Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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後篇です。アリーシャの魔改造が始まります。

因みに、余談ですが、この作品のウィザードは、春映画やMovie大戦を含めて映像化されている話は全て繋がっている設定ですが、小説版の黒晴人事件は発生していません。個人的には小説版は結構好きなんですけど、凛子ちゃんと恋仲になる設定は読んでない人が混乱するし、何より小説版は晴人の物語が完全に完結してしまっているので除外しています。なので晴人は仮面ライダー大戦後にこの世界に跳ばされ、ホープリングは晴人のアンダーワールド内にあります。




5話 Just the Beginning 後篇

「見えたぞ!」

 

丘陵地帯を抜け、草木の生えない岸壁地帯へと差し掛かった晴人は前方にハイランド軍の本陣であろう場所を見つける。木材を使用し作られた簡易的な本陣の入り口には兵士が2名ほど見張りとして立っているが、これ以上無駄な時間を割いている余裕は無いと考えたウィザードはバイクの勢いを弱めず本陣へと突っ込んでいく。

 

 

「うわぁ!」「ひぃ!」

 

 

そんなウィザードに轢かれてはたまらないと兵士ふたりは横に飛び退き、そのまま本陣の中へ突入した晴人はブレーキをかけて停止させる。すかさずアリーシャはバイクから飛び降りるとヘルメットを外し、この場の指揮を受け持っているであろう騎士に声をかける。

 

「戦況はどうなっている!?」

 

一方、声をかけられた騎士はアリーシャの登場に驚きの声をあげる。

 

「アリーシャ殿下?! 何故貴女が此処に?!」

 

レディレイクで拘束されていた筈の彼女が現れたことに混乱する騎士。しかし、アリーシャは無駄な問答をする時間は無いと、勢いのまま、まくしたてる。

 

「緊急事態なんだ! 早く答えてくれ!」

 

その剣幕に押され騎士は、戸惑いながらも彼女の問いかけに答える。

 

「そ、その……導師の活躍により、ローランス軍は敗走、ランドン師団長は追撃命令を出し自らも兵を率いて前線へ赴いたのですがその後、連絡がとれず、加えて戦場から我が軍が同士討ちを始めただのと、不明瞭な報告が続いており、指揮系統が混乱していまして……」

 

「そんな! 間に合わなかった……待ってくれ、ランドン師団長が行方知れずというのはどういう……? それに、味方の同士討ち? ……まさか! 」

 

アリーシャが、何かに気づいたように声をだした瞬間……

 

 

「た、助けてくれぇ!」

 

 

戦場に続く道の先からハイランドの兵士が何かから逃れるように駆けてくる。続けてハイランドの兵とは違う、茶色い服装をベースとした装備が統一されていない人物達が、負傷者を連れて此方へ撤退してくる。その背後には槍を持ったハイランド兵が10名程走ってきているが様子がおかしい。アリーシャの記憶が確かなら、彼らはハイランド軍に組する木立の傭兵団だ。だというのに撤退してくるハイランド兵も傭兵団もまるで今この瞬間、背後から敵に追われているかのような必死な形相で逃げている。これではまるで最後尾を走るハイランドの槍兵に殺されそうになっているかのように……

 

 

そう考えた瞬間

 

 

「グォォォォォォ!」

 

 

人のそれとはかけ離れた雄叫びあげた槍兵のひとりが傭兵団に追いつきその手の槍を突き刺そうと構えたのだ。

 

「なっ! まずい!」

 

傭兵のひとりが槍を持って突き刺されそうになり、声をあげるアリーシャ。だが距離が開き過ぎている。もう間に合わない、そう思った瞬間。

 

 

ダァン! ダァン!

