Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜 作:フジ
「っ! ここは!?」
何一つない暗闇の世界。
気付けば晴人は変身を解除し、その中心に立っていた。
しかし、晴人がここに来たのは今が初めてではない。
この世界に来る以前の戦いの中で、自身の内に住み着く存在との対話の際、晴人は何度かこの場所に来る事となった。
だが、今回は少しばかり様子が違う。
『あいも変わらず、人助けか……『最後の希望』も楽では無いな』
暗闇に突如声が響く。
しかし、これまでと違い、その『声の主』は姿を見せない。
「いつものことだろ……それで、いきなり何の用だ? 今、取り込み中なんだけど?」
晴人は声に怯むことなく返答する。
『フン……そんな事は分かっている。それで?奴をどうするつもりだ操真 晴人? 』
『声の主』はヘルダルフのことについて問いかける。
「勝つさ。何がなんでもな」
晴人は間髪入れずに返答する。だが、『声の主』はその答えに疑問を投げかける。
『どうやってだ? 奴との力の差が理解できん訳ではあるまい? それに、お前も気づいている筈だ。俺の魔力を引き出す為の指輪から魔宝石の力が失われていることをな』
「やっぱりか……要するに、俺の戦力は『フェニックス』の奴と出会う前の頃に逆戻りってわけだ」
『そうだ。俺の力を使う事のできん今の状態で、お前に勝ち目はないぞ?』
「さぁて、どうだろうな……?」
『声の主』の問いかけに、おちゃらけた返答をする晴人。だが、その目は真剣だ。彼は退くつもりなど毛頭無い。
『強がりはよせ。ハッタリを決めて、格好をつけた所で、どうにもならん……死ぬぞ』
静かに、しかしハッキリと『声の主』は晴人に告げる。しかし、晴人は笑った。だが、それはヤケを起こした人間の笑顔ではない。絶望的な状況の中で、それでも何かを信じている者の笑顔だ。
「死なないさ。そして、これ以上は死なせない……俺は『最後の希望』なんだから」
迷いなく告げる晴人。
すると『声の主』は突如、大きな笑い声を響かせた。
『クククッ……フハハハハ! 力を失って、少しは弱気になるかと思ったが、やはりお前は面白い奴だ!』
「俺は至って真剣なんだけどな……」
『ククク、わかっている。だからこそ呼び出した。 奴を止めたいのだろう? ならば俺を呼べ』
「は?」
その言葉に晴人は戸惑った。
「いや、現実世界にお前は呼べないだろ」
『声の主』を召喚する為の指輪は確かに持っている。だが、その指輪はあくまで、『ある場所』でのみ使用できる物だ。少なくとも、普通の現実世界で使用する事は出来ない。だが、『声の主』は晴人の言葉を否定する。
『忘れたのか? 過去の戦いでも何度か例外があっただろう』
そう言われた晴人は記憶を辿る。『声の主』を現実世界で召喚した事があるのは覚えている限りでは三回。その内の二回は『特別な力』を使用しての召喚の為、除外する。
そうなると、残るは一つ。
「……『マドー』の『幻夢界』か!」
『そうだ。お前もこの戦場で感じた筈だ。奴が作り出したこの戦場を覆う空間が『幻夢界』に近いものだとな』
かつて、地球と宇宙の存亡を、かけて『宇宙刑事』や『スーパー戦隊』と共に立ち向かった強大な敵『宇宙犯罪組織マドー』と『スペースショッカー』が作り出そうとした絶望の世界『幻夢界』。その世界では、ウィザードは『ある場所』と同じように、『声の主』を召喚する事が出来たのだ。
「! それじゃあ!」
「そうだ。奴の生み出す空間の中なら俺を召喚できる。せいぜい、足掻いてみせろ、操真 晴人! お前が最後の希望だと言うのならな!」
その声と共に晴人の意識が現実に呼び戻された。
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ウィザードが意識を取り戻した時、眼前には既にヘルダルフが迫っていた。
ウィザードにトドメを刺すべく、拳を振り上げるヘルダルフ。
一方のウィザードは左手でベルトのシフトレバーを操作する。
「終わりだ、魔法使い」
そう言ってヘルダルフが拳を振り下ろそうとするよりも早く、ウィザードは右手の指輪をベルトにかざす。無意識の内に行っていたのか、指輪はいつの間にか交換された。
そして……
【ドラゴライズ! プリーズ!】
「ヌゥッ!?」
展開され巨大な赤い魔法陣が盾のように立ちはだかり、ヘルダルフの拳を受け止め、逆に弾きとばす。
「今度は、なんの真似だ、魔法使い……」
大きく後退しながらも体勢を立て直し着地するヘルダルフは、ウィザードが何をしたのか、わからず赤い魔法陣を睨みつける。
しかし、ウィザードはその問いに答えない。
「……ハルト?」
