Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜 作:フジ
やはり私は……遅筆で……文章能力が低くて……
???「3つ目言えよ!」(追い討ち)
ドライブもクライマックス。なんでも最終回はウィザードの時みたいなゴーストとのコラボ篇らしいですね。
あと、ブレンさんお疲れ! ぶっちゃけ、最終回で工事現場でヤクザみたいな現場監督に虐められながら生存エンドで、ワンチャンあると思ってたけどカッコよく散ったな!
ドライブの視聴理由の3割が消滅して寂しいなぁ!
因みに宿屋の女将さんの名前は、メイドさん同様テイルズ過去作から引っ張ってきてます
では、最新話をどうぞ!
月が昇り、人々が眠りに就き始めるであろう時刻。ラストンベルの宿屋『ランドグリーズ』の一室では、椅子に腰掛けたアリーシャが右手にはめられた指輪を晴人のベルトのバックルへと翳していた。
【プリーズ プリーズ!】
鳴り響くベルトの音声と共に、アリーシャの体が一瞬、黄色い光に包まれる。
「よし! これで魔力の補給は完了だ」
そう言って晴人は机を挟んだアリーシャの向い側の椅子へと腰掛ける。
「ありがとう、ハルト。だが、魔力を分けて大丈夫なのか? 君も疲れているのだろう?」
「ん? 大丈夫、大丈夫。 二人で戦った分、消耗も抑えられてるし、今日は宿で、腹一杯食べて、ぐっすり眠れるからな。明日には全回復さ」
「ふふっ、そうか。それなら一安心だ」
アリーシャの言葉に心配は無いと軽い調子で返す晴人。その言葉に安心したのかアリーシャが微笑む。
夕食を終えた2人は現在、騎士団が用意してくれた部屋で、話し合いをするついでに、道中で消耗したアリーシャの魔力の補充を行っていた。
魔法使いである晴人の魔力は休息を取ることで回復するが、晴人を介して魔力を供給されているアリーシャは、そういう訳にはいかない。プリーズウィザードリングを使い魔力を補充しない限り彼女の魔力が回復する事は無いのだ。
アリーシャの魔力は、まだ余裕があったが、魔力の供給元である晴人が確実に休息を取れる時にマメに補充しておくに越した事は無い。旅をする以上、必ずしも、しっかりと休息を取れるわけではない。アリーシャへの魔力の補充で肝心の供給元である晴人が魔力切れを起こしては元も子もないだろう。
そんな理由から魔力補充を行った訳だが、魔力補充を終えたアリーシャは、早速、先程の食堂での話を切り出した。
「ハルト、君はさっきの話をどう思う?」
「行方不明の女の子に天族が関わってるかもしれないってやつか? この街に来たばかりの身としては、なんとも言えないってのが正直なとこだけど、流石に言い掛かり染みてると思うぜ?」
「あぁ、私もだ。今の時代、天族信仰の文化は風化してきている。熱心な信徒もいるが、天族の存在を信じない者だって決して少なくはない」
「そんな中で、天族に否定的な発言をした、その女の子だけが怒りを買って行方不明ってのも変な話だもんな。まぁ、目に見えない存在ってのに警戒する気持ちってのもわからない訳じゃないけどさ」
そう言った晴人は先程の食堂での会話を思い出す。
『もしかして、マーガレットは天族様の怒りを買ったんじゃないのか?』
目に見えない存在への信仰や畏怖。それ自体は決して珍しいものではない。晴人が住んでいた世界にも目に見えない存在を信仰する文化は沢山、存在している。
そして普段はそういったものに興味を持たない者も、困っている時に、神頼みすることはあるし、不吉な事が多発すれば、祟りだなんだと騒ぎもする。あの男性が言っていた事もまた、それと同じようなものだと晴人は思う。
悪意云々を抜きにしても、目に見えない不確かな存在が相手となれば人は好き勝手な事を言ってしまう。
