ダンガンロンパQQ   作:じゃん@論破

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(非)日常編2

 たくさんの本が並んでいる。敷き詰められた絨毯は足音を吸収して、この建物の中に誰かが潜んでいる可能性を意識させる。それでも何者かに命令されたように、視線は自ずとそこに近寄っていく。ここには何かがある。その確信は空から降ってきたように覚えがなく、共に生まれ落ちたように疑いようがなかった。

 そして“自分”は、慣れた手つきで壁に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 災難としか形容のしようのない病、幾度かのコロシアイによる過度のストレス、これらに何の感情も思考も想起しない者は、およそ人間と呼ぶことは適当ではないだろう。穂谷円加も、人間であったということだ。鳥木平助が処刑されたことで精神的支柱の喪失、精神崩壊を経た今、その行動は全く予測不可能だ。私たちが交代で見張りをしておかなければならない。

 

 「・・・笹戸君を呼んでください。あそこに、見えますか?彼が、平助さんがいるんです」

 

 大浴場へと繋がる桟橋から湖を覗き込み、穂谷円加は言った。食事は摂取するようになったが、以前のような毅然とした姿勢は失われた。そんな妄言を口にするほど、心身ともに疲弊しきっているらしい。

 

 「幻覚だ。鳥木平助は死亡した。或いは何らかの比喩表現か?」

 「うふふ・・・幻覚、そう幻覚です。世界は私と彼だけのもの。こんな山も湖も、貴女も本当は私の見ている幻なのでしょう?」

 「・・・?要領を得ないのだが」

 「幻のくせに口答えをするのですか?あははッ!ではお話をしましょう。平助さん、お茶を」

 

 そう言って穂谷円加は、桟橋から身を乗り出して湖を更に深く覗き込んだ。あの目には湖水しか映っていないのだが、まるで本当に鳥木平助がそこにいるかのように振舞っている。これ以上は危険だと判断するには十分だ。穂谷円加の肩を掴んで桟橋に引き戻そうとした。

 

 「落ちるぞ」

 「平助さん。何をしているのですか?お茶はどうしたのです」

 「姿勢を正せ。そこに鳥木平助はいない」

 「どこへ行くのですッ!!」

 「ぅおっ!?」

 

 唐突に激昂した穂谷円加は、頭から湖に落ちた。無論、強く肩を掴んでいた私も巻き添えを食らい、桟橋から真っ逆さまだ。冷たい。それに巻き上がった泥や水草の欠片が顔にまとわりつく。

 

 「ああああああッ!!冷たい!!イヤッ・・・!死にたくない!!イヤだ!!」

 「冷静になれ。十分浅い。暴れるな」

 「はあ・・・はあ・・・!お、お前のせいだ!なぜ私がこんなことに・・・!このっ!」

 「お前が自分から落ちたのだろう。必要以上に口を開くと泥水を飲むぞ」

 

 浅いところで助かった。落ちてすぐは暴れていた穂谷円加も、しばらくして体力が尽きたのか或いは水深が浅いことに気付いて落ち着いたのか、とにかく大人しくなった。あまり力仕事はしたくないのだが、なんとか穂谷円加を桟橋に押し上げて、私もあがった。モノクマが現れないことや処刑が行われないことから、不注意による湖への転落は自然破壊に該当しないようだ。滝山大王の経験から推測するに、直接湖水を汚染しようとしなければ問題ないのだろうか。

 

 「ああ・・・さ、さむい・・・!」

 

 桟橋に転がりながら、穂谷円加は震えていた。今の時期に水に浸かったのだ、当然だろう。私も著しく体温が低下しているのを感じる。風邪で済むだろうか。取りあえず、私は穂谷円加を連れて目の前の大浴場に入っていった。入浴介護までしなければならないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よいしょっ・・・ふう」

 

 最後にお札を供えて、ようやっと完成しました。ここではこんな簡単なものしかできませんけど、必ずきちんとした慰霊壇を作りますさかいに、今はどうかこれで我慢してください。

 

 「手伝うてもらってすいません、笹戸さん」

 「ううん。逆に手伝わせてくれてありがとう。こういうの僕じゃ分かんないから・・・きっとみんな喜んでるよ。晴柳院さんにこんなことしてもらえてさ」

 「うちに?どういう意味ですか?」

 「えっ?ああ、いや・・・べ、別に深い意味はない・・・と思うよ?」

 

 うち一人やったらきっと、応急の慰霊壇も作れへんかった。笹戸さんが台の組み立てを手伝うてくれたから、ちゃんと十人分収まる大きさのが建てられた。ここが自然に含まれんかったんは、うちにとっては助かることやった。

 

 「何かお礼せなあきませんね。ええっと・・・うぅ、モノクマメダルしかありません・・・」

 「別にいいよ。僕が好きで手伝ったんだから」

 「せやけど、せっかく手伝うてもらったのになんもせんのはダメです!」

 「じゃ、じゃあそのメダルもらおうかな」

 

