ラウラと太郎の2人と一緒に、水着を買いに行く事にした千冬。その頃、そんな話になっているとは知らない当事者の1人である太郎は、寮にある洗濯室にいた。IS学園の寮には共同の洗濯室があり、そこには最新の洗濯機や乾燥機が複数設置されている。太郎はその中の一つの乾燥機に濡れてしまった制服のズボンを放り込んだ。
そう、今の太郎は下半身がトランクスとソックス、そして靴だけのカオスな状態である。いっそ上やソックス、靴などを脱いでトランクスだけになった方がまともに見える。そんな格好でズボンが乾くのを太郎は仁王立ちで待っていた。
「あ、あのー・・・・・太郎さん?」
誰かに背後から声を掛けられた太郎はが振り返ると、そこには鈴がいた。先程まで学食で一緒だったのだが、どうやら太郎を追いかけてきたようだ。
「鈴さん、どうしたんですか?」
「いや・・・・ちょっと太郎さんに聞きたい事があって・・・・・」
「はあ・・・・・」
鈴と太郎は仲が悪いわけではないが、2人っきりで話したりする機会はこれまであまり無かった。その為、太郎は珍しいなと思いつつも、何かあったのだろうかと心の中で少し心配していた。
「太郎さんってラウラと仲良いですよね?」
「ええ」
「あの・・・・・ラウラって・・・・普段から見えたり・・・するんですか?」
最初、太郎は鈴が何の話をしているのか分からなかった。しかし、直ぐに先程の学食での出来事を思い出した。あの時のラウラは何も無い虚空を見ながら不審な言動を続け、それを見た鈴が酷く動揺してしまったのだ。どうやらオカルト的なものが苦手らしい鈴は、ラウラが本当に何か見えているのか気になっている様だ。
必死な様子の鈴だったが、それに対して太郎の方は平静そのものだった。何故なら、幽霊などに怯えるようでは深夜の半裸マラソンなどやっていられないのだ。それに太郎は先程のラウラの不審な挙動に心当たりがあった。
「鈴さん、まさか本当にラウラさんに幽霊が見えているなんて思っているんですか?」
「ち、ちち、違うわよ。ゆ、幽霊なんてこの世に存在しないわっ!」
激しく動揺している鈴に太郎は安心させるように笑顔で頷いた。
「そうですね。それにラウラさんは幽霊など見ていないと思います。見ているのは別の物でしょう」
「えっ・・・・それってどういう事?」
太郎があっさりと自分の言葉を肯定し、しかも意外な話の展開になって鈴はついていけない。
「少し今日のラウラさんの仕草を思い出してください。周囲の人間から見ると何も無い所へ視線を行き来させていましたよね」
「ええ」
「どこかで同じ様な仕草をしている人を見た覚えがありませんか?」
「???」
太郎の問いが全く分からないといった様子の鈴だった。それを見て太郎はヒントを与える事にした。
「学園の実技」
「?・・・・・あっ、ISかあ。そう言えば専用機持ち以外の子達は最初、ISが表示する計器類やメッセージを見る時にあんな感じだったかも」
鈴の答えに太郎は満足そうに頷いた。
ISには飛行機や船の様な実体としての計器類が存在しない。その代わりに仮想ディスプレイ(実在しないディスプレイがあたかもそこにあるかの様に脳へ知覚させるシステム)によって操縦者のみに見える仮想の計器類やメッセージが表示される。この技術は未だ一般人には身近な物ではないので、ISを扱い始めてすぐの生徒はどうしても必要以上に表示されるメッセージなどへ気を取られてしまうのだ。今日のラウラはまさしく、そういった生徒達と同じ様子であった。
「私はそれが正解だと思いますよ。今日のラウラさんは不自然な言動が多かったので、ISにアドバイスでもして貰っているんじゃないですかね」
ラウラの言動がオカルト的な何かではないと知って鈴はホっとしていた。そんな中、太郎の意見に首を傾げている者がいた。
『あの・・・・・シュヴァルツェア・レーゲンのコアである436にそんな事が出来るでしょうか?』