 

 

連続して鳴り響いた炸裂音と共に放たれた弾丸が槍を振りかぶった兵士の手を貫き、槍を弾き飛ばした。

 

唖然としたハイランド兵が音がした方へと視線を向けるとそこには、得物である『ウィザーソードガン』を銃形態にして構えるウィザードの姿があった。

 

 

「早く逃げろ! アリーシャ! 兵士達の避難を頼む! 俺はあの憑魔達を浄化する!」

 

「ッ! やはり、そういうことなのか! 」

 

真剣な声音で叫び、駆け出したウィザードの言葉に、襲い掛かってきたハイランドの槍兵達が憑魔化していることを理解したアリーシャは、本陣に用意されていた槍を手に取るとウィザードに少し遅れて駆け出す。

 

 

逃げる兵達の間を逆方向へ駆け抜けたウィザードは、自分の目の前に集まっている大柄な鎧の憑魔『アーマーナイト』へむけて跳躍するとそのまま勢いに任せて回転蹴りを叩き込み吹き飛ばす。残りの9体の憑魔は攻撃を仕掛けたウィザードへ注意を向け、撤退する兵士への追撃を中止する。

 

「本陣へ撤退してくれ! 急げ!」

 

その隙にアリーシャは負傷し動きの遅い傭兵のひとりに肩を貸しながら周りの兵士達に指示をとばす。すると彼女が肩を貸した傭兵は驚いたようにアリーシャをみる。その傭兵の顔にアリーシャは見覚えがあった。髪を後ろに撫で付けた軽装のその男は木立の傭兵団のリーダーであり、スレイ達とマーリンドの加護を蘇らせる際にマーリンドを守る事に協力してくれた人物だった。

 

「ルーカス殿?」

 

「アンタはアリーシャ姫!? 捕まっていたんじゃ!?」

 

スレイ達と共にアリーシャが冤罪をかけられ囚われた事を知っていた彼は驚きの声をあげる。

 

「兎に角、今は本陣へ撤退を!」

 

説明している時間は無いとアリーシャは、ルーカスと共に本陣へ向かい撤退を始める。その背後ではウィザードが憑魔と戦闘を開始していた。

 

『グォォォォォォ!』

 

 

雄叫びをあげたアーマーナイト達はその手に持った巨大な槍を構え次々にウィザードへ襲い掛かっていく。

 

最初に突っ込んできた二体の槍が左右からウィザードの胸目掛けて突き出されるがウィザードはそれを跳躍しスレスレで躱すとその勢いのまま左側の憑魔の側頭部に飛び蹴りを叩き込み、振り抜く。直撃を受けたアーマーナイトは隣にいた同類を巻き込みウィザードの右方向に吹き飛ぶ。

 

飛び蹴りを振り抜いた勢いのまま襲い掛かってくる敵に背を向けるように着地するウィザードに三体目が槍を振り下ろそうとする、しかしウィザードは振り抜いた左脚を軸に勢いを殺さず、右後ろ回し蹴りを放ち槍の肢を蹴り軌道を逸らしながら流れるように左の蹴りを脇腹に叩き込んだ。

 

『グォォォォォォ!』

 

強敵の登場に兵士としての名残りなのか次にアーマーナイト達の四体がウィザードを囲むように包囲し一斉に槍を突き出す。しかしウィザードは身を屈め槍を回避する。

 

ガキィン!

 

4本の槍がぶつかり火花を散らすが、それを躱したウィザードはそのまま屈んだ状態のまま一回転し足払いをしかけアーマーナイト達はその場に転倒させる。

 

「はぁっ!」

 

 

跳躍し転倒した敵の包囲を飛び越えると残りの三体がウィザード目掛け襲い掛かる。一体目の槍の突きをウィザードは右に最小限動くだけで回避すると槍を掴み肢を膝で蹴り上げる。その威力にアーマーナイトの手から槍が離れ、跳ね上がった槍の肢が人間なら顎がある部分に直撃し打ち上げた。そのままアッパーを喰らった人間のようにダウンしたアーマーナイトの背後から最後の二体が跳躍しウィザードへ勢いのまま突っ込むがウィザードは手にした槍を薙ぎ払うように振り抜き二体を弾きとばす。