 ついさっき花壇で見つけたものやから、あんまりお礼として差し上げるんは気が引けるんやけど・・・でも、笹戸さんも優しいからこれでええって言うてくれた。やっぱり笹戸さんに頼んでよかった。改めて出来上がった慰霊壇を見て、手を合わせた。

 

 「建物の中ですけど、花もあって陽が差すええとこです。皆さんのこと・・・うちら絶対忘れません。もう二度とあんなこと繰り返したりしませんから・・・草葉の陰から見守っててください」

 

 ほんまやったらお骨とか、生前その人が大切にしてた品物なんかを供えるんですけど、今はその代わりに皆さんのお名前を書いた身代人形を置いてます。何から何まで取りあえずで申し訳ないです。すぐにでもちゃんとしたものを建てたいんですけど、やっぱり材料が足りなくて。

 

 「晴柳院さんは優しいね。みんなを平等に弔うなんてさ」

 「え?」

 「正直僕は、クロになったみんなを弔う気持ちにはなれない。特に屋良井くんは、完全に自分のために二人もの命を巻き込んだんだ。犠牲になった二人と一緒にするのはなんだか・・・納得いかないっていうかさ」

 「・・・確かに、ここにいてはる何人かの人は他人の命を奪いました。うちかて、それをなかったことになんてできません」

 「じゃあ、どうして?」

 

 それは、命の大切さをよう知ってはる笹戸さんやからこその疑問かも知れません。どんな理由があっても、うちは命を奪うことを正義やなんて言えませんし、犠牲になった人と並べることに疑問を感じるのも分かります。せやけど、うちはこうしたいんです。別々にすることなんてしたないんです。

 

 「笹戸さんは、どうして人が死者を弔うか分かりますか?」

 「え?それは・・・だって、そうしないと死んだ人が可哀想だし、いつまでもそのままにしておけないから・・・じゃ、ないかな?」

 「そうです。人はいつか死ぬもの、必ずどこかで別れるものなんです。せやけど、葬儀は死者のためのものと違うんです。残された人のためのものなんです」

 「残された人?」

 「死んだ人との永遠の別れ、肉体から精神の解放、異なる存在への転生・・・形は違えど、残された人々は『死』と『別れ』を儀式化することで、心に区切りを付けてるんです。悲しんでも悲しみきれないことを悲しみきるために、人は死者を弔うんです」

 

 うちは陰陽師。葬儀は専門と違うけど、魂や物の怪のそばには得てして『死』が付き物。陰陽道は人の心に寄り添うことやって、昔の偉い人が言うたんです。『死』に向き合い人の心を平ずことこそ、陰陽師が必要とされる理由なんです。

 

 「この慰霊壇も同じです。これは、うちらのためにあるもの。クロの人たちは殺人を犯しました、でも皆さんが等しく犠牲者やと思うんです。この、理不尽で外道なコロシアイ生活の」

 「!」

 「このコロシアイ生活を終わらせるためには、うちらは団結せなあかんと思います。せやからこの慰霊壇は、うちらがモノクマと戦うための、決意の儀式です。だから、クロとか被害者とか、そんな風な区別はしたないんです。ここにいるみんなが犠牲者で、うちらがその想いを継いでいくんです」

 

 こんなことを言えるんは、うちが陰陽師やからなんかな。もう何度もこんな疑問を感じて、その度に考えて悩んで、うちなりに出した答えやから納得できるんかな。これが笹戸さんに、もっと言うたら皆さんにとっても、納得できる答えやなんて保証はないのに、なんでうちはこんなに自信満々に言うてもうたんやろ。今更になって少し恥ずかしなってきた。

 

 「あっ・・・って、こんなんうちの独りよがりかも知れませんね。笹戸さんの言うことの方が、皆さん同じように思わはるやろし・・・」

 「そ、そんなことないよ!」

 「はぇ?」

 

 なんかうち、喋りすぎたみたい。ぼかーんとしてはる笹戸さんを見てたらどんどん冷静になってきて、なんか言わなと思って、そしたら途端に口が回らんくて・・・。けど、笹戸さんは真面目な顔でこう言わはった。

 

 「やっぱり、晴柳院さんはすごいな。ちゃんと全体が見えてるっていうか・・・こんな時でも、しっかり考えて前を向いてる。僕とは全然違うよ」

 「そ、そんな・・・うちは陰陽師の心得的なんを言うただけで、そんな大層なことは・・・」

 「僕、自分の身を守ることばっかり考えてたよ。滝山くんが屋良井くんに利用されて・・・明尾さんが穂谷さんを殺そうとして・・・それに六浜さんが『裏切り者』だなんてさ。信じてた人にどんどん裏切られた気分になっちゃって、一人で追い詰められてた。何を信じていいのか分かんなくなっちゃって・・・見えなかったんだ、希望が」

 「き、希望・・・」

 

 うちかて六浜さんが『裏切り者』なんて驚いたし、信じたない話や。でも六浜さん自身の心が揺らいでるのも、今まで六浜さんが『裏切り者』として何かをしたわけやないのも、なんだか変な感じがして、まだ答えは出せへんけど・・・でもきっと、うちらは六浜さんと助けあわなあかん。あの人なしでモノクマに立ち向かえるなんて、うちには思えへん。

