多目的ホールの空気は、今までにないくらい張り詰めてた。集まったのは14人、その全員が、これから起きるだいたいのことを察してる。俺にだって分かる。これからまたあいつが現れる。そして、俺たちに動機をよこす。人を殺す動機を。
奇天烈な音楽が流れたかと思うと、壇の後ろからあのムカつく顔が飛び出してきた。白と黒のツートンカラーが前よりも不気味に見えた。相変わらず不細工な笑顔で、俺たち一人一人の顔を品定めするように眺める。
「じゃーん!」
「何の用だ」
「え?なに?六浜さん、いきなり結論求めちゃうの?あのね、そんなに世の中甘くできてないんだよ。色んな紆余曲折や挫折や断念や妥協を重ねて、結局は何も分からないまま終わることだってあるんだよ。それに、学校で習ったでしょ?途中過程も大事なの」
「そういうのが無駄なんじゃねえのかよ・・・」
「っていうかね!ボクはむしろオマエラに怒ってるんだよ!こんにゃろー!いい加減にしろ!」
「なにおこってんだよ!おこるのはこっちの方だぞ!このオセロやろー!」
「オ、オセロ!?失礼な!ボクはオセロなんかと違って裏表がないんだからね!上手い!座布団百枚!!」
「そんな上手くもないよ」
なんだろうな、この感じ。俺たちは全員あいつのことを憎んでるし、うざってえと思ってるし、嫌いなはずだ。なのにいつの間にかあいつのペースに持って行かれる。それがあいつの狙いなんだろうが、なんか俺たちにはどうしようもない何かのせいにも思えてくる。モノクマの正体ってなんなんだ。
「無駄を言うなら口を閉じていろ、馬鹿共が」
「で、本題に入るけど、ボクは早速オマエラの責任者としての自信を失ってしまいました。だってオマエラ、ホントに希望ヶ峰学園に帰りたいの?」
「あ、当たり前でしょ!誰がこんなところにずっと・・・」
「だったらなんで脱出しようとしないのさ。ボクはここ最近不安だったんだよ。オマエラ、本当にこの合宿場での生活を受け容れちゃったのかなって。でもそしたらさ、ボクとしては退屈なワケ。脱出しようと足掻くこともなく、コロシアイが起きることもないで、希望も絶望もなくただだらだらと過ごす。監視する方の身にもなれってんだよ!」
「なら解放すればいいじゃろ!!」
「やだよ。だって勿体ないもン」
「知らねーよ!」
おいおい・・・マジでこいつとお友達にでもなるつもりかこいつら。なんでこんなリラックスして話せるんだ。
「で、そんな刺激のないオマエラに、ボクからスペシャルプレゼントを贈ろうってわけ!オマエラのこの無為な日常に、素晴らしいコロシアイという名の刺激を与えるためのね!」
「ま、またなんか部屋に置いたあるんですかあ!?」
「違うよ。こっそりオマエラの部屋に置き土産するの面倒臭いんだもん。だから、うぷぷぷぷ、これだよ!」
そう言ってモノクマは、どこからともなく紙束を取り出した。よく見るとそれは封筒だ。それぞれの封筒には、俺たち一人一人の名前が書いてある。なんだありゃ?
「これは、『秘密』だよ!知られたくない(/ω\)ハズカシーな過去、知られたら社会的に\(^q^)/オワタな事実、その他絶対にバレちゃいけない真実なんかだよ!」
「ふん、くだらん」
「おやあ?古部来くんは余裕そうだね。キミは後ろめたいこととか秘密とかないのかな?じゃあ読み上げちゃおうかな」
「!」
「うっ!?」
一瞬、なんだか分かんねえが古部来からすげえ気配を感じたような気がした。殺気とも敵意ともつかないような強い迫力。向けられたモノクマは平然としてるが、その場に居合わせた俺たちのほとんどがそれを感じて、身を強ばらせた。
モノクマはそんな古部来を真っ向から睨み返して、また新しく封筒を取り出した。そこに書かれた名前は、ここにいる誰のものでもなかった。
「うぷぷぷぷ!なに本気にしちゃってんの!ジョーダンに決まってんじゃーーーん!いま発表しちゃったら、わざわざ封筒に入れてる意味なくなーーーい!?ぶひゃひゃひゃひゃ!!」
「・・・」
「でもま、もういない人のはいいよね。別に」
「待て!貴様、これ以上まだあの二人を侮辱するつもりなのか!!」
「気にしない気にしない。ほら、よく言うでしょ。死人に顔無し・・・あれ?耳無し?能無し?おもてなし?って何にもないか!」
こいつは本当に、どこまで軽々しく命を扱ってやがんだ。この分だとそのうち本当に気まぐれで誰かを殺しそうだ。
モノクマは六浜の制止もきかず、飯出の封筒から紙を取り出してそれを大声で読み上げた。
「オホン、え〜、飯出条治くんの秘密。飯出くんは学園にいたころ、ストーカー行為で袴田千恵さんを自殺に追いやりました!」
「はわああああっ!!そ、それはあああ!!」
