ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第73話 戦いは海に行く前から始まっている2

 水着売り場で激しい戦いを見せる千冬と太郎。そんな2人の戦いを制止する者が現れた。それは店員だった。

 

 

「あのー、お客様。店内でそういう事は控えて頂きたいのですが・・・・・・・」

 

 

 組み合ったまま膠着(こうちゃく)状態になっていた千冬と太郎のすぐ傍に若干怯え気味な店員が来ていた。千冬が慌てて店員に謝る。

 

 

「すみません・・・・・・。おい、山田。さっさと手を放せ!」

 

「お騒がせして申し訳ありません」

 

 

 太郎も千冬に続いて謝罪を口にしながら千冬を放した。幸い周囲に他の客はいなかったが、店としても店内で格闘戦を繰り広げられては迷惑極まりないだろう。IS学園内であれば金を取って客を集められる程の対戦カードではあったが、ここは学園では無い。

 

 

「多少騒ぐのは構いませんが、暴れるのはやめて下さい。次は警備員を呼びますよ」

 

「ええ、分かりました。ちょっとじゃれ合っていただけです。これからは気を付けます」

 

 

 店員の警告に太郎は軽い口調で答える。そんな店員に注意を受けている太郎と千冬から少し離れて、鈴、シャル、ラウラの3人がこそこそと話し合っていた。

 

 

「ちょ、ちょっと、太郎さんヤバいでしょ。本気にはなっていないと思うけど相手は千冬さんよ。まともにやり合えるなんて異常よ」

 

「織斑先生のパンチ・・・・全然見えなかった。本当に僕達と同じ人間なのかなあ?」

 

「私はあの2人のどちらとも手合わせした事があるが、あの人達より素手で強い人間は軍にもいなかったな」

 

 

 ラウラの言葉に鈴とシャルは少し引きながらも、妙に納得してしまった。あんなレベルの人間がその辺にゴロゴロしていたら怖過ぎる。

 

 

「教官は打撃や近接武器が得意だな。もちろん他も優れているが、それらは次元が違う。パパは身体能力とグラップリングが飛び抜けている。私は格闘に関して同世代ではトップクラスであると自負しているが、パパが相手では組み付かれた時点で勝負が決まってしまう。その位パパのグラップリング能力は高い」

 

「IS無しなら間違いなく学園でもトップ1、2だよね」

 

「ま、まあ、2人とも大人だし」

 

 

 ラウラの分析にシャルと鈴は頷く。

 

 千冬が刀型の近接武器「雪片」のみでモンド・グロッソを勝ち抜いた事実は有名である。そんな事は余程の格闘センスがないと不可能だ。その千冬と対等に闘えている太郎も普通では無い。ラウラ達3人が感心とも畏れとも知れない思いを抱いていると、太郎と千冬が店員からの注意を受け終えていた。

 

 

「さて、気を取り直して、次はラウラさんの番ですね。選んだ水着を見せてください」

 

 

 太郎が何事も無かったかの様に言った。それを受けて前に進み出たラウラは自身に満ち溢れた様子で、自らが選んだ水着を両手で掲げた。

 

 

「教官の事は私が1番良く知っている。これこそ教官に相応しい水着だ!」

 

 

 ラウラが水着は黒色を基調とした生地が膝の上まである競泳水着であった。

 

 

「この水着は去年の世界水泳で5つのメダルを獲得した、現在の水泳界で女王の異名を持っている選手が愛用している物と同じモデルだ。これこそ最強でありブリュンヒルデと呼ばれる教官に相応しいと言える」

 

 

 確信を持って言い切ったラウラ。しかし、聞いていた者達の反応は微妙であった。

 

 

「千冬さんに似合うとは思うけど・・・・・ねえ?」

 

「あー・・・・千冬さん。例年の臨海学校で競泳水着を着た生徒や職員はいましたか?」

 

 

 鈴が言い辛そうに太郎の顔見ると、太郎は千冬へ質問した。それに対して千冬は首を横へ振る。

 

 

「流石に大会用の競泳水着は聞いた事がないな・・・・・」

 

 