「そうだな、彼らとて悪気があって言っているわけではない……」
晴人の言葉を聞いたアリーシャは、そう言って複雑そうな表情を浮かべる。
アリーシャ自身は幼い頃から、天族の存在を信仰してきたが、それでも最近まで、その姿を見る事も、話す事も出来なかった身だ。天族が見えない人間の気持ちというのも理解出来る。だからこそ彼女は、人間と天族の間にある壁の厚さを感じてしまう。
「……しかし、随分と色々な事が起きてるんだなこの街は」
そんなアリーシャの内心を察した晴人は、彼女が思いつめ過ぎない様に、話題を切り替える為、意図的に話を進めた。
「……そうだな、住民への襲撃事件に、少女の行方不明事件……そして加護領域の件。だが、私達にも託された使命がある……残念だが、あまり時間をかける訳にはいかない……急ぎペンドラゴへ向かい戦争を止めなければ……」
彼女とて、この街の状況に思う所はあるのだろう。だが、それを振り切る様にアリーシャはペンドラゴへ急ぐと言う。切羽詰まったような表情の彼女に晴人は、一瞬、真剣な表情で何かを言おうと口を開きかけたが、何か思い直した様に、表情を崩し軽い調子で話しかける。
「ま、何はともあれ、まずは明日の朝に、騎士さんの話を聞こうぜ。どう動くにしろ、どのみち情報が必要になるんだしな」
「……そうだな、今日はもう休もう」
話をまとめると晴人は立ち上がり、ドアへ向け歩いていく。男女の二人旅に対し騎士が気を使ってくれたのか部屋を別々にとってくれていたからだ。
「おやすみ、アリーシャ」
「あぁ、ハルトも」
言葉を交わし部屋から出て行った晴人を見送るとアリーシャは纏めた髪を解き、ジャケットや長手袋、ブーツを脱ぐとベッドにゆっくりと倒れこんだ。
自分の屋敷にあるベッドのクッションに比べると流石に硬いが、彼女がそれに不満を感じる事はない。
「ローランスもまた、ハイランド同様、様々な問題を抱えているのだな……」
一人きりの部屋でポツリとアリーシャは言葉を漏らす。
当然といえば当然の話だ。この災厄の時代を生きる以上、国に関係なく、多くの問題が、そこに暮らす人々に降りかかる。ハイランドの敵対国とはいえ、そこに暮らすのは同じ『人』なのだ。ローランス領のラストンベルを訪れ、そんな人々が抱える問題を目の当たりにしたアリーシャは胸を痛める。
「できるのであれば彼らの力になりたいが……駄目だ……私達は両国の激突を防ぐ為にも、一刻も早くペンドラゴに行かなくてはならないんだ。今は余計な事は考えるな……」
子供の身を案じ仕事が手につかなくなっていた宿屋の女将の事を思い出し、捜索に協力できないかという考えが頭をよぎるが、アリーシャは自身が背負った使命を思い出し、余計な事を考えるなと自身に言い聞かせる。
この街の問題が気になるのは確かだが、自分が優先すべきは、両国の和平への足掛かりを掴み、両国の激突を止める事だ。師団長達の協力があるにせよ、いつ再び両国が激突するかわからないし、下手にこの街で目立ち、白皇騎士団以外の兵士に目をつけられる訳にもいかない。大局から考えれば、何を第一に行動するのかなど目に見えている。
「そうだ……それでいいんだ」
小さな事件を解決できても、戦争を止められなければ本末転倒なのだ。だから、自分の考えは何も間違っていない筈……だというのに、アリーシャの表情は、いつまでも晴れなかった。
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翌日の早朝、アリーシャ達は、夜間の見回りを終え、宿を訪ねてきた騎士の男から、今後の行動に関係する情報を聞いた。
「では、スレイ達は、無事にこの街を出発しているのですね」
「はい、10日以上前になりますが、我が白皇騎士団の団長を務める、セルゲイ殿が、この街に現れた導師殿の正体に気づいたとのことで、私があなた方に頼んだのと同様に、枢機卿の調査の協力を依頼したとのことです」