「ま、みんなも周知の事実だよねこんなの。でも、みんなのそれぞれにこれくらいのレベルのことが書いてあるから。他の人に見せるのは自由だよ、見せられたらの話だけどな!!ほうら受け取りやがれ!!」
「お、おいおい!秘密投げちゃダメだろうがよ!」
飯出の紙に書かれていたのは、俺たちにとってはもう分かり切ってたことだった。だけど、もしこれをあいつが生きていた時に発表されてたら・・・。きっとあいつは、忘れるってことで塗り固めてた屋根が崩れて、責任とか罪悪感とかで潰れてたはずだ。そんなのが書いてあんのかよ。
簡単に説明したモノクマが、封筒を俺たちに向かってバラ撒いた。空気の抵抗を受けてひらひらと不規則に落ちていく封筒は、書いてある名前を無視して好き勝手に散らばる。俺は適当に目の前に落ちてきた封筒を拾い上げた。へったくそな字で書いてある名前は・・・。
「!」
「うおっ!」
「あっ・・・ご、ごめん清水クン!」
名前を見ようとした俺の手から封筒を強奪したのは、いつになく焦った様子の曽根崎だった。てっきりこいつはいつも通り飄々と構えてるもんかと思ってたが、俺の手から奪った紙を誰にも見せないように壁際まで走って行ってこっそり見てた。あいつ、何か心当たりでもあんのか?自分が絶対に知られたくない『秘密』なんかに。
「清水、これを」
「あ?」
「お前の秘密だ。安心しろ、私は他人の秘密を勝手に見るようなマネはしない」
「・・・当たり前だ」
ぼーっと曽根崎を見てたら六浜に声をかけられた。俺の名前が書かれた封筒を差し出して、自分の封筒はしっかりと握って離さないようにしてる。どういうつもりでそんなこと言ったのか知らねえが、俺には別に後ろめたいことなんかない。どうせここに書いてあることも大したことじゃねえだろ。
「・・・は?」
そこに書かれてたのは、俺には全く身に覚えのない事実。いや、事実かどうかすら分からねえ。なんだこりゃ?
ーーお前は知っているはずだ。この状況、そしてこの合宿場を。その記憶は決して夢などではない。それは現実だ。お前はこのコロシアイ生活の全てを知っているはずだ。ーー
な・・・なんだこりゃ・・・!?どういうことだ?記憶ってなんだ?コロシアイ生活の全てを知ってるってなんだ?合宿場を知ってるはずって・・・ここに来たことがあるってことか?これが俺の秘密?どうなってんだ?
「お、おい!なんだよこれ!こんなのオレ知らねーぞ!」
「どういうことなのよ!あたしたちの秘密なんじゃないの!?」
「うぷぷぷぷ、焦ってる焦ってる。焦ってるねえ。これだから人の・・・クマの話をちゃんと聞かない奴は困るんだよ」
もしかしたら俺だけかと思ったが、他の奴らも俺と同じようなリアクションしてる。どうやらここにいる全員が、『自分じゃない誰かの秘密』を知ってしまったらしい。
「名前の書かれた封筒にその人の秘密が入ってるなんて誰が言ったよ!オマエラが今読んだのは、他の誰かの秘密だよ!誰のかは分からないようにしてあるけどねー!」
「貴様ッ・・・!どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ!!」
「んじゃ、ついでにもっと馬鹿にしちゃおうか。これから二十四時間以内にクロが現れなかった場合、この秘密が誰のものか発表しちゃいまーーーす!それも、全世界に向けてね!!」
「な、な、なんじゃとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!?」
なんだそりゃ。つまり、これから一日経つ間に誰も死ななければ、自分の秘密がバラされるってのか。しかも自分じゃその秘密が何なのか分からねえ上に、どこの誰のとも知れねえ秘密を知っちまってる。これが動機・・・秘密をバラされたくなきゃ誰かを殺せってことか。
「うぷぷぷぷ、それじゃよろしくね!また二十四時間後に会いましょーう!グッバーーーイ!」
「ま、待てよ!」
モノクマはいつも通り、あっという間に消えた。後に残された俺たちは、すぐにその紙を封筒に戻してポケットや懐に仕舞った。これが誰のかは分からねえ。だが、誰にも知られたくない秘密を知ってるってだけで、十分に殺される可能性はある。だけど、誰が自分の秘密を知ってるのか分からねえ。
お互いの顔を見る。どいつもこいつも不安で仕方ねえって顔をしてる。そりゃそうだ。こんなの極端な話、片っ端からぶっ殺して口封じすりゃいいわけだ。それを実行できるかどうかは別にして、いつ誰が誰を襲ってもおかしくないんだ。
そういう状況で声をあげられるこいつは、やっぱり馬鹿なのか。
「緊張しているようだな。しかし疑問だ、なぜお前たちはそこまであからさまに動揺している?」
「ま、また望月ちゃん・・・?」
「もういいよお前は!この前もそうだったけど、なんで焦らねえんだよ!おかしいだろ!もしかしてお前・・・あのクマとグルなんじゃねえだろうな!」