 千冬もどう反応したら良いのか判断しかねていた。太郎が選んだ水着と比べるなら百倍マシだが、この水着でも確実に臨海学校では周囲から浮く。臨海学校で水着が必要になるのは自由時間である。そう、つまり遊びやバカンス的な用途なのだ。そこに1人だけガチの競泳水着を着て行けば確実に周囲からは浮く。

 

 

「却下だな」

 

「何故ですか教官!」

 

「ラウラ、お前は私を水泳選手にでもしたいのか?生徒達が砂浜で遊んでいる横でタイムトライアルでもしていろと?」

 

 

 それの何が問題なのか分からないラウラであったが、千冬の意思を覆す事は出来ないと見てしぶしぶながら引き下がった。

 

 

「それじゃあ、私の選んだ黒のビキニで決定ね」

 

 

 鈴が得意げに勝利を宣言した。しかし、それに異を唱える者がいた。

 

 

「待って下さい。私の選んだ水着は1着ではありません」

 

「私も何着か用意がある」

 

 

 太郎とラウラであった。正直、勝負はもう見えている。太郎とラウラの選ぶ水着がまともではない事は、先程のやり取りでもう分かっていた。千冬は時間の無駄と思わないでもなかったが、太郎達が素直に引き下がるとも思えないので見るだけ見る事にした。

 

 

「分かった。分かった。見せてみろ」

 

「ではこれを!!!」

 

 

 太郎は勢いよく買い物籠から(ひも)を取り出した。それは紛うことなき紐であった。故に大事な部分を隠す役割を一切果たしていない水着?である。

 

 千冬の鉄拳が太郎に襲い掛かる。

 

 

「さっきより酷いではないか!」

 

「し、失礼、間違いました。これは別の人用でした」

 

 

 怒鳴る千冬に太郎が謝罪する。その内容にシャル達は冷や汗をかいた。もしかして私達の中の誰か用なの?と。

 

 

「こちらです」

 

「チッ・・・・・・ほう、まともじゃないか」

 

 

 多少際どいビキニであったが、スリングショットや紐に比べるとまともに感じてしまう。千冬が太郎の選んだビキニを手にとってみる。どうやらここまでは好感触の様だ。

 

 

「どうです。これなら問題無いでしょう?」

 

「ふむ・・・・・・・ん?・・・・・何で股間部分に穴が開いているんだああああ!!!!!!」

 

 

 ぱっと見では分からないがクロッチ部分がゲート・オブ・ヘヴン状態である。

 

 

「便利かと思いまして」

 

「何に便利だと言うんだ!何に!」

 

「はっはっはっは」

 

「笑っても誤魔化されんぞ。もういい。次だ。次!」

 

 

 千冬は太郎を相手にするだけ無駄と判断して、さっさと話を進めようとする。

 

 

「私の番ですか。次は自信があります。副官からアドバイスを参考にしました」

 

 

 ラウラが出して来たのは学園指定のスクール水着だった。それもご丁寧にも胸の名札は【おりむら】となっている。

 

 

「スクール水着は色物であり負けフラグ?らしいのですが、着るのが教官であればギャップ萌え属性も加わり強力になるとの事です」

 

「まるでイメクラか企画物のAVですね。・・・・・・・ありです」

 

 

 ラウラの解説に太郎が静かに頷く。しかし、当然と言えば当然ながら────────────

 

 

「ありな訳ないだろ」

 

「見てみたい気はするけど駄目でしょ」

 

「スクール水着はないと思うよ」

 

 

 千冬を始め、鈴もシャルも否定的であった。

 

 

「くっ、ではこちらで」

 

 

 反応が芳しくないのを見てラウラは苦し紛れに違う物を取り出した。それはラウラが最初に出した競泳水着に少し似ている物だった。しかし、それには大きな問題があった。それにいち早く気付いたのは太郎であった。

 

 

「あのラウラさん、それはレスリングのウェア。女性用シングレットではありませんか?」

 

「流石はパパ!そうこれは先月のレスリング国際大会で58キロ級王者が「「水着ですら無いのか!?」」

 

 

