ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

86 / 136
第86話 束のミス

 唐突に始まった束と太郎の戦闘。砂浜にいた者達は、どう対応すれば良いのか決めかねていた。止める事が出来るのなら、それが一番良い。しかし、ほとんどの者には2人の戦いへ介入するだけの実力がなかった。そして、唯一太郎達を止める実力を持っているであろう千冬は、両腕を組んだまま静観していた。

 

 戦況は一時膠着状態になっていた。太郎に恐れを感じ、距離をとる束。

 

 それを見た太郎が馬鹿にした様に嗤う。

 

 

「最初から急所を狙えば、勝負は一瞬で決まるんじゃなかったんですか?」

 

「くっ……この変態がっ、調子に乗るなあああ!!!」

 

 

 束は恐れを怒りで塗りつぶしす。束の右拳が矢の様な速度で太郎の顔面へと放たれる。

 

 拳が太郎の顔面へと当たり、打ち抜く。いや、打ち抜いたように見えただけだった。

 

 太郎の体は最初から後方へと下がり始めており、拳の威力が十分に太郎へ発揮される事は出来なかった。

 

 それどころか、突き放った為に伸び切っていた束の右腕を太郎が掴む。そして、そのまま引っ張りながら太郎は後ろへと倒れこむ。太郎の挑発は罠であり、束はそれにまんまと嵌ってしまったのだ。

 

 太郎得意のグラウンドに引きずり込まれた束は、瞬く間に危機に陥る。罠へ嵌った事に気付いた束が慌てて立ち上がろうと上半身を起こした瞬間、太郎の足が束をガッチリとロックした。

 

 太郎は束の右腕を掴んだまま自身の右足を束の首へと掛け束の背中へと回す。その右足に束の右脇下から挿し込んだ自身の左足を組む。ガッチリと組まれた太郎の両足が束を締め上げる。三角締めである。

 

 

「こ、こんなもの……外しっ、ぐう」

 

 

 束が太郎の三角締めを外そうとしたが、ロックされた太郎の両足はビクともしない。太郎の体の中でも、その両足は最も鍛え抜かれた部位である。その身一つで幾千もの夜を駆け抜けてきた太郎の両足は、既に人間としての限界に達しようかという所まで来ていた。これでは流石の束も外しようがなかった。

 

 ただ、この鍛え抜かれた足が逆に束へ利する部分もある。この三角締めは本来、使用者の足で対象者の片側の頚動脈を、もう片方の頚動脈を対象者の肩で絞める技である。しかし、筋肉で太くなりすぎた太郎の足では束の頚動脈へ綺麗に入らないのだ。

 

 絞め落とし辛いのは太郎自身分かっていた。その為、絞め落とすというより圧力で束の体を潰してしまうつもりで力を込めていく。普通に絞め落とすより時間はかかるが、技自体が解けなければ束の体力は着実に削られていく。

 

 ミシミシと軋む束の体、決して外れる事の無い太郎の両足。追い詰められた束に太郎は嗤いかける。

 

 

「まだ手はありますよ。先程、お手本を見せたでしょう?」

 

 

 束は太郎の言葉にハッとなる。そう、太郎の尻を左手で抉れば何とかなるかもしれない事に束は気付いた。

 

 

「それに他にも方法はあります。貴方の目の前に私の急所があるじゃないですか」

 

 

 太郎が掴んでいた束の右手を放す。束の眼前には太郎の下腹があった。もう少し顔をズラす事が出来れば、男の急所を噛む事も出来る。どんな男にとってもそれは最悪の攻撃となるだろう。

 

 

 

 束は究極の選択を迫られる。

 

 太郎のケツ○ンコを抉るか、チン○を噛むか、もしくは両方同時に攻めるのか。

 

 このまま負けるなど束のプライドが許さない。さりとて、○穴責めや肉○を噛むという手段も束にとってはハードルが高かった。

 

 太郎の示唆した手段は、可能か不可能かで聞かれれば可能である。むしろ束からしたら能力的には簡単な部類である。しかし、常人と比べて理性や倫理観が希薄な束を以ってしてもヤリたくない事である。

