太郎と束の闘いは、千冬によって止められたが、未だにピリピリとした空気が場を支配していた。そんな空気を破ったのは山田は山田でも、太郎ではなく真耶の方であった。
「お、織斑先生……大変です。これを見てください」
慌てた様子の真耶が小型の情報端末を千冬に見せる。そこに表示された【緊急連絡】の文字を見た千冬は、直ぐに自分の情報端末をポケットから取り出した。そちらの画面にも同様に【緊急連絡】と表示されていた。千冬がその文字をタップし、連絡の内容に目を通していく。連絡内容を確認し終えた千冬の表情は、先程まで以上に厳しいものだった。
千冬が生徒達に向かって大声で指示を出す。
「予定変更だ。専用機持ち以外は全員、別命があるまで旅館の自室にて待機。専用機持ちは私に付いて来い。篠ノ之、お前も付いて来い」
理由を一切言わず、ただ部屋で待機という千冬の指示に一般の生徒達からは戸惑いの声を上がる。
「何があったの?」
「待機って言われても……ねえ?」
旅館へ戻ろうとしない生徒達を、千冬は怒鳴りつける。
「さっさと旅館へ戻れ。命令違反者は身柄を拘束するからな。肝に銘じておけ!」
千冬の怒声を受け、専用機持ち以外の生徒達は慌てて旅館へと駆け出す。それを確認した千冬も歩き出し、専用機持ち達も千冬に続いた。
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千冬に専用機持ち達が付いて行くと、そこは旅館の宴会場だった。宴会場とは言っても現在は、様々な機材が運び込まれ、まるで作戦司令部のような体を成していた。そこで千冬から状況説明が行われた。
アメリカとイスラエル共同開発の軍用ISが原因不明の暴走を始め、管理エリアから離脱。しかも、こちらの近くを通過するという事実。アメリカとIS学園の協議の結果、ここにいるメンバーで対処すると決定した事が告げられた。
突然の状況に一夏は困惑している様子だった。一方、箒は与えられたばかりの専用機に気をとられているのか、どこか上の空である。それに比べて一夏と箒以外の専用機持ちは、対処法を活発に議論していた。そこへ千冬が厳しい事実を告げる。
「この軍用IS
「そうなると一撃必殺の攻撃力が必要になりますね……」
千冬の言葉を聞いた真耶が呟くと、皆の視線が一夏と太郎を行き来した。この場の専用機で条件を満たすのは、白式の零落白夜とヴェスパの毒針だけである。
「私が行きましょう。今回の試験運用の為、毒針の新型が送られて来ています。以前の物より射程が延びているので、零落白夜よりは当てやすいと思いますよ。高速移動用のパッケージも用意されていますし、私が適任でしょう」
困惑状態の一夏に先んじて、太郎が名乗りを上げた。千冬は少し考え込んだ後、頷く。
「良いだろう。もし山田が失敗した時の為に、織斑も機体の用意をしておけ」
「えっ、太郎さんなら問題ないんじゃ……」
太郎を信頼している一夏が千冬の指示に驚いた顔をする。
「世の中に100%は無い。備えは必要だ」
太郎が仕損じる相手に今の一夏が通用するかは、千冬自身疑問ではあった。しかし、準備しておいて損することも無い考えていた。
一夏が予備の攻撃役になると聞いて、セシリアが手を挙げた。
「一夏さんの零落白夜使用を想定するなら、なるべくエネルギーを使わないように、誰かが一夏さんを運んだ方が良いと思います。わたくし、丁度良いパッケージがイギリスより届いてますし、無事運んで見せますよ」
千冬がセシリアの申し出を検討していると、話の流れなど無視して束が割り込んで来た。
「すとーっぷ、ストップだよ。ちーちゃん。もっと良い考えが束さんにあるんだよ」
束はこの部屋には入って来ていなかった筈である。千冬がさっと周囲を確認すると、天井に穴が開いていた。千冬が溜息を吐いて、束の襟首を掴んで部屋から放り出そうとする。
「待って、ホントに良い考えがあるんだよ。紅椿のスペックを見て。紅椿ならパッケージなんて無くても、問題のISを追えるんだよ」
追い出されそうになった束が必死で放った言葉に、室内の全員が息を飲んだ。問題となっている
これより篠ノ之束の天災と呼ばれる所以を、室内にいる全員が知る事になる。
分岐のキーに悩みます。次回か次々回に分岐点となるキーを入れる予定です。キーと言うか選択肢?
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