倒れたアリーシャが、不安そうな声を零しながらウィザードを見つめる中、ウィザードが言葉を発する。
「来い! 俺に力を貸せぇ!」
その言葉と共に魔法陣から巨大な影が現れた。
「えぇッ!?」
「なッ……!」
「そんなッ!?」
「ッ!……う…そ」
魔法陣から現れた存在を見たスレイ達は驚愕の声を上げる。その中でも、特にそれが顕著なのは、土の天族であるエドナだ。
普段は10代前半にみえる外見に見合わない達観したような冷めた態度を取っている彼女が、四人の中で、目を見開き、一番動揺を露わにしている。
そして、アリーシャもまた、魔法陣から現れた存在に戸惑いの声を漏らした。
銀を基調とした体、鋭く尖る金色の角や爪、そして赤く輝く瞳と胸部。魔法陣から現れた『ソレ』は、どこか生物的ではない外見をしていた。だが、アリーシャは『ソレ』に似た存在と一度対峙した事がある。長い首と尾、鋭い爪と牙、巨体を支える4本の足、背に生える翼。
憑魔の中において最強と称される種族。
その名は……
「ド…ラ…ゴン……?」
『ガァァァァァァァァァァア!』
動揺しながらも、なんとか、アリーシャが絞り出したその声は、現れたドラゴンの咆哮に掻き消された。
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『ガァァァァァァァァア!』
現れたドラゴンは咆哮すると、即座にヘルダルフへ向けて突撃した。宙を舞いながら生物とは思えない凄まじい速度で迫るドラゴン。
一方のヘルダルフもドラゴンを迎撃するべく拳を握り構えをとる。
『ガァァォォァォ!』
間合いに入ったドラゴンは体を反転させると勢いのまま尾をヘルダルフに向けて振るう。
「フンッ!」
応じるように力を込めた拳を振るうヘルダルフ。
両者の攻撃が激突する。
ドゴォォォオ!
巨大なトラック同士が正面衝突したような音が鳴り響く。
「ヌゥッ!」
力は互角、結果として両者は衝撃で大きく後方へ吹き飛んだ。
ブォォオォォォォォン!
横を向き、地面と平行する体勢で吹き飛んでいくドラゴン。その体が吹っ飛んでいく方向には『コネクト』の魔法でマシンウィンガーを取り出し搭乗したウィザードの姿があった。
アクセルを回し、吹っ飛んでくるドラゴンへ全速力で向かっていくウィザード。このままでは激突する。
そう思われた瞬間……
キィィィィィィイ!
ウィザードは、ドラゴンの体勢に合わせるように車体を横に向け、ドリフトのように滑らせる。そして、そのままドラゴンとの距離が迫り……
ガシャン!
鳴り響く機械音。
ウィザードが搭乗するマシンウィンガーが突如、変形する。
前輪と後輪が左右へとスライドしそこから機械の翼が展開される。そして浮き上がった車体は勢いをそのままにドラゴンの背へと接続された。
「行くぞ! ドラゴン!」
巨大な翼を装着し、ウィザードの声と共にバレルロールを決めて体勢を立て直したドラゴンは背に乗ったウィザードと共にヘルダルフへ向けて先ほどの倍近い速度で再度突撃する。
そして再び、両者は激突した。
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「何がどうなっているんだ!?」
水の天族、ミクリオは目の前で繰り広げられる光景に、声をあげずにはいられなかった。
当然といえば当然だ。突如として現れた『災禍の顕主』や『魔法使い』の存在だけでも、困惑モノだったにも関わらず、事もあろうに『魔法使い』は『ドラゴン』を召喚しソレを従え戦い始めたのだ。そんな急展開に、着いて行ける者などそういないだろう。
「ライラ様……あのドラゴンは…… ?」
そんな中、アリーシャは目の前で繰り広げられる事態に対して、パーティー内でも豊富な知識を持つライラに何か知っていないか問いかける。
「……大きさだけで見れば幼体であるドラゴンパピーに近いです。ですが、あのドラゴンは実体化しています。おそらくは……」
「成体だっていうのか?! ならウィザードはなんでドラゴンを従えられるんだ?」
ライラの考察に驚きの声を上げるスレイ。
この世界において、『ドラゴン』という存在は最強種の憑魔を指す言葉だ。天族が強大な穢れに飲まれた果てに生まれ。その力の大きさから憑魔でありながら実体を持ち普通の人間ですら視認することができる存在。その中でも四足種のドラゴンは最強と言われている。
しかし、その強大な力と引き換えに『ドラゴン』の元の人格は完全に失われており、破壊をばら撒くだけの存在と化している。本来なら例え、『災禍の顕主』であろうとも、従える事など出来ないのだ。
「わかりません……ですが、あのドラゴンから感じる力は、霊峰で遭遇したドラゴンにも決して劣っていません……ありえないことですが、彼は成体のドラゴンを従えているとしか考えられません」
