ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第92話 幕間

 篠ノ之姉妹は仲の良い姉妹ではなかった。束は妹である箒に対する好意を隠さないが、箒の方は姉に対して複雑な感情を抱いていた。

 

 かつて白騎士事件が原因で、束の作ったISが世界的な注目を集める事になった。当然、開発者である束とその家族にも様々な人間や組織の注目が集まる事となる。その中から束やその家族に危害を加えてでも、ISの技術を得ようと考える者が出る可能性が高かった。その為、日本政府の重要人物保護プログラムが適応される運びとなる。結果、篠ノ之家は離散状態となり、束も自ら行方をくらませる事となった。

 

 当時、幼かった箒にとって自分の生活の大半を突然奪われた事は、姉に対する大きな(わだかま)りを生むのに十分な出来事だった。日本各地を転々としていた時、秘密裏に束から連絡先を教えられていたにもかかわらず、一切連絡をとらなかったのも、その蟠りが原因だった。

 

 しかし、今転機が訪れた。

 

 束をずっと避けていた箒だったが、専用機を得る為に束とコンタクトを取った。束は快く妹の要望に答え、むしろ要望以上のものを用意した。束の用意した専用機は、現在の世界水準を一世代分超えてしまったスペックを誇るものだった。

 

 箒はこれまで(ないがし)ろにしていた姉が、快く自分の我が侭に応えてくれた事に小さな罪悪感を抱いていた。

 

 蟠りが全て無くなった訳ではないが、お礼くらいは言っておこうか。そう思う程度には箒も姉へ歩み寄りの気持ちを持ち始めていた。

 

 銀の福音迎撃作戦開始が迫る中、箒は一言でも姉に礼を言おうと思ったが、姉の姿が消えていた。作戦司令部として使用されている宴会場に先ほどまでいたのだが、何処にもいない。

 

 箒が宴会場から出て、旅館内を探すが束は見つからない。しかし、作戦開始時間までもう数分も無いという所で、庭の死角になっている方に人影が見えたような気がした。現在、一般生徒は室内待機を命じられている。人影が職員や旅館スタッフの可能性はあったが、なぜか箒には束であるという確信があった。

 

 

 

 

 

 

 箒は人影が見えた方へと歩みを進める。

 

 

 話し声が聞こえる。恐らく2人分の声が聞こえる。

 

 

 姉と……もう一人は山田のようだ。

 

 

 内容までは聞こえないが、2人とも声に熱が篭っている。

 

 

 砂浜で争っていた2人である。また揉めているのだろうか。

 

 

 

 

 

 束達は庭の死角部分にいるので、かなり近くまで来ても箒から姿が見えない。当然、束達からも箒は見えない。箒は自分でも何故か分からないが、直ぐに姿を見せたりせず、そっと2人の様子を覗き見る事を選択した。それが良い選択だったのか、どうかは分からない。物陰からそっと庭の死角部分にいる束達を覗くと────────────

 

 姉と山田がパンツを被り、手と手を取り合って小躍りしている。

 

 

「……な、なんだ。なんなんだコレは……」

 

 

 呆然とする箒の口からそんな言葉が漏れ出た。その声は小さなものだった為、束達の耳に届く事はなかった。箒は気付くと宴会場へ戻っていた。どうやってここまで帰って来たのかは覚えていない。ともすれば先ほどの光景は、夢だったのではないかとさえ思えた。箒は自失状態であったが、作戦開始時間は待ってくれない。そして、ついに出撃の時が来た。

 

 こんな状態で、無事に箒と一夏は作戦を終える事が出来るのだろうか。

 

 ただ1つ確実に言える事は、篠ノ之姉妹が分かり合える日は遠いという事だ。

 

 

 

 

 

 




次回予告

いもうとは見た

その光景は夢か幻か。

呆然自失の箒は心の整理をする間もなく、空へと舞い上がる。

初めての実戦へと身を投じる彼女に未来はあるのか!?

「第93話 一夏、光に包まれ……」お楽しみに



次回は木曜日に更新予定です。読んでいただきありがとうございます。

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