 

 

「くっくっく、早くしないと手遅れになり……ん、織斑先生?」

 

「山田、そこまでだ。その技を外せ」

 

 

 いつの間にか太郎達の側まで近付いていた千冬が、太郎へ有無も言わせない口調で告げた。普段なら太郎も千冬がここまで強い口調で言った命令を拒んだりはしない。しかし、今回は太郎もそう簡単に従えない。捕らえた獲物が大物である事も関係しているが、何より直前の口論の内容が問題であった。

 

 束はISを物扱いし、あまつさえ太郎の大切なパートナーである美星を解体するとまで言ったのだ。例え紳士を自称する太郎であっても、笑って許せる話ではない。

 

 

「ここでこれ以上の戦闘は認めん。早く止めろ」

 

 

 再度、強く命令した千冬は、それでも技を外そうとしない太郎に向けて右足を振り上げる。それを見て太郎は直ぐに三角締めを解いた。この体勢では千冬の攻撃をモロに受けてしまう。太郎は僅かに残った理性でそう判断した。

 

 一方、束は三角締めが解けた瞬間を狙い太郎の(のど)を貫手で襲う。しかし、それは千冬によって阻まれる。千冬が束の手首を掴んで貫手を止めたのだ。

 

 

「放して、ちーちゃん!」

 

「これ以上の戦闘は認めんと言っただろ。当然、山田だけに言ったわけではないぞ」

 

 

 束が千冬の手を振り解こうと力を込めたが、束の手首を握る千冬の力の方が勝っていた。その上、太郎は何時でも反撃出来る態勢をとっていた。千冬と太郎の2人が相手では、流石に分が悪いと束は判断し、戦闘態勢を解いた。

 

 警戒しつつ、太郎と束が互いに距離をとる。そんな2人に千冬は厳しい視線を送っていた。

 

 

「こんな所で殺し合いでもするつもりか。馬鹿者共が。それに予定が詰まっていると言っただろ。下らん事に時間を使わせるな」

 

 

 千冬の叱責にも太郎達は何処吹く風といった表情であったが、逆らう気もないらしい。しかし、束に限って言えば、千冬に感謝すべきであった。

 

 もし、太郎の言葉を真に受けていれば地獄を見ていただろう。仮に太郎の尻○を攻めても状況を打開出来た可能性は低い。何故なら太郎はISによる前立○マッサージすら嗜んでいるのだ。今更、女子供の指位で慌てるようなア○ルは持っていない。

 

 では、チン○を噛むのはどうだろうか。こちらも下策である。太郎のIS、ヴェスパの待機状態はアレを半分ほど覆うデザインのペニ○リングである。人の歯でどうにかなる物ではない。つまり、太郎が束に示した三角締めからの脱出方法は、完全な誘いであったのだ。

 

 太郎は束に自身の○穴を攻めさせ、ほど良い所で顔○するつもりであった。そして、束がチン○を噛む方を選んでいれば口内で発射する腹積もりだった。本来、衆人環視の下でやる事ではない。だが太郎も冷静さを失っていたのだろう。先程までは徹底的にヤルつもりになってた。

 

 束の敗因、それは山田太郎という男の本質を見誤った事だ。束は太郎を単なる身体能力が高い変態だと分析した。しかし、その身体能力のほとんどは、あくまで紳士(変態)として生きて来た結果として身についたものである。そう、単なる副産物でしかないのだ。

 

 太郎の在り様そのものこそが脅威なのである。怒りに冷静さを失った状態でも、性欲を満たす為の最善を導き出すという魂に刻まれた行動原理。性の獣たる太郎相手に、豊満なる乳を揺らした状態の束が勝てる道理なぞありはしない。

 

 

 

 束は千冬に感謝すべきである。

 

 

 

 

 




そろそろシナリオが分岐していきます。

バッドエンドから書きます。それが終われば、少し時間を空けてノーマルを書き始めようと思います。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は土曜日です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。