「!」
考えもしなかった。屋良井が言ったことは俺たちを余計に緊張させた。モノクマとグル・・・というか、モノクマを操ってる黒幕、その正体が望月?ちょっとしたパニックになって出た何の根拠もない発言だったが、それでも十分だった。
望月は屋良井を見つめて、その後少し考えてから言った。
「そうか。モノクマは単独犯ではなく複数犯によるものと考えた方が自然だな。或いは、多数の者からの協力を得られる立場の人間・・・」
「は、はあ!?お前・・・なんで否定しねえんだよ・・・!?ま、まさかマジで・・・!?」
「止めろ屋良井。疑い合っていてはモノクマの思う壺だ。有栖川がどうなったのか忘れたのか」
「だっ、だけどよ・・・」
「それより、望月の言う通りだ。動揺するな」
望月に便乗して六浜が屋良井を押さえつけた。望月はマジでこの状況が理解できてねえんだろう。だが六浜は理解した上でこの態度だ。ますますわけが分からねえ。俺は大した秘密なんてねえが、俺の持ってる秘密の持ち主が俺を殺しに来るかも知れねえって考えるだけでたまったもんじゃねえ。今はそういう状況なんだ。
「私たちは結束を新たにしたはずだ。飯出の事件、有栖川の過ちを繰り返してはならない。ここにいる全員でこの合宿場を脱出するのだ」
「だ、だけどドール・・・このままじゃワタシたちの秘密が全部・・・」
「気持ちは分かる。だが飲まれてはならない。そうだろう!」
「・・・」
いくらなんでも強引だ。たぶん俺だけじゃなく、ここにいる奴ら全員がそう思ったはずだ。互いに誰のもんか分からねえ秘密を握ってんだぞ。程度が違っても、たぶんモノクマが用意するくらいだからバラして何の問題もねえってもんじゃねえんだろう。つまり、いつ誰かが裏切ってもおかしくねえ状況ってわけだ。
「だ、だけど、僕は自分の秘密がバラされるなんて嫌だよ・・・。だいたい予想付くし」
「でで、でもぉ・・・ま、ま、またあんなこと・・・ぜ!絶対にあきません!!」
「じゃあどうしたらいいのよ!」
「・・・それぞれの秘密を明かし合うのだ。仲間と疑い合うよりはいいだろう」
「バ、バカ言ってんじゃねえよ!!テメエ正気か!?」
まさに苦汁の決断って感じか。六浜は難しい顔をしたまま提案した。明らかに、何の考えもなく前に出て、仕方なく捻りだした案だ。秘密を俺たちで共有なんてできるわけがねえ。それができねえから、モノクマは俺たちにこれを寄越したんだ。それにもしそうしたところで、何の解決にもならねえ。
「ふん、所詮はこんなものか。言っておくが秘密の共有など俺は反対だ。俺が持っている秘密は公開してやらんこともないがな」
「んなっ・・・!?」
そう言うと、古部来以外のほとんどの奴が身構えた。もしかしたらあいつが持ってるのが俺の秘密かも知れない。そう考えたら思わず注目しちまった。
こいつ、こんな奴だったか?今はちょっとした挑発でも即殺しに繋がるような状況だぞ。そんな自分から危険を呼び込むような馬鹿なマネするなんて考えられねえ。六浜もそうだが、こいつら最初と違う。変わったのか、これが本性なのか分からねえが、どうにもこいつらは何かあったとしか思えん。
「オ、オレは部屋に帰る。これが誰のかは分かんねえけど、秘密にしといてやるからオレのも秘密にしとけよな」
「私も。付き合っていられませんわ」
「こんなもんびりびりにしてすてちまえばいいんだよ!」
「ま、待てお前たち!そうやってばらばらになっては・・・!」
「六浜さん。申し訳ありませんが、私も失礼いたします」
「鳥木・・・お前まで何を言っている!」
屋良井に続いて穂谷、滝山、鳥木とどんどんホールを出て行く。そりゃそうだ、飯出の事件の後から六浜は俺らをまとめ上げようとしてたが、今回はいくらなんでも無茶苦茶過ぎる。これ以上こいつに付き合ってらんねえ。俺もさっさとホールを出ることにした。
「当然、と言わざるを得ないな」
「なぜだ・・・!なぜ誰も・・・!」
「・・・ドール、ちょっと落ち着いた方がいいわ。ダイニングに行きましょう。コーヒーを淹れるわ」
「済まない・・・」
私は間違っているのだろうか。ここに残ったのは古部来とアニーだけ。古部来が残ったのは意外だったが、他は全員出て行ってしまった。まんまとモノクマの術中にはまりおって。このままでは疑心暗鬼のまま一夜を過ごすことになってしまう。このままではまた、誰かが殺されてしまう。どうすればいい、どうすれば・・・!
悩んでも悩んでも答えが見えてこない。確かに秘密をバラされるなどたまったものではない、多少の反発は覚悟の上だった。しかし、ほぼ全員が私に反対するのは予想外だった。なぜなのだ。このままではいけないとなぜ分からない・・・!なぜ誰も私を信じてくれない・・・!!