 

全てのアーマーナイトがダウンし体勢を崩すとウィザードは後方に跳躍し一気に距離をとり、コネクトの魔法陣からウィザーソードガンを銃形態で取り出すとハンドオーサーを起動し指輪を翳す。

 

【キャモナ シューティング シェイクハンズ! 】

 

【フレイム! シューティングストライク!ヒーヒーヒー!】

 

「ハァッ!」

 

赤い魔法陣が銃口に出現すると、ウィザードはその場で回転し、銃を左から右へ払うように振るいながら引き金を引いた。

 

 

ドドドドドドド!

 

 

爆発音と共に銃口から火炎弾が放たれ、ウィザードを中心に扇状に放たれたそれはアーマーナイト達に直撃する。

 

 

『ガァァァォァア!』

 

 

爆炎の中、悲鳴が響き渡る。

 

「ふぃー……」

 

そして炎が消えたその場には人間の姿を取り戻したハイランドの兵士達が倒れていた。

 

「大丈夫か!」

 

「お、おい!」

 

「あ、アリーシャ姫! 危険です!」

 

後方で決着が着くのを確認したアリーシャは急ぎ兵士達に駆け寄る。憑魔の事を知らず知覚もできないルーカスやハイランド兵達は先程まで、自我を失ったように暴れていた兵士に迷わず駆け寄るアリーシャを制止しようとするが彼女はその声を振り切り、倒れた兵士に肩を貸し本陣へ運ぼうとする。

 

「大丈夫なのかよ? もしかしたらまた襲われるかもしれないんだぜ?」

 

ルーカスを筆頭におっかなそうに近寄ってきた傭兵団やハイランド兵は混乱と警戒の感情を滲ませながらアリーシャへ問いかける。

 

「それは大丈夫だ。彼等が襲ってきた事には理由があるんだ。先程のハル……ウィザードの攻撃で正気を取り戻した筈だ」

 

「ウィザード? あっちの宝石みたいな顔の奴のことか?」

 

戦場の方から新手の憑魔が現れないか警戒するウィザードを指差すルーカス。

 

「あぁ、済まないが事情は後で説明する。今は彼等を本陣へ連れていきたい。手を貸してくれないだろうか」

 

そんなアリーシャの言葉に兵士達は、どよめき戸惑ってしまう。当然だ、先程まで命を狙ってきた相手なのだ。だが、そんな戸惑いを消し去るようにルーカスが傭兵団に指示をとばす。

 

「手伝ってやれ、命の恩人の頼みを無碍にしたら木立の傭兵団の名折れだぞ」

 

そういって自らアリーシャが肩を貸した兵士の反対側の肩を担いだルーカスの姿に影響され傭兵団や兵士達も倒れた兵士達も倒れた兵士を本陣へ運び始める。

 

兵士を運びながらアリーシャはルーカスへ何があったのか問いかける。

 

「ルーカス殿は戦場にいたのですね。なら、何が起こったのか知っていないだろうか?」

 

その問いにルーカスを表情を暗くする。

 

「わからねぇ。俺たちは戦場で孤立しローランス軍に囲まれた所をスレイに助けられたんだが……」

 

「スレイが!? 」

 

「あぁ、アイツの力で戦況は完全に変わった……俺たちは負傷者がいたこともあって一度退こうとしたんだが……突然戦場がおかしくなったんだ」

 

「……」

 

「兵士達は正気を失ったように同士討ちを始めた……俺たちがいた北東部はおかしくなった奴が殆ど居なかったから、何とか撤退はできたんだが、撤退してきたハイランド兵が言うには『ヴァーグラン森林』付近の南西部は地獄絵図だったらしい……」

 

その言葉にアリーシャは疑問を覚える。

 

「(同じ戦場でもルーカス殿達がいた場所の憑魔化は影響が弱かった? どういうことだ? 被害の多いという南西部と真逆の場所にいたことが関係しているのか?)」

 

