常に危険な生徒。再三に亘る学園からの警告にもかかわらず、学園内でテロ行為を敢行している。異常な自己顕示欲を示しているため、扱いには特に注意すべし。

 卒業条件:テロ行為の全面的な中止、大幅な精神改革を以て『可』とする。

 

 

【スペシャルファイル⑤『希望プロジェクト プランS経過報告書』)

場所:植物園

詳細:XXXX/〇〇/▽▽ 報告者:魔達 居龍  被験者:ーーー

  ①前回からの経過

  非常に順調です。前回に引き続き、学園生との接触及び観察を継続しています。定期健診においては、新たに"超高校級のパティシエ"、"超高校級の師範"の"才能"が発現し、いずれも認定規定値まで達しています。発現した"才能"、及びその練度についての資料は、所定フォルダ内のデータを更新しております。ご査収ください。

 

  ②プランの問題点または失敗点

  プランの進行に伴い被験者の性格、言動、精神状態に変化が表れています。健診項目を追加してデータを収集したところ、少しずつ摩耗しているように見られます。成果が表れている一方で、危険な状態に移行しつつあることに留意すべきと言えます。

 

 

 『希望プロジェクト プランS経過報告書』

 XXXX/▢▢/◎◎ 報告者:魔達 居龍  被験者:ーーー

  ①前回からの経過

  新たに"超高校級の理髪師"、"超高校級のスイーパー"、"超高校級の彫り師"の"才能"が発現し、既にオリジナルに近いレベルにまで達しています。以前より発現する"才能"の数が増え、修得の早さが加速しています。被験者の負担を軽減すべく、学園生との接触を減らし観察のみに移行しています。彼自身が持つ“才能”が成長しているものと考えられます。また本人が、より高効率かつ確実な“才能”の修得について考えていると話しています。具体的なことは不明です。

 

  ②プランの問題点または失敗点

  前回報告した、精神状態の摩耗が進行しています。この状態が継続して一定の水準にまで下降した場合、プランの進行について再考を要する可能性があります。

 

 

 『希望プロジェクト プランS経過報告書』

 XXXX/☆☆/@@ 報告書:魔達 居龍  被験者:ーーー

  ①前回からの経過

  前回から5つの“才能”が発現しています。これほどの進度で“才能”を修得することは、他に例がありません。被験者の負担を考慮し、学園生との接触を中断し観察に費やす時間を減らしたにもかかわらず、この数字は明らかに異常です。プランの休止と再考を進言します。

 

  ②プランの問題点または失敗点

  各精神値が危険域に接近しています。既に被験者はかなりの段階まで進んでいますが、このままでは危険です。

 

 

 『希望プロジェクト統括部長へ』

  私は、彼がこれ以上“才能”を修得し続けることに反対します。プランの中断と彼の治療を独断で決定しました。すでに彼は学園外へ連れ出し、適切な処置を受けさせています。『希望プロジェクト プランS』は失敗です。“超高校級の希望”は他の方法で創ってください。申し訳ありません。

 

 

【スペシャルファイル⑥『“超高校級の希望”』)

場所:地下資料室

詳細:希望ヶ峰学園は、創始者であり初代学園長である神座出流が、“才能”を育成・研究するための施設として建てたものである。彼はありとあらゆる“才能”を持った究極の人類の創造を悲願とし、希望ヶ峰学園が行う研究の最終目的はそれに同じく、“超高校級の希望”を生み出すことである。

 “超高校級の希望”、すなわちあらゆる“全能”の人間を生み出すことは容易ではなく、“才能”についての研究及び“才能”を人為的に発現、移植する技術などの開発が不可欠となった。希望ヶ峰学園の歴史は、“才能”実験の歴史と換言できる。ある時は多岐に渡る“才能”を有したサンプルに特殊訓練を行って破壊し、またある時は催眠的手法により“才能”を植え付けようとして破壊してきた。完全な成功と言える研究は、未だに現れない。