 ラウラが意気揚々と説明しようとした所で千冬達の突っ込みが入った。

 

 

「レスリングウェアなんて何処から持ってきたのよ」

 

「ここと隣接したスポーツ用品店にあったのだ」

 

 

 鈴の質問にラウラは事も無げに答えた。

 

 

「教官、砂浜ではレスリングが有効です。足場の安定しない砂浜で打撃偏重の闘い方は命取りになります!」

 

「命取りって・・・・・ラウラは何と闘っているの?」

 

 

 困惑気味に呟くシャルだったが、肝心の千冬は太郎の方を見ながらあながち的外れでは無いなと思っていた。水着を買いに来ただけでこの騒ぎである。臨海学校でどれ程、この男が大人しくしていられるか。いや無理だ。そうなると必然的に太郎を抑えるのは担任である自分の役割となる。つまり、闘いだ。

 

 

「・・・・・・保留だな」

 

「「えええええっ!!!!!」」

 

 

 千冬の意外な言葉にその場の全員が驚いた。

 

 

「あ、あのー本気ですか?」

 

 

 戸惑いながら聞いてきた鈴に、千冬は「必要になるかもしれん」とだけ言った。静かに闘志を燃やしている千冬に気付いているのか、いないのか。太郎がまたも名乗りを上げる。

 

 

「これが私の大本命。これが駄目と言うのなら潔く諦めます」

 

 

 太郎がそう言って出したのは白色のワンピースだった。脇腹の部分は肌が見えるデザインであったが、全体の露出度は低く太郎がこれまで選んだ水着とは一線を画す物である。むしろ他の者が選んだ水着と比べても品があった。しかし、1つだけ懸念材料があった。

 

 

「白か・・・・・透けるんじゃないか?」

 

「いえいえ、そんな事はありませんよ。店員さーん」

 

 

 千冬の疑問を聞いた太郎が店員を大声で呼ぶ。店員は先程問題を起こした客だったのでこちらの様子を窺っていた様で直ぐにやって来た。

 

 

「いかがなさいましたか?」

 

「この水着は水に浸かっても透けないですよね」

 

「はい、こちらの水着は新開発の素材を使っております。水に濡れて体に密着しても透ける事はありません」

 

 

 店員が些かの逡巡もなく言い切ったので千冬もその言葉を信じた。

 

 

「千冬さんは普段黒いスーツ姿が基本なので、たまには明るい色も悪くないでしょう?」

 

「悪く・・・・・うん、悪くないな」

 

 

 太郎の選んだ物を認めるのは(しゃく)ではあるが、デザイン的には千冬も気に入ったようだ。その反応を見て太郎もホッと胸を撫で下ろした。太郎としては、どうあってもこの水着を千冬に選んで欲しかったのだ。先に出した水着は言わば囮であった。最初からこの水着を選んで貰う為に奇抜な水着を最初に推したのだ。

 

 

(美星さん、あの水着で良いんですね?)

 

『ええ、あれで良いです。あの素材なら確かに水では透けません。それに一般で流通している赤外線カメラなどでも透過させる事は出来ないでしょう。しかし、この私に搭載されている索敵、観測用ビット【レギオン】のセンサー群の前には丸裸同然です』

 

 

 そうあの水着こそ、この売り場でも1、2を争うほど布地を透過し奥にある肢体を写し易い物なのだ。ここまで太郎が演じた茶番は罠、巧妙なる罠であったのだ。

 

 あえて、最初におかしな水着を推しておく事で最後に出す本命にも疑いの目を向けさせる。そして、その疑念を自分ではなく、店員に否定させればより信用度が増すという狙いである。

 

 

「よし、これにしよう。山田が選んだというのは気に喰わんが、物としては気に入った」

 

 

 千冬の言葉を聞いた太郎は満面の笑みを浮かべた。それは勝者の笑みである。

 

 




計画通り!!!
デスノー○って腹上死もOKなんでしょうか?
気になって夜も眠れません。
読んでいただきありがとうございます。



そして、全く関係ありませんがフェス連敗を今度こそ止めたいです。

次の更新は日曜日です。



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