「そうですか。良かった……スレイやライラ様達は無事だったか」
「って事は、スレイ達はもうペンドラゴに着いちまってる頃か?」
「それはどうでしょうか……ラストンベルからペンドラゴへの道程は『凱旋草海』と『パルバレイ牧耕地』のみですが広大な平原なので徒歩ではかなり時間が掛かる筈です。それに加え、導師殿達は、『凱旋草海』の途中にある、『カンブリア地底湖』や『マロリー緑青林』の情報も集めていたとの事なので……」
「真っ直ぐ、ペンドラゴへ向かってるかもわからないって訳か」
「おそらく、憑魔関係の情報を得たのだと思う。被害が出ないようペンドラゴに向かう途中で浄化していくつもりなのだろう」
「なるほどね。因みに聞くけど、団長のセルゲイって人も、今はペンドラゴに?」
「はい。現状の報告の為に皇都へ戻られています」
「そりゃ、好都合だ。平原ならバイクも全速力で飛ばせるし。上手くいけば、ペンドラゴで何とか追いつけるかもしれない」
「では、お二方は今日にもラストンベルを発つのですね?」
その言葉をアリーシャは肯定しようとするが……
「そ、それは……」
「? どうかされましたか?」
歯切れ悪く言い淀むアリーシャに騎士は首をかしげる。そこにフォローする様に晴人が声を発した。
「それなんだけどさ、この街の加護の件を少し調べとこうと思ってるから、とりあえず、街の教会を訪ねとこうと思ってるんだ」
「この街の……教会をですか? それは構いませんが……」
晴人の発した教会という言葉に、微妙な反応を見せる。
「ん? なんかマズイのか?」
「いえ、そういう訳では……わかりました案内します」
「悪いな、アンタだって疲れてるってのに」
「いえ、我々にはそれくらいしか出来ないので」
そう言って騎士は二人を教会に案内すべく立ち上がり部屋の外へと向かい二人は、それに続いたのだが……
バタン!
突如、廊下から鳴り響いた音。三人は何事かと廊下に飛びだすと、そこには壁に寄りかかる様に倒れた宿屋の女将の姿があった。
「ポプラさん!」
おそらくは、それぎ女将の名前なのだろう。騎士の男は慌てて彼女に駆け寄る。
「あぁ、騎士様にお客様……すいません、驚かせてしまって……」
自分の事を気に掛けず、ポプラはアリーシャ達へ謝罪する。
「気になさらないでください。それより、少し休まれた方が……」
彼女の身を案じ、アリーシャは言葉をかけるが、ポプラは首を横に振る。
「大丈夫ですよ。少し立ち眩みがしただけです」
そう言うポプラだが、アリーシャ達には彼女が大丈夫だとは思えなかった。彼女の顔色は白く明らかに血色が悪い。目の下にも大きな隈ができており彼女が、ここ数日、まともに眠れていない事を物語っていた。
「ポプラさん、あまり無理をなさらないでください。このままでは貴方が倒れてしまう! 仕事は他の従業員に任せて、休んでください!」
明らかに無理をしているポプラに騎士の男は休むよう説得を試みるが、それでもポプラは首を横に振る。
「今の私にできる事は、あの娘が……マーガレットが、何時もの様に帰ってくる事を信じて、何時もの様に働くことだけなんです……お願いですから止めないでください」
行方不明の娘の安否が気にならない訳ではないだろう。寧ろ、だからこそ思考が悪い方向に行かない様に彼女は体を動かし続けていた。
最愛の娘に、もう二度と出会えないかもしれないという最悪の方向へ思考が傾かない様に……
そんなポプラを見た晴人は静かに傍に歩み寄ると片膝をつきかがみこんで視線を彼女と同じ高さにする。
「娘さんをいつもと同じ様に迎えたいなら、まずはアンタがいつも通りじゃなきゃ駄目だろ? 今のアンタの顔を見たら戻って来た娘さんが逆に不安がっちまう」