 

 「でも、清水くんや晴柳院さんを見てたらさ・・・こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ、前を向いてモノクマと戦おうとしてるキミたちが、なんだか眩しく見えて・・・なんだか、本当に希望を持てるような気になってくるんだ」

 「清水さんも・・・?」

 「だから僕も、また信じてみようかなって思ったんだ。清水くんと、晴柳院さんと、キミたちが持ってる希望を」

 

 それでも、まだ信じられるのはうちと清水さんだけなんですね。六浜さんと、穂谷さんと、曽根崎さんと、望月さんを信じられるようになるのは、もう少し先になるんですね。それでもいいです。笹戸さんが独りぼっちになってしまわん内に、うちらが救い出せたんなら。それを口には出さんと、うちはただ笑った。

 

 「良い雰囲気のところ済まないが、私にも花を供えさせてはくれないか?」

 「!」

 

 急に聞こえてきたうちと笹戸さん以外の人の声に、少しだけびっくりして振り返った。いつからそこにいてはったんか、手に花束を持った六浜さんがうちと笹戸さんに申し訳なさそうに近寄ってきました。

 

 「ろ、六浜さん・・・そのお花は?」

 「モノモノマシーンから出て来たのだ。奴にしては悪くない品物とは思わんか?」

 

 この前は笹戸さんに露骨に疑われて意気消沈してはったのに、今は軽口を言えるくらいに気持ちを取り直しはったみたいや。うちはちっとも構わへんのやけど、一緒にいてた笹戸さんは苦い顔をして六浜さんから距離を取ろうとしてはった。やっぱりまだ、六浜さんのことを警戒してはるみたい。

 

 「何しにきたの?」

 「供花だ。曽根崎から、お前たちが植物園で作業をしていると聞いたからな」

 「なんで曽根崎くんがそんなことを知ってるんだ・・・」

 「晴柳院と笹戸が植物園に行ったのならば、おそらく死者を弔うために何かをしに行ったのだろうと『推測』したまでだ。そう難しいことではない。屋外を除けばこのようなものを設置できるのはここだけだろうからな」

 「そ、そうですか。あ、お花やったら前のところに置いといてくれたら大丈夫です」

 

 いつの間にうちら見られてたんやろ。曽根崎さんも流石ですし、六浜さんも流石です。うちらがこんなことしてるなんてことまで予言しはるなんて。でも六浜さんは涼しい顔で花束を壇の前に供えてしゃがみ込む。

 

 「・・・晴柳院さん、ごめん。僕もう部屋に戻るね。また後で」

 「えっ?笹戸さん?あの・・・」

 「いいんだ」

 

 急にそこからいなくなろうとした笹戸さんをうちが引き留めようとするのを六浜さんが引き留めて、笹戸さんはすぐに植物園を出て行ってしまいました。どう考えても、六浜さんを避けてる。それを六浜さんが分からんはずないのに、なんで笹戸さんを行かせてもうたんやろ。

 

 「ろ、六浜さん?」

 「疑われるのも無理はない。こんな状況では『裏切り者』も希望ヶ峰学園も信じられなくなって当然だ」

 「せやけど・・・いつまでもこのままじゃ」

 「分かっている。穂谷と笹戸は精神が不安定になっている。無理に落ち着かせようとしても逆効果だ。私は私にできるだけのことをする。いつか奴らが自分なりの答えを出してくれるまで、それが私たちにとって良い結果になるように努めることしかできん」

 「・・・」

 「少なくとも笹戸はまだ希望を失っていない。清水とお前が支えになってくれているからだ。私はお前たちに救われてばかりだ」

 

 救われてばかりなんて、そんなことないです。六浜さんがいなかったら、今頃うちらはどうなってたか。どんなに絶望的な状況でも六浜さんがうちらのことを心配して、率先して導いてくれたから、うちらは今まで諦めずに生きてこられたんです。だけど、それを言っても今はただの気安めなような気がして、出かかった言葉をなんとか飲み込んで止めました。

 

 「すまん。邪魔をしたな」

 「えっ、もう行かはるんですか?」

 「もう一度、この合宿場を隅々まで調べようと思ってな。ここは元々希望ヶ峰学園の私有地だと言うが、それにしては気になる点がいくつかある」

 「・・・あ、あの!それ、うちがついて行ってもいいですか?」

 「ん?構わんが、それはもういいのか?」

 「はい。ずっとここで拝んでたら、何もせんのと同じですから。それに皆さん、六浜さんを応援してくれてはるみたいですよ」

 「そ、そうか。頼もしいな。では行こうか」

 

