ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第77話 部屋割り

 臨海学校へ向かうバスの車窓から、太陽の光を反射してきらきらと輝く海が見える。太郎はそれを眺めながら小さく溜息を吐いた。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

 臨海学校を異常なほど楽しみにしていた太郎が溜息を吐いている。その事に疑問を感じたシャルが太郎に話し掛けた。

 

 

「いえ、見て下さい。素晴らしい景色ですよ。今から海で遊ぶのが楽しみで仕方がありません。しかし、残念ながら楯無さんや簪さんは参加出来ないんですよ。彼女達も連れて来てあげたかったな、と思いまして」

 

「楯無さんは学年が違うからどうにもならないでしょ。・・・・・・あと簪さんって、楯無さんの妹だよね?」

 

「ええ、そうです。簪さんは臨海学校で行われるISの各種稼動試験、それに使う装備の調整が少し遅れているそうです。本社工場で調整して直接こちらに向かう予定らしいですが、遊ぶ時間があるかどうか・・・・・」

 

 

 太郎からすると海がメインであったが、本来臨海学校はISの各種稼動試験が主目的である。その稼動試験に使う予定の装備が無いのでは本末転倒である。操縦者が様々な環境下での操縦経験を積むという意味もあるが、専用機を用意している企業としては当然、色々な装備を試して欲しい所だろう。

 

 

「楯無先輩とはまた別の機会を作るしかないと思うよ」

 

「当然、もう誘っています。・・・・・簪さんが今回泳ぐ時間が無くても一緒連れて行ってしまえば問題ありませんね」

 

 

 太郎にとってはある意味で好都合だ。先日の太郎と簪を狙った女性至上主義者達の襲撃事件をきっかけに、簪の楯無へと蟠りが解けてきている。ここで一緒に遊んで完全に仲直りさせてしまおうと太郎は考えた。

 

 

「シャルも一緒に行きますか?」

 

「えっ・・・いや、僕は遠慮しておくよ」

 

 

 太郎が話の流れでシャルの事も誘ったが、シャルはやんわりと断った。シャルとしても太郎と2人なら自分からお願いしたい位だ。しかし、楯無と海に行くというのは身の危険を感じるので断る事にした。楯無がバイである事は太郎とその仲間達の間では周知の事実である。しかも、楯無は異常なまでにスキンシップを求めてくる。その眼光には不穏な光があるとシャルは常々警戒していた。

 

 

「そうですか。残念です」

 

 

 太郎が本当に残念そうな表情をしていると、バスの前の方で手をパン、パンと二度叩く音がした。太郎だけでなく他の生徒達もそちらを向くと千冬が立っていた。

 

 

「お前らそろそろ旅館に着くぞ。自分の席に着け。それと車内に物を放置するなよ」

 

 

 千冬の言葉に全員が従い、きびきびと動いた。お菓子を出して食べていた者もいたが、あっという間に片付けられ、席を離れていた者もすぐに自分の席へと戻った。ほどなくしてバスは旅館に到着した。

 

 

 

 

 

 

 旅館に着くと入り口に妙齢の女性が待っていた。この女性はこの旅館の女将であった。生徒達は女将への挨拶が済むと各自、しおりに記載されている自分の部屋へ荷物を置きに向かっていった。しかし、2人だけその場に残った生徒がいた。太郎と一夏である。

 

 

「織斑先生、私達の部屋番号が臨海学校のしおりに記載されていないのですが」

 

「お前達は教員部屋に泊まる事になっている。つまり私や山田先生と同じ部屋だ」

 

 

 太郎の質問に千冬が答えた。その回答を聞いた太郎はアゴに手をやり、少し考え込んだ末にもう一度千冬に質問する。

 

 

「それは誘っているんですか?」

 

「違う」

 

 

 太郎の問いを千冬は即座に否定した。しかし、太郎も諦めない。

 

 

「合意と見なして問題無いですよね?」

 

「問題だ」

 

「今晩はお楽しみですね」

 

「楽しい事など無い」

 

 

 しばらくの間、太郎の言葉を間髪要れず千冬が否定するという事を繰り返した。しかし、千冬が折れる筈も無く太郎もこの場は大人しく引き下がった。そう、この場は。

 

 太郎は海と水着以外にも楽しみが増えた事を喜びながら、一夏と共に部屋へと荷物を置きに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ・臨海学校へ行く前日の出来事


太郎「楯無さんにプレゼントがあるんですよ」
楯無「えっ、何かな?」

 太郎がプレゼント用に包装された小さな箱を楯無へと渡す。楯無が包装を解き中身を見るとそこには───────

楯無「ひ、紐・・・・・・?」
太郎「良く見て下さい。それは水着です」

 それを本当に水着と呼んで良いのだろうか。構成する要素はまさに紐、紐、紐である。普通の女性が恋人でもない男性にこんな物を渡されたら怒るか、キレるか、怒髪が天を衝く所だが、楯無は普通ではない

楯無「私を誘っているのかな~?」

 楯無は甘い猫撫で声を出す。それに対して太郎も、顔を楯無から見て斜め45度の角度になるようにしてキメ顔でこう言った。

太郎「それが分からない程、君も子供じゃないだろ?」
楯無「ふっ、ふふふふ」
太郎「くっくっく」

 2人は妖しくも淫靡な笑みを浮かべていたが、唐突に真顔になった。

太郎「・・・さて、冗談はさて置き、臨海学校から帰ったら何処かへ泳ぎに行きませんか?」
楯無「太郎さん、人の多い所だと騒ぎになるわよ。有名人だから」
太郎「では、貸切のプールなどでは?」

 例えば【例のプール】とか。そう提案した太郎に楯無は首を横へ振った。

楯無「海外のヌーディストビーチなんかどう?子供連れの客もいるような所がいいわ」
太郎「楯無さん・・・・・子供への盗撮や性的ないたずらがバレたら国際問題ですよ」
楯無「し、し、しっ、心外だわ。そ、そそんな事、考えてないから!」
太郎「まあ、具体的な事は私が帰って来てからにしましょう」

 この時の話が後にさらなる広がりを見せ、簪まで巻き込んでしまうのはまた別の話。




お読みいただきありがとうございました。
 


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