ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

96 / 136
第96話 光の天使

 一夏を撃墜した銀の福音との戦闘が迫る中、それでも太郎に怯えや迷いは無かった。

 

 闘うと決めたからには、そんなものを心に抱いても邪魔にしかならない。理屈では確かにそうだ。しかし、それを体現出来る者がどれだけいるだろう。異常とも言うべき、その精神性はこれまで彼が歩んできた険しい紳士道(笑)によって育まれたのだ。

 

 太郎は超高速で空を翔けながら、作戦を反芻(はんすう)する。

 

 事前の作戦会議で一夏達は、【奇襲からの一撃必殺】を目指していた。太郎もまた、それで行くつもりである。ただ、多少の工夫が無ければ一夏達と同様の結果となるだろう。

 

 日没によって太郎の眼前に広がる海と空は、黒い闇に染まりつつあった。そこで太郎は思いつく。夏の夜空に相応しい物を。

 

 

 

 そうだ。この日が落ちた空に大輪の花を咲かせてやろう────────────

 

 

 

 太郎はプライベート・チャネルを箒へ繋ぐ。

 

 

「篠ノ之さん、私の合図から5カウント後に銀の福音から距離をとって下さい」

 

『ッ!? どういう……いや、分かった』

 

 

 詳しい説明もない一方的な太郎の指示に箒は驚きつつも肯いた。普段であれば反発しただろう。そのうえ、先程の束との事もある。それなのに箒が素直に従ったのは、反発するだけの余裕が無い為であった。

 

 実姉の痴態、恋する相手の撃墜、眼前の強敵といった状況が箒から余裕を奪っていた。それが今回は太郎にとって良い方向へ働いたのだ。

 

 太郎は箒の返事を聞くと、カウントを開始するタイミングを計る。銀の福音と箒が戦う空域へとどんどん近付いて来た。太郎は背部のロケットエンジン2基を分離する準備に入る。

 

 

「退避の準備をっ! 5、4、3……」

 

 

 太郎の合図を受け、箒は雨月と空裂に二刀を我武者羅に振るう。命中率などお構いなし、手数で銀の福音を自分の間合いから弾き出す。それと同時に箒自身も銀の福音とは逆方向へ高速移動を開始する。

 

 あっという間に箒から見て銀の福音は豆粒程の大きさとなる。

 

 そして、太郎のカウントを続けながらロケットエンジンを専用の燃料タンクごと分離した。分離したロケットエンジンは一直線に銀の福音へと飛ぶ。

 

 本来、宇宙まで飛ぶ事の出来るロケットエンジンである。比較的距離の無い今回の移動では、燃料が大量に余っていた。太郎はそれを分離し、銀の福音へと向かわせる。

 

 このロケットエンジン自身には通常のミサイルの様な追尾機能は無い。いくら銀の福音よりも速いと言っても、回避する事は容易であるはずだった。

 

 しかし、そんな事は銀の福音側からは、この段階で分かる筈も無い。自身に向けて高速で飛翔するロケットをただの攻撃として認識し、光弾を放ち撃墜を試みた。

 

 

「2、1、ゼ」ドゴッオオオオオオオオンンンンン!!!!!!

 

 

 太郎がゼロと告げている最中、銀の福音の放った光弾がロケット2基に直撃。次の瞬間、暗くなった空が巨大な火球によって照らし出される。

 

 夏の夜空に浮かぶ2つの花火。いや、それは小さな太陽の様だった。

 

 轟音が銀の福音から距離をとっていた箒の身まで震わす。その光景はかつて学年別トーナメントで箒の身を包んだ炎の様だった。あの時は太郎の使った燃料気化爆弾によって、箒は為す術なく敗れた。箒は巨大な火球を見ながら苦い記憶を思い出すと同時に、作戦の終了を感じていた。

 

 

「……ふう、やったか?」

 

 

 箒の口から漏れた声。しかし、それは早計である。

 

 2基のロケットは銀の福音に直撃した訳ではない、銀の福音の光弾によって燃料タンクが誘爆しただけだった。その為、銀の福音はシールドバリアーによってエネルギーを大量に失いながらも、致命的なダメージは回避していた。

 

 しかし、それは太郎にとってみれば想定通りであった。ここまでは単なる目くらましと撹乱でしかない。本命の攻撃はここからである。

 

 太郎は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行い、徐々に小さくなり消えていこうとする火球をブチ抜き、銀の福音との間合いを詰める。火球越しの影響で一時的に銀の福音のレーダー機能は太郎の操縦するヴェスパを捉える事が出来ていなかった。

 

 難なく銀の福音に接近した太郎は、銀の福音へ正面から抱き付く事に成功した。

 

 

「さて、軍用ISのお味はどの様なものでしょうか」

 

 

 太郎はねっとり言うとナノマシン塗れのパイルバンカー【毒針】を銀の福音のシールドバリアーへと突き立てる。銀の福音本体を貫かんと、シールドバリアーに毒針が纏ったナノマシンが干渉する。銀の福音のバリアーはナノマシンの干渉によって弱められ、エネルギーも底を尽きかける。そして、ついに毒針が銀の福音本体へと触れる。

 

 一気に勝負がつくかに思われた瞬間、美星が太郎へ警告を発する。

 

 

『まずいです。銀の福音から離れて下さい!』

 

 

 美星の警告を受けた太郎は絶対有利と思われる状態にもかかわらず、躊躇い無く銀の福音への拘束を解き、間合いを離した。

 

 信頼するパートナーの言を疑う意味など太郎には無かった。そして、それが太郎自身を助ける事となる。

 

 銀の福音から距離をとった太郎の見たものは、光の繭に包まれる銀の福音であった。その光は先程、ロケットエンジンが爆発した時の火球の様な熱と轟音は発していなかった。しかし、その白光は暴力的なまでの光量をもって夜空を白く染め上げている。

 

 

「これは……第二形態移行(セカンド・シフト)?」

 

『あの子は必死で自身の操縦者を守ろうとして、強引に第二形態移行(セカンド・シフト)を行った様です。母も厄介な事をしてくれます。あの子の制御系を奪おうとした時に分かりました。あの子は自分以外のIS全てを敵と認識する様に弄られています』

 

 

 美星が苦々しく告げた内容に太郎は少し驚きを見せる。

 

 

「銀の福音には搭乗者がいるんですか!?」

 

 

 銀の福音は全身装甲(フルスキン)タイプである。操縦者の顔や肌を直接見ることは出来ない。

 

 太郎としては、かつて太郎と鈴の闘いに乱入した無人機と同様、人型の装甲の中身は空っぽだという認識だった。事前の作戦会議の時も中に人がいるとは聞いていない。

 

 しかし、それも仕方の無い事かもしれない。

 

 実戦経験の乏しい生徒に、あえて中に人がいる事を教えても良い方向には働かないと、上は判断したのだ。

 

 幸いというか、一夏と太郎は無人で動くISを一度撃退している。本人達が操縦者の存在を気にしても、無人だと言っておけば信じるはずだ。彼等は数少ない、無人機を知る人間である。他の者なら容易には信じないだろうが、彼等なら信じ易い。

 

 敵の第二形態移行(セカンド・シフト)と操縦者の存在。新たな問題に直面した太郎達に勝機はあるのか。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。


あと2、3話で18禁展開があります。やったね。
お相手はもう決定済みです。
まあ、最終的に主要キャラには全員そういうシナリオ用意するんですけどね。

次は火曜日更新予定です。
更新は1、2日遅れます。体調を崩してしまいました。申し訳ありません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。