ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第82話 そこは狩場、いや戦場だ 5

【幸せな時間は長くは続かない】

 

 これは真理であり、同時に2つの側面がある。1つは幸せな時間ほど短く感じるという意味。もう1つは幸せが長く続くほど世の中甘くないという事だ。

 

 今、幸せの絶頂にいる太郎とて例外とはいかない。セシリアの瑞々しい肢体にサンオイルを塗るという幸福を堪能していた太郎だったが、それを邪魔する者が現れたのだ。

 

 

「おい……貴様等は何をやっているんだ」

 

 

 低く冷たい声が太郎達に掛けられた。太郎が声の主へと振り返ると、そこにはこめかみに血管を浮き出させた千冬が立っていた。

 

 

「答えられないのか。疚《やま》しい事をやっていたんだろ?」

 

「サンオイルを塗っているだけです」

 

 

 厳しい口調で千冬が詰問し、太郎はそれに対して簡潔に言った。ただ太郎の答えをそのまま信じる程、千冬も甘くは無い。

 

 

「私にはセシリアの尻を揉んでいた様に見えたが?」

 

「サンオイルを塗る為に、セシリアさんの臀部(でんぶ)に触れていたのは確かです。しかし、それだけです。(やま)しい事など何もありません」

 

 

 疑う千冬に太郎は曇りなき(まなこ)で答えた。【疚しい】というのは、良心がとがめたり、後ろめたい事である。(ひるがえ)って、太郎は先程までの行為に良心がとがめたり、後ろめたさなどを感じてはいなかった。

 

 

「織斑先生、逆にお聞きします。私がセシリアさんにサンオイルを塗っていた事について、法的もしくは校則的に問題がありましたか?」

 

「ぐっ……規則の問題ではない。風紀が乱れるから言っているんだっ!」

 

 

 サンオイルを塗っては駄目などという規則は、当然存在しない。太郎の反論に千冬は苦々しげな表情となった。しかし、劣勢の千冬に太郎がそれ以上強く出る事は無かった。

 

 

「分かりました。私が塗るのはここまでにしておきましょう。背中側はもう塗り終わってますから、後はセシリアさんも自分で塗れるでしょうし」

 

「えっ、ええ。大丈夫ですわ」

 

 

 太郎はあっさりと引き、セシリアも話の展開の早さに戸惑いつつも従う。太郎が拍子抜けするくらい簡単に引き下がり、事態は解決したかに思えた。しかし、太郎があっさりと引き下がったのには訳があった。それは単純な話である。太郎は千冬を言い負かす事が目的でここにいるのではない。太郎の目的はこの砂浜で千冬達の水着姿を堪能する事である。

 

 太郎は改めて千冬の姿をじっくりと観察した。太郎の選んだ白色のワンピースを着た千冬は、周りにいる女生徒達とは一味違う大人の魅力を放っていた。千冬はねっとりとした目で見てくる太郎に居心地が悪そうな感じである。

 

 

「あまりじろじろ見るな」

 

「こんなに素晴らしいものを見ないなど考えられませんよ」

 

「世辞はいらん」

 

 

 千冬は太郎の言葉を世辞と言ったが、もちろん太郎の言葉は本心からのものである。むしろ太郎にとっては、千冬が今日の砂浜での本命と言い切っても良い。今、この瞬間も太郎は砂浜に配備した索敵・観測用ビットの半分以上を使ってで千冬を撮影していた。しかも、最新の索敵・観測用ビットとしての機能をフル活用し、薄手の白い水着など透過しまくりである。

 

 そして、千冬の意識が太郎へ向いている間に一夏に近づく者がいた。

 

 

「いっちかーっ!!!」

 

 

 鈴が一夏の背に飛び乗る。一夏と気安い関係である鈴だからこそ出来るスキンシップだ。気安いと言っても若い男女である。一夏は自分が鈴の体に触れて意識してしまっている事を気づかれたくなくて平静を装っていた。鈴は鈴で、一夏へのアピールの為に恥ずかしい気持ちを我慢していた。互いに思う所はあるが、それを表には出さないようにしているのだ。

 

 一夏が平静なフリをしつつ軽く体を振って、鈴に自分から降りるように促す。

 

 

「お、おい。降りろよ」

 

「ええー、別にいいじゃん…っわぁ」

 

 

 一夏は体を振ったといっても力ずくで振り落とすつもりはなかったのだが、鈴は簡単に地面に落ちてしまった。

 

 

「もぉー、そんなに嫌がらなくてもいいでしょ」

 

 

 地面に落ちて倒れこんだ鈴が不満そうな顔で一夏を睨む。

 

 

「いや俺は振り落とすつもりなんて……」

 

「一夏、大事なのは結果よ。けっか。これは後で何か(おご)ってもらわなくちゃ!」

 

 

 弁明する一夏に鈴は容赦なかった。実は鈴がわざと手の力を抜いて落ちただけなのだが、そんな事はおくびにも出さない。鈴は立ち上がりながら体に付いた砂を払う。「あー水着の中にも入ってる」と言い水着の(すそ)を持ってパタパタと中に入った砂を出そうとした。これによって布地で隠れていた部分が(あらわ)になっていた。これには一夏の視線も釘付けである。

 

 この一連の鈴がとった行動は、太郎のアドバイスによるものだった。そして、ここまでは全て鈴の計画通りに進んだかに見えた。しかし、思いもよらない事態になっていた。

 

 太郎は水着をパタパタとする鈴を見ながら彼女を応援していたのだが、あるものを見て驚愕した。

 

 

(ちょっ、鈴さん、見えてます。見えてますよ!!!!!)

 

 

 実際に胸が見えなくても良い。見えそうなだけで十分だと太郎は鈴へアドバイスしたのだが、勢い余った鈴はチラチラと○首まで晒していた。これは一夏からも当然見えている。一夏が顔を赤くしながら、どう指摘すれば良いのか考えている間に鈴は水着から手を離してボーナスタイムは自然と終了した。

 

 鈴は顔を真っ赤にした一夏を見て、作戦は大成功であると確信した。そして、自分達の様子を窺っている太郎に気づき、弾けんばかりの笑顔でウィンクした。それに対して太郎は両掌を合わせて深々と頭を下げ、心の中で「ご馳走様です」と唱えたのであった。

 

 鈴の勇姿は太郎の心と索敵・観測用ビットの記憶領域にしっかりと焼き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂浜が狂騒に包まれている頃、更衣室で暗躍する影があった。

 

 

「ぐふぇっ、ぐふぇふぇふぇえっ……箒ちゃんの下着みーけっ!!!」

 

 

 影の頭には兎の様な形の耳があった。

 

 

「うーん。やっぱり成長してるね~」

 

 

 感慨深く呟いたその声は誰にも届くことはなかった。そう、人間には。

 

 1匹のスズメバチがその様子を見ている事に兎は気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 




ビーチバレーを書けなかったです。
セシリアも当然参加させようと思っていたのですが、あの水着でバレーは無理かなと。

さて、次回か、次々回でついに天災と変態が直接接触します。

どんな激しい化学反応を起こすのか?



読んで頂きありがとうございます。

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