やっほーーーーーーーーーーい!!オマエラ、ダンガンロンパQQをお読み頂いてありがとうございます!え?メタ発言は止めろって?何のこと言ってるか分かんないなあ。いつからボクがモノクマだって錯覚してたの?口調だけで判断するなんて浅はかだよ!!
さて、冗談はこれくらいにして、このボク、モノクマと一緒にこれまでの学級裁判の粗筋でもお温習いしましょうかね。ぬるくならうって書いておさらいと読むんだよ。ボクも今知ったんだ。コンピューターってすごいよね。
今回の事件の被害者は、“超高校級の冒険家”こと飯出条治くん。生前はみんなのリーダー的存在で、みんなをまとめながら合宿場から脱出する方法を模索してた暑苦しい子だったね。そんな彼がなんと、夕飯を兼ねた決起集会の次の日の朝に死体となって発見されたのでした!
なんということでしょう!あんなに凜々しくて逞しくて頼りになった飯出くんは、頭を滅多刺しにされ大量の血を流した無残な死体へと変わり果ててしまったのでした!あの飯出くんがこんな姿になってしまい、しかも彼を殺したのは仲間の中の誰かだなんて、サイッコーに絶望的なシチュエーションだよね!胸がワクドキして、心臓が弾け飛んでシューティンスターだよ!うっぷぷぷぷぷぷぷ!
生存中の残りの15人は、笑いあり涙あり希望ナシ絶望てんこ盛りの学級裁判へと身を投じ、疑い合いと信じ合いと騙し合いの議論を繰り広げるのでした!飯出くんを殺した凶器が果物ナイフと判明したところまでは順調だったものの、犯行現場の話題になった時に大きな壁が立ちはだかったのです!展望台の血痕と中央通りに倒れていた飯出くん!そして二箇所を繋ぐ唯一の山道には血痕一つない!この不可解な状況に、“超高校級”とその他+αの生徒達は困惑し、立ち止まるのであった!
果たして彼らは真実へと辿り着くことができるのであろーか!注目の結末は本編で!
・・・ふぅ
飯出の死体が見つかったのは中央通り。現場の荒れ具合からして飯出は中央通りで死んだ、だが犯人が飯出を刺した現場はそこじゃなく、展望台だ。展望台の地面に散らばった大量の血痕がそれを物語ってる。
でもじゃあ、飯出は展望台で刺されてから中央通りで死ぬまで、どうやって移動したんだ?犯人が遺棄したわけでも、自力で移動したわけでもない。つまり、犯人じゃない誰かが飯出を下まで移動させたってことなのか?
「殺された場所と死んだ場所が違う・・・か。実に不可解だな」
「こ、この中のだれかが・・・飯出さんの死体を見つけて下に移動させたとしか・・・」
「なんじゃそりゃあ!?なんのために誰がやったんだよ!?」
「ごご、ごめんなさいぃ・・・!でもそうとしか・・・」
「もしそれが本当なら、それをした人物は飯出を殺す機会をうかがっていたのかもしれないな」
「え?ど、どいうこと?なにそれ?」
「飯出の体はひどい有様だった。刺し傷もそうだが、腕や脚の一部は骨が折れ、皮膚が破けている箇所もあった。とても刃物だけで傷つけられたとは思えん」
「ひええええええええええええええっ!!も、もう止めてくださいいいいいいいいいいいい!!」
「おい古部来!!みこっちゃんはそういうグロいのアウトなんだからもっとまろやかに言えよ!!」
「知るか」
確かモノクマファイルにもあった。飯出の体はこれ以上ないってくらいぼろぼろで、犯人は相当の恨みを持って飯出を殺したんだろう。けど凶器が刃物なのに、骨折とかの傷があるってことは、犯人以外にも飯出を痛めつけた奴がいたってことか?それほどあいつは恨みを買うような奴だったか?
「・・・」
「どうしたの清水クン?妙に考え込んじゃって。もしかして心当たりがあるの?」
「マ、マジで!?」
「いや・・・本当に飯出は誰かに運ばれたのかって思っただけだ」
「まーたわけ分かんねえこと言ってやがるよチクショウ!!飯出自身に無理なら誰かが運ばなきゃしょうがねえだろ!!」
「けど、もし飯出を移動させた奴がいたならわざわざ痛めつける意味がねえ。恨みを持ってたんだとしても、既に血まみれの飯出をボコるだけで済ませるか?自分が殺そうと何かしなきゃおかしい」
「・・・確かにな。それは俺も気になっていた。意図はともかくあの状態の飯出を手当てせず移動させるほどの度胸があるのなら、直接命を奪う行動をとっているはずだ」
「じゃあ、飯出はどうやって・・・」
何かを閃きそうなんだ。飯出が自分の力でも、犯人の力でも、他の誰かの力も借りずに移動した手段が。もう少し考えれば・・・!
山道を通らず・・・ぼろぼろの体で発見されて・・・周りの荒れた地面には土や枝葉が散らばって・・・展望台には・・・!!
そうか、その手があったか。飯出は展望台から移動したんでも、移動させられたんでもない。きっと飯出があそこに移ったのは、飯出本人にも犯人にとっても自然なことだったはずだ。それが意図的にしろ、意図的でないにしろ、同じことだ。
「もしかして飯出は、展望台で襲われた後に、そのまま展望台から中央通りまで転がり落ちたんじゃねえか?」
「落ちた・・・だと?」
「展望台の柵の一つにおかしな部分があった。そうだよな望月?」
「へえ!清水クンが他人に証拠を要求するなんて!清水クンが自分から他の人に積極的に話しかけるなんて!こりゃあとんでもないことだ!」
「例の杭のことか。もちろん記憶している」
もうあの馬鹿には触れない。とにかく望月は頷いて、他の奴らにあの杭のことを話した。一つだけ、杭の刺さってた穴が強引にこじ開けられたように広がってて、杭がゆるゆるになってた。それにその周りのロープには血の跡も付いてた。あれは、刺された飯出が落ちた場所だったからじゃねえか?
「なるほどな。確かにそう考えられる」
「なぜそれを早く言わん。それほど決定的な証拠があれば、こんな馬鹿共と下らない議論をする時間をより有意義に使えたものを・・・」
「だれがバカだこぶらい!お前だってそのことしらなかったんだからおたがいさまだろーが!」
「滝山君、もっともな反論があるならあなた以外の方に言わせてください。発言の価値が下がりますので」
「やめんか呆け者!とにかく、清水の考えに反対する者はいないのだな?」
「ええ・・・他に考えつきませんので、おそらくそうなのでしょう」
「刺した後に突き落とすなんて・・・犯人にハートはないのかしら・・・」
「そんなに飯出くんが憎かったのかな?」
珍しく一切の反論もなく、俺の意見が通った。まあ、他に手段が思いつかねえなら受け容れざるをえねえよな。どいつもこいつも気まずいっつうか不服そうな顔をしてる。そりゃそうだ、俺なんかの意見を通すしかねえってのはこいつらにとって屈辱でしかねえからな。ま、今はそんなことより、犯人を見つけることが優先だってこいつらも分かってきたってことだ。
「まとめると、飯出クンは展望台で犯人に襲われた後、展望台の柵を超えて山肌を落下、中央通りまで移動してから死亡したってことだね」
「反論なーし」
「あ、反論じゃないけど、質問してもいい?」
「くだらないことでしたら、それなりの謝罪を要求しますよ?笹戸君」
「な、なんで僕だけそんなペナルティを・・・」
「いいから言ってみろ」
穂谷は野次を入れるだけなら黙ってろ。取りあえず一連の流れは明らかになったが、笹戸はまだ分からねえことがあるみてえだ。頭の悪い奴だ。これ以上何が分からねえってんだ。
「あの・・・飯出くんはなんで展望台にいたのかな?犯行時刻って真夜中だったはずだよね?」
「おお!それは確かに疑問じゃな!昨日の夕飯の後、わしなんか腹一杯ですぐ寝てしまったぞ!」
「おれもだ!」
「テ、テメエらしれっとアリバイアピールしてんじゃねえよ!オレだって寝たよ!」
「展望台ということは、夜の散歩でもしてたのでしょうか?」
「そ、そんな時間に出歩いたら妖に魔界へ誘われてまいます!逢魔が時と丑三つ時は特に危険なんですよぉ!」
「妖怪はともかく、確かにその時間に外を出歩くのは迂闊と言わざるを得ないな。冒険家たる飯出が、それぐらいの危機管理もできないとは思えんが」
なんで飯出が展望台にいたかなんて重要か?そこから犯人が分かるってんなら別だが、その理由ならもう俺は知ってる。
「呼び出されたんだ」
「ま、またお前かよ清水!お前どんだけ情報持ってんだよ!」
「ボクがあちこち連れ回したからね〜」
「じゃあなんで曽根崎は言わないの」
「清水クンにいいかっこさせたいじゃん?普段できないんだから」
「話を逸らすな。面倒だ」
俺が一言だけ言うと勝手に話が進む。後は古部来に投げた方がいいだろ。話す奴が多いと馬鹿が野次を入れやすくなっちまう。
「飯出の手にはこんなものが握られていた」
「ひゃあっ!?ち、血まみれやないですかあ・・・」
「そりゃ当然でしょ・・・あいつが持ってたんだから」
「これは、飯出を展望台に呼び出すメモだ。書かれている時刻は犯行時刻の直前。犯人が飯出に宛てたものと考えていいだろう」
「リョーマ、なんて書いてあるの?」
「自分で読め」
そう言って古部来は隣の屋良井にメモを渡してアニーまで送らせた。屋良井は戸惑いながらもメモを摘まんで隣に回していった。あのメモは飯出が犯人に呼び出された証拠だ。つまり飯出は自分から展望台に行ったってことだ。犯人に誘われるがまま。自分が殺されるなんて知らずに。
そのメモを読めば、どんな馬鹿にもそのことが分かるだろ。滝山だけが理解できてなさそうだが、こいつは理解したところで意味がねえからもういい。
「だけど・・・いくら呼び出したからって、そう簡単に行くかしら?ジョージだって気をつけてたはずよ」
「そうですね。無条件で人を信じて馬鹿を見そうな方でしたが、さすがにこの状況で警戒しないわけがありませんね」
「古部来くん、このメモ以外に飯出くんは何も持ってなかったの?」
「いや、実に色々なものを持っていた。奴らしいと言えば奴らしいが、奴らしくないものもいくつかあった」
「たとえば?」
「そこの緑眼鏡がメモを取っていたはずだ」
「緑眼鏡ってボクのこと!?ひどいなあ、緑は目にいいんだよ」