いくら負の感情が集まる戦場とはいえ、この状況は明らかに異常だ。今までもローランスとハイランドの激突はあったが味方同士が殺しあう事態などアリーシャは聞いた事がない……。

 

そんな時、彼女の脳裏に、天族であるライラから聞かされた話が過る。穢れを撒き散らす災厄の元凶とも言える存在の名を……

 

「まさか……いるのか? この戦場に……『災禍の顕主』が……」

 

ならば、こうしてはいられない。一人一人、浄化しても焼け石に水なこの状況ではスレイ達は恐らく、この戦場に穢れを生み出している元凶を叩きに行く筈だ。その存在がライラの言っていた『災禍の顕主』かどうかはわからないが、これほどの影響力を持つ相手に無事で済むかわからない。急いで晴人と共にスレイと合流しなくては。

そう考えたアリーシャは本陣に兵士を寝かせると晴人の方へと視線を向ける。

 

ハイランドの本陣へ通じる北と南からの道が交わる場所で警戒を続ける彼の姿がアリーシャの瞳に映り、急ぎアリーシャは彼の元へ向かい走り出す。ウィザードの元へ駆け寄るアリーシャ。そんな彼女の瞳に戦場の中心部に通じる南側の道からこちらへ歩いてくる一人の男の姿が映る。

 

「!? あれは……」

 

 

 

__________________________________

 

 

変身を解かずに警戒を続ける晴人はこの戦場の異常な空気を感じていた。

 

 

「(妙な感じだ……空気が重い。それにこの戦場に入った瞬間、空もおかしい……快晴だった筈なのに紫色の雲に覆い尽くされてる……)」

 

まるで、何者かにより世界を塗り替えられているような違和感。アリーシャを含めて、戦場にいる兵士達はこの異常に気付いていない以上、憑魔が関係していることに間違いはないだろうと晴人は考える。

 

「(レディレイクで感じた加護領域ってのとは似ているけど真逆の代物……そんな感じだ……でもこれに似た感じ……前にも何処かで……そうだ!これは確か『ギャバン』や『キョウリュウジャー』達と一緒に『マドー』と戦った時に……)」

 

戦場を覆う謎の領域に似たような感覚を過去に感じた覚えのある晴人はそれが何か思い出そうとする。しかし、その思考はかけられた声により中断された。

 

「貴様は何者だ? ここで何をしている?」

 

 

「ッ!? お前は?!」

 

 

かけられた声の方向を向いた晴人の目に3メートルちかい大柄の熊を思わせる獣人憑魔が映る。しかし、その憑魔の姿に晴人はどこか既視感を覚えた。

 

左目に奔る傷、ボロボロになったハイランドの軍服と胸にかけられた大量の勲章。

 

「まさか……アンタは「ランドン師団長! 無事だったのですね!」…ッ!」

 

 

駆け寄ってきたアリーシャによって告げられた名前に晴人は確信する。目の前の憑魔の正体が、昨日、出会った師団長の成れの果てだということを。

 

 

「離れろアリーシャ!」

 

「え?」

 

困惑し硬直したアリーシャに次の瞬間、ランドンはその手に持った巨大な剣を叩きつけようとする。

 

「チィッ!」

 

一瞬速くアリーシャへ飛び込んだウィザードが彼女を抱え振り下ろされた斬撃を回避する。

 

「師団長!? 何を!?」

 

「アリーシャ! こいつは憑魔だ!」

 

戸惑うアリーシャを背に守るようにウィザードはウィザーソードガンを剣形態に切り替えて構える。

 

「これはこれはアリーシャ姫、何故、戦場にいるのか知らないが丁度よかった。あの小生意気な導師が私の指示に従わなくて困っていたのですよ……貴方の四肢を切り落として晒してやればあの馬鹿な男ももう少し真剣に私の指示に従ってローランスの連中を皆殺しにしてくれるだろう」

