ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第72話 戦いは海に行く前から始まっている1

 太郎達はハイヤーに乗り込んでから40分程で目的地に到着した。そこはIS学園からは少し距離のあるショッピングモールだった。あまり近場だと学園の生徒と会う可能性が高く、面倒な事態を避けたい千冬の要望でこのモールが行き先として選ばれたのだ。

 

 

「さて、さっさと目的の水着売り場へ行こう」

 

「折角なのでゆっくり見て回りませんか?」

 

 

 出来るだけ早く、この厄介な買い物を済ませて帰りたい千冬であった。逆に出来るだけ長く楽しみたい太郎の提案にもにべもなく首を横へ振った。

 

 

「そういうのはデートの時にでもしろ。但し、相手は成人に限るがな。条例に違反する様な事は認めんぞ」

 

「・・・・・・それはデートのお誘いと受け取っても良いのでしょうか?」

 

「何故そうなる」

 

 

 厳しい言葉もポジティブに受け取る太郎に千冬は頭を抱えたくなる。しかし、太郎にも言い分があった。

 

 

「この場で成人しているのは私と千冬さんだけですから自然と相手は限られますし、今度は2人でデートにでも、という話の流れでは?」

 

「別にこの場の人間に限定する必要はないだろ。・・・・・ほら、あれだ。山田先生とかどうだ?学園でも生徒ではなく職員なら成人しているし、休日にデートしても問題ないぞ」

 

「あのー、こんな所で話していては目立つので、そろそろ売り場へ行きませんか?」

 

 

 太郎と千冬の話が少し自分にとって都合の悪い方向へ進んでいると見て、シャルが2人の会話に割って入った。まさかとは思うが、こんな話がきっかけで本当に太郎が真耶と深い関係になってしまってはシャルとしても困る。念の為にシャルは話を逸らしおく。千冬はシャルの真の意図にまでは気付かなかったが、シャルの言葉には納得した。

 

 

「ふむ、そうだな。ここで話していても始まらんし、さっさと行くか」

 

 

 千冬が周囲を軽く見回すと、自分達はかなり注目を集めていた。千冬と太郎を始め、今いるメンバーは目立つ人間ばかりである。今はまだ自分達の正体までバレていないようだが、もしモンド・グロッソの優勝者である自分や世界でも稀な男性IS操縦者である太郎の素性がバレてしまうと騒ぎになりかねない。

 

 5人が水着を売っている店舗を目指して歩き始めた、その頃、怪しい2人組みが少し離れた駅で大騒ぎしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、IS同士はコア・ネットワークで繋がっているのですから太郎さん達の大まかな位置は分かります。つ・ま・り、わたくしからは逃げられませんわ」

 

 

 高笑いのセシリアであったが、そもそも太郎達は逃げてなどいない。

 

 

「待ってくれセシリア。タクシー乗り場は逆だ。位置的に太郎さん達は少し離れた場所にあるショッピングモールにいるみたいだ。歩いても行けるけど、タクシーを使った方がいい」

 

「なぜ、それは先に言いませんの!?」

 

「セシリアが人の話も聞かないで先に先に進むからだろ!」

 

 

 セシリアと一夏は言い争いながらも着実に太郎達を追跡していた。セシリアがISによって太郎達の位置を大まかに調べ、一夏が電車などの交通手段を調べるという役割分担が意外と上手くいっている。

 

 最初はハイヤーに乗り込んだ太郎達を追う為にタクシーを拾ったのだが、「あの車を追ってくれ」という定番のセリフを一夏が言った瞬間悪戯扱いされ、タクシーから下ろされてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリアと一夏が追ってきているなど夢にも思わない太郎達は、既にモール内でおそらく一番水着の品揃えが良い広い店舗に到着していた。

 

 

「では誰の水着から選びましょうか?」

 

 

 到着と同時に先頭を歩いていた太郎が笑顔で振り返った。それに対して千冬は怪訝な表情をした。

 

 

「どういう事だ。全員でそれぞれの水着を選んでいく気か?」

 

「ええ、そのつもりですが」

 

「おかしいだろう。アドバイスや感想なんかを言い合う位なら普通だが、全員で選ぶ必要は無い。違うか?」

 

 

 千冬の意見を聞いて太郎は首を横へ振り、両手を広げて掌を上に向ける。

 

 

「折角、みんなで買い物に来たのに自分の物だけ選ぶなんて寂しいじゃないですか」

 

「知るか、そんな事。お前の選んだ水着など着れるか!」

 

「まあ、そう言わず試しにいくつか選ばせてください。それを見てから判断してくださいよ」

 