「自己完結型で説得力なっ!!」
そういえばそうだな。なんで飯出はメモで呼び出されたからって簡単に行っちまったんだ?普通、モノクマにあんなことを言われてる状況で真夜中に呼び出されて警戒しねえわけがねえ。だけどあいつの持ち物にそれらしいものはなかったはずだ。具体的に何を持ってたかは忘れた。曽根崎がメモを取り出してリストを読み上げた。
「で、飯出クンの所持品だよね。え〜っとだね。制汗スプレー、ミント味の清涼菓子、ポケットティッシュ。それから避妊具だね!」
「ひっ!?んな・・・な、な、なななっ!!なぜそそそ、そんなものをぉ・・・!?」
「ドールんキョドり過ぎだって!」
「ヒニングってなんだ?せーのってやつか?」
「というか、そのラインナップって・・・」
「明らかに女を意識してんな!これマジもんの戦闘態勢じゃねえか!」
「その表現いいね屋良井クン!」
ああ、そう言えばそうだった。『避妊具』の部分で俺の方をちらっと見てくるのがうぜえが、こういう時にあいつのメモは役に立つ。そのお陰で、ここで一つ重要なことが分かった。飯出が展望台で会ってた奴、つまり犯人に関する重要なことだ。
「この持ち物を見る限り、犯人は女ということになるな」
「にゃにゃ・・・にゃにをゆうかこぶらい・・・!!しょ、しょ、それだけで犯人を女とするとはそーけいな・・・!」
「少し落ち着け六浜童琉。深呼吸をしろ」
「早計なものか。メモの文体や飯出の所持品を見ても犯人が女であると推測できんのか?」
「ふう・・・ふう・・・い、いや。メモなど男が書いても同じだ。丸文字など簡単にマネできるだろう。それに、飯出がお前と同じように早とちりをしたという可能性を棄却できまい」
「ほう、ではお前は、女に呼び出されたと早とちりした飯出が、展望台で男に会って何の抵抗もなく殺されたと?どんな馬鹿でもそれほどのことがあって気付かないわけがない」
「で、では展望台に女がいた証拠があるのか!飯出が襲撃された際に女がいたということを証明できるのか!?」
今まで不気味なほどに冷静でちゃんと議論できてた六浜が、曽根崎のたった一言であっという間にこんな感じになりやがった。どんだけ精神的に打たれ弱いんだ。いや、打たれ弱いっつうより悪性のむっつりスケベが深刻なんだな。癌かよ。
「俺は展望台に行っていないからな。望月にでもきいてみたらどうだ」
「生憎だが、私は犯人が女であるという命題に対する有効な証拠を有していない」
「あたしもそんなのは見なかったわ。むしろ飯出を油断させたり、そういうミスリードを誘ったりするためって考えた方がよっぽど自然だわ」
「ちょっ待てよ!」
「コレステロールのマネかな?似てないね」
「いや、木村の方だと思うけど・・・」
「普通に考えて犯人は女だろ!あんな丸文字書いたりよ!夜中に男に呼び出されたらこんな状況じゃなくたって逃げるわ!それこそコレステロールじゃねえか!」
「人を選ぶ発言はやめんかああああ!!」
何の話をしてんだこいつら。でもどっちの意見も納得はできる。犯人は男か女、そんなことは分かり切ってるが、どちらかだって分かるだけでもぐっと犯人像に近付くはずだ。これは重要なことだ。
「結局のところ、犯人はどちらなんでしょうね」
「メモの文字と内容、そして飯出が持っていた品々から察するに、“犯人は女”だ」
「浅はかだぞ古部来!メモが見つかることは犯人も想定しているはずだ!そうした際にミスリードを誘うために女性らしい文章を書いたと考えられる!つまり“犯人は男”だ!」
「夜中に男に呼び出されて警戒しない男がいるか?ここに来た日から殺人という考えは、常に全員の頭にあるはずだ。呼び出した“相手が男と判明した”時点で、飯出が対処しないはずがない」
「なぜ自分の発言で気付けない!犯人は女を装うことで飯出を油断させて誘い出したのだ!それに犯行時刻は深夜、灯りのない展望台で“相手の顔が見えない”のなら男であっても飯出を十分に襲撃できたはずだ!」
「そいつは違えぞ!」
古部来と六浜の猛烈な言い合いに、屋良井が横から突っ込んだ。さすがにこればっかりは二人とも無視できなかったみたいで、同時に屋良井の方を見た。屋良井は最初にアニーを指名した時と同じように臆せず堂々とした態度で、自分が見つけた証拠品の話をした。
「飯出が相手の顔を見なかったわけがねえ。犯人もあいつも、ちゃんと灯りを持ってたはずだ」
「ほう、ではそれはなんだ屋良井!蝋燭の灯りだとでも言うのか!」
「違えよ。部屋にあっただろ、懐中電灯だよ。モノクマ印の」
「懐中電灯?・・・あ、ああ・・・そう言えば、引き出しに入っていたな」
「犯人も飯出も、夜中に外に出る時にあれを使わねえわけがねえよな?現に、展望台に血まみれの懐中電灯が落ちてたぜ?」
「なに!?本当か!!な、なぜそれを先に言わんのだ!!」
机の引き出しにあった懐中電灯くらい、“超高校級の予言者”だったら気付かないわけねえだろ。まださっきの避妊具が後引いてんのか。面倒くせえ奴だな。とにかく懐中電灯が落ちてたってことは、少なくとも飯出は犯人の顔を見たはずだ。
「し、しかしそれだけで本当に犯人が男でないとは・・・」
「それだけじゃねえ。もう一つあるぞ」
「なに?」
「展望台の屋根の下に、こんなもんが落ちてた。これって、飯出の持ち物の中にあっただろ」
まだ納得しようとしねえ六浜に追い討ちをかける。俺はポケットから例の証拠品を取り出した。小さくてよく見えねえのか、六浜は目をこらして俺の指先を見た。指先に乗るくらい小さい白い粒は、誰でも見りゃ分かる。
「それは・・・清涼菓子の粒だね!いつの間に見つけたの清水クン?」
「集合の前だ。テメエらの節穴みてえな目じゃ見つけられなかったもんを俺が見つけてやったんだよ」
「ボクも自分の目には自信があったんだけどなあ。清水クンの他人の粗に対する目敏さに比べたらまだまだってことかな!」
「そんなことより、それがなぜ女性がいた証拠になるのですか?」
「たぶん飯出が落としたんだろ。展望台でこれを食ったってことは、女がいた証拠なんじゃねえのか?避妊具なんか用意してるくらいだから、口臭も気にするだろ」
「ん?ん?」
こういうこととはとことん無縁だろうな滝山は。他の奴らはだいたい察したみてえでこれ以上の説明はいらなさそうだ。とにかく、これではっきりした。犯人は女だ。それが分かったことはつまり、モノクマだけが知ってる解えに大きく近付いたってことだ。けど15分の1の正解が8分の1の正解になったからなんだってんだ。まだ九割近い確率で死ぬってことじゃねえか。冗談じゃねえ。
「では・・・飯出を呼び出した奴が犯人ってことで良いんじゃな」
「メモの筆跡から分からないのですか?」
「インクが血で滲んでいる上にこの丸文字だ。高度な筆跡鑑定など俺の領分ではない」
飯出を殺した奴、じゃなくて飯出にメモを出した奴、と言い換えれば、犯人像に違うアプローチができる。そこまではいいが、分からなきゃ結局同じことだ。筆跡鑑定とかができればいいが、んなことできる奴なんかいねえ。
「誰がメモを書いたか、じゃなくて、誰なら飯出クンを呼び出せたか、ならボクは心当たりがあるよ」
「え!?」
「彼女なら、飯出クンを呼び出せたはずだ。彼女なら、飯出クンも疑いなく油断して展望台まで行ったはずだ」
「そ、それは誰のことを言ってるの!?」
「それはね・・・」
急に曽根崎が意味深なことを言った。いや、むしろ直接的なのかも知れない。それは、いま俺たちが一番気がかりなことで、この話し合いの最終目標に迫ることだった。全員の注目が集まって、何人かの顔色が悪くなる。こんな状況でもし間違えた答えなんかに決まっちまったら・・・そう考えたら不安にもなる。
だがそんな心配とは無縁そうにへらへらと笑いながら、曽根崎は舐めるように全員を見渡した後、指の代わりにポールペンでそいつを指した。指された奴は意外にも、指された瞬間は曽根崎の言ってる意味が分からないって顔をしてた。
「キミならできたはずだよね?晴柳院命サン」
「・・・・・・・・・へ?ふええええええええええええええええええええええっ!!?う、うちですかあああああああああああああああっ!!?」
「は、はあ!!?みこっちゃんが!!?」
「晴柳院さんが飯出君を・・・!?本当なのですか曽根崎君!?」
「殺したかどうかは断言しないよ。だけど、晴柳院サンなら飯出クンを呼び出せたのは事実だ」
「呼び出したということは殺したということだ。自分の発言に責任を持て馬鹿め」
「ちょ、ちょ、ちょちょちょ!!待ってくださいよおおっ!!うちは・・・うううううう・・・うちはああああああっ・・・!!」
指名された晴柳院は、一瞬だけ時間が止まったように呆然としたと思ったら、冷や汗で顔を真っ青にしてどもりまくりながら反論し始めた。反論になんかなってなかったが。他の奴らの視線も一気に晴柳院に向けられた。それは疑いよりも驚きの方が多くて、それを見返す晴柳院の目の方がよっぽど恐怖と混乱で濁りきってて、さすがに哀れになるくらいに泣いてた。
「曽根崎ぃ!!あんたテキトーぶっこいてんじゃねえだろうな!!みこっちゃんあんなんなってんじゃねえか!!」
「もちろん、確証があって言ってるよ。ボクが言う以上、これは絶対だ」
「その確証とはなんだ?」
「そそそ、そんなものあるわけないですぅ!!うちはほんまに・・・こ、こ、ころすなんておそろしいことあり得ませんてばあっ!!」
「いいや、晴柳院サン自身は絶対に気付いてたはずだ。これを知ってるのは当事者の二人とボクくらいじゃないかなあ」
「さっさと言え」
「そうだね。なぜ晴柳院サンなら飯出クンを呼び出せたか、それはとても簡単で分かりやすいことなんだよ」
動揺しまくった晴柳院は、それでも曽根崎に猛抗議する。だが曽根崎が持ってるっていう確証を説明されるまでは、それに賛成も反対もできねえ。
曽根崎が持ってる確証ってのはなんだ?飯出と晴柳院の間に何があったんだ?もしかしてあの時のことと関係があんのか?