 立ち上がって調査に向かおうとする六浜さんを、うちはすぐに追いかけた。せっかく慰霊壇まで建てたのにお部屋に戻って休んでるわけにもいきませんし、うちももっと皆さんの役に立ちたいんです。流れ始めたクラシック音楽を聴きながら、まずはこの園内を探索することにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の夢はやけに頭に残った。どうせなら楽しい夢でも覚えておけばいいのに、あんな謎な内容のを覚えてるなんて、どういうことなのかな。もしかしたらあれは、夢じゃないのかも知れない。そんなことを考えて、ボクはここに来た。資料館一階にある、希望ヶ峰学園のシンボルの前だ。

 はじめてここを探索した時からやけに目立つなあとは思ってたけど、今日の夢に出て来たのは確かにこの場所だ。印象には残ってるけど特に思い入れがあるわけでもなんでもないここが夢に出てくるってことは、あの夢には何か意味があるかも知れない。そうなると、次にボクがすべきことは一つだ。

 

 「確か、この辺りの壁かな・・・?」

 

 夢の中のボクが手をかけた辺りの壁を、現実のボクも探ってみた。見たところ普通の壁でしかないけど、あの時ははっきりとした確信があった。この壁に何かがあるって。だから詳しく見てみて、とにかく触って何かとっかかりがないか調べてみる。

 

 「おっ」

 

 伊達に広報委員やってるわけじゃないからね、視力は悪いけど目聡さなら自信あるよ。そのおかげで、壁のわずかな穴に気付くことができた。とても自然に開いたものとは思えない、きれいな丸の形をした穴だ。覗き込むとか指を入れるとかそんなこともできないくらい、周りの壁の造りに紛れて見落としてしまいそうなくらい小さな穴だ。穴には細長いものを挿し込むものだよね、ちょうどシャーペンの芯なら通りそうだ。折れないようにそっと、そお〜〜〜っとその穴に芯を入れていく。

 カチッという音と共に、穴の真下の壁が少し浮き上がった。驚いて芯が折れちゃわないように注意しながら引き抜いて、浮き上がった壁を調べる。リモコンの蓋みたいにパカパカしてるけど、一度閉じたら周りの壁と同化して全然分かんない。見事なもんだね。

 

 「“Enter the name”・・・」

 

 蓋の裏にはそんな言葉が書かれてた。それと小さなディスプレイにアルファベットキーが並んでる。名前を入れろ、か。意味ありげな文章だなあ。さてどうしよう。ここで自分の名前を入れてセキュリティトラップ的なものがボクに向いたら嫌だし、可能性としてまず考えておくべきは『裏切り者』だよね。というわけで手始めに六浜サンの名前を入れてみた。小さいから指じゃ押し間違えちゃいそうだ。入力した名前は何度か点滅して消えた。何も起こらない。

 

 「違うってことかな?」

 

 六浜サンの身に何かあったなら誰かの声が聞こえてくるはず、取りあえずは一度の失敗は大丈夫そうだ。さっき植物園に追い払ったし、晴柳院サンか笹戸クンがいるからそう考えていいよね。それにしてもボクがこんな怪しげなことをしてるのにモノクマも出て来ないし、何のアナウンスもない。てことは、これはモノクマがボクにこんなことをするよう誘導してるってことなのかな?でもなんでボクだけに?『裏切り者』の六浜サンにさせた方がよっぽど疑心暗鬼を深められるのに。

 

 「うーん、六浜サンじゃないなら問題児の誰かなわけないし・・・」

 

 夢で見た時はここにある何かに辿り着けて当然な気がしてたのに、その一歩手前で立ち止まってるのがもどかしいし悔しい。と言うより、ここまで夢の通りなんて正夢にしたって変だ。そもそもこんなところに何かが隠されてるなんて、ボクも考えたことがない。じゃあ、あれが夢じゃないとしたら?

 

 「・・・」

 

 試しに、ボクの名前を入れてみた。少し不安だったけどそれ以外に有力な候補もないし、六浜サンに何かあった時にボクも同じ目に遭うのが筋だしね。嫌だけど。そんなちょっとした覚悟を嘲笑うように、ボクの名前はあっさり消えた。これも違うか。

 

 「ボクじゃないの?じゃあもう分かんないや」

 

 これが仮にモノクマが用意したものだとしたら、ここに入れる名前はその正体ってことになるのかな。それじゃあ当てようがない。そもそもこの名前って、人の名前とも限らないしなあ。

 考え過ぎるとダメだ。一旦冷静にならないと。ここにあるものがなんであれ、それはパスワードと仕掛けで隠されるようなものだ。隠してるのは、モノクマ?いや、隠すならいくらでも隠し場所はあるはずだ。早い段階でここを開放して見つかるリスクに晒すのも変だ。じゃあモノクマじゃない誰か・・・ボク?ボクが何を隠すって言うんだ?誰から?どうして?