「・・・。・・・はま。六浜!」
「!」
「確りしろ。食堂に着いたぞ」
「す、すまないな古部来・・・もう大丈夫だ」
「大丈夫?ドール、ずいぶんと疲れてるみたいね。ミルクたっぷりの一杯でリフレッシュなさい」
「ありがとうアニー。申し訳ない・・・私がしっかりしなければならないというのに」
「まったくだ。自分からリーダーに進み出ておきながらこの様とはな」
「リョーマはコーヒーはいかが?」
「俺は麦茶でいい」
偉そうにふんぞり返りながら古部来が麦茶を要求する。よく考えてみれば、こいつが食事時以外に食堂にいるのは珍しい。いつも部屋で一人で詰め将棋をしているか、寝ているかなのに。なぜここにいるんだ?
「だけど、意外だわ。リョーマが残るなんて」
「ふん、この女だけでは説得できないと踏んで、気休め程度に残ったまでだ」
「うふふ・・・優しいのね」
ぐいっと古部来は麦茶をあおった。何が気休めだ。お前が残ったことで私の何が救われようか。
「それで、どうするつもりだ。こうしている間にも時は過ぎていくぞ」
「分かっている。秘密を守りつつ殺人を起こさせない方法・・・お前も考えてくれ」
「・・・貴様、本当に予言者か?この俺でさえ読める未来をなぜ読めない」
「なに?」
私が未来を読めないだと?予言者という肩書きに違和感こそあるものの、少なくとも人より先見があるはずだ。なぜ私が未来を読めてないなどと言える。
「モノクマは、殺人が起きなければ秘密を公開すると言った。それは絶対だ。何をしようと殺人が起きない限り、奴は秘密をバラす」
「だからそれを止めるにはどうすればと」
「・・・甘いな。やはりお前は、この状況を分かっていない。もう少し話の分かる奴だと思っていた」
「くっ・・・!で、ではお前は分かっているというのか!」
「ちょ、ちょっとドール。落ち着きなさい、リョーマとケンカしてる場合じゃないでしょ」
「止めてくれるなアニー。大事なことだ」
私は思わず立ち上がった。なんだというのだ。たまに私に与したと思えば、挑発し馬鹿にするようなことを!一体古部来は何を分かっているというのだ!秘密が重要な殺害動機になり得るこの状況で、秘密を守ることができないという事実を前にして、他に何があるというのだ!
「少なくとも貴様よりは広い視野を持っている。それに、この程度で心を乱すようでは古部来の名が廃る。そんな醜態を晒せるか」
「ならば聞こうではないか。お前の広い視野に何が映っているのかを!」
「・・・そもそもからお前は勘違いをしている」
「?」
「鬼伏すと思えば辻も行かず、だ」
「な、なにを・・・」
また小難しいことを言うのか。肝心なところはいつもこうだ。その意味を深くきこうとしたが、その前に食堂の引き戸が開く音がした。見ると、石川がいた。
「あ、あれ?六浜ちゃんと・・・古部来もいるんだ。珍しいね」
「ハーイ、カナタ。コーヒーを飲みにきたの?」
「えっと・・・えへへ、ちょっと小腹が減ってさ。どうせ今日の晩御飯じゃお腹いっぱいにならないし」
「それじゃ、昨日焼いたカップケーキを持ってくるわね」
この雰囲気を壊しに来たのか、と思うほど、アニーと石川は気の抜けた会話をする。古部来も気勢をそがれたのか深くため息を吐いた。
「とにかく、思い込みに気付け。俺が言えるのはここまでだ。これ以上は奴に気付かれるからな」
「ちょっ!待て古部来!きちんと最後まで・・・」
「ん?なに?二人とも何の話してたの?」
「い、いや・・・なんでもない」
「カナタ、プレーンとチョコレートとストロベリー、どれがいいかしら?」
「わあ!すごいアニー!」
石川の姿を見ると、意味深なことを言い残して古部来はさっさと食堂から出て行ってしまった。前から思っていたが、奴が食堂にいないというよりも、古部来はアニーと石川を避けているようだった。それがなぜかは分からないが、今もまるで石川が来たから出て行ったような態度だった。そんなに石川が嫌いなのだろうか。困った奴だ。
「六浜ちゃんも一緒に食べようよ、アニーのお菓子美味しいのよ」
「じゃあドールにはもう一杯コーヒーを淹れないとね」
「あ、ああ・・・頼む。ときに石川、お前は大丈夫なのか?」
「うん?なにが?」
先ほど多目的ホールから出て行った時の思い詰めた表情は消え失せ、今の石川はさっぱりと普段の快活さを取り戻しているようだった。良いことなのだが、この切り替えの早さは流石に不審だ。何かあったのだろうか。
「いや、秘密の件だが・・・」
「ああ・・・そりゃ秘密知られるのは嫌だけど、でも誰かが殺される方がもっと嫌だから。もうあんなこと嫌でしょ・・・」
「そ、そうか。まあ何にせよ、大丈夫ならいい」
思ったよりも石川はさっぱりした性格なのかも知れない。別段それで問題があるというわけではない。そんなことより私は、あの気難しい堅物が残した言葉の意味を考えなければ。奴が何に気付いたのか、それが分かれば、この絶望に瀕した危機的状況を打破する鍵が見えてくるかも知れない。