「飯出クンは、晴柳院サンのことが好きだったからだよ」
「なん・・・だと・・・!?」
「ひいいいいいいいいいっ!!?そそ、そ、それはあ・・・!!」
「好きだったからあ?そ、それってつまり・・・飯出は晴柳院が好きだったからほいほい出て行ったってことか!?」
「そうだよ。思春期の男子にとって好きな子からのお誘いなんて、断る方がどうかしてるよね!」
「すすす、すきやなんて大仰なあ・・・飯出さんはただうちを・・・うちを気にかけてはっただけで・・・!」
たったそれだけか?たったそれだけの理由で殺されるなんてことも考えず夜中の呼び出しについて行ったのか?
思わずどこぞの死神みてえなリアクションしちまった。屋良井は曽根崎の考えを復唱しただけだったが、その意味は俺の考えと同じだ。一方の晴柳院は、照れじゃなくて恐怖で更に動揺してた。だけど、俺はその推理の裏付けも知ってる。
「そう言えば晴柳院・・・テメエ飯出のこと避けてたよな?」
「ふぇっ!?」
「なんだそれは。詳しく聞かせろ」
「昨日の昼だった。飯出が晴柳院を探してたんだが、晴柳院は居留守して避けてた。おまけに俺にそのことを言わねえように釘を刺すくらいに徹底してな」
「マジかよ!?そうなのみこっちゃん!?」
「そ、そそそそそそ、それはあ・・・!!いいいいい・・・言わないって約束したやないですかあぁ・・・!!」
「言うに決まってんだろ、こういう状況だ。それに晴柳院」
「ふぇっ!?ま、まだ・・・まだ何かあるんですかあ!!?いい加減にしてください!!何を言われても、うちは飯出さんを殺したりなんかしてませんからあ!!!」
晴柳院が飯出を避けてたのは事実だ。それがどういう風に殺しと繋がってるのかなんてのは、これから話し合えば分かるだろ。それに、晴柳院が殺したって裏付けはもう一つある。晴柳院自身がそれを言ってた。
「テメエは言ってたよな?部屋の前の盛り塩のこと」
「盛り塩?それがどうしたと言うのだ」
「捜査の時、晴柳院が言ってたんだ。部屋の前に置いてあった盛り塩が少し消えてたってな」
「盛り塩が消えただと?どういうことだ?」
「犯人は返り血を落とすためにバケツで水を汲んで部屋まで運んだんだろ。盛り塩が消えたのは、こぼれた水に溶けたからじゃねえのか?」
「・・・はっ!!」
俺の推理に晴柳院はわざとらしく驚いた風な演技をした。あの証拠がある限り晴柳院が部屋に水を持ち込んだことは絶対に揺るがねえ。自分から決定的な証拠を言っちまうとは、なんて間抜けなことだろうな。
「どうなんだ晴柳院。お前が飯出を呼び出したのか?」
「ち・・・ち・・・ちがいます・・・!違うって言うてるやないですかあああああああああああああああっ!!うちは殺してなんかいません!!そんなメモも包丁もバケツも知りません!!うちは人殺しなんかやないですってばあ!!!」
「じゃああの盛り塩はどう説明すんだ?それにお前が飯出を避けてた理由を言えんのか?」
「もも、盛り塩は・・・飯出さんの霊魂が清められたんか・・・それともこの地に元からおった悪霊が祓われたんか・・・そのどっちかやと思います・・・」
「話にならんな」
やっぱり盛り塩のことは説明できねえんだな。つまりあれは本当に晴柳院にとって決定的な証拠になってるってことだ。もし違うなら、ちゃんと納得のいく説明ができるはずだ。それから飯出を避けてた理由ってのも言えねえみてえだ。
もう諦めたのか、晴柳院は何も言わずにうつむいてた。小刻みに震えてるのは、今更自分のしたことを理解したからか。
「じゃあ、これで決まりだな。晴柳院が飯出を殺した犯人だ」
「・・・」
「なんで・・・なんでなんだよ・・・!」
「・・・・・・」
「なんで何も言わねえんだよみこっちゃん・・・!!」
「・・・・・・・・・」
「みこっちゃん!!なんか言ってよ!!こいつらに言ってやってよ!!みこっちゃんはやってないってさあ!!」
有栖川の叫びに、晴柳院はただ黙って辛そうに顔をしかめるだけだった。これだけ決定的な証拠を並べられれば、もう反論の余地はない。これ以上はただ自分の首を絞めるだけだ。晴柳院もそれに気付いたんだろう。そう思ってたが、俯くばかりだと思ってた晴柳院は急にまたしゃべりだした。
「う、うちは・・・・・・うちは・・・飯出さんがこわかったんです・・・!」
「え?」
「ん?こわかった?」
「飯出さんは・・・うちのこと気にかけてくれはったんですけど・・・こんなこと思ったら罰が当たるんですけどぉ・・・!このままじゃみなさん・・・しし、し、死んでまいますから・・・!」
「それは自己弁護のつもりか?理解しかねるな」
「い、いいから!もっとちゃんと説明してみこっちゃん!」
晴柳院が言った言葉は、自己弁護か、反論か、それともただの自白か。それでも有栖川に言われるままに、晴柳院は続きを話す。
「あ、あの・・・飯出さんはうちのことを心配して・・・夜中に何度も部屋まで来はったり、後ろを見たらいつの間にかついて来てたり、うちが留守の間に部屋にお守りや手紙を置いてくれはったりしてたんですけど・・・」
「なっ!?ちょ、ちょっと待て!!それマジで言ってんのか晴柳院!?」
「弁論も反論も不可能、だからありもしないウソを吐く・・・か」
「ウ、ウソやないです!あの・・・しょ、証拠言うたらあれなんですけど・・・ちゃんと手紙もあるんです・・・!」
「あ、あたしもそれ知ってる!その手紙だって・・・持ってきてるんだから!」
「へ?」
急に何を言い出すかと思ったら、晴柳院の言ってることは無茶苦茶だ。夜中に部屋に行ったり晴柳院をつけたり留守の間に物を残したり・・・そんなことがマジであったのか?そしたら有栖川がそれを援護するように、ポケットから紙切れを取り出した。それは俺たちにも、晴柳院にも予想外だった。
「ごめんみこっちゃん・・・だけどあたし、言うよ!」
「ちょ、ちょっと待ってください有栖川さん!それは・・・!」
「これが、飯出がみこっちゃんに宛てた手紙だよ!おんなじものが何十通・・・何百通とみこっちゃんの部屋にあるんだ!本当はみこっちゃんとあたしの秘密だったけど・・・みこっちゃんが犯人にされちゃうんだったら言うよ!」
「・・・見せてみろ」
一旦は落ち着いて話し始めた晴柳院が、有栖川のせいでまた取り乱した。だが今はそんなことより、晴柳院の証言と有栖川の取り出した手紙の方がもっと気がかりだ。一体なんだってんだ。
「・・・あははっ!こりゃずいぶんと熱烈な手紙だね!読んでるこっちが恥ずかしくなるよ!まさか飯出クンにこんな一面があったなんて!こりゃ次の広報誌の一面は『“超高校級の冒険家”飯出条治はストーカー気質!?飽くなき探究心の果てにどんな「じょうじ」を求むか!!』に決まりだね!」
「いやはや、暑苦しうて諦めの悪い飯出らしい文章じゃ。まあ、それでも若いがな!」
「なるほど。どうやらこれは本当らしいな。自白にしろ弁護にしろ、事実ということは認めてやる」
「つまり、晴柳院さんは、飯出君からのストーカー行為に悩まされ、それで殺したと」
「ス、ストーカーやなんてとんでもないですぅ!飯出さんはただうちのことを心配してはっただけで・・・!」
「でも、あなたは飯出君に恐怖を感じていた、このことは事実ですよね?」
「はうぅ・・・」
「だ、だけど!みこっちゃんは殺してなんかない!自分からストーカー呼び出したりするかよ普通!」