 

 「いやいやいや!あり得ない。こんな目立つやり方・・・ボクがするわけない・・・」

 

 独り言なのに、自信がなくなって声が小さくなるのが分かる。ボクは何かを隠すならこんな仰々しいやり方はしない。もっとベッドの下とか引き出しの中とかタンスの裏とかにカムフラージュして隠す。木を隠すなら森の中、やましいものを隠すならやましいものの中。まあ『もぐら』の資料は清水クンに見つかっちゃったけど。

 けど、なぜかその可能性を否定できない。もしかしたら、じゃない。なんとなくそんな気がするだけなんだ。六浜サンが言ってた、記憶に自信を持てない妙な感じってこんな感じなのかな。物凄く曖昧であり得ないはずなのに、否定し切れない。

 

 「他・・・他の可能性は・・・」

 

 そんな気持ち悪さを払拭するように、ボクは必死に違う可能性を考えた。ここに何かを隠せる誰か・・・ボクでもモノクマでもないとしたらそれは・・・。

 希望ヶ峰学園。それが強烈に浮かんだ。そもそもこのシンボルは学園のものだ、その近くに何かを隠すのは学園ってまず考えることだ。でも学園が隠してるとしたら、なんでこんなところに隠すんだろう。パスワードで守ってあるとはいえ、学園じゃなくて問題児を収容する合宿場に隠すなんて、どう考えてもおかしい。それに、学園が誰かから隠したいことって一体・・・?

 

 「・・・やっぱり、そうなのかな」

 

 ここに隠されてるものが何なのか。隠してるのは可能性は二つ、だけど隠されてるものはどちらの場合も同じ。ボクと、希望ヶ峰学園の両方が、お互いに、そして誰にも隠しておきたいこと。もしそうなら、パスワードもこれで合ってるはずだ。この名前で。

 

 

 

 

 

 小さな電子音がしたかと思うと、希望ヶ峰学園のシンボルはひとりでに動き出した。やっぱりこの名前で合ってたんだ。つまり、これを監視されてる時点でボクはもう逃げられない。最悪の場合は同じ結末を辿ることになるかも知れない。でも・・・。

 

 「・・・っふふ」

 

 にやける口を抑える事ができなかった。腹ペコの時に骨つき肉を与えられた犬みたいに、目の前に置かれた大好物を我慢することなんてできない。危険を冒して秘密の情報を手に入れるこの興奮に、わくわくせずになんていられない。ここにあるものがたとえ知らなければ幸せなものだとしとも、知らないことを知る喜びと知られたくないことを覗き見る興奮に替わるものじゃない。

 シンボルの裏には、資料館らしく本棚があった。そこに並んでる本は、どう見たって図鑑や教科書や辞書なんかじゃない。真っ黒な背表紙には白い数字だけが割り振られたファイルで、前回の動機のファイルを思い出させる。それもあって見るからに閲覧禁止書類って感じが、またそそられる。軽率だとも思ったけど、ボクは迷わず1番のファイルを取り出してみた。表紙には希望ヶ峰学園のシンボルマークがあしらわれてるだけで、タイトルも書いてない。怪しさMAXッスって言ってるようなもんだね。

 

 「なになにえ〜っと、“超高校級の絶望”?」

 

 いきなり目に飛び込んできたのは、そんな中学生の妄想みたいなタイトル。誰かの黒歴史ノートにしちゃあ厳重だし、こんなことを大人が冗談でなく言うってことは、つまりそれだけのものだったってことだよね。

 

 「『“超高校級の絶望”はまさに、人類の天敵と言える存在である。天災・人災を問わずあらゆる災いを渇望し、ただ己の欲望が満たされることのみを求め、しかし肉体の死を以てしても飢えが止むことはない、悪意そのものである。もしあの忌まわしき歴史が繰り返された時、希望のために戦う者たちが決してその希望を失ってしまわないよう、これを残す。』」

 

 どうしよう、ツッコミどころしかないや。まず、なんで希望ヶ峰学園が認めた“才能”にだけ与えられる“超高校級”の称号を、絶望なんてものに冠してるの?絶望って“才能”なの?仮にそうだとしても“超高校級の絶望”って希望ヶ峰の生徒ってことになるじゃん。こんなこんな危険な奴をなんで学園は引き入れたの?あと何なのこの厨二臭い文章は。人類の天敵って何さ?忌まわしき歴史が何かも分かんないし、それが繰り返される可能性があるわけ?っていうかここまで言われる“超高校級の絶望”について具体的なこと何も書いてないし!

 

 「気にはなるけど読んでて気持ち悪いなあ。最後の一文が特に」

 

 何はともあれ、こんな面白そうな情報が隠されてるなんて、やっぱり学園にはまだまだ知られてない闇があるみたいだ。それにパスワードから察するに、これだけじゃ済まないものもあるはずだ。このファイルは部屋に持って帰った方がいいかな?それとも・・・。

 

 『緊急放送!緊急放送!オマエラ、至急多目的ホールに集合してください!はよぅバンバン!!』

 

 どうやら深く考える時間はないみたいだ。いつもより少し急いだ様子のアナウンスに、また嫌な予感しかしない。ひとまずこの資料はあんまりほったらかしにしておくべきものじゃない。多目的ホールに向かう前に元の状態に戻しておいて、後で部屋に持って帰ってゆっくり読もう。できるだけこのことは内緒にしておけるといいんだけどな。そんな期待も簡単に粉々にしてしまうのがモノクマだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緊急招集を食らって集まってみたものの、ここに来ると改めて人数が減ったことを痛いほどに感じさせられる。そして呼び出した当のモノクマはまだ姿を見せてない。どうせまた動機の発表なんだろ。今度はどんな手で俺らを疑心暗鬼にさせる気だ。そうでなくてもヤバくなってる奴は二人いるが。