 

 

「な!? 何を言っているのです師団長!?」

 

 

ランドンの口から狂気に満ちた言葉が漏れる。人格までは、まだ完璧に壊れていないのだろうが明らかに様子がおかしい。

 

 

「させるかよ、悪いが少し眠って貰うぜ師団長さん。離れてろアリーシャ!」

 

戦闘態勢に入ったウィザードにランドンは気に入らなそうな声をあげる。

 

「なんだ貴様は? 導師に続き貴様も私の邪魔をするつもりか? ならば死あるのみだ!」

 

そう叫ぶランドンは再び大剣をウィザードへむけて横薙ぎに振るう。

 

「食らうかよ!」

 

斬撃を飛び越え回避したウィザードはそのままソードガンでランドンに斬りつける。

 

「ぐぁっ!?」

 

胸を切り裂かれ苦悶の叫びあげるランドン。しかし……

 

 

「やってくれたな! キサマァ!」

 

切り裂かれた傷をすぐさま回復させたランドンが怒りの声をあげる。

 

「オイオイ……随分タフだな」

 

元の人間の実力が他より上なのか、或いは穢れを強く浴びた影響なのかはわからないが、異常な回復力を見せるランドン。そんな彼にウィザードは呆れたような声を漏らすしながらも剣を構えなおす。しかし次の瞬間……

 

「た、助けてくれぇ!」

 

「ッ!?」

 

叫び声が響きランドンが現れた南の道とは逆の北東部に通じる道から先程と同じように兵が逃げてくる。逃げてくるのはハイランドの兵だけではなくローランスの兵も混じっている。その遥か後方には先程ウィザードが倒した物と同種のアーマーナイトが大量に追従していた。動きの遅いアーマーナイトはまだ、撤退中の兵士達と距離が離れているがその中から数体のトカゲ人間のような素早い憑魔が彼らへと迫っている。

 

「ヤバい!」

 

急ぎ彼らの元へと駆けて行こうとするウィザードとだがその進路を塞ぐようにランドンに大剣が叩きつけられる。

 

「逃がすかぁ!」

 

「くそ、この忙しい時に!」

 

ランドンによる妨害に内心で舌打ちする晴人は、ならばと左手の指輪を交換する。指輪の色は先程と同じ赤だが、装飾が先程のものより派手になっている物だ。

 

「『1人』で手が足りないなら『4人』でいくさ!」

 

ランドンの浄化と撤退する兵士達の救出を同時に行う為にウィザードは自身の持つ切り札の一つを切るべく、指輪をバックルにかざす。しかし……

 

 

【エラー!】

 

 

「なに!?」

 

指輪をかざしても変化はおこらず失敗をしらせる音声がベルトから流れる。ウィザードは動揺し指輪を見つめる。よく見ると美しく輝いていた筈のその指輪は輝きを失い黒ずんでいた。

 

「よそ見をするな!」

 

「チィッ!」

 

動揺した隙にランドンがしかけた攻撃を間一髪で回避するが、事態は好転しない。助けに向かおうにもランドンによる妨害が入り、切り札は使用不能。もはや間に合わない。無情にもトカゲ人間のような憑魔『リザードマン』が転倒した兵士に迫り剣を振り下ろそうとする。ランドンと戦うウィザードは間に合わない……だが

 

「魔神剣!」

 

突如、叫びと共に放たれた剣圧がリザードマンに直撃し怯ませる。

 

「落星凍雅!」

 

倒れた兵士を飛び越えるように躍り出た影は冷気を纏った垂直突きをリザードマンにお見舞いする。凍気により咲いた氷の花にリザードマンが貫かれた。

 

「私が時間を稼ぐ、怪我の軽い者は負傷者に手を貸して本陣へ撤退してくれ! ハイランドもローランスも関係無くだ! 急いでくれ!」

 

兵士達を庇ったのは晴人に退くように言われた筈のアリーシャだった。

 