「ッ!……お兄ちゃんと!?……それなら……」
ライラの言葉に反応するエドナ。その様子にアリーシャは違和感を覚える。
「え、エドナ様……? どうされたのですか?」
「……なんでもないわ」
エドナの変化に思わずどうしたのか問いかけるアリーシャ。だが、エドナは表情を戻し黙り込んでしまう。
「(エドナ様には、ドラゴンと何か因縁が……?)」
思えば、マーリンドでのドラゴンパピーとの戦いの、際にもエドナの様子はおかしかった。
ライラの言葉を聞く限り、マーリンドに向かう途中でアリーシャが一時的にスレイ達と離れ、スレイがエドナを仲間に迎え入れて合流するまでの間に、『霊峰レイフォルク』で何かあったのだろうが、アリーシャは、何が起きたのか知らない。
スレイ以外の人間に冷たい態度を取るエドナの口から、何があったのか語られることは無かったからだ。
それ故に、エドナと『ドラゴン』の間に、どんな因縁があるのかアリーシャには検討がつかなかった。
そこにライラからアリーシャへ声がかかる。
「アリーシャさん……彼は……ウィザードさんは何者なのでしょうか?」
その声に込められた感情は、疑いではなく純粋な困惑だ。
「あのドラゴンからは、確かに憑魔に近い物を感じます。ですが、彼はそれを従えて『災禍の顕主』と相対している……」
長い年月を生きて来た天族であるライラにとってもそれは初めて目にする光景だ。それ故に困惑するのだ。長く生きてきた彼女だからこそ、目の前で起こっている事がどれだけありえないものなのか誰よりも理解できる。
激突を繰り替えすドラゴンとヘルダルフを見つめながらライラはアリーシャに問いかける。
「彼は……彼は……」
だが、アリーシャはその問いに答える事ができない。彼女とて知らないのだ。『魔法使い』とは何なのか、そして『操真 晴人』がどんな人生を生きてきたのかも……
『約束する。俺がお前の最後の希望だ』
アリーシャの脳裏に、城での晴人の言葉が、蘇る。絶望に、染まりかけた自分を救い上げた言葉。今この瞬間でも、アリーシャは、あの時の晴人の言葉に嘘は無いと信じている。
だからこそ、アリーシャも困惑しているのだ。
そんな彼が……誰かの心を救おうとすることのできる彼が何故、ドラゴンを従えているのか。
「(ヘルダルフが言うハルトの中にある『絶望』……あのドラゴンはそれと何か関係があるのか……?)」
アリーシャが視線を向けた先では、今もドラゴンと共に懸命にヘルダルフへ立ち向かうウィザードがいる。
「ハルト…君は……」
零れた言葉に答える者は誰もいない。
その時、激突を繰り返していたドラゴンが勝負をしかけた。
『ガアァァァァァア!』
咆哮を上げたドラゴンは、突如、その口か、強力な火炎を吐き出す。
「フン!」
迎え撃つようにヘルダルフはその手に水の力を収束させレーザーのように放つ。
激突する火と水。
それにより蒸発した水が水蒸気となり辺りを覆う。
「うっ! どうなってるんだ」
水蒸気により奪われる視界にアリーシャは動揺した声を上げる。
「……邪魔だ」
ヘルダルフは風を操り、辺りを覆う水蒸気を吹き飛ばす。しかし、晴れた視界の先にドラゴンとウィザードの姿は無い。
「……ッ!」
何かに気付いたヘルダルフは視線を上空へ向ける。それにつられるようにアリーシャ達も空を見あげた。そこには上空に舞い上がったドラゴンの背に立つウィザードの姿があった。
「フィナーレだ!」
【チョーイイネ! キックストライク! サイコー!】
「ハァッ!」
指輪をベルトにかざし、ドラゴンの背から跳躍するウィザード。それと同時にドラゴンの姿に変化がおこる。
頭部と前足が変形し、尾が前方に伸びる。さらに、接続が解除されバイク形態に戻ったマシンウィンガーがドラゴンの後方に再接続される。その形状は巨大な龍の片足そのものだった。
そして、龍の片足を模した形態『ストライクフェーズ』へと変形したドラゴンに続き、跳躍したウィザードが右足を変形したドラゴンへと接続する。
「タァァァァァッ!」
強大な自身の幻影を纏いながら巨大な龍の足と共にヘルダルフに向けて一直線に突っ込むウィザード。
「ッ!!」
その姿にヘルダルフは一瞬だけ驚いたように目を見開くと即座に右手を前に突き出し、左手を引くと腰の高さに構える。それはヘルダルフがこの戦いで初めて見せる『本気』の構えだった。
「集え!」
ヘルダルフの左手に紫色に輝く力が収束していく。
「奥義!」
そして、眼前に迫る龍の足に向けてヘルダルフは左手を突き出し、その力を開放する。
「獅子戦吼!」
直後、巨大な龍の足と紫色に輝く獅子の頭が激突した。
ドガァァァァァァァァアン!
