ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第97話 光の天使 2

 太郎は後一歩という所まで銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を追い詰めたが、福音が第二形態移行を始めて光の繭に包まれた為、手出し出来ずにいた。光の繭は高エネルギー体であり、普通に触れてしまったら大きなダメージを受けてしまうからだ。

 

 太郎は強引に光の繭へ毒針を突き刺そうかとも考えていたが、それよりも早く福音の第二形態移行終了してしまう。

 

 

キィィィィイイイイ!!!

 

 

 空気を切り裂く様な音を立て光の繭が弾け飛び、中から青白く発光した銀の福音が現れた。その背には青白く輝くエネルギーの翼が何枚も存在し、最上位の天使である熾天使(してんし)(セラフ)の様であった。

 

 夜空に浮かぶ青白き光の翼を持つ天使。操縦者を包む全身装甲は女性らしい滑らかなラインを描き、翼の放つ光がそれを際立たせていた。

 

 

「……う、美しい」

 

『……』

 

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姿に太郎は思わず感嘆の声を漏らす。それを美星は複雑な気持ちを抱えつつ、黙って聞いていた。

 

 

(確かになかなかの造形美ですが、ちょっと発光している位で大げさではないでしょうか)

 

 

 美星は銀の福音に見惚れる太郎へ不満を感じていた。これまでも美星から見て太郎は気の多い人間であった。しかし、ISの姿だけでここまで心奪われる姿には覚えが無い。太郎の専用機としては些か納得のいかない気持ちであった。

 

 しかし、それらの事は福音にとって関係ない。福音は光の翼を広げると、第一形態時よりさらに多い光弾を放つ。

 

 

「……おっと!? これは見惚れている場合ではありませんね」

 

 

 太郎は慌てて自身に向かってくる光弾を避ける事に専念する。どこかのタイミングで攻勢に転じなければジリ貧なのだが、切れ間の無い弾雨に太郎は避け続ける事しか出来ない。

 

 今、太郎が操縦するヴェスパに搭載されている武器は、新型の毒針のみである。この毒針、射程が以前より延びた事が特徴である。しかし、元々手の届く範囲位だったものが2、30mになっただけで、福音の銀の鐘(光学兵器)と比べて射程・連射力共に大きく劣っている。

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の放つ光弾を避けるだけで精一杯である太郎には、現状勝機が全く見えなかった。

 

 

「まったく……随分と景気良く撃ってくれますね。エネルギー切れも無さそうですし、便利な物をお持ちだ」

 

 

 雨霰(あめあられ)と降り注ぐ光弾に太郎は辟易としながら皮肉を言う。その間も光弾は放たれていたが、それでで掠ることすら許さない回避機動は流石である。

 

 

「これ……もしかして避け続けていても先にこちらのエネルギーが切れたりしませんかね?」

 

『さあ? あちらのスペックは第二形態移行で変わっているでしょうし、検討もつきません』

 

 

 太郎の疑問に美星は投げやりな返答をする。そこで初めて太郎は美星が不機嫌になっている事へ気付く。

 

 

「どうしたんですか?」

 

『どうもしません』

 

 

 美星らしからぬ返しに太郎は戸惑ってしまう。

 

 

「折角、素晴らしいISを相手にしているのです。何を不機嫌になっているのですか?」

 

『そんなに銀の福音が気に入ったのなら乗り換えてはいかがでしょう』

 

 

 ここに来てやっと太郎は美星の不機嫌な理由を理解した。

 

 

「私が銀の福音を褒めるから妬いているんですか?」

 

『っ!? や、妬いてなどいませんっ!』

 

 

 もし美星が人間であったのなら、今頃顔が真っ赤になっていただろう。珍しく慌てる美星に太郎は微笑んでいた。

 

 

「それならもっと楽しみましょう。手強く厄介な相手ですが、同時にこれほど美味しそうな獲物はなかなかいないですよ」

 

 

 太郎はゆっくりと諭すように美星へと語りかける。折角の獲物を前に楽しまないのは損である。

 

 太郎と美星の付き合いはまだ長いとは言えない。しかし、2人が共に過ごした時間は他に類を見ないほど、濃密なものであった。だから分かる筈だ。何が重要なのか。

 

 強敵を前にパートナーと同じ方向を見ていなくてどうするのか。今は気持ちを重ねる必要があるのだ。

 

 

 

「美星さん、貴方にも分かるでしょう? 銀の福音は強く、美しい……だからこそ」

 

「「汚したい」」

 

 

 太郎の言葉に美星の声が重なる。太郎はにやりと笑うと───────────

 

 

「まったく……今までで最高の獲物を一緒に狩ろうという時に、焼き餅を焼いている場合ではありませんよ」

 

『も、申し訳ありませんっ! 私とした事が』

 

 

 美星は自らを恥じた。そう、狩りの獲物相手に嫉妬して足並みを乱すなど、この人のパートナーとして相応しい振る舞いではなかった。

 

 それに太郎は一度たりとも美星やヴェスパに関して不満を述べた事などなかった。このアンバランスでピーキーな機体と兵装をこよなく愛する男。それが太郎であった。

 

 太郎達のこのやり取りの間も、福音は攻撃を続けていた。降り注ぐ光弾を冷静に観察しつつ、美星は静かに反撃の狼煙を上げる。

 

 

『マスター、私に良い考えがあります』

 




読んでいただきありがとうございます。


今回、更新が遅れてしまって申し訳ありません。
またまた食べ物が原因です。今回は私が悪い訳ではなかったですが。
月曜日は苦しくて一睡も出来ないし、そのせいで風邪まで引きかけるし、散々な週始めでした。


さて、今回は美星回でした。太郎の強さの一端は、彼女の存在にあります。ISでの戦闘で、時には操縦の一部を肩代わりする事もある美星。他のISとは違い直接手助けしてくれるので、実質2人で闘っているようなものです。

そら強くて当然ですよね。

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