秘密をバラす。脅しとしてはとても初歩的なもので、ですがそれだけに効果は絶大です。その証拠に、私を含めて、ほぼ全員が疑心暗鬼に陥っています。自分の持つ秘密は誰のものなのか、自分の秘密を持つのは誰なのか。まるで暗い中で宙吊りにされたまま、どこから飛んでくるか分からない矢に怯えるようです。
ですが、この私が人殺しなどという下劣な手段を行使することなどあり得ません。この私の美しく輝かしい経歴を、そこらの方の血で穢すなど愚の骨頂です。
「・・・」
グランドピアノの鍵盤と繋がった金属のコードが、私の指の動きに合わせて震えて一つの音が鳴る。そしてそれは同時に生まれたいくつもの音と重なり合い、混じり合い、一つの旋律となって私を包み込む。美しいほどに華やかで、とても静かな調べ。これこそ私の安らぎです。
音楽をしている間は、世の憂鬱なことやしがらみから解放される。歌っている時の私は世界中の誰よりも魅惑的に魅惑され、演奏している時の私は世界中の誰よりも魅了的に魅了されている。音楽は私が私自身を陶酔させ、この窮屈で雑多な世界から解放するための手段。そしてそれ以上に、私は音楽という芸術に身を焦がしています。だからこそ、安らぎを求めて音楽に浸ってしまうのでしょう。
「さすが、“超高校級の歌姫”と呼ばれるだけはあるな」
「お黙りなさい。私の世界に土足で踏み入ることは許しません」
顔を見ずとも、声だけで分かります。この機械的で平淡な声、望月さんに違いありません。この方は、芸術というものを全く理解できていません。私のこの調和の空間に、その秩序を破壊するような雑音を投げかけるなど、言語道断です。
「これは失礼した」
「お分かりいただけたのなら、さっさと立ち去ってください。集中が乱されます」
「そうか。私も特にお前に用事があったわけではない。資料館に来たら音楽が聞こえたので来たまでだ」
「聞いてもいないことをべらべらと・・・そういうことは、あなたの大好きな無能さんにお話してはいかがでしょうか?」
「・・・大好き、か」
図星、という顔ではありませんでした。ですが望月さんがその言葉に何か引っかかったようなことは確かです。どちらにせよ、私は彼女がその場から去ってくれればそれでいいのですが。
私が手を止めて彼女に対してはっきりと拒絶の意を表すと、望月さんは素直にそこから立ち去って行きました。ふう、ともう一度私の世界を創り上げようと手を鍵盤の上に置いたところで、また邪魔な気配を感じてしまいました。どうにもこの場所は、私の邪魔をしたがる方が多いようです。
「なんですか?」
「うおっ!き、気付いてたのかよ!?」
「音には敏感なもので。それで、私と望月さんの会話を盗み聞きして、一体どうするおつもりですか?」
「い、いや別に・・・そういうわけじゃねえけどさ・・・」
くたびれた少し固いブーツの靴がカーペットを踏む音、そして髪と布のバンダナが擦れる音。これは屋良井君ですね。
「別にお前を見に来たわけじゃねえよ。ただ、望月が気になって・・・」
「あら、お生憎ですが彼女はあの無能さんにお熱のようですよ。そもそも、あなたのようにいい加減そうで無駄に自分を大きく見せようとしている、フグのような方を眼中に入れている女性がいるかが疑問ですが」
「そういうこっちゃねえよ!!っていうかオレの悪口は余計だろ!!」
その発言が余計ですし、無駄に大声を出すのが嫌だと言っているのです。分からない方ですね。
「んなことより、あいつにゃ気をつけといた方がいいぜ、女王様よぉ」
「そう呼ばれるのは気分がよくありません。名字で呼ぶことを許可します」
「そりゃどうも。って、オレの話聞いてんのかよ」
「聞かせて欲しいとお願いした覚えはありません。お話ししたいのであれば、どうぞ」
「ああ・・・」
屋良井君に私の時間を割くのは至極勿体ないですが、彼は望月さんのことを警戒しているようでした。私も彼女のことは、無粋な方以上に不思議に思っています。あの喋り口や性格は、とても人間のものとは思えませんもの。
「あいつ、ここに連れてこられた時もそうだったし、さっきも全然慌ててなかっただろ」
「そうですね。ですが、それが彼女ではありませんか?」
「いや、絶対あいつは何か裏がある。もしかしたら、モノクマを操ってオレたちをこんな目に遭わせてる奴があいつってこともあるかもしれねえ」
「・・・単なる漠然としたイメージではありませんか?その拙い知恵を振り絞っても大した考えが出るとは思えませんが」
「そう思うか?だったら、あれ見てみろよ」
そう言って、屋良井君は楽器置き場の向こう、入口側の吹き抜けになっている場所を指しました。彼の言うことのためにわざわざ立ち上がるのも億劫でしたが、気にはなるので見ることにしました。こっそり下を見ると、先ほどここを立ち去った望月さんがいました。そして、その隣には左右で色の分かれた不格好なぬいぐるみ。