手紙に書かれてたのは、とんでもなく暑苦しくて、読んでる方がむず痒くなるほどしつこい言葉だった。誰が読んでも晴柳院のことが好きだって分かる上に、最後に飯出の名前が書かれてる辺り、本物なんだろう。ってことは飯出は晴柳院をストーキングしてたのか。そりゃ晴柳院も避ける。
「残念だが有栖川、これはむしろ晴柳院の疑いをより深めるものだ」
「はっ!?な、何言ってんのドールん!?」
「ストーキング行為・・・これは立派な殺害動機になり得る。晴柳院の性格から考えて、飯出の行為には相当な恐怖を感じたはずだ。あのような凶行に及んでも不思議ではあるまい」
「だ、だからって・・・みこっちゃんが本当に殺したっていう証拠なんてないでしょ!みこっちゃんにあんな殺し方無理だって!!」
「じゃあ、他に誰が飯出を殺したってんだよ?」
「そ、それは・・・!でもとにかく、みこっちゃんがあんな風に飯出を殺せたわけがないんだってばあ!!」
有栖川はなんでこんなに晴柳院を庇うんだ?もうほとんどの奴は晴柳院が犯人ってことで納得してるのに、なんで一人だけこんなに反発する?友達だからとか、性格的に無理だとか、そんな下らねえ理由でこんなことしてるんだとしたらさっさと諦めろ。時間の無駄だ。
「ごごご、ごめんなさい・・・うちがもっと・・・飯出さんとちゃんと向き合っとけばこんなことには・・・!!」
「みこっちゃんにはあんな殺し方できっこないんだって!!みこっちゃんは犯人じゃない!!」
「しかし飯出のストーキング行為と晴柳院がそれに怯えていたのは事実、その証拠はお前が持ってきた“手紙”だぞ」
「だからみこっちゃんは飯出のこと怖がってたんでしょ!!だったらそんな奴と“たった二人だけで”夜中に会うなんてあり得ないっしょ!!」
「でもこんだけ証拠が揃ってて、他に誰が犯人だって言えんだよ?」
「そ、それは・・・!で、でもみこっちゃんだけはあり得ない!あんなに優しい子が・・・みこっちゃんが犯人なんてあり得ねえよ!!」
「それも、彼女の演技なのではないですか?彼女が飯出クンを殺したという・・・無残にも“飯出クンの頭を滅多刺しにした”という事実を隠すための」
「賛同しかねる」
泣きじゃくる晴柳院は、有栖川になのか飯出になのかそれとも俺たち全員になのか、譫言のように謝るだけだった。しつこく激しく反論する有栖川は、しかしまともな反論はできてなかった。こんなんじゃただ見苦しいだけだ。晴柳院の代わりに有栖川が足掻いてるだけだ。そう思ってたら、望月が横槍を入れた。
「・・・穂谷円加。お前の発言によって、このことについて再考する必要が生じた」
「はい?私の発言の何が、そのショート寸前の思考回路に引っかかったというのですか?」
「晴柳院命が飯出条治を殺害した、という仮定の元、犯行当時の状況を想像してみてほしい」
「そ、そんなのイメージしたくもないわ・・・なんておそろしい・・・」
「ナイフで飯出条治の頭を滅多刺しにするという今回の殺害方法が、果たして晴柳院命に可能だったのだろうか」
「な、なに言ってんの望月ちゃん?」
急に割って入ってきたと思ったら望月は何を言ってんだ?犯行当時の状況なんか想像してなんになるってんだ。ただ今までの推理をなぞってるだけじゃねえか。晴柳院が飯出を呼び出して、隠し持ってたナイフで頭を何度も刺しまくったっていうだけの話だろ。
たったそれだけの簡単な話なのに、望月の隣で話を聞いてた六浜は、はっと何かに気付いたように顔を上げた。
「望月よ・・・もしかしてお前は、身長差のことを言っているのか?」
「その通りだ、六浜童琉」
「身長差?」
「晴柳院命と飯出条治の身長差で、本当に頭部を何度も刺すという殺害方法は可能だったのだろうか?」
「ど、どういうことだよ?わけわかんねえぞ?」
「プロフィールならボクに任せてよ!二人の身長差だね?」
六浜の言葉に望月は冷静に頷いた。それと同時に古部来は納得したように頷いてるが、俺や他の奴はまだ合点がいってない。すると曽根崎がメモ帳をめくった。なんでそんな情報まで持ってやがるんだ。一体あのメモ帳にどんだけの情報が書かれてるってんだ。
「え〜っと、飯出クンの身長は173cm、平均的な成人男性並だね。一方の晴柳院サンの身長は136cm、背丈で言うと小学四年生の女の子かそのくらいだ」
「ちっさ!」
「その差は37cmだ。ではもう一度想像してみろ。小学四年生の女子児童が、成人男性の頭をナイフで突き刺す場面を」
「え・・・それって・・・」
「そう、不可能なのだ。男が自ら刺されるためにしゃがむか、女子児童が踏み台に乗っていない限りはな」
「な、なんじゃそりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!?で、では晴柳院が飯出を殺したというのは・・・!?」
「犯行不可能・・・晴柳院は犯人ではなかったということか」
「そうなる」
「マ、マジかよおおおっ!!?こんだけ話し合って!!?」
マジか!?けど・・・望月の言うことも曽根崎の情報ももっともだ。あのチビが飯出の頭をブッ刺すなんてことできるわけがねえ。それに展望台の血痕からして、飯出は逃げ回った挙げ句に崖に突き落とされたはずだ。もし頭の上からナイフを突き刺す手段があったとしても、逃げる飯出を追撃するなんてことはできっこねえ。
ようやく辿り着いたと思ったのに、こんなあっさり瓦解すんのか・・・!?こんな脆いもんが、俺たちがさっきまで信じてたものだったのか・・・!?
「あ・・・せ、晴柳院さん。その・・・ごめん。僕てっきり、本当に晴柳院さんが殺したのだとばかり・・・」
「私も誤解しておりました・・・申し訳ございませんでした・・・」
「マジ許さないから・・・!!あんたら後で一生その服しか着れない体にしてやるから!!」
「いいんです有栖川さん・・・。うちは、有栖川さんが庇ってくれただけで・・・すごく嬉しかったです」
「そ、そりゃあ・・・アタシはみこっちゃんが犯人じゃないって・・・その、分かってたから・・・」
「ふん、無駄な時間を使ってしまった」
こんな簡単に捨て去れるもんだったのか?こんな風に消えてなくなるようなもんだったのか?あんだけ証拠を揃えて、推理して、話し合ったのに、やっとの思いで手に入れた結論は間違いだったってのか・・・?そんな・・・そんな馬鹿なことあっていいのか・・・!?
「・・・ざけんな」
「へ?ど、どうしたしみず?」
「ふざっけんなよ!!なんだよそれ!!結局犯人じゃなかっただと!!?こんだけの証拠があってこんだけ話し合って、でもただチビだってことだけでその全部が否定されるなんてやってられっか!!だいたいテメエらこの状況分かってんのか!!?これは遊びじゃねえんだ!!命懸けの裁判なんだよ!!」
「お、落ち着け清水。そうやって興奮しては犯人の思う壺だ」
「これが落ち着いてられっか!!無駄な議論してる時間はねえんだ!!この中にいる犯人と俺たちは生きるか死ぬかの勝負をしてんだ!!なにが“才能”だ・・・なにが“超高校級”だ!!結局テメエらの出した答えは間違ってたってんだろうが!!なんで焦らねえ!!なんで動揺しねえ!!このままだとマジで死ぬんだぞ!!分かってんのか!!そんなのんびり構えてる場合じゃねえんだよ!!」
「のんびり・・・だと?」
こいつら全員イカレてやがる!!今にもモノクマが適当な理由付けて裁判を強制終了させてもおかしくねえんだ!なのになんでこいつらはヘラヘラしながら雑談なんかできる!?そんなもん後でいいだろうが!!今は誰が犯人なのかってそれだけだろうが!!