「お、お客様……?」
困惑するポプラ。晴人は、そんな彼女の手を取ると取り出した指輪をはめる。
「少し休みな。大丈夫、悪い夢は見ない。魔法使いが保証するよ」
そう言って晴人は、はめた指輪をバックルに翳す。
【スリープ! プリーズ!】
そして、鳴り響いた音声と共に、ポプラの瞼が緩やかに落ち、彼女の口からは静かな寝息が、溢れた始めた。
「こ、これは?」
「眠りの魔法をかけた。暫くすれば目を覚ますよ。ちょっと強引だけど、これなら十分に休息が取れると思う」
何事かと驚く騎士に、晴人はポプラにはめた指輪を抜き取りながら答える。騎士の男は、その言葉に安堵すると同時に、悔しそうに言葉を漏らした。
「彼女の娘、マーガレットの行方に関しては、我々も依然手掛かりを掴めていません……民を守る騎士として情けない……」
「あんまり自分を卑下するもんじゃないさ。アンタ達が頑張ってるのは、この人だってわかってるさ」
騎士団の面々が真剣に捜索を行っているからこそ、彼女もまた希望を繋げようとしているのだから……
「そう……ですね。では私は、宿の従業員に彼女の事を説明してきます。申し訳ありませんが教会への案内は……」
「あぁ、大丈夫、大丈夫。確か、大通り沿いにあるんだよな? こっちで探すから気にしないでくれ」
「はい。では、また後ほど……」
そう言って騎士は、ポプラを背負い行ってしまった。
その後ろ姿をアリーシャは複雑そうな表情で見つめる。
「何か悩んでるって顔だなアリーシャ」
「えっ?」
そんな彼女に晴人が声をかけ、不意を突かれたアリーシャは、驚いた声を漏らす。
「娘さんを探しているあの人の力になりたい。だけど、戦争を止める為には、早くペンドラゴに向かわなくちゃならない…って所か?」
その言葉にアリーシャは驚いたように目を見開くが、その言葉を肯定するように、自身の思いを零しはじめる。
「ッ! ……その通りだ。大切な使命を任され、君にも協力してもらっておきながら無責任と思われるかもしれないが私は……」
様々な人達の協力を得て臨む自身に任された使命。その重さを理解した上で、軽率な行動をとろうとしている自分を責める様にアリーシャは言う。
だが……
「助けたいと思ったのなら助ければ良いさ」
晴人が発した言葉は、優しい肯定の言葉だった。
「ッ! だ、だが私達は「『騎士は守るものの為に強くあれ。民の為に優しくあれ』」……あ」
その言葉にアリーシャは、思わず口をつぐむ。
「アリーシャは、自分の背負った責任を理解した上で、それでもあの人を助けたいと思ったんだろ? 例え、敵国の民が相手だとしても騎士として手を差し伸べたいと思ったんだろ? なら胸を張ってそれをやればいいさ。……それに、もしアリーシャが言い出さなかったら、その時は俺が今の同じ様な事を言ってただろうしな」
その言葉にアリーシャの表情から迷いが消える。
「その通りだ。騎士が幼い子供を見捨てる等、あってはならないな……ありがとうハルト。」
「気にすんなって、仲間だろ? さぁ、そうと決まれば行動開始と行こうぜ。国もポプラさんの希望も両方救う為に」
「あぁ!」
憂いの消えた顔でアリーシャは力強く頷いた。
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会話を終え、二人は当初の予定通り、先ずは教会へと向かった。加護天族の存在の痕跡を探すのと同時に、マーガレットに関しての手掛かりを見つける事を目的として…
しかし……
「司祭さんは、出払ってるし加護天族も見当たらないときたか」
朝の祈りが終わり、晴人達以外、誰もいない教会の中で晴人は、思わずため息をつく。
「加護天族の方が居ないのは想定内だが、『器』も見当たらない……この街の穢れの少なさを考えれば、最近までは加護領域があったのは間違いない筈なんだが……」