「っ!望月さんと・・・モノクマですね」
「あれが証拠だ。少なくともあいつは、モノクマと裏で繋がってる」
さっきより屋良井君の言葉に説得力が感じられたような気がしました。確信というにはまだ曖昧ですが、疑うには十分なほど。
私たちに気付いているのかどうかは分かりませんが、望月さんとモノクマは二三会話した後、すぐに解散しました。そして望月さんは閲覧用の個室に入っていき、モノクマは隣の個室に入って姿を消しました。一体何の話をしていたのでしょうか。
「どーしたの穂谷さん?屋良井くん?下に何かある?うぷぷぷぷ!」
「!!」
「きゃっ!・・・な、なんですか・・・!?」
いきなり背後から声が聞こえたことにも思わず身を強ばらせたのに、その声は間違いようもなく、ついさっき下の個室に消えていったモノクマの声でした。とっさに振り返ると、やはりそこにいたのはあの奇妙なぬいぐるみでした。にやにやとした笑顔が、いつにもまして不気味に感じました。
「こんなところで二人っきりでさ、よければボクが楽器でムードでも作ってあげようか?この黄金の絶対音感を持つボクがさ!」
「い、いま完全に・・・」
「うん?なに?」
「い、いや・・・なんでもねえ・・・」
私たちが望月さんとのやり取りを覗いていたということは、悟られないようにしておいた方がいいかも知れません。屋良井君の言い分を信じるわけではありませんが、念には念を、です。
「それより、二人ともこんなことしてていいのかな?」
「は?ど、どういうことだよ」
「だって、屋良井くんも穂谷さんも、『絶対他人に知られたくない秘密』があるんでしょ?うぷぷぷぷ!」
「!」
またその話ですか。予想はしていましたが、こうして私たちの疑心暗鬼を加速させていくおつもりですね。にやにやと下衆な目で私を見つめてくるモノクマを睨み返すと、きらりと目が光ったような気がしました。
「は・・・ははっ、そりゃ秘密なんて誰にでもあんだろ!でもま、“超高校級の諜報員”のオレなら、あいつら全員の秘密を見抜くことなんか朝飯前・・・」
「うぷぷ!のんびりしてるねえ屋良井くん!明日になれば、もうそんな嘘もつけなくなるんだよ!」
「!」
「・・・」
いつものように軽い喋り口でモノクマの脅しを躱す屋良井君の表情が、一瞬で凝り固まりました。あまりにあからさまで、ちゃらちゃらした普段の雰囲気は消え去り、焦燥と恐怖に満ちた苦悶の表情になっていました。モノクマはそれを見てより一層口角を釣り上げて、次に私の方に発破をかけました。
「穂谷さんだってそうだよ。もしキミの秘密が明らかになれば・・・うぷぷぷぷ!もう“超高校級の歌姫”なんて呼ばれることもなくなるかもね!」
「・・・」
まるで全てを見透かすような、どこまで暗く歪な視線で私を見つめるモノクマの目は、私の恐怖心をがっしりと掴んで離そうとしませんでした。それを顔に出さないよう努めていましたが、やはりそれすらもモノクマは見抜いているのでしょう。
「うぷぷぷぷ!ま、どうしようとオマエラの自由だけどさ。ゆとり真っ盛りの現代っ子にあれこれ言ってもサザエみたいに殻に閉じこもっちゃうだけだからね!」
そう言って、モノクマは唐突に現れたと思ったら唐突に消えました。残ったのは後味の悪い静寂だけ。モノクマが現れるといつもそうです。
「不愉快です」
私はそれだけ言って、苦悶の表情で頭を抱える屋良井君を置いてそこを離れました。もう音楽をする気分ではありませんでした。一刻も早く、自分の部屋に戻りたかったのです。
いつもより遅いの夕食だった。今日モノクマによって新たな動機が与えられたことが影響しているというよりも、夕食の調理担当が清水翔だったことが主な要因だろう。その上、食卓に並んだのは各人茶碗一杯の白米と、中央の大皿に山盛りになった青椒肉絲。調理したてで湯気がたっており、濃厚な化学調味料の香りが食欲をそそる。
「相変わらず清水クンの作るのって、貧相なメニューばっかりだよね」
「文句があんなら食うな」
「いや、これはひどいでしょ。あたしおやつ食べといてよかった」
清水翔が調理担当の日のメニューは、この形式が最も多い。白米と大量のレトルト調理パックを使用した、単純明快にして濃い味付けの粗雑な料理。既に古部来竜馬や穂谷円加ら一部の人間は、別の卓で個別の料理を食べている。清水翔はそれを見て苛立った顔をしているが、文句がある場合は手を付けるな、という発言に従っているのに、何を気にすることがあるのだろうか。
「チャイニーズはあんまり食べることないから、ワタシはカケルのご飯好きよ」
「アニーさんいい人だね・・・」
「くえりゃーなんでもいーだろ!いっただっきまーす!」
「こら!せめて箸使え箸を!」
「いでーっ!」