俺がこの鼻の高え馬鹿共に怒鳴り散らすと、それが屋良井の琴線に触れたのか、俺を睨んで言い返してきやがった。
「冗談じゃねえぞ!!全然犯人が分かんなくていらいらしてんのはテメエだけじゃねえんだ!!ここにいる全員そうなんだよ!!テメエだけ辛えとか考えてんだとしたら自分勝手が過ぎんぞ!!だいたいテメエだってろくな証拠も出さずにたまに口開いたと思ったら暴言ばっかり吐きやがって!!文句言うんだったらまともな発言の一つくらいしろよ無能!!」
「なんだとこの軟派野郎!!テメエこそわけの分かんねえこと言ってアニーが犯人とか適当なことぬかしやがって!!何も分かんねえんだったら黙ってろ!!俺はテメエよりよっぽど色んな証拠出しただろうが!!テメエが今までの議論でどんだけ役に立ったっつうんだ言ってみろボケ!!」
「まあ・・・なんて汚らしい、乱暴な言葉遣いでしょう。できれば今後一切口を開かないでいただけますか?鼓膜が汚染されてしまいます」
「テメエも大概にしろよ穂谷!!なんか言ったと思ったらいちいち毒吐きやがって!!なにが希望ヶ峰の女王様だ調子乗ってんじゃねえぞ!!」
「ちょ、ちょっと!穂谷ちゃんは関係ないでしょ!一回落ち着きなって!」
「うるせえ馬鹿女!!テメエこそまともな推理の一つもできねえ上にろくな証拠も出さねえじゃねえか!!話し合いができねえなら黙って頷いときゃいいんだよ!!」
「な、なにそれ!あたしに八つ当たりしたって犯人が分かるわけじゃないでしょ!」
「うぷぷぷぷ。いいねいいね、せっかく築き上げた推理が、たった一つの簡単な理由で影も形もなくなる・・・今までのこと全てが無駄に思えて、焦りと恐怖のせいで冷静さを失って仲間を責める。これを絶望と言わず、なんて言うんだろうねえ」
モノクマのうざってえ台詞は怒号の中に消えていく。だが不思議と誰の耳にもはっきりと聞こえて、まるで泥水みてえに耳から脳みそまで侵食してく。
どいつもこいつも結局はそうか、俺が“才能”を持たねえからハナから相手にしねえ。何が冗談じゃねえだ。こちとらテメエらみてえに特別じゃねえってんだ。普通の高校生がこんなことに巻き込まれて、散々無駄話に付き合わされてキレたら無能だと?逆ギレもいいとこだ。
「ふん、所詮は烏合の衆。これなら最初から俺一人の方がマシだったな」
「なんだと古部来・・・!!テメエだって清水と同罪だからな!!言いてえこと好き勝手言ったと思ったら黙りこくって逃げやがって!!」
「けけ、けんかはあきません・・・!」
「アンタらおっきい声出すなよ!!みこっちゃんブルってんだろ!!」
「ああ!?そもそもテメエが晴柳院は犯人じゃねえとかごねるからこういうことになったんだろうが!!テメエの責任でこういうことになってんのが分かってんのかこのクソビッチ野郎!!」
「何言ってんの!!有栖川ちゃんが言わなかったらあたしたち全員間違った答えで処刑されてたんでしょ!!だいたいあんたは人に責任押しつけて、あんたが悪いとか考えないの!?ホント自分勝手だよ!!」
「俺の何が悪いってんだよ!!こんな状況になったら普通こうなんだろうが!!テメエらの方がどうかしてるんだよ!!“超高校級”だかなんだか知らねえが、テメエらが人のこと見下すのは勝手だがテメエらの基準に合わせろとか無茶苦茶言ってんじゃねえぞクソ共が!!」
「静まれっ!!」
俺と屋良井、それに穂谷と石川と古部来と有栖川を巻き込んだ大喧嘩に、六浜がよく通る鶴の一声を上げた。言いたい放題言ってた奴らの声が止まり、俺も息継ぎのタイミングで黙ったところだったから、それは全員の耳にしっかり届いたはずだ。
「近付いてきた真相が間違いだったことに揺らぐ気持ちは分かる。だが、だからこそ気をしっかり保ち、再び進むべきではないのか!犯人の誤認などよくある話だ、それで仲間割れなどしていては、それこそ私たちは全員破滅だ!」
「仲間割れ・・・だと?いつ俺たちが仲間になったんだ。こんな奴らが仲間なもんか」
「言葉選びなどどうでもいい。要は、今は全員が結束して犯人を暴くことが最優先だと言っている。全てが終わってから、罵り合いなり殴り合いなりすればいい。死んでしまえばそれすらもできんのだからな」
「・・・」
勝手に仲間になんてすんじゃねえ。俺はもともとテメエらみてえな奴らがこの世で一番嫌いなんだ。存在するだけでイラつかせやがって。
だが、死ぬのはごめんだ。それに、俺一人で答えなんて分かるわけがねえ。飯出を殺したのは“超高校級”の誰かだ。凡人にそいつが仕掛けた謎が解けるわけがねえ。癪だが、こいつらと手を組むしかねえのは事実だ。
「晴柳院は犯人ではなかった。このことが明らかになったのは決して後退などではない。この解を導いた議論の全てが否定されたわけでもなく、無実の者の容疑が晴れたことは真実の解に近付いたということでもある。臆するな、焦るな、己の足元まで見失うな!我々は確実に真実に近付いているのだ!」
「そ、そうだよね・・・!晴柳院さんが犯人じゃなくても・・・推理の途中までなら、他の人にも言えることだよね」
「もう一度、冷静に考えてみましょう」
「諦める奴は諦めればいい。真相は俺が暴くのだからな」
「僅かでも存在する疑念ならば膨らむ前に処理すべきだ。断じて無意味ではない」
「飯出は我々を導こうとした。奴の生き様に報いよう、仇をとろう・・・我々の手で!」
六浜の言葉に、喧嘩に参加してなかった奴らが賛同していった。一回俺らの向く先が完全にばらばらになったと思ったが、離れ切る前に六浜が強引に引き戻した。まるでリーダーだ、殺された飯出がそうだったように、俺たちを纏め上げようとしてんだ。
「よし!もう一度この議論を最初から、判明したことをさらうぞ!これだけ長いこと話し合っとれば、思わぬ見落としの一つや二つあるじゃろうからな!」
「メモならボクがとってるよ!野次の一つ一つ全てね!」
「さすがヤイチロウね。じゃあ、みんなでやりましょう!」
明尾の提案には賛成だ。全ての証拠が出揃った今、これ以上は煮詰まるだけだ。曽根崎のメモを頼りに、今までの話し合いの落ち目を探した方が効率良いだろ。もう一度、最初から、全部をだ!
「まず最初に、テルヤとダイオがワタシを犯人だって言ったのよね?」
「あ、ああ・・・滝山が、“アニーの手に血の臭いが付いてる”って言ってたからな」
「だがそれは“飯出の死体に触って血が付いた”古部来も同じ。犯人ならそれに気付かねえわけねえから、決定打にはならなかった」
「その次に清水クンが、滝山クンが犯人だって言い出したんだよね。臭いのことはデタラメだって」
「けどこいつ、“シャワーを浴びられない”めちゃくちゃ不潔バカだったって分かったのよね。最悪なんですけどっ!」
「飯出くんを殺した時の返り血は、湖の水で落としたんだよね。体の返り血はそうやったけど、“血を浴びた服は隠して”ごまかした」
「うん、ここまでが序盤の流れだね。分かったのは、犯人は返り血を浴びた服を隠し持ってるってことくらいかな」
「次に、凶器の話に移った」
俺も少しずつ思い出しながら裁判を振り返る。その時のことをじっくり思い出して、慎重に発言や展開を精査する。おかしなところはないか、矛盾はないか、どこかで犯人の罠にかかってないか・・・?
「モノクマファイルによると“飯出は刺殺された”とある。凶器が刃物と判明したところで」
「アニーサンがキッチンから消えた果物ナイフのことを思い出したんだよね!なくなったのは昨日の夕飯直前からその間。犯人はボクらの目を掻い潜って“こっそり持ち出した”んだ」
「ですがそれはほとんどの方に可能でした。それに“まだナイフが戻ってない”ので、犯人がまだ隠し持っているということになりました」
「なんでもかんでもよくかくすなあ」
「凶器から犯人を明確にするのは困難であると判断され、次に事件現場に関して議論することになった」
「これだけ振り返ってもまだ何も引っかかりませんね。それだけ詰められた議論であると認めざるを得ません」
「女王様がデレた!」
凶器のところはそれが全てだ。特別手の込んだ仕掛けやトリックがあったわけでもねえ。それに、これが揺るがないならやっぱり晴柳院は犯人じゃねえ。
「いーでが見つかったのは北に向かうみち。あいつがしんだのはあそこだけど、犯人にやられたのは山の上なんだよな?」
「飯出は“展望台で刺された”けど死ぬ前に中央通りに移動してて、しかも山道には血の痕跡はない。つまり“誰かが運んだ”わけでも“自力で移動した”わけでもない」
「彼は展望台で犯人と揉み合ううちに、“柵を越えて転落した”、という結論になりましたね」
「奴が夜中に展望台にいたのは、“犯人がメモで呼び出した”から。のこのことそれに応じたのは晴柳院によるものかと思われたが、身長差の問題から奴に“犯行は不可能”」
「き、きっと飯出さんは・・・うちやなくても・・・もちろん女性からの手紙やなくても行った思います・・・。あの・・・みなさんを心配する気持ちは本物ですから・・・」
「うん、これで概略は終わりかな。何か“気になる点”はあった?」
誰も口を開かない。誰も顔を上げない。議論を一から振り返ったが、何一つ不自然なところはなかった。矛盾も綻びも、何一つ。
もう終わりか?これで全部か?あんだけ話し合って、結局これだけしか分からねえのか?これじゃ犯人なんて分かるわけねえ。気になる点なんか、誰も・・・。
「ありゃあ?どうしたのみんな黙りこくっちゃって。まだ犯人見つかってないのに、もう飯出くんのお通夜ムードなの?」
「証拠も出尽くした・・・このままじゃ犯人なんか分からずじまいだよ!」
「万策尽きたって感じ?何もできないって感じ?うぷぷ!顔上げな!追い込まれたオマエラの顔をもっとよく見せてよ!」
「・・・一つ、未解決な点がある」
「うん?」
「えっ?な、なんだ望月!なんでもいいから言ってみろ!」
いつかも、こんな感じで全員が言葉に詰まった時、望月は一人だけ違う考えを持ってた。前は突拍子もないふざけた意見だったが、今はそれにすら頼りたい気分だ。その時もそうだった。これが何かの突破口になってくれればと、誰しもが祈って耳を傾けた。
「アンジェリーナ・フォールデンスの手の血の臭いは、一体どこで付着したのだ?」
「へ?」
「飯出条治の死体に接触していない、にもかかわらず血の臭いが付着している。この不可解な状況に、どんな解答が考えられるかという議論は、もう一度なされるべきだと言える」
「そ、そういえば・・・そうよね。飯出に触ってないはずのアニーの手に血の臭いが付いてるってやっぱりおかしいわ」
「念のためにもう一度きくが、滝山よ、本当にアニーの手から血の臭いがしているのか?」
「あ、ああ・・・まちがいねえよ。こぶらいの手からにおうのとおんなじだから、いーでの血のニオイのはずだ」
望月の言ったことは、やっぱり突拍子もないことだった。それは一番最初に話した内容じゃねえのかと思った。だがよく考えてみたら、望月の質問に対してはっきりとした答えはまだ誰も言ってねえ。いつアニーの手に臭いが付いたのか、それが犯人に繋がる手がかりになるのか?