「何かしら手掛かりがあるかと思ったんだけどな……ん? アリーシャ、その『器』ってのは何なんだ?」
アリーシャの言葉に晴人は疑問を覚え問い掛ける。
「あぁ、そう言えばハルトには『加護領域』の仕組みについて詳しく説明していなかったな」
そう言ってアリーシャは、加護領域の説明を始めた。
要約するとこうだ。
元来、天族という存在はその他の生物と異なり、感情の状態に関わらず自身から『穢れ』を発する事は無い。しかし、一方で天族は穢れの影響を受けやすく能力の低下や憑魔化など、人間よりも穢れに弱い面を持っている。
その為、加護天族達は、自身が穢れから身を守る為に清浄な『器』を選び、そこに身を宿す。清浄な『器』で穢れから身を守り、その一方で、天族の宿る器を祀る者達が集めた信仰が、天族の力を増幅し『加護領域』を広範囲に展開可能となり、その土地の穢れを抑え込む。それが加護領域の仕組みなのだ。
因みに、この関係性は導師の契約に近いもので、この場合は、導師が『器』の役目を担っている。
「レディレイクの加護天族のウーノ様は教会の聖杯、マーリンドのロハン様は聖なる大樹を『器』としていた。私はてっきり、この教会に器があるかと思っていたんだが……」
「見当たらないって訳だ。しょうが無い、司祭様を探して話を聞いてみるか」
「そうしよう」
次の目的を決め、二人は司祭を探す為に教会を出る。すると教会の敷地の真ん前に、先程、ポプラを連れて行った白皇騎士団の男と聖職者らしき男が何やら話していた。
「お、もしかしてあれが司祭さんか?」
「戻って来られたようだな。早速話を伺おう」
そう言って司祭らしき男に二人は歩み寄ろうとするが……
「こんな所で何をされているので? 教会側の周囲を嗅ぎ周るなど騎士団は余程、暇を持て余しているのですね。そんなに我々を強請る為の情報が欲しいのですか?」
司祭が発した言葉を聞き、二人は思わず歩みを止める。
「司祭様、我々には、そのようなつもりは……」
「ハッ!どうだか。大方、我らがフォートン枢機卿の台頭により、騎士団の発言力が落ちてきた事が面白くないのでしょうが、そんな事をしている暇があれば、この街で起きている事件を速く解決されたらどうです? 襲撃事件の犯人は、未だ捕まっていないのでしょう? 住民達も、さぞ不安だと思いますよ?」
「ぐっ! 仰る通りです……」
聞こえてくる、大凡、聖職者とは思えない、ネチネチとした言葉と内容にアリーシャの表情が険しくなる。
「全く……この災厄の時代中、ローランスが、纏まっているのは枢機卿、ひいてはローランス教会の力によるものだという事を理解して頂きたいものだ。あまり、教会に対しての言動が酷いと天族様から罰が降るかもしれませんよ? ほら、天族様への礼を欠いた子供が1人、未だに行方不明でしょう? もしかしたら貴方達もそうなってしまうかもしれませんよ」
「ッ!……ご忠告、承りました」
明らかに子供を行方不明のマーガレットを愚弄するような言葉。だが、騎士は握りしめた拳を震わせながらも冷静を装い、司祭の言葉を受け流す。
「ふん……では、私は用があるので」
その反応がつまらなかったのか司祭は、騎士を一瞥すると晴人達とすれ違い、教会の中へと入っていってしまう。
騎士には見えていなかったが、その司祭の背中は憑魔に至る程ではないが、穢れに塗れていた。
「……なんだありゃ」
「聖職者があの様な物言いを……」
晴人とアリーシャの二人は司祭の言葉に嫌悪感をおぼえる。そこに二人に気づいた騎士が歩み寄り声をかけた。
「お見苦しい所をお見せしました。教会は調べられましたか?」
「えぇ、それよりも今のは……」
司祭の言動を指したアリーシャの言葉。それを聞き、騎士の表情が歪む。