 

 「望月、穂谷は大丈夫だったか?」

 「一度湖に落ちた。大浴場で身体を温めたからひとまずは心配ない」

 「普通に言ってるけどなんで湖に落ちちゃったの!?」

 「おいお前ら、後にしろ。おでましだ」

 

 なんで穂谷が湖に落ちたのかはだいたい想像付くから聞かなくてもいい。それよりも、教壇の裏からびょんと飛び出して来たモノクマが発する次の言葉の方が気になる。既にボロボロの俺たちにダメ押しで何をさせるつもりだ。

 

 「まったくもう。オマエラはボクの苦労を少しは知るべきだよ。こんなに広い合宿場を管理するのって大変なんだからね!あっちこっちで好き勝手し過ぎなんだよ!」

 「そんな説教を聞かせるために呼んだんじゃねえんだろ?っつうかお前が好き勝手していいっつったんじゃねえか」

 「そりゃそうだけどさあ・・・まあいいや。そんなことより、きちんと説明しておかなきゃいけない事態が発生したので、オマエラにご報告です」

 「せ、説明せなあかん事態・・・?なんですかそれぇ・・・?」

 「実はですねえ、オマエラに配る予定だった次の動機なんだけど」

 「いらねえから捨てとけ」

 「そうだね、じゃあ次の燃えるゴミの日にでも・・・ってなんでやねーーーん!捨てるか!バカ!」

 

 やっぱ動機の話か。なんか頭から湯気立ててるが、そんなもんいるなんて言う奴いねえだろうが。テメエがバカだ。それにしても妙な前置きをしてすんなり動機を出さねえモノクマの姿勢はなんとなく不気味だ。配る予定だったってことは、今は配るつもりはないってことか?なんの心変わりがあったんだ。

 

 「オマエラさあ、もう気付いてるよね。自分の記憶がすっぽり抜け落ちてるってことに。まるでレンコンのように!頭ン中スッカスカってことに!」

 「き、記憶・・・?」

 「最後の記憶からここで目覚めるまでの間に三年の時間が経過しているという話だ。それが本当ならば、確かに三年分の記憶はない」

 「うぷぷぷぷ!あれぇ六浜さん?本当にその記憶だけぇ?もっと他に忘れてることがあるんじゃないの?」

 「なに?」

 

 確かこの合宿場で目が覚める前の最後の記憶は、学園でいつも通りに過ごして部屋で寝たって感じだったか。あれが今から三年前だとすると、マジで俺にはその間の記憶はない。どこで何をしてたか、どんなことがあったか、まるで三年間寝てたみてえに覚えてねえ。

 けどそれと同じようなことを言った六浜に、モノクマはまた意味ありげな言い方をした。もっと他に忘れてることだと?

 

 「・・・?全然分かんない」

 「うぷぷぷぷ!分かんないか!そうだよね!当然だよね!だってその記憶もボクに奪われちゃったんだもんね!」

 「言わんとしていることが理解できないのだが?」

 「理解できるはずないよ!この三年間とは別に、オマエラにとって一番の記憶を抜き取ったんだからね!うぷぷぷぷ!」

 「一番の記憶?多義的な表現で掴み所がない」

 「そりゃそうだよ。一番の意味は人によって変わるものだからね。果たしてオマエラが失ったのは、一番大切なものの記憶かな?一番嬉しかったこと記憶かな?一番悲しかった時の記憶かな?一番の親友の記憶かな?それは思い出してみてのお楽しみィィイイイイイイイッ!!!」

 「ちょ、ちょっと待って!記憶を奪ったとか一番の記憶とか・・・まだよく分かってないんだけど!?なんでモノクマにそんなことができるのさ!記憶を奪ったり、奪う記憶を選んだり・・・」

 「うぷぷ!企業秘密だよ!」

 

 また妙な動機を寄越してきたもんだ。俺たちから一番の記憶を奪って、それを返して欲しけりゃ誰かを殺せってとこか。妙だが、今更そんなもんで人を殺す奴がいるのか?そもそも覚えてもねえ記憶のために人を殺すことなんかあり得ねえだろ。それが自分にとってどんな一番かも分からねえのに。

 

 「っていう風に思ってる清水くんもいるわけでしょ?それにさ、どっかの誰かが先走って余計なもの見つけちゃったわけ!だから、今回の動機は急遽変更とします!」

 「ッ!?エ、エスパーかテメエ!」

 「モノクマじゃなくても清水クンが考えそうなことはだいたい分かるよ」

 

 どうもモノクマと曽根崎は俺の頭の中を見透かしてるらしい。曽根崎はともかくただの機械のモノクマにまでバレてるってのが気持ち悪い。機械のくせに人間みてえな奴だ。って、動機を変更ってことは別にあるってことか?