引き起こされる爆発、ウィザードの『ストライクエンド』とヘルダルフの『獅子戦吼』が激突した凄まじい衝撃が辺りを吹き飛ばす。
「ぐっ!」
ストライクフェーズを解除し元の姿に戻ったドラゴンが爆発の中から飛びだし、体勢を立て直す。その背にはウィザードの姿もあった。
「ハルト!」
ウィザードが無事な事を確認しアリーシャから安堵の声が溢れる。
しかし、ウィザードは爆発で生じた土煙から目をそらさない。
そして、煙が晴れていく。
そこには……
「なるほど、一筋縄ではいかないようだ」
未だに健在のヘルダルフが立っていた。
「ッ! そんな!?」
その姿にアリーシャは愕然とする。アリーシャにとてわかるのだ。この勝負は今の一撃で決しなければこちらの負けだと……。
だが、仕留めきれなかった。
「(もう、終わりなのか?)」
そんな思いがアリーシャ達を包む。
しかし、ヘルダルフの口から放たれた言葉は意外なものだった。
「……不覚をとったか」
その言葉にアリーシャは気づく。ヘルダルフの左腕が、今の激突によってボロボロになり今にも、ちぎれそうな程のダメージを受けている事に……
「先程の言葉は訂正しておくとしよう……大したものだな、魔法使い」
「……」
ウィザードの力を認めたような言葉は放つヘルダルフ。それに対してウィザードは無言のまま警戒を解かない。
「そのドラゴンが、貴様の中に巣食う『絶望』か……フッ、面白い」
僅かに笑みを浮かべるヘルダルフは突如、ウィザード達に背を向ける。
「……どういうつもりだ?」
ヘルダルフの態度を疑問に思うウィザード。
「……気が変わった。『白』の導師、そして、その身に『黒』を秘めた魔法使い。貴様らが、どう足掻き、この世界で、どう染まっていくのか興味が湧いた……」
そう言って、ヘルダルフはウィザード達に背を向けたまま歩き始める。
「ッ!? 待て!」
ヘルダルフを追おうとするウィザードとドラゴン。だが、突如振り向いたヘルダルフは、その口から巨大な咆哮を上げる。
ガァァォォァォ!
