ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第75話 天災の始動

 機械類がひしめく狭い部屋。床に無造作に放り出されたボルトの1つに小さな影がトコトコと近付いていく。それは機械仕掛けのリスであった。リスは落ちていたボルトを抱えるとデータを照合する。その結果、このボルトがもう必要の無い物だと判明した。リスは不要となったボルトを(かじ)り体内に取り込み、現在不足している部品へと再構成し、出来上がったそれを所定の場所へと保管した。

 

 世界の何処を見ても、この様なリスは存在しないし、作る事の出来る人間もいないだろう。この部屋の主以外には。ここは世界最高にして最悪の天災科学者・篠ノ之束の秘密のラボである。

 

 ラボの主はある映像を食い入る様に見ていた。それはとあるショッピングモールに設置された防犯カメラの映像である。ショッピングモールの警備システム如き、束に掛かればいとも容易く乗っ取る事が出来る。そして、束が見ているのは千冬達が水着を買っているところだった。

 

 

「ちーちゃんの水着かー。見たいなー。ちーちゃんには内緒で行っちゃおっかな」

 

 

 千冬が聞けば確実に嫌そうな顔をしそうな事を束はニコニコしながら呟いていた。しかし、その表情が急に険しくなる。

 

 

「それにしてもあの男はなんなの。私のちーちゃんに馴れ馴れしいよ・・・・・・まあ、あの水着のチョイスは悪くないけど。スリングショット姿のちーちゃんも見たかったなー」

 

 

 そう言っている間に千冬達は水着の購入を終え、売り場から離れていった。束は映像を巻き戻し、もう一度最初から見始めた。そこで束が特に熱心な目を向けたのは千冬と太郎の格闘シーンであった。

 

 

「こいつ・・・・・ちーちゃんに抱きつくなんて羨ましい・・・・じゃなかった、悪い奴だよ」

 

 

 映像では千冬に殴られた太郎が千冬へクリンチし、馬力で壁際に押し込んでいく所だった。口では太郎の行為を非難していたが、頭では正確に太郎の戦力を分析していた。

 

 

「うーん。ちーちゃんが力負けするなんて、こいつの体はどうなってんの。それに力が強いだけならちーちゃんは軽く捌けるだろうし、技術もあるみたいだなー」

 

 

 束は今まで自分や千冬と同レベルの人間など見た事も無いし、存在するとも思っていなかった。それだけに太郎の見せた能力は束を驚かせ、興味を持たせるには十分だった。

 

 元々、束も太郎についてならIS学園の一般生徒達以上に情報を持っている。一夏以外にはいない筈の男性IS操縦者という事で経歴なども一通り調べている。しかし、データ的には抹消された犯罪歴以外に目立ったものはなかった。後はISコアNo.338(美星)から聞いた【千冬並の能力を持った執念深い変態】という情報くらいであった。

 

 束はこの千冬並の能力という点には少し疑問を持っていた・・・・・いや、本当は【千冬並の能力を持った執念深い変態】などという恐ろしい者が存在する事を信じたくなかったのだ。だからNo.338が少し過大評価しているのではないかと思うようにしていた。しかし、今見た映像から考えて、太郎は千冬と同等の格闘能力を持っているのは確実である。

 

 

「関わり合いにはなりたくないけど、直接体を調べてみたいなー」

 

 

 怖いもの見たさと言うべきか、一度気になり出すと気になって仕方が無い。関わり合いたくないという気持ちと直接調べてみたいという相反する気持ちに束が葛藤していると突然携帯電話の着信音が鳴り響いた。

 

 

 

 姉貴、姉貴、姉貴と私

 

 姉貴、姉貴、姉貴と私

 

 姉貴、姉貴、姉貴と私

 

 

 

 携帯電話から流れ出た着信音はとあるシューティングゲームの曲だった。別に束はそのゲームのファンではなかったが、歌詞が気に入って使っていた。この着信音を聞いた束は劇的な反応を見せた。跳ね上がるように立ち上がり携帯電話を手に取った。相手は携帯電話の画面を見なくても分かっていた。何故ならその電話はある相手の為だけに用意し、番号もその相手にしか教えていないのだ。

 

 

「うぇーい、ひっさしぶっりだねえー!」

 

「・・・・・・姉さん、声大きい」

 

 

 ハイテンションな束に対し、相手の声色は不快げであった。いきなり大声を出された事以外にも何か思う所がある様だ。束を姉さんと呼ぶ、電話を掛けてきた相手は箒であった。

 

 

「箒ちゃんが私に電話を掛けて来るなんて何の用かなー・・・・・なーんてね。分かってるよ。欲しいんだよね。ISが」

 

「っ・・・・・・・」

 

 

 束の言葉に箒が息をのむ。心中を見透かされた様で箒は二の句を継げない。それに今まで何の連絡もしなかったのに頼み事が出来た途端手の平を返したみたいで気まずくもあった。ただ束にとってそんな事は些事であった。全く気にしている様子は無い。

 

 

「専用機が欲しいんだよね。あるよ、あるよ!取って置きのがねっ!こんな事もあろうかと既に作ってあるんだよ。白と対になる最高・最強の専用機─────────紅椿が」

 

 

 白と対になるとは白式の事なのだろうか。もし、そうなら箒としては好都合であった。最近の一夏は他の専用機持ち達とばかり行動している。それは箒の思い込みで実際には寮のルームメイトである箒が一番一夏と過ごしている時間は長い。しかし、思い込みが強い箒はそれには気付かない。

 

 疎外感を拭えない箒は自らも専用機を持つ事で一夏とより近い関係になろうと思っていた。その自分の専用機が一夏の白式と対になる物であるなら当初望んだ以上の物である。箒は歓喜に打ち震えるのであった。

 

 そんな箒の様子を電話越しにも感じた束はニヤニヤとしていた。それに今回の件は束にとっても好都合なタイミングだった。紅椿を渡しに行くという名目でIS学園の臨海学校へ突撃しよう。そう束はもう決めていた。束は水着姿の千冬や箒を堪能し、ついでに出来るそうならば太郎を直接調べようと考えていた。そして─────────

 

 

「・・・・・・それに箒ちゃんの専用機お披露目は派手な方がいいよね」

 

 

 誰にも聞えない呟きが束の口から漏れ出た。

 

 

 




最強・天災・変態・・・・・・人類の頂点ともいうべき者達の邂逅はまだもうちょっと先です。



丸城「機械仕掛けのリスさん、私の使用済みティッシュを分解して美少女とか作れませんかね?」

リス「水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素、標準的な大人一人分として計算した場合の、人体の構成物質なんだ。今の科学ではここまで分かっているのに、実際に人体錬成の成功例は報告されていない・・・・・どういう意味か分かるね?」

丸城「ティッシュ数枚では足りないって事ですね。分かります」


読んでいただきありがとうございます。
次は火曜日更新です。

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