 

 「今回は特別大サービス!オマエラにその一番の記憶をお返ししちゃおうというのです!!ババーーーン!!ボクって優スィ?優スィよねーーー!!」

 「き、記憶を返す・・・?」

 「でも普通に返すんじゃつまんないよね。だから、ちょっとやり方を工夫しました。オマエラの頭の中に、記憶を取り戻すパスワードをそれぞれ設定してみました。そのパスワードを目にした瞬間、オマエラの中に眠る記憶が呼び戻されるってシステムなのです!そうなのです!」

 「またパスワードか」

 

 記憶を返す?俺たちから奪った記憶を返すって、そういうことか?それに頭ン中にパスワードを仕込んだって、んなもんいつの間にやりやがったんだ。

 

 「そのパスワードってのはなんだ」

 「うぷぷ・・・それは思い出すまで分からないんだよ!いつ何時、どこで誰がどんな記憶を何によって呼び起こされるのか!誰も知らない誰も分からない!合宿場での記憶探しゲームだよ!わっくわっくのどっきどっきだよね!!」

 「くだらん。仮に記憶を取り戻したとして、それでなぜ我々が殺人などすることになるのだ」

 「で、ですよねぇ・・・屋良井さんみたいな人はもう・・・いてませんよねぇ・・・?」

 「・・・大丈夫じゃないかな?分かんないけど」

 「うぷぷぷぷぷ!それじゃ、記憶探しがんばってねー!!」

 

 言いたいことだけ言ってさっさと帰って行ったが、まだ俺はいまいち分かってねえ。とにかくあいつはこの合宿場のどこかに、俺たちが記憶を取り戻すためのパスワードを仕込んだらしい。けど別に早い者勝ちってわけでもねえようだし、その一番の記憶ってのが直接殺人に関わるってことなのか?それってどんな記憶なんだ?

 

 「ちっ・・・参った。奪われた記憶の内容が分からねえ上に、パスワードも分からないんじゃ気を付けようがねえじゃねえか」

 「というか、記憶が戻ってうちらにあかんことがあるんですかね・・・?だって希望ヶ峰学園にいてたころにはその記憶は持ってたわけですし・・・」

 「記憶そのものが動機になるというわけでもないだろう。有栖川と飯出のように、まだ我々が気付いていない因縁がないとも限らん」

 「今更過去の記憶など取り戻して、一体何になると言うのでしょう?遅かれ早かれ運命は一つ。いくら希望を持とうと支え合おうと同じことです。でしたら私たちは今、ただただ絶望の中で踊るしかないのではありませんこと?」

 「あ?なんだテメエ。ついに頭いったか」

 

 わけ分かんねえこと言いながらその場でくるくる回る穂谷は、例の鉄の微笑みじゃなくて完全に筋肉の緩んだ笑顔をしてた。薄気味悪いし気持ち悪い。

 それはともかく、学園にいたころの一番の記憶ってなんなんだよ。それがどんなものかも分からねえし、どんなタイミングで戻るかも分からねえなんて、まるで時限爆弾でも仕込まれたみてえだ。モノクマも手を変え品を変えやってきたが、今回は不確定要素が多すぎる。どうやって対処すりゃいいんだ。

 

 「モノクマの狙いは私たちが記憶を取り戻すことによってコロシアイをすることではない。そう思わせ、不確定な情報に疑心暗鬼を募らせることだ」

 「そ、そうだよね・・・今まで僕らはそんなことしなかったんだから・・・・・・きっと大丈夫だよね・・・?」

 「それはどうかなあ」

 

 冷静な望月の意見、それに便乗して不安を誤魔化そうとする笹戸、そして意味深に否定する曽根崎。既に今の状況がさっきまでと違う。モノクマが用意する動機はいつだって、俺たちの中の誰かを確実に殺人に向かわせるものだった。どれだけ気休めを言おうとどれだけ予防策を張ろうと無駄だった。今回に限って大丈夫だなんて、誰が言えるんだ。

 

 「仮にモノクマの目的が望月サンの言う通りだったとしても、取り戻した記憶が全く影響のないものだとも思えない。ボクらは学園にいた頃のお互いを知らないわけだし、この三年間に何があったかも分からない。モノクマがそこに何も仕掛けてないわけはないよ」

 「・・・じゃあ、どうするんだ」

 「いつ誰がどんな記憶を取り戻すか分からないから不安になるんだよ。いっそのこと、みんなで記憶を取り戻しに行く?」

 「は?」

 

 今、曽根崎はなんつった?記憶を取り戻しに行くだと?そんな軽いノリでか?どこに?そもそも記憶を取り戻すためのパスワードだって分からねえのに。

 

 「実はモノクマから呼び出しがかかる前、資料館で変なものを見つけたんだよね。内緒にしておきたかったけど、こうなったら話は別だ。あれは十中八九、今回の動機と関係してる。絶対とは言えないけど、みんなの記憶のパスワードもあそこにあるはずだ」