「ッ!?」
ビリビリと震える空気。何か仕掛けてくるかと警戒するウィザードだが、その身には何も変化は無い。
「やはり、『黒』を秘めたお前には、我が領域は意味をなさんか……」
「どういう……?」
ヘルダルフの言葉を訝しむウィザードだが、その背後から突如聞こえた苦悶の声に
思わず振り返る。
そこには、魔力による変化が解除されたアリーシャと、スレイが苦しむ姿があった。
「アリーシャ! スレイ!」
思わず声を上げるウィザード。そんな彼を他所にヘルダルフの姿が少しずつ薄れていく。
「さらばだ。新たな導師、そして指輪の魔法使い。生き延びることが出来たのなら、いずれ、まみえよう」
そう言い放ちヘルダルフは完全に姿を消した。
ヘルダルフへの警戒を解き、アリーシャ達に駆け寄るウィザード。
「どうした!?」
「わからない……急に力が……それに天族の方達が見えなく……」
「ミクリオ……ライラ……エドナ……何処にいるんだ?」
「ッ! 何を言ってんだ? それならそこに……」
急な不調と共に天族を視認できなくなった2人に困惑するウィザード。
だが、そこにライラから声がかかる。
「ウィザードさん、おそらく二人は『災禍の顕主』の力で一時的に霊応力を麻痺させられたのかと……」
「なんだって? ……というかアンタは大丈夫なのか?」
ライラの言葉に応じたウィザードは、ライラ自身も苦しそうな表情を浮かべている事に気づく。よく見れば、ミクリオやエドナもそれは同様だった。
「うっ……大丈夫…です。私達は、スレイさんを器として契約しています。それにより、スレイさんの霊応力の不調の影響が及んでいるのでしょう。それよりもウィザードさん、二人は今、戦える状況ではありません。早く戦場を離れなければ危険です!」
少しふらつきながらも現状を説明するライラのおかげで状況を理解したウィザード。彼女の言う事が確かなら、今の二人は普通の人間と変わらない状態だ。彼女の言う通りこのまま戦場にいるのは危険だろう。
「なら、早く二人を『そう簡単にはいかんようだぞ。操真 晴人』……なに?」
「しゃ、喋りましたわ!?」
突如、会話を遮ったドラゴンの言葉に反応するウィザード。
一方のライラは、ドラゴンが言葉を発した事に驚きの声をあげる。
『無駄話をしている暇は無いぞ。奴め、置き土産を残していったようだ』
「ッ!? ……なるほどねそういうことか」
ドラゴンの言葉にウィザードはその意味に気づく。
先程まで争いあっていた憑魔達の争う音が止んでいる事に。
そして、その視線が全てウィザード達に注がれている事に。
『どうやら、奴が去り際に何かしたらしい……どうする、恐らくはあの兵士達はお前達を狙ってくるぞ?』
『ッ!?』
ドラゴンの言葉にその場にいる全員が息を飲む。
そんな反応を他所にドラゴンは、その口から炎を吐き、その炎で憑魔が近づけぬよう道を阻む。
そして、、ドラゴンが言葉を続けた。
『これで時間は稼げるだろう……チッ、俺もそろそろ限界だ』
ドラゴンの姿が薄れ始める。
ヘルダルフが去り、領域が消失した事により、ドラゴンもまた、現実世界への召喚が限界になったのだ。
それを聞いたウィザードは決断する。
「ライラって言ったっけ? スレイとアリーシャを連れて逃げられるか? 」
「ハルト!?」
「ヴァーグラン森林に逃げ込めば、なんとかできると思います……ですが、ウィザードさんは、どうするおつもりなのですか?」
ウィザードの言葉に驚きの声をあげるアリーシャ。一方でライラはウィザードがどうするのかと問う。
「俺は、まだ余力があるからね。ここに残って少しでも憑魔になった人達を助ける」
「なっ!? 無茶だ!」
「カッコつけるのは止しなさい。アンタだって殆ど力は残ってないはずよ」
ウィザードの言葉に驚くミクリオ。
そして、エドナもまた、ウィザードの魔力が殆ど残っていないことを見透かして、それを止める。
しかし、ウィザードは、炎の向こうに見える憑魔へと視線を向けたまま動く気配が無い。
『やめておけ、その男はとことん諦めが悪い』
「……ッ!」
そんなエドナにドラゴンが無駄だと言うように声をかけるが、エドナは複雑そうな表情を浮かべると黙り込んでしまう。
「……わかりました」
ウィザードの決意を理解したのか、その言葉に従うと言うライラ。
「彼の決意は、本物です。ここは、ウィザードさんの言葉に従いましょう」
「ライラも同意してくれた。行くんだアリーシャ」
「だが!?」
「気にすんなよ、アリーシャ。俺が残りたいから残るんだ。お前が気にすることじゃない……それに、スレイ達はこのままハイランドに戻るより、このまま、生死不明ってことでローランスに行方を眩ました方が導師の使命ってのに都合がいいんじゃないのか?」