「現状、前教皇を支持する騎士団と枢機卿を支持するローランス教会の関係は険悪です。加えて、半年前に前司祭と入れ替わる形でラストンベルにきたあの司祭は、金銭関連の黒い噂の絶えない男で騎士団も調査しているのですが、教会の立場を盾に騎士団の介入を封じていて……」
「……なるほどね、とりあえず、あまり信仰心のある奴じゃなさそうだな」
天族の存在を脅しの材料にするような物言いをする人間が、天族を心から信仰しているようには晴人は思えなかった。
「あの様子では、マーガレットの事も大した事は聴けなさそうだな」
「だろうな。となれば、とりあえず街を歩いて情報集めだな」
「そうだな。二手に分かれて住民から情報を集めよう。ハルトは大通り側を頼む。私は裏路地と高台の公園の方だ」
「了解」
予定を変更し、二人は手分けして情報収集を始めようとする。
そんな晴人の背中に騎士が声をかけた。
「お二方は今日中に出発されるのでは?」
その言葉に振り返り晴人は返答する。
「予定変更だ。先ずは目の前の希望を助けだす」
そう言い放ち晴人は駆け出した。
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「と、勢いよく飛び出したは良いものの……」
時刻は既に夕方目前、大通りを行き交う人々を眺めながら晴人は肩を落とした。
「そう簡単にはめぼしい情報も見つからないよなぁ……ただでさえ見かけない余所者だから警戒されるってのに……」
あれから、街の住人や行き交う商人達に話を聞いたが、マーガレットに関しても、加護天族に繋がりそうな有力な情報も手に入らない。
「こういう調べ物は、凛子ちゃんや、木崎に任せっぱなしだったからなぁ……勝手が掴めないぜ」
ファントムとの戦いでは、情報面に関しては警察組織に所属する凛子や国安0課に任せていた事もあり、慣れない作業に晴人は苦戦していた。
「やれやれ、探偵や警察ならこういうのは得意なんだろうがな」
そう言葉を漏らした時、突如、晴人の腹から空腹を訴える音が鳴った。
「あー、そういや碌に昼飯食ってなかったな」
宿での夕食までには、まだ時間がある。仕方ないから我慢して情報収集を続けようとする晴人だが、そんな彼に声がかけられた。
「そこのお兄さん」
「ん? 俺の事?」
晴人が振り返るとそこには一組の男女が立っていた。歳は10代後半、街を行き交う商人に似通った服装をしており、二人とも亜麻色の髪。男性は髪を右側に流し大きな白い帽子をかぶっており、女性は左側に流し何もかぶっていない対照的な髪型をしていて、その容姿が似通っていたことから二人は双子の兄妹だろうかと晴人は考えた。
「その通り! お兄さんお腹減ってるでしょ? よかったらウチの『マーボーカレーマン』を買わない? 今度、新商品として売り出す予定の試作品なんだけど、まだ改良の余地があるから食べた人の感想を聞きたいんだ。今なら割安で提供するよ!」
そう言ってセールストークを仕掛けてくる二人に晴人は押され気味になりながらも問い掛けた。
「えぇっと……アンタ達は?」
その問い掛けに二人は明るい調子を崩さずに答える。
「ん? 私達は商人キャラバン『セキレイの羽』よ」
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同時刻の路地裏。アリーシャもまた情報収集は進展していなかった。
「やはり、そう簡単には情報は集まらないか……ん? あれは?」
高台にある公園の下を歩いていた時、左側の建物のある点を見てアリーシャは思わず足を止めた。
「これは……」
石造りの家屋の壁。そこには、見事に削り取られた三本の爪痕のような痕跡が存在した。