話し合う前に六浜がもう一回確認すると、滝山が断言した。人の手に付いた血の臭いが誰のものかまで分かるのか。どんな鼻してんだマジで。
「だ、だけどダイオ。あなた、ジョージが見つかる前、ワタシと会ってるわよね?」
「そうなのですか?」
「ん〜っと・・・ああ、あさに会ってたな。おれがいーでのしたいを見つけたあと、いそいでアニーにしらせにいったんだ」
「その時、あなたは確かにワタシの手をとったわ」
「なっ!?なんだと滝山!!貴様・・・私たちに下着姿を晒すだけでは飽き足らず、アニーの手を掴みとっただと!!どこまで不純な奴なのだ!!私は出自で人を差別したりはせんが、貴様はもう少し人間としての常識を身につけるべきだ!!」
「六浜、黙れ。アニー、話せ」
「もしその時にもう私の手に血の臭いが付いてたのなら、ダイオ、あなたの手からも血の臭いがするはずじゃないかしら。あなたの鼻なら、それくらいかぎ取れるはずよ」
「ん〜〜〜・・・?」
モノクマファイルの端っこの方に書いてあったか。確か第一発見者は滝山だった。ってことは今のアニーと滝山の話は本当だろ。毎朝一番に起きてコーヒーを用意してたアニーに、滝山が頼りに行くのは当然っちゃあ当然だ。そんで、その時に手に触ったってことは、滝山の手にも血の臭いが移ってなきゃおかしい。
「え〜っと・・・アニーの手からニオイはするけど、おれの手からニオイはしねえぞ。それに、あさのときは手からニオイはしなかったはずだ。あんだけちかづいたらおれが分からねえわけねーんだよ・・・」
「あ、あ、あんなに近付いただとぉ・・・!?」
「六浜さん落ち着いてください!そういう話じゃありませんから!」
「なんて脆い予言者なんだ」
「結局のところ、滝山がアニーの手の臭いに気付いたのは、捜査終了後の赤い扉の前。しかし死体発見前の時点でアニーの手から血の臭いはしなかったのだな」
「ってことは・・・」
そんなもん、もう答えは一つだけだ。死体を発見してからは全員があの場に集まったはず、そして捜査中に飯出の死体に触ったのは古部来だけ。他に血の付いたものっつったら返り血を浴びた服や凶器の果物ナイフだ。このことから導かれる結論は、マジで簡単なもんだ。
「アニーの手の臭いは、捜査中に付いたってことか!」
「どのようにして付着したかは分からんがな。だが、アニーが捜査した場所が事件と深く関係していることは確かだ」
「アニー、あなたどこを捜査してたの?」
「ワタシは・・・ダイニングとキッチンを」
「ボクもいたよ。でも、血の付いたものなんか見当たらなかったなあ」
アニーが捜査当時のことを思い出すと曽根崎が入ってきた。俺も食堂には行ったが、見たところ怪しいところはなかった。アニーはともかく曽根崎の目から物を隠すなんて、できるわけがねえ。食堂とキッチンに凶器や証拠品が残されてるって風には考えられねえ。
だが、アニーが捜査したのはそこだけじゃねえはずだ。俺は思わず身を乗り出してアニーに言った。
「もう一ヶ所・・・捜査しただろ?」
「え?」
「飯出の死体を見つけて捜査が始まる前・・・六浜が言ってただろ。全員の個室を調べるって」
「そうか。食堂の可能性がなくなれば、必然的に手に血の臭いが付いたのは・・・」
「アニーが捜査した個室ってことになるな!」
「確か、個室の捜査は名簿順をずらしてやった。だからアニーが、いや、アンジェリーナが調べた部屋の主は・・・」
心臓が自然と興奮しだした。思いもしなかったところから、犯人に一気に近付く手がかりが得られた。そこから流れるように推理が進んでく。それこそさっきみたいな明後日の方を向いた間違いの可能性だってある。だけど一回信じたら、もうそれを頼るしかねえように思えて仕方ない。この本当にちっぽけで微かな希望にすら縋り付きたくなっちまう。それが希望なのか、絶望なのか、そのどっちでもねえのか。それは最後まで分からねえ。
俺は意を決して、そいつの顔を見た。
「お前だよな?・・・有栖川」
「・・・っ!は、はあ?」
目線を送ると、有栖川と目が合った。俺が喋ってたからか、それとも自分が名指しされるって分かってたからか、俺の方を見てたってことだ。自分で確かめるように俺が言うと、有栖川は少し後ずさりして、険しい表情のまま聞き返した。
「アニーの手に血の臭いが付いたのは、お前の部屋を捜査してる時じゃねえのかって言ってんだよ」
「な、なに言ってんのアンタ?そんなんたまたまに決まってんじゃん・・・」
「お前の部屋を捜査してたアニーの手に血の臭いが付いてたんだぞ。そんなたまたまがあるってのか?」
「いや知らねーよ!ってか、たったそれだけの理由でアタシのこと犯人扱いする気?」
指名されたことは意外そうだが、思いの外有栖川は冷静に俺に反論してきた。だが口元が引きつり眉尻は下がって少し顔が青ざめてる。胸のぬいぐるみを抱きしめる腕に力が入ってた。
「これが偶然なわけあるか。お前の部屋以外にどこでアニーの手に血が付くってんだ」
「だからんなこと聞かれてもアタシが知るわけねえだろ!だいたいなんなんだよアンタ!みこっちゃんの次はアタシのこと疑う気!?いい加減にしろよ!」
もう俺の頭の中では一つの推理が出来上がってる。まるで誰かに吹き込まれたみてえに、犯人の当たりが付いた途端にまだ答えの出てない謎が全て明らかになった。後はそれが正しいかどうか、有栖川本人にきいてみるだけだ。反論されんのは当たり前、むしろその方が自然だ。
「だ、だけど清水クン?彼女が飯出クンを殺す動機ってあるの?」
「んなもん、仲の良かった晴柳院に付きまとう飯出をうざったく思った、で説明つくだろ」
「んん・・・まあ、あれだけ熱烈なアプローチならば、考えられないということもありませんが・・・」
「いや、それだけで殺すか普通?」
動機なんかどうでもいいし考えたって分からねえ。モノクマが俺らに与えたあのビデオは、それぞれ当事者しか見てねえはずだ。んなことよりも、殺したか殺してないか、その一点だけだ。
「ウ、ウ、ウソ・・・ですよね?有栖川さんが飯出さんを・・・ここ、殺したなんて・・・そんなわけありませんよね?」
「あ、当たり前・・・当たり前じゃん!そもそもさ、アタシが犯人なんておかしくない?」
「何がどうおかしいというのだ。この中の全員が平等に疑わしいのに、貴様だけおかしいというその理屈の方がおかしい」
晴柳院が必死にフォローをいれる。さっき有栖川にされたように、今度は逆の立場になって助けようとしてる。それに後押しされるように有栖川がまた勢いよく怒鳴る。
「うっせえバーーーカッ!!よく考えろよ!!飯出が犯人に呼び出された場所はどこだった!?展望台だろ!!」
「それで?」
「いいか?もしアタシが殺すとしても、夜中の展望台になんて絶対呼び出さねえ!!自分が行けねえ所に呼び出してどうやって殺すってんだよ!!」
「いけない場所だと・・・?どういうことだ?」
「なんでわっかんねえんだよ!!だったら教えてやるよ!!アタシが展望台に行けなかったワケをさあ!!」
何を言い出すかと思えば、有栖川はわけの分かんねえことを言い出した。有栖川は展望台に行けなかっただと?山道を通れば誰だって行けるような場所に、有栖川が行けなかったわけがねえ。一体どんな反論を用意してるってんだ。そもそもこれは反論なのか?