「アリーシャ!? 無茶すんな!」

 

ウィザードはランドンの猛攻を躱しながらを1人で時間を、稼ごうとするアリーシャへ叫ぶ。

 

実際、彼女の行為は無謀そのものだ。憑魔達は最早常人を超えた力を有しているのに対してアリーシャ従士契約を破棄し、身体能力のブーストを失っている。1、2匹までならなんとかなるかもしれないが敵は多い。加えて、その後方からも数十体のアーマーナイトが迫っている。

 

「(くそっ! 手が足りない! )」

 

焦る晴人。敵が自分を狙っている分にはどうにでもできる自信はあるが、今は兵士達を守りながら戦わなくてはならない。例え、このまま力押しでランドンを倒して、迫ってくる憑魔の相手をするにしても、状況は厳しい。憑魔を浄化すれば当然その人物は人間に戻り倒れてしまう、先程の数倍の敵が押し寄せる状況で、気を失った人間を守りながら1人で憑魔を相手どるなど、切り札を封じられた現状では不可能だ。加えて、もし敵を討ち漏らして本陣へ通してしまえば負傷者達が殺される。

 

「(どうする!? せめて一人でも憑魔の事を理解していて、浄化が可能な人間がいてくれれば違ってくるんだけど……)」

 

現状でその条件に近い人物はアリーシャだ。だが、彼女は従士契約を破棄し、憑魔の知覚や浄化は不可能な状態だ。従士契約を行うことのできる導師と合流するだけの時間は無いし、偶然、霊応力の高い人間が見つかるなどという都合のいいこともおこる筈がない。

 

「(霊応力の高い人間……まてよ、魔力を持つ俺が憑魔を知覚できるってことは魔力と霊応力は、限りなく近いものってことだよな……なら……)」

 

脳を回転させ一つの策が晴人の脳裏に浮かぶ。この方法なら恐らくアリーシャに再び浄化の力を与える事ができる。しかし……

 

「(いいのか? そうなればアリーシャを危険に晒すことになる……俺一人でなんとかできる可能性だって……)」

 

アリーシャを戦わせる。それは自分の力の無さのツケをアリーシャへ背負わせるようで、そんな真似をしてもいいのかという葛藤が晴人に迷いを生じさせる。だが……

 

「ハァッ!」  

 

ランドンの攻撃を躱すウィザードの目に兵士を守ろうと押されながらも奮戦するアリーシャの姿が映る。従士でなくなっても諦めず戦うアリーシャ、その姿を見て晴人は仮面の下で薄く笑った。

 

「まったく……偉そうに、『1人で抱え込むな』って言っといて俺も人のこと言えないよな」

 

「なに? いきなり何を言っている?」

 

突如、独り言を零したウィザードに困惑したランドンは、攻撃を止める。そんなランドンにウィザードは何処か焦りの消えた声で返答する。

 

「いや……アリーシャの希望になるって言った俺が、アリーシャの強さを信じないでどうすんだ……って思ってね……」

 

「何を訳のわからない事を!」

 

怒りに任せて大剣を振るうランドンだが、ウィザードは後方に大ジャンプするとリザードマン達に押され本陣前の一本道まで後退したアリーシャの方へと駆け寄っていく。

 

「邪魔だ!」

 

リザードマンを蹴り飛ばしウィザードは指輪をバックルにかざす。

 

【ディフェンド! プリーズ!】

 

魔力の込められた通常時より大きな燃える魔法陣が道を塞ぐように展開され本陣への向かう憑魔を足止めする。

 

「ハルト!?」

 

「アリーシャ、時間がないから手早く説明する。憑魔になった人達を助けるのに手が足りない。アリーシャの力を貸してほしい」

 

「わ、私の? だが従士契約は……」

 

自分に力を貸して欲しいと告げた晴人の言葉にアリーシャ は困惑する。従士契約を破棄した自分では憑魔を浄化することも、知覚することもできないのだ……と。

 