長さにして1m、一本の幅は10cm程。見た目だけなら動物の爪痕に見えるが、その大きさと石造りの壁を大きく抉る痕を作り出すのは、普通の生物には難しいだろう。
疑問に思ったアリーシャは、近くを通り過ぎようとする街の住人に問いかけた。
「申し訳ない。一つお聞きしたいのだが、この傷痕は一体……」
その質問に住民は困った様に答える。
「あぁ、それか……二日前に住人の襲撃事件があっただろ? その時に出来てた代物らしい。全く、何をどうすればこんな痕ができるのやら……噂じゃ、馬鹿デカイ唸り声が聞こえたって話だが……」
そう言って去っていく住民を見送り、アリーシャは再び傷痕に視線を向ける。
「夜間に起きている襲撃事件でこれが? だが、この傷痕、どう考えても普通の人間が作れる大きさではない……」
そこで、彼女の脳裏にある解答が浮かび上がる。
「まさか、この街でおきている夜間の襲撃事件の犯人は……」
異常な怪力と巨大な爪を持っていなければ作れない様な傷痕を作りだせる存在。
アリーシャが知る限り、そんな事が可能な存在はただ一つ……
「憑魔なのか……?」
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「ふーん、それじゃあ、お兄さんは、もう一人のお仲間さんと、宿屋の娘さんの行方を捜してるんだ。中々、お人好しね」
「失礼だぞフィル。すいません、妹が失礼な真似を」
「気にしちゃいないさ。それで、良ければ何か知っていないか? この街で起きている不可思議な事ならなんでもいいんだ。何か手掛かりになるかもしれない」
先程の出会いから数分後、マーボーカレーマンを購入し完食した晴人は、感想を伝えつつ、二人に、マーガレットについて何か知らないかと問いかけた。
アリーシャの分もまとめてマーボーカレーマンを購入したことで機嫌を良くしたのか、二人は晴人の質問に協力的に答えてくれた。
商人キャラバン『セキレイの羽』の団員。兄のアン・トルメと妹のアン・フィル。
二人は各地を転々とする商人キャラバンのメンバーという事もあり、自分達が活動する地域の情報にも詳しいらしく、この街の事情についても把握しているらしい。
「宿屋の娘、と言うとマーガレットよね? よく飼い犬と遊んでる明るい子よ」
「最初の頃は、家出と騒がれていましたが、数日経ち、行方不明扱いになったようですよ。一部では、夜間に起きている襲撃事件の犯人に襲われたのでは、とも噂されていますが、真相は定かではありません」
その言葉を聞いて、今度は襲撃事件まで絡んでくるのかと晴人は内心でため息をつく。
有力な証言は集まらず謎が深まるばかり、どうしたものかと考えていると、フィルが口を開いた。
「でも、マーガレットは襲撃事件の犯人には襲われていないと思うわよ?」
「え? それってどういう……?」
フィルの発言が引っかかり晴人は、その意味を問う。
「ここだけの話だけどね。実は襲われた人達にはね、ある共通点があるの」
「共通点?」
「えぇ、襲われた人達はね……全員が教会の熱心な信徒なのよ」
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日が暮れはじめ太陽が赤く染まり始める。
ラストンベルの大鐘楼の上部から、一人の男がその景色を眺めていた。
「やれやれ、この街に来るのは久しぶりだが、暫く来ないうちに随分と嫌な風が吹くようになったもんだ」
吹き抜ける風が男の白い長髪を揺らす。
「できれば、無駄弾は使いたくないんだが……さて、どうなるか……」
赤く輝く夕日が、男のジーンズの後ろに雑にねじ込まれた黒い銃身を照らした。
最近、平成二期からライダーにはまった友人達が某動画サイトでキバの配信を見て高評価なのがリアタイ時代からキバが好きな身としては凄く嬉しい。
キバのクロスSS増えねぇかなぁ……