「飯出がメモで呼び出されたのも、犯人が待ち伏せてたのも、飯出が犯人に刺されたのも、全部“展望台で起きたこと”だろうが!!」
「お前がそうしたのだろう。夜中のうちならばその目立つ姿も宵闇に隠せただろう」
「だっからあ!!アタシが展望台に行けるわけがねえだろっつってんだよ!!しかもあんな“夜中に”!!」
「どういうことだ。さっさと言え」
「展望台までの道は“南の山道しかない”んでしょうが!!アタシが持ってるクツはハイヒールしかねえんだよ!!懐中電灯ごときの灯りだけで真夜中にハイヒールで山道なんか登れるか!!」
「そ、そういえば・・・!」
「“他の奴のクツを借りた”んじゃねえか?」
「そんな怪しげな交換に応じる馬鹿がいるとは思えんな。そこのチビ女以外には」
「だ、だけどうちはいつも草履ですから・・・ハイヒールほどやなくても歩きにくいのは同じですぅ・・・。というかクツの交換なんか知りませんてえ!!」
「ほら見ろ!!アタシは“ハイヒール以外のクツを持ってない”んだからあの時間に展望台に行けるなんてあり得ねえんだよ!!」
「っ!それは・・・違えぞ!!」
なるほどな。実際の履き心地なんか知ったこっちゃねえが、爪先立ちみてえなもんだろ。そのままの状態で山道を登って飯出を殺してあちこち歩き回るのは、確かに面倒だし骨が折れるはずだ。だが、その反論は脆い。俺はその論理をぶっ壊すたった一つの事実を知ってた。
「いや、有栖川。テメエは展望台に行けただろ」
「はっ!?ア、アンタ聞いてなかったのかよ!!ヒール履いたことないくせに分かったようなこと・・・!!」
「テメエは飯出を殺した時、ハイヒールなんか履いてなかった。そうだな?」
「!」
「え・・・そ、それってどういうこと清水くん?誰も靴の交換なんてしてないんだよ?」
「交換しなくたって、勝手に持って行けただろ。多目的ホールの運動靴ならな」
「んなっ!!?ななな・・・な、なんだよそれ・・・!?」
明らかに有栖川は動揺してる。きっと俺の推理が正しかったってことだろう。多目的ホールの下駄箱からなくなってた二足の運動靴。その一つはたぶん有栖川が犯行に使って、血でも踏んで戻せなくなったから処分したんだろ。そしてもう一つの行方は、あいつだ。
「おい望月。お前、昨日多目的ホールから飯食いに行くときに運動靴のまま行っただろ」
「滝山に呼ばれた時だな。覚えているぞ。履き物に特別な関心を寄せてはいないが、昨日の夕飯の後にホールへ靴を取りに戻った。使った靴は後日洗って返却しようと思って持ち帰ったのだ」
「下駄箱に並んだ靴が二足なくなってた。一つは望月が部屋に持ち帰って、もう一つは・・・有栖川。展望台まで行くのにテメエが使ったんだろ?」
「んな・・・なな、なななななああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!」
「ああ!なるほど!靴が減ってたのはそういうことだったのか!」
今更合点がいったように曽根崎が手を叩いた。疑問が解決してすっきりしたような顔をしてる曽根崎とは対照的に、有栖川の顔はより青ざめて冷や汗が頬を伝い、目は大きく開いてる。愕然、という表現がぴったりな顔で俺を眺めてたが、また少しだけまた後ずさって、抱いたぬいぐるみに縋るように顔を伏せた。
「晴柳院の部屋の前の盛り塩が減っていたのは、隣の部屋の有栖川が部屋に水を運ぶ際にこぼしたからだな。なるほど、隣の部屋の主ならばそれもあり得る」
「これ以上の反論らしい反論がないのなら、有栖川が犯人という案で決定するぞ」
追い討ちをかけるつもりか、自分たちの主張にすり替えるつもりか、六浜と古部来が俺の後に簡単に付け足した。なんとなく有栖川に注目が集まる中、晴柳院だけはさっきと逆に有栖川を庇うように問いかけた。
「あ、有栖川さん・・・・・・ウソですよね?こんなん・・・間違うてますよね?あなたみたいな人が人を殺すなんてこと・・・あるわけないです・・・」
「・・・・・・」
「ちゃんと言うてください・・・!犯人やないって・・・!言うてください・・・!」
「・・・・・・・・・」
「な、なんか・・・・・・なんか言うてくださいよ有栖川さん・・・!さっきうちにも言うてくれたやないですか・・・!!お願いやから・・・有栖川さんは違うって!犯人やないってちゃんと言えよ!!」
「・・・・・・・・・ちがう」
「は?」
黙りこくった有栖川に、晴柳院が呼びかける。ついさっき自分が有栖川に言われた言葉をそのまま返す。それはただ単にやられたことをそのまま返す恩返しなんかじゃない。有栖川が犯人じゃないって信じてて、有栖川は無実だって言いたくて、有栖川に潔白であって欲しいって願ってるからこそ、そうやって言ってるんだ。
だが有栖川は、それに対する答えとしては妙なことを呟いた。ばっ、と顔を上げた有栖川の顔は、今まで見たことのない人間の顔をしてた。まるで、目の前にある全てを否定するかのような、敵意と憎悪に溢れた形相だ。
「ちがう・・・・・・ちがう・・・ちがうっ!!ちっがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああうッ!!!」
「ひいいっ!!?あ、ありすがわさん・・・!?」
「ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!!なんもかんも全部丸ごとちがうわこのドボケポンコツ共がああああああああああああああっ!!!」
「ど、どうしたんだよありす・・・?」
追い詰められたせいか、極端なストレスをかけられてるせいか、有栖川の理性を保ってた箍はもうとっくに外れて、まともな反論なんてできてない。癇癪を起こしたガキみてえに同じ事を繰り返して乱暴に流れをぶった切ろうとして、晴柳院にすら怒鳴り散らした。
「黙って聞いてりゃ勝手にアタシを犯人に仕立て上げやがってふざけんじゃねえぞ!!アタシは何も知らない!!アタシは殺しなんかしてない!!」
「ならアニーの手の臭いとなくなった靴はどう説明すんだ。どっちもお前以外に怪しい奴はいねえんだ」
「だからそんなん知るかっつってんだろこの抜けスカ野郎!!テメエの頭カチ割って綿詰めっぞコラァ!!だいたいこのサルの言うこと全部信じていいのかよ!!ウソ吐いてる可能性だってあんだろうが!!」
「滝山は犯人じゃねえ。この状況で犯人でもねえのにウソ吐く意味がねえだろ。答えを間違えたら全員死ぬんだ」
「テメエが言い出したことだろうが!!このサルが犯人なんじゃねえのか!!ハナっからアニーの手から血の臭いなんてしてねえ!!全部全部こいつのウソなんだよ!!」
「見苦しいな」
今更滝山が犯人でウソ吐いてる可能性を持ち出してどうなる。こいつが犯人じゃねえならウソも吐かねえ。アニーの手には臭いが付いてるはずだ。飯出の血の臭いが。
「で、で、ですが・・・あのぅ・・・」
「うん?なあにミコト?何か言いたそうね」
「あの・・・ああ、有栖川さんにはその・・・無理やった思うんです」
「無理?無理って何が?」
「あの、凶器の包丁を持ち出すことなんて・・・で、できなかったはずなんです・・・」
「現場に行けないの次は凶器を持ち出せない、か。くどいな。なぜそう言える」
急にまた口を開いた晴柳院は、有栖川を弁護しだした。こいつらが互いに互いを庇うほど、ますます有栖川が怪しくなってくる。晴柳院に無理な以上、有栖川が犯人って線が強くなる。
「だ、だだ、だって・・・有栖川さんは昨日・・・ずっとうちと一緒にいてたんです・・・!」
「なに?」
「お手伝いの時から部屋に戻るまでずっと・・・一緒でした」
「そ、そうだ!!アタシはずっとみこっちゃんと一緒にいた!!凶器のナイフが持ち出された晩御飯の時もずっとだ!!アタシがナイフなんか持ってたらみこっちゃんが気付かねえわけねえんだよ!!」
「言われてみれば・・・私も二人が一緒に夕飯を食べている姿は覚えている。特に仲が良い二人だから、あの中でも目立っていたな」
晴柳院の言葉に乗っかって有栖川がまた勢いを増した。確かに誰かの見てる前でナイフなんか持ってたら怪しまれるだろ。だが、そうじゃない。その反論には脆い場所がある。
「いいや、有栖川はナイフを持ち出せたはずだ。晴柳院がいようがいまいが、関係なく」
「えええっ!?な、な、な、なんでですかあ!?」
「テキトーぶっこいてんじゃねえぞ!!みこっちゃんだけじゃなくアンタら全員アタシがナイフなんか持ってねえことの証人だろうが!!」
「晴柳院、ずっと一緒だったってのは、本当にずっとか?」
「へ・・・?そ、それどういう意味ですかあ・・・?」
妙に冴える。犯人の目星が付いたからか?解決の糸口が見えて頭が本気出してきたのか?なんでもいい、とにかく、有栖川の化けの皮を引っぺがしてやるんだ。こいつが犯人だって証明してやる!
「あそこのキッチンはかなり狭かった。せいぜい二人が限度だろ。そんな場所に、お前と有栖川が一緒に入れたのか?」
「無理・・・ではないだろう。ただ入るだけならな」
「何言ってんだテメエら!!無理じゃねえならんな話持ち出すんじゃねえよ!!いいから犯人探せ犯人を!!」
「しかし、あの大きな器を持って出入りするとなると話は別だ。一人ずつでなければまともに動けまい」
「そ、そうね・・・ワタシとカナタもいっぺんには入れなかったわ」
「だからなんだってんだよ!!キッチンが狭いのはそこのクソぐるみのせいだろうが!!」
「ク、クソぐるみだってえ!?ボクを、このハイパープリチーなボクを侮辱したなあ!そんな口の悪い奴には復讐しちゃうんだからね!」
突然飛び火したことに驚いたのか、モノクマは飛び上がって怒り出した。そして意味深な捨て台詞を吐くと、玉座の背もたれを飛び越えて姿を消した。相変わらず突拍子のない奴だ。
そんなことより、晴柳院が出した反論は有栖川の容疑を晴らすどころか、余計に濃いものにする糧に過ぎない。むしろこれで、こいつの犯行は確定したようなもんだ。
「キッチンから料理を持ち出す時なら、少しの間お互いが見えなくなんだろ。その時に持ち出したんじゃねえのかよ、凶器のナイフを!」
「えぁっ・・・!?そ、そ、それはあぁ・・・!」
「バッカじゃねえ!!?もしそん時に持ち出したとして、晩飯の間ずっと隠し持つことなんてできるわけねえだろ!!服の下に隠したとか言うわけじゃねえよな!!?んなことしたら服がずり落ちてすぐバレるっつうの!!」
「服じゃねえ。有栖川、テメエはこっそりナイフを隠し持ってたんじゃなくて、堂々と隠し持ってたんだ。俺たち全員に、隠す意味なんてなかったんだろ」
「ナイフを堂々と隠す?さ、さすがにボクも分かんないよ清水クン・・・」
分かんねえなら黙ってろ。これで間違いないはずなんだ。これがこいつの仕掛けた一番の謎だったんだ。それは、こいつがこの中の誰よりも自信を持ってるものだったからだ。これが・・・俺の答えだ!