 唯一、“超高校級の希望”の成功例として現れたのが、『験体ヒナタ』である。予備学科生として入学した、一切の“才能”を持たない脳に、“才能”を移植することに成功し、術後の容態も非常に安定していた。しかし、彼は“超高校級の絶望”に染まってしまったため、その能力を人類の“絶望”のために振るってしまった。

 新希望ヶ峰学園では、旧学園でのデータから“超高校級の希望”研究を継続して行っている。完成品としての“超高校級の希望”、その絶対条件は、『絶望しないこと』である。絶望的状況に屈しない精神力や、絶望的状況を察知し回避する適応力、そのような素質を数値化し、抗絶望性として実験データへの追加項目とした。

 研究開始、及び中途開始実験は数十ケースに及ぶが、現在、希望ヶ峰学園で行われている“超高校級の希望”研究は以下にまとめる通りのみである。ただしいずれも、“超高校級の希望”を完成させるための実験であり、最終的には失敗に終わる前提で行われていることに気を付けたい。

 『プランD』

 験体:(黒く塗り潰されてる)

 “才能”指数:下

 実験内容:投薬により精神的エントロピーを減少させることで、保有する“才能”の伸長を観察する。

 

 『プランS』

 験体:(黒く塗り潰されてる)

 “才能”指数:中

 実験内容:験体が保有する“才能”により、一人の人間が保有可能な“才能”数の限界を調査する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『希望とは何か、絶望とは何か。それは人によって簡単に変わるものなんだ。ある人の希望はある人の絶望であり、ある人の絶望はある人の希望でもあるんだ。じゃあ希望と絶望は表裏一体なのかな?実はそうでもないんだよね。光と影であり、コインの裏と表であり、本質的には同じものなんだ。だから希望を求める人々は絶望しているし、絶望してる人に希望は必ず存在してる。だからボクは、オマエラの希望を信じるよ。夢中で頑張るオマエラに大いなる絶望を!!寄宿舎にある赤い扉の前にお集まりください!』

 

 タイムアップを告げるモノクマの放送。手にした手掛かりだけで六浜を殺した犯人が分かるのか?いや、そもそも犯人なんていんのか?もうたった4人にまで減っちまった生き残りの中に、そんなことをした奴がいるなんて信じがたい。だが、信じる信じないにかかわらず、真実は俺たちの知らない場所で待ち構えている。俺たちは、そこに挑んでいかなきゃならない。

 

 「時間になったようだ」

 「ああ」

 「うふふふ・・・!もうすぐ・・・もうすぐこの手で、あの人の敵を討てるのですね・・・!!」

 「それじゃ、行こうか」

 

 あの赤い扉に向かう緊張感は、何度やっても慣れない。これが最後になるんじゃねえか、これで最後にするんだ。そう思って何度も繰り返してきたことは、いよいよ現実味を帯びた『最後』を纏って俺たちに突きつけられる。これが終わることを望んでたはずなのに、いざその時になると心臓が潰れそうなほど締め付けられる。勝手に歩を進める足の上で、俺は気持ちの整理ができずにいた。

 

 「六浜・・・!」

 

 地上を離れる最後の瞬間、俺はまた六浜のことを思い出した。無駄に責任感が強くて、やたらと石頭で、いつも俺たちのために何ができるか悩んでて、むつ浜なんて呼ぶと律儀に訂正してきて・・・誰よりもコロシアイに苦しんでたあいつが、殺された。最後の決戦を前にして。どんだけ無念だったんだ。どんだけ悔しかったんだ。そんな気持ちさえあいつは俺らに悟られないようにするんだろう。

 

 憤り、恐れ、悼み、哀しみ、そんな感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って胸を重くする。この感情を掻き消すたった一つの方法、それをもう俺は知っている。

 

 クロを、六浜を殺した犯人を、この手でぶっ殺すんだ。学級裁判という場で、そいつの全てを破壊してやるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り4人

 

  清水翔  【六浜童琉】 【晴柳院命】   【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎   【笹戸優真】

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




ダンガンロンパQQ3周年!そして2017年最初の投稿です。今年中には終われそうですが、いつになることでしょう。目指せ上半期完結!

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