いきなり青椒肉絲の山に手を突っ込もうとした滝山大王の手の甲を、石川彼方が強く叩いた。ろくに除菌洗浄もしていない滝山大王の手で触れられては、あの山丸ごと食用に適さない生ゴミに変わってしまっていただろう。
「取りあえずそれぞれ取り分けてあげるから。お皿出しなさい」
「清水君、ご飯はおかわりできますか?」
「ある」
「晴柳院さん、服汚れない?大丈夫?」
「こ、これ以外ありませんので・・・気をつけて食べますぅ」
「一汁一菜以前の話だな」
「あはは!散々な言われようだね清水クン!」
「うるせえ」
反応は個々人によって多様だが、これ以外に食べる物がないため仕方なし、という様子は共通していた。しかし私にはこの空間は不可思議でならない。
私を含めここにいる者たちは全員、有栖川の件を受けて結束を新たにしたはずだ。六浜がそれをよく口にしている。しかし、モノクマによって秘密を公開するという新たな動機が与えられるや、たちまち相互に疑心暗鬼になった。にもかかわらず今は、こうして同じ卓について食事を共にしている。結局ここにいる者たちは、互いを信頼しているのか、それとも猜疑しているのか。実に不可解だ。まるで一貫性がない。
信頼するのであれば素直に信じ、疑うのであれば徹底するべきてはないのか?或いは、信頼か猜疑かとは異なる問題なのだろうか。心理というものは、実に難解極まる。合理性と非合理性の渾然一体となって混沌としている、なのに示されるのは単純明快なものばかりだ。
「・・・おい。ぼーっとすんな。早く食え」
「むっ」
「あれ?なになに?清水クン、望月サンにあーんしてあげたりとかあっつい!!」
「メ、メガネにご飯が・・・」
「うははははっ!お前さんたちはいつ見ても愉快じゃのう!」
つい深く思考していたら、清水翔に箸を進めるよう急かされた。それを曽根崎弥一郎茶化すと、清水翔が曽根崎弥一郎の茶碗を持った手を叩きあげて、盛られた白米が曽根崎弥一郎の顔面に接着した。米粒の付着した眼鏡のまま布巾で顔の熱を冷ます曽根崎弥一郎を見て、明尾奈美が笑い声をあげた。
「ひどいよ清水クン!ちょっとした冗談じゃないか!」
「さっさと食わねえと洗いもんが終わらねえだろうが。めんどくせえから残すんじゃねえぞ」
「無視!」
「うふふ・・・こうして見るとカップルっていうよりファミリーみたいね」
「私と清水翔に血縁関係はないと思われる。カップルというのは、いわゆる恋愛関係にある男女という意味か?」
「いや〜、若いのう」
「え?なに?あんたたちもうそういう関係?」
「やっぱそうなのかよ!!見せつけてんじゃねーぞチクショーッ!!」
「水臭いなあ清水クンってば。ボクにも教えてよ」
「心底めんどくせえなこいつら」
騒々しい曽根崎弥一郎につられて、ほとんどの者が同様の話題に興味を持ったようだ。残念だが私と清水翔に、曽根崎弥一郎らが期待していると考えられるような関係は存在していない。清水翔は深くため息を吐き出して言った。
しかし、私はそれよりもより気にかかることがある。清水翔はなぜ、青椒肉絲という料理を選択したのだろうか。そこには、単なる食事以上の意味があるように思えて仕方ない。
「清水翔。私は何か、お前に嫌悪感を抱かせるようなことをしたか?」
「は?」
「え?え?なになに?ケンカ?痴話喧嘩?清水クンと望月サンの間に早速すれちがあっつい!!二回目!!」
「何の話だ」
「私は確かに伝えたはずだ。ピーマンが苦手だと」
はっきりと覚えている。私は確かに清水翔にそう言ったはずだ。にもかかわらず、よりによってピーマンとそれ以外を選別するのが特に困難である料理を選択するとは、清水翔が私に対して何か不愉快な感情を抱いた証拠だ。いわゆる、当てつけというやつだろう。
「覚えてねえよ。嫌なら食わなくていい」
「そういうわけにはいかない。今夜は観測をする予定だ。カロリーを摂取しておかなければ、夜を越すことは不可能だ」
「も、望月さん・・・こんな時に夜中に外にいてはるつもりですか・・・?」
「そ、そんなの危険すぎるよ!夜中に・・・それも女の子一人だなんて!」
「では晴柳院命か笹戸優真、或いはその両方も来るか?」
「い、いえ・・・そもそも夜中に外なんてダメですよぉ・・・」
私はどちらでも構わないのだが、そう提案すると笹戸と晴柳院はどちらも困ったように席に着き直した。夜中に外出せずにどう天体観測をしようと言うのだ。しっかりした設備も整備されていないというのに。まったく、ここにいる連中の発言は実に非合理的で理解に苦しむ。
今日ほど困難を極めた食事は初めてだ。青椒肉絲ひとつまみに対し白米を二口、これでなんとかピーマンの青臭さと苦みに耐え、多くの水を飲んだせいでほとんど食べ残してしまった。私が食事を終了させる頃には、私と清水翔、そして曽根崎弥一郎以外の面々は全て寄宿舎に戻っていたようで、その詫びというわけではないが、洗い物を手伝った。