 「記憶を取り戻してどうするのですか?もう帰れない場所の記憶など今更取り返して、一体何になると言うのですか?ああ、そうか、これは罠ですね。曽根崎君は私たちを殺すための算段をもう立ててしまったということですか!うふふふ、では参りましょうか!黄泉国への弾丸ツアー決行です!」

 「お前もう黙っとけ」

 「ま、どうするかはみんなの自由だけど。でも今ボクがこれをみんなの前で提案したことの意味は、分かって欲しいな」

 

 資料館で変なもんを見つけたって、あそこが開放されてから散々調べたはずだ。今更あそこから何が出てくるっつうんだ。それでも、他に記憶の手掛かりなんてない。曽根崎が秘密にしておきたかったものを公開するってことは、それくらい自信があって、これ以上のコロシアイをさせないようにってことだろう。

 

 「俺は行くぞ、曽根崎」

 「清水?」

 「記憶が戻ってコロシアイになるんだったら、俺はここに来た日に誰かを殺してる。今更コロシアイで出て行こうとしたって無駄だって、“無能”にだって分かる。奪われたもんをそのままにしとくのも癪だしな」

 「確かに!清水クンが人を殺せないヘタレでよかったね!」

 「誰か殺す時はテメエを殺してやるよ」

 

 どっちにしろこの動機に誰も触れなかったらモノクマは別の手段を考えるはずだ。だったらこの動機のうちに済ませとけば、誰かが殺しを企んでも止められる奴が残ってるかも知れない。大丈夫だなんて風にはまったく思えねえが、何かが起きるって覚悟を決めることはできるはずだ。

 

 「清水翔がそうするのなら、私もそうしよう」

 「も、望月さんも・・・?」

 「私たちの最終目的はここから脱出し学園に帰還すること。学園の記憶がその手掛かりになる可能性がある」

 「これで多数決だったら見に行くで決定だね。で、三人はどうするの?」

 「・・・私も、行こう。曽根崎が見つけたものに興味がある」

 「ぼ、僕も!」

 「あわわわわ・・・」

 

 次々と賛同していくと、残った奴にはほとんど選択肢はなくなる。特にこんな時に一人だけ情報を得られないなんて状況、不安で仕方ねえ。結局全員で、曽根崎が言う記憶の手掛かりを見に行くことになった。その結果どうなるかなんて、今は考えられねえし考えたくもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資料館に大きく掲げられていた希望ヶ峰学園のシンボル、そこは仕掛け扉になっていて、裏に隠されていた本棚には見るからに触れがたいファイルが並んでいた。どうやら希望ヶ峰学園によってまとめられたファイルのようだが、学園は何を考えているのだ?こんなものを合宿場に隠すなんて、考えが読めん。

 

 「これが、みんなの記憶の手掛かり。中はまだボクも読んでないけど、学園にとって知られたくないことであるのは間違いないだろうね」

 「今までだって十分学園が知られたらまずいこと知ってきたぞ。それ以上のもんがあんのか?」

 「読めば分かる」

 

 異様な仕掛けと、異様な雰囲気を纏うファイル。それにまったく怖じ気づかず、望月は『1』のファイルを取り出した。相変わらずだ。望月がそのファイルをテーブルに開いて全員で覗き込む。そこに書かれてたのは、首を捻るようなものだった。

 

 「“超高校級の絶望”?」

 「ッ!?」

 

 その文字を見た瞬間、誰かの息を呑む音が聞こえた。何事かと思って周囲の顔色を伺うと、同じように何か聞き取って辺りを見回す者の中に、一人だけ、明らかに様子のおかしい奴がいた。目を丸くさせて口をぱくぱくさせて、そいつは雷に打たれたように棒立ちになっていた。だがその目だけは、真っ直ぐファイルの文字をとらえている。

 

 「・・・ッ!!“超高校級の”・・・“絶望”・・・ッ!!?」

 「ん?どうした?」

 「?」

 

 少しの間固まっていたかと思うと、今度はふらふらとよろめきだして、近くにあった椅子に崩れるように腰掛けた。明らかに様子がおかしい。

 

 「お、おい?」

 「え?え?な、なに・・・?」

 「・・・」

 

 問いかけても何も答えない。疲れ切ったように椅子に座ったあと、重たそうな頭を抱えたまま一つ深呼吸した。俯いて目元を隠した髪から、不気味に瞳が覗く。

 

 「“超高校級の絶望”、か・・・・・・思い出したぜ」

 

 清水がにやりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コロシアイ合宿生活』

生き残り人数:残り7人

 

  清水翔   六浜童琉   晴柳院命    【明尾奈美】

 

  望月藍  【石川彼方】 曽根崎弥一郎    笹戸優真

 

【有栖川薔薇】 穂谷円加  【飯出条治】 【古部来竜馬】

 

【屋良井照矢】【鳥木平助】 【滝山大王】【アンジェリーナ】




はえ〜、最初の頃と比べて更新スピードが格段に落ちましたが、もう五章なんですねえ。どうしよ。どうしたろうかな

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