「あぁ……だから代わりに俺の魔力をアリーシャに分け与える。魔宝石を介した俺の魔力を使えばアリーシャにも憑魔を浄化できる筈だ」

 

アリーシャは従士としては霊応力自体は特別高く無いがそれを技として操る技術を有している。ならば魔力も同じように操れる筈だというのが晴人の考えだ。分け与えた魔力でアリーシャの低い霊応力を補うことで、憑魔の知覚を可能になれば、アリーシャは再び、従士だった頃と同じように戦えるだろう。

 

 

「わ、私は……」

 

晴人の言葉にアリーシャは迷う。自分にできるのか? そんな不安が渦巻き、アリーシャの脳裏に視力を失ったせいでエビルプラントの攻撃を受けたスレイの姿が過る。そんな彼女に晴人は優しく声をかける、

 

「不安はわかる。でも、アリーシャが此処に来たのは諦めたく無かったからだろ? なら大丈夫さ。諦めない強さを持ってるアリーシャなら今度はきっと乗り越えられる。それに言ったろ? 俺もアリーシャの力になるって……だからさ、もっと自分の力を信じてみろよ」

 

その言葉にアリーシャは覚悟を決めた。

 

「わかった……私はもう一度、戦う。私の信じた希望の為に……」

 

その言葉を聞いた晴人はどこか喜ばしそうに返答する。

 

「そっか……ならアリーシャ、右手の籠手を外してくれ」

 

「籠手を? わかった」

 

晴人の指示に従いアリーシャは右の籠手を外す。すると晴人はアリーシャの右手をとり、その中指に指輪をはめた。

 

「は、ハルト?!」

 

まさか、異性に指輪をはめられると思っていなかったアリーシャは狼狽えるが、晴人は構わずアリーシャの手をバックルにかざす。

 

 

【プリーズ! プリーズ!】

 

 

次の瞬間、アリーシャを光が包み込んだ。

 

 

 

__________________________________

 

 

「足止めとは小癪な真似を」

 

炎の魔法陣に阻まれたランドンと憑魔達はハイランドの本陣を目前に足止めをくらっていた。

 

しかし次の瞬間、魔法陣はかききえる。

 

「ついに観念したか……」

 

諦めて姿を現したのかとほくそ笑むランドン。しかし、目の前に立ち塞がる二人にランドンは表情を歪ませる。

 

「アリーシャ姫? なんだその姿は?」

 

アリーシャの服装が先程から変化していたのだ。白を基調とした服は変わらないが、ピンクだった部分は赤く染まり、白を基調としていた籠手と具足は黒をベースにしルビーのような紅い宝石がはめこまれており、瞳の色も同じく紅く変化している。

 

「これは……一体」

 

とうのアリーシャも自身の変化に困惑している。これはまるでスレイ達が使っていた神衣のようだ……と。

 

「へぇ、まさかそんな風になるとはね。ま、とりあえず細かい事は後回しだアリーシャ。まずは目の前の事から片付けよう」

 

困惑するアリーシャにウィザードは今は気にするなと促す。

 

「……そうだな。まずは、師団長達を助ける!」

 

炎を纏う槍を構えるアリーシャ。

 

「その意気だ。さぁ、いくぜ? ここからは、俺達の……」

 

同じく剣を構えるウィザード。

 

 

 

 

 

「ショータイムだ!」

 

 

 

その言葉と共に2人は憑魔の群れに向かって駆け出した。

 

 

 

 

 




小話

仮面ライダー4号を視聴したフジとその友人


フジ「こんなの仮面ライダー4号じゃないわ! 只の仮面ライダー555完結篇よ(半泣き)」

友「だったら泣けばいいだろ!(マジ泣き)」


いや、マジでなんなんでしょうね、去年からの公式の555推しは……死ぬほど嬉しいだろうが!

仮面ライダー4号は555ファン必見なので555好きな方は是非見て欲しい!(ステマ)


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