「有栖川がいつも持ち歩いてるぬいぐるみ・・・その中にナイフを隠せば、誰にも気付かれず持ち出せたんじゃねえのか?」
「!!!」
「ひえええええっ!!」
「ぬいぐるみに隠して?すごいや!そんな発想をするなんて、さすが“超高校級の裁縫師”だよ!」
「ぐ・・・ぐぐ・・・ぐぎぎぎいいいぃぃぃぃぃっ!!!」
どうやら当たったらしい。有栖川と晴柳院はより一層青ざめて俺を見た。ここまでくればもう間違いない。飯出を殺した犯人は明らかになった。だが、呆然とする晴柳院に対して有栖川はまだ喚き続ける。真相を有耶無耶にしようと激しく抵抗する。
「ウソだ!!ふざけんな!!なにもかもちっがああああああああああああああうっ!!」
「黙れ。もう結論は出た。これほど確定的な状況を覆す証拠などない」
「うるさいうるさいうるッッッさあああああああああああああいっ!!アンタら全員間抜けだ!!頭ん中空っぽだ!!下らねえ推理でアタシのこと疑いやがってえ!!黙らねえと服と皮膚縫い合わせて一体化させんぞおっ!!」
「なら証明してやるよ・・・!テメエの言うくだらねえ推理が正しいってことを。テメエが犯人だってことを!」
「やれるもんならやってみやがれこの無能野郎があああああああああっ!!」
まともな話し合いができねえなら、今ある推理の全てをぶつけてやるしかねえ。もしこれが当たってたら、何も言わなくても有栖川自身がそう示すはずだ。自分のしたことを明らかにされ、全員に知らしめられるという、絶望を以って。
《クライマックス推理》
Act.1
この事件は、遅くとも昨日の晩飯の時点ではもう動き出してたんだ。犯人は、アニーが作った料理を運ぶ手伝いをする時キッチンに忍び込み、そこから凶器である果物ナイフを持ち去った。狭いキッチンだったから、一人きりの状況は自然と作れたはずだ。
そして犯人はナイフを隠し持ったまま、全員と晩飯を食った。その間まったく疑われなかったのは、ナイフを隠す物としては普通考えつかねえようなものだったからだ。
晩飯を食って部屋に戻った犯人は、ほとんどの奴が寝てる真夜中に、予め多目的ホールから持ってきてた運動靴に履き替え、支給された懐中電灯とナイフを持って外に出た。運動靴に履き替えたのは、普段犯人が履いてる靴じゃ行けねえ、展望台に行くためだ。おそらく、自分に犯行ができなかったことの証明のために、わざわざそんな場所を選んだんだろう。
Act.2
犯人が展望台で待ってるとそこにある人物が現れた。それは犯人が書いたメモで呼び出された、今回の被害者、飯出だ。飯出も犯人と同じように懐中電灯を持ってて、自分を呼び出した犯人を見て油断したはずだ。あいつの持ち物から考えて、完全にそのつもりで行ったはずだからな。
そこで犯人は隠してたナイフで飯出に襲いかかった。油断してた飯出はとっさに逃げ回ったが、犯人は何度も何度も飯出を刺した。あんなにひどい出血だったのは、犯人が飯出に何らかの恨みを持ってからだろう。そして犯人と争ううちに、飯出は柵を越えて展望台から転落し、下の中央通りに倒れた。
Act.3
飯出を殺した後、犯人はナイフや体に付いた返り血を振り払い、完全に洗い落とすためある場所に向かった。それは湖だ。多目的ホールのバケツで湖から部屋まで水を汲み、部屋で体に付いた返り血を落とした。だが服とナイフに付いた血は完全には洗い落とせず、仕方なく部屋に隠すことにした。
だが、それが失敗だった。部屋を捜査した時に、うっかりアニーが触っちまったんだ。飯出の血が付いた服を生地にして作った、ぬいぐるみに。だからアニーの手に血の臭いが付いて、そこから犯行がバレることになった。
「ナイフをぬいぐるみに隠したり、返り血の付いた服を即席でぬいぐるみにするなんてこと、この中にいるたった一人にしかできっこねえ。この事件の犯人は、お前以外に考えられねえんだよ!!有栖川薔薇!!」
「!!?」
全てを吐き出した。これで合ってるはずだ。これがこの事件の全てのはずだ。有栖川はもう青くならない。これ以上は血の気の引きようがないんだ。唇だけがぴくぴく動いて、何も言えず、卒倒しないのがやっとみてえに立ち尽くしてた。
「・・・・・・しょ」
「!」
「・・・しょうこが・・・・・・ない・・・!しょうこ・・・!しょうこが・・・・・・!」
自分で自分の言ってることも理解できてんのか疑問だ。うわごとのように証拠証拠と繰り返す有栖川には、もうそんなもの必要ない。だが、それを知ってか知らずか、急に裁判場のモニターが起動した。
「?」
「こ、これは・・・!」
映し出されたのは、誰かの個室。テーブルやタンスやベッドと至るところに並んだぬいぐるみの数々が、その部屋の主を示している。有栖川の部屋だ。モニターの真ん中には、そのぬいぐるみに紛れてるつもりなのか、それっぽいポーズを決めるモノクマの姿があった。
「やいやい!さっきはよくも言ってくれたな!」
「モノクマ?一体何をしているんだ?」
「仕返しに、お前のぬいぐるみを全部ぶっ壊してやるからなあ!このぉ!」
そう言うと、モノクマはぎらりと爪を立てて手元にあったクマのぬいぐるみを八つ裂きにした。中から白い綿が飛び出て、無残に切り刻まれたクマの頭が中身と一緒に床に散らばる。
「お、おい・・・やめろ・・・!やめろ!やめろおおおおおおおおおおっ!!!」
「なんだこのおっきなキリン!も、もしかしてボクからマスコットの座を奪うために・・・?ええい!百万光年早いんだよ!!」
「ま、待て!!離せ!!離せよ!!それに触るな!!」
「とりゃーーーーーーーーーーーっ!!」
「!」
次々に八つ裂きにされてただの布と綿になっていくぬいぐるみ。モノクマはまるでアクション映画の主役にでもなったみたいに、手当たり次第にばったばったと切り刻んでいく。そして部屋のぬいぐるみの中でもひときわデカい、ピンク色に濃紅の斑がけばけばしいキリンに手を付けた。我に返ったように大声で叫んで止める有栖川には耳を貸さず、モノクマはそれを思いっきり切り裂いた。
中に詰まった綿は、他のぬいぐるみに詰められてた物とは違って薄く赤みがかってた。そして宙を舞う綿を押しのけて真っ先に床に落ちたのは、汚れて鈍く部屋の明かりを反射する、鋭利な果物ナイフだった。
「ありゃりゃ?なんかこんなんでてきましたけどーーーっ!!」
「あっ!あれ、キッチンからなくなったナイフ・・・!」
「・・・決まり、だな」
古部来の言葉に反論する奴は、誰もいなかった。誰も喋らず、誰も目を合わせない。これでいいはずなのに、これが正解のはずなのに。謎に困惑し、互いを疑い合ってたさっきまでより、真実を暴いた今の方が、裁判場はよっぽど重苦しい空気でいっぱいになってた。
「それではオマエラ、お手元のスイッチでクロと疑わしい人物に投票してください!」
いつの間に戻って来てたのか。モノクマは玉座の上で笑いながら、俺たち全員に言った。テーブルに並んだ十六のボタン。円弧状に並ぶそれの一つ一つに、部屋にかけられたプレートと同じような絵と名前が描かれてる。俺は何の疑いもなく、有栖川のボタンに指をかけた。
「投票の結果、クロとなるのは誰か!果たしてその答えは、正解か、不正解なのか!?」
わざとらしく大袈裟な感じで、モノクマは俺たちの投票を煽る。もう誰が見てもこの状況で犯人なんかはっきりしてる。いまさら有栖川以外のボタンを押すなんてあり得ねえ。
軽く力を込めてボタンを押し込む。ただそれだけの簡単なことだ。なのに、それなのに、俺の指はボタンに触れたまま固まっちまった。何の変哲もないボタンのはずだ、誰でも簡単に押せるボタンのはずだ。なのに・・・なんでこんなに重いんだ。
『コロシアイ合宿生活』
生き残り人数:残り15人
清水翔 六浜童琉 晴柳院命 明尾奈美
望月藍 石川彼方 曽根崎弥一郎 笹戸優真
有栖川薔薇 穂谷円加 【飯出条治】 古部来竜馬
屋良井照矢 鳥木平助 滝山大王 アンジェリーナ
さて、最初の学級裁判もこれでおしまいです。犯人を予想していたあなたも予想していなかったあなたも当たっていたあなたも当たってなかったあなたも、全員絶望すればいいと思うよ