「それはそうかもしれないが……」
「だろ? だから「それなら私も残る!」……はい?」
『アリーシャ(さん)!?』
ウィザードの言葉を遮り、残ると宣言するアリーシャにウィザードは呆気に取られ、スレイ達も驚きの声をあげる。
「元はといえば、君は私の願いの為に、此処まで来てくれた……君を残して行くような真似はできない!」
強い意志を込めて言い切るアリーシャ。そんな彼女をウィザードは説得しようとするが……
「けど、アリーシャ『やめておけ、操真 晴人。その女は、お前の同類だ。何を言おうとテコでも動かないだろう。死なせたく無いのなら貴様が守れ。貴様は、その女の最後の希望なのだろう?』……はぁ、後悔しないんだなアリーシャ?」
「あぁ!!」
ウィザードの言葉に力強く頷くアリーシャ。そんな彼女にウィザードは彼女の説得を諦める。
「待ってくれ! なら、俺も! 」
そこに、スレイが声をあげる。アリーシャも残るのに自分だけ逃げるわけにはいかないと言うスレイ。だが、アリーシャはその言葉に首を振る。
「スレイ、君はここに残るべきじゃない。」
「アリーシャ!?」
「悔しいが今のハイランドに残ってもバルトロ達は君を利用しようとし、導師の使命を妨げてしまう。ハルトの言う通り、君はこのまま、ローランスに行くべきだ」
「けど!? 「それに君の肩にはライラ様達の命もかかっている」ッ!……それは」
アリーシャの言葉に声を詰まらせるスレイ。導師が穢れに飲まれれば、契約した天族達も纏めて憑魔と化す。その事を理解しているからこそスレイは言葉を続ける事ができなかった。
「私はハイランドで、まだ為すべきことがあるんだ。そして君も導師として果たすべきことがある」
優しく微笑みながらアリーシャは告げる。
「大丈夫だよスレイ。私達が目指す理想は同じ場所だ。なら、道は必ず、もう一度繋がる事になる。その時に、胸を張って君の仲間だと言えるように私も頑張るから……だから君も……」
「そういうことだ……ま、心配すんなよ。アリーシャの方は俺が力になる。必ず、もう一度、アンタ達とアリーシャを合わせるさ。」
その言葉にスレイは目を閉じて、決意を固めた。
「わかったよ。俺も俺の為すべきことをする。だからアリーシャ死なないでくれよ」
「あぁ! 必ず!」
約束を交わす二人。そして、スレイはミクリオに肩を貸してもらいながら立ち上がるとヴァーグラン森林に通じる道へと歩きだす。
「ご武運を……」
「流石に、この流れで死なれたら後味悪いから死ぬんじゃないわよ」
そして、ライラとエドナはウィザードへと一言、言葉をかけるとスレイ達の後を追って行った。
「良かったのか? スレイ達と一緒に行かなくて?」
道を塞いでいた炎が収まり、アリーシャ達に狙いを定め集まり始めた戦場の憑魔に視線を移しながらウィザードはアリーシャに問いかける。
「一緒に行きたい気持ちはあるよ。だが、今はハイランドの為にできることをすると決めたんだ」
アリーシャの眼前には数百近い憑魔達が集結している。例え、一時的に視認それを視認できなくなったとしても、それが存在する事に変わりはない。それでもアリーシャは表情を険しくしながらも、退かずにウィザードの問いに答える。どうやら意地でもウィザードを置いて退くつもりは無いようだ。
「そっか……ならまずはこの泥沼の状況をさっさと終わらせないとな」
アリーシャの言葉を聞いたウィザードは国を想う彼女の気持ちに答えるべく。左手の指輪を交換する。
それは、アリーシャが先程までの戦いでみた4つの指輪とは異なっている。それは今までの指輪より、一回り大きいダイヤを思わせる指輪だった。しかし、その指輪は僅かな輝きは残すだけで、その輝きの殆ど失っていた。
その指輪をはめたウィザードに最早、体が殆ど消えかかっているドラゴンが声をかける。
『操真 晴人。わかっているのか? その指輪には「殆ど力は残されていない……だろ?」……もういい…好きにしろ』
ウィザードの反応に諦めたような声を漏らしたドラゴンは、そのまま消えていった。
「ハルト? 」
何かを決意したような彼の雰囲気にアリーシャは思わず晴人の名を呼ぶ。
「心配すんなよ。憑魔になった兵士達は必ず助ける」
迫ってくる大量の憑魔に臆すことなくウィザードはベルトのシフトレバーを操作する。
そして……
「……いくぜ」
ウィザードは指輪をベルトへとかざす……
【インフィニティー! プリーズ!】
直後、ウィザードを中心に放出された閃光がグレイブガント盆地全域を包み込んだ。
ロゼ : | M0) < ……
ロゼの出番が無いのはアリーシャ放置でローランスに行った原作の流れをなんとかフォローしたくてスレイとアリーシャの会話を優先したからです。別にロゼアンチとかじゃないです