美星がプライベート・チャネルで太郎にそんな疑問を投げ掛けた。・シュヴァルツェア・レーゲンのコアである436は美星の見解では根暗なボッチだったはずである。そんなコミュ障コアが実生活におけるアドバイスをリアルタイムで行う事など出来るだろうか。いや、無理だ。
(そうですね。・・・・・・それなら脚本的な物をシュヴァルツェア・レーゲンにインストールしておいて、それをラウラにだけ見える様に表示し、ラウラはそのまま実行しているとは考えられないでしょうか)
『それでは応用性に欠けると思います』
(うーん・・・・・ここで考えるよりもラウラさんに直接聞いた方が早いですね。後で聞いてみましょう)
結局、疑問は残ったままであった。しかし、折角安心している鈴に余計な事を言っても仕方が無いので、あえて美星との会話に関しては何も鈴には伝えない太郎であった。そんな気遣いをされているとは露知らず、鈴は別の話題を切り出したそうにしていた。
「あの、それで・・・・ちょっと話は変わるんだけど・・・・・」
「どうかしましたか」
普段の思った内容をズバズバ言う鈴には珍しく言いよどむ。
「再来週に臨海学校があるでしょ」
「ええ、ありますね」
「自由時間が結構あるって話でね・・・・・・例年、みんな海で遊ぶらしいのよ。それで・・・・・ほら・・・男の人って・・・アレでしょ」
どうにも言い辛そうな鈴であったが、言わんとする内容は太郎もすぐに察した。
「そこで一夏と遊びたいとか、一夏にアピールしたいと?」
「はっ、はっきり言わないでよ。でもそういう事よ」
顔を赤くして頷く鈴はまさに恋する乙女である。一夏と同性である太郎の意見を元に他と差をつけたいと思っているのだろう。太郎としても他人の恋路を邪魔して喜ぶ趣味も無いので協力しても良いと思っていた。
「海でアピールと言えば水着でしょ。そこで男の視点でどんな水着が良いのか知りたいのよ」
「協力するのは構いませんが、水着の趣味なんて人それぞれですよ」
「・・・・・でも私って・・・・・ほら・・・あんまり・・・・・・」
鈴の声が消え入りそうな位に小さくなる。しかし、何となく太郎は理解出来た。おそらくプロポーション的な面で鈴は自分に自信が無いのだろう。太郎は爽やかな笑顔で鈴の肩に手を置く。
「それも関しても趣味は人それぞれですよ」
「・・・・・相手が太郎さんじゃなかったら蹴り飛ばしてたわ」
「えっ、何故ですか!?」
ドスの利いた声を出す鈴。太郎は何故鈴が怒っているのか分からない様子である。そんな太郎を見て鈴は大きく息を一つ吐いて「もういいわ」と首を横に振りながら諦めたように言った。一夏の朴念仁ぶりに慣れている鈴にとって見れば、この程度大した事では無い。
「・・・・・とにかく今度の日曜日に水着を買いに行くから一緒に来て欲しいの」
「2人っきりでは要らぬ勘違いをする人もいるかもしれませんよ」
「うん、シャルロット辺りにも付いて来てもらったら良いかな?」
男装していたから男目線で見れるのではないか、という訳ではないが他に適任者が思い付かない。自分と同じく一夏を狙う箒は論外であるし、一般常識に欠けるラウラや庶民的な感覚の無いセシリアでは的確なアドバイスは期待出来ない。そうなると自然とシャルが残る。
「そうですね。シャルに後で予定が空いているか聞いてみます」
両手に花で水着を買いに行くなどという素晴らしいイベントが待っていると思うと太郎の声も少し高くなる。既に同じ様な用件でラウラと千冬が太郎を連れて行こうと話しているとは夢にも思わない太郎だった。それが後の混乱に繋がるとは、この時点では誰も予想していなかった。
太郎「鈴さんには・・・・・ジャーン、この水着が最高に似合うと思います」
鈴 「えっ、何も無いじゃない」
太郎「馬鹿には見えない素材で出来た水着です(真顔)」
鈴 「そ、そう、何も無いように見えたのは勘違いだったわ(汗)」
太郎「これを着れば一夏もイチコロです(ゲス顔)」
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