「チッ・・・・・お前がまともな水着を選ぶとは思えんがな」

 

 

 忌々しげに舌打ちをした千冬であったが、太郎の言う通り一度どんな水着を太郎が選ぶのか見てみる事になった。太郎は買い物籠を持つと売り場をさっと見て回り、特に迷う事も無く何着かの水着を籠に入れていた。この時、太郎だけではなくラウラ達も売り場を見て回っていた。その中でもラウラは熱心に店員と話しながら選んでいた。尊敬する教官である千冬の水着を選ぶという事で気合が入っているようだ。

 

 千冬の水着選びは一番熱心な太郎とラウラが意外と早く候補の物を選んだ為に15分程度で終わった。

 

 

「それじゃあ、僕から行こうか。これが僕の選んだ織斑先生に一番似合うと思う水着です」

 

 

 一番手に名乗りを上げたのはシャルであった。その手に持っている水着は胸元が白いフリルデザインのビキニであった。シャル自身は自信を持っている様子であったが、皆の反応は良くなかった。

 

 

「折角破壊力のある千冬さんの胸なんですよ。その胸のラインを隠してしまうとはもったいないですよ」

 

「なんかあざといのよね~。可愛く見せたいって意図が透けてるのよ。そんなの千冬さんのイメージじゃないでしょ」

 

「軟弱なデザインだ。教官には似合わん」

 

 

 太郎、鈴、ラウラの3人が口々に駄目だしをした。そこまで真剣に選んだ訳でもないがここまで言われるとシャルとしても結構なショックである。

 

 

「ふむ、ちょっと私には着れんな。これは可愛いかもしれんが私には似合わん」

 

 

 肝心の千冬からも否定され、シャルの選んだ物は却下となった。そして、次に名乗りを上げたのは鈴だ。

 

 

「まあ、この中じゃ一番千冬さんと付き合いの長いあたしに任せなさいって」

 

 

 自信満々な鈴の選んだ水着は黒の三角ビキニだった。

 

 

「自信を持つだけあって千冬さんのイメージに合っています」

 

 

 太郎は鈴の選んだ水着を眺めながら、千冬が着た姿を思い浮かべる。太郎の脳内で形作られた千冬の姿は女豹のポーズを取っていた。太郎は大きく頷き「ありです」と呟いた。

 

 

「うん、確かに黒って色と少し布地が少なめのビキニって所で織斑先生の大人の魅力が際立つね」

 

「教官には黒が似合うと思います」

 

「悪くないな」

 

 

 太郎だけでなくシャルやラウラ、そして千冬からも評価され、全員高評価となり鈴の選んだ水着が第一候補になった。

 

 しかし、その鈴の選んだ水着を見た後でも太郎とラウラは自信を失っていなかった。太郎が一歩前に出る。

 

 

「ここで真打登場です。これこそ私が選んだ最強の水着。これを着た千冬さんがビーチに現れれば、その瞬間からビーチの視線を独り占めです」

 

 

 ジャーン、という効果音が聞えそうな勢いで買い物籠から取り出された水着は─────────白のスリングショットであった。

 

 

「着れるか、こんな物っ!!!!!」

 

 

 千冬の拳が太郎に迫る。その拳は太郎が咄嗟に顔の前に出した左手によって勢いを少し殺されるも、そのまま打ち抜かれた。太郎の腰が一瞬落ちかけた様に見える。しかし、太郎は千冬の放った追撃の左フックをダッキングで回避しクリンチする。

 

 

「ち、千冬さん、落ち着いてください」

 

「何が視線を独り占めだ。確かにこんな物を臨海学校で着れば視線は集まるだろうよ。頭のおかしな痴女がいるとな!!!」

 

 

 怒りに任せて太郎を殴ろうとする千冬だが、クリンチされた状態では上手く殴れない。無理矢理引き剥がそうとしても単純な力勝負では太郎に勝つ事は困難である。千冬は首相撲へと移行し、そこから膝蹴りを入れようとする。

 

 太郎の方もいつまでも受身ではなかった。体格と馬力を生かして組み付いたまま壁際へと押し込む。そこで互いの実力が拮抗しているのか膠着状態に陥った。

 

 シャル達は太郎と千冬の激しい闘いに割って入る事が出来ず、見ているだけの状態だった。

 

 そこへ2人を止める第三者が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、お客様。店内でそういう事は控えて頂きたいのですが・・・・・・・」

 

 

 店員であった。

 

 

 

 

 

 






読んでいただきありがとうございます。


次回は水曜日に投稿します。なんか次の投稿の内容が大分長くなりそうです。

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