「なんでテメエもいんだよ」
「いや〜、希望ヶ峰学園の問題児である清水クンと望月サンのスクープなんて、学園が揺れるからね!こりゃあ広報委員として取材しないわけにはいかないよ!」
「お前が期待するようなものは一切ないと考えられるが」
「まあまあ。ここはやっぱり女子の望月サンよりも清水クンに聞くべきだから、望月サンにあんまりしつこくするつもりはないよ!その代わり、清水クンについての情報はまた教えてもらうけどね!」
「勝手にしろ」
私が宇宙や星々に興味を抱くように、曽根崎弥一郎も清水翔という人間について相当な興味を持っているらしい。私には到底理解できない分野だが、どうやら私も当事者のようだ。私に不都合がない範囲では協力を拒む理由は存在しない。
「ところで、清水翔。ついでに曽根崎弥一郎」
「あ?」
「なに?どしたの?」
「私は今夜、夜通し天体観測をしようと考えている。それに際して、寄宿舎の私の部屋から東の平原まで必要な器具を運搬し、設置用意する必要がある」
「それがなんだ」
「私一人ではあの距離、そして物量を一度に運搬することは極めて困難と予想される。しかし一時的にでも屋外に物品を放置する行為はモノクマによる規則にあるポイ捨てに該当する」
「そうだね」
「そのため、器具の運搬及び一時的な監視に私以外の人間の協力が必要である」
「いいよ!ボクも手伝ってあげる!」
「俺はやらん」
「清水クンもやるってっぷあ!?苦い!!」
必要なことだけを的確に伝達したつもりだったが、清水翔の表情は明らかに途中から話に耳を傾けてはいなかった。そして曽根崎弥一郎が笑顔で私に協力する意思を明確にしたところ、清水翔がコップに溜まっていた石鹸水を曽根崎弥一郎の顔にかけた。
「清水クンさあ、せっかく望月サンの方から言ってくれてるんだよ?ここで手伝わないと男が廃るってもんじゃない?」
「なんで俺がこいつのために働かなきゃならねえんだ」
「もちろん、それなりの謝礼はしよう。実はあの後、またモノクマメダルを拾得し、お前の趣味に合うと思しき品物を入手した。それを譲ろう」
「いらん」
「ええい!じれったいなあもう!望月サンの頼みだぞ!素直に星を見に行けよ!あれがデネブ、アルタイル、ベガって夏の大三角指差し覚えて空を見なよ!」
「この時期には夏の大三角形は見えないぞ」
「テメエが望月となんかあんのか知らねえが俺には関係ない」
私としては少なくとも曽根崎弥一郎よりも体力のありそうな清水翔に手伝ってもらいたいのだが、協力の意思がないのなら仕方ない。こうなったら可能性は低いが、モノクマに見張りを頼むしかないか。
人数分の茶碗とコップ、そして大皿が一枚という少ない量だったせいか、あまり私と曽根崎弥一郎の手伝いの影響もなく、手早く洗い物は終わった。古部来竜馬と穂谷円加は使った食器は自分で洗ったようだ。ずいぶんと律儀なのだな。
「じゃ、ボクと清水クンで望遠鏡は用意しておくよ。それだけでいい?」
「必要な器具は一纏めにしてある。それ以外に不要な物には触れないでおくこと」
「うん、分かった!」
「俺は部屋に帰っぐぇっ!?」
「そうはさせないよぉ。ホントにご飯熱かったんだからさぁ」
「何の話だよ!!」
洗い物が終わるや、清水翔はすぐに食堂を出ようとしたが、それをすぐに曽根崎弥一郎が追いかけて捕まえていた。いつもより曽根崎弥一郎の顔に不穏なものを感じるのは錯覚だろうか。いずれにせよあの荷物は男子二人がかりであれば簡単に用意できる量のため、私が余計に気にかける必要はなかろう。それよりも、私も早く必要なものを取りに行こう。
やはり重ね着だけでは十分な防寒とは言えず、食堂から資料館までの道のりの間に何度かシバリングを起こした。部屋のベッドの毛布はあまりに長すぎるため、屋外で使用するには却って不便だ。しかし資料館の個室にあった毛布なら、ちょうど体を包んで少し余裕がある程度で丁度良い。資料館は夜間でも昼間と同様に解放されているようであり、夜時間でも施錠はされないらしい。私にとっては好都合だ。
「?」
入口を通ってすぐ手前にある個室に入ろうとしたが、それは不可能だった。他の五つの個室は全てドアが開放されていたが、手前の一室だけは施錠され使用中だった。仕方がないので一つ隣の個室から毛布を拝借し、すぐに清水翔らが待っているであろう東の平原に向かった。
今夜は快晴で星がよく見える。服の隙間から肌に触れる冷たい空気が、少しだけ心地よい。
『コロシアイ合宿生活』
生き残り人数:残り14人
清水翔 六浜童琉 晴柳院命 明尾奈美
望月藍 石川彼方 曽根崎弥一郎 笹戸優真
【有栖川薔薇】 穂谷円加 【飯出条治】 古部来竜馬
屋良井照矢 鳥木平助 滝山大王 アンジェリーナ
動機回でっせ。基本的に思い付かないので無印と同じようにしてますね。第三章からは違うのにしていこうかな。どうしようかな