ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第67話 教えてください

ラウラは千冬の部屋に連行される。

 

 

 恋愛支援ナビゲーションプログラムを手に入れたラウラ。彼女はこれによって自身唯一の弱点だと思っている、コミュニケーション能力の欠如を補う事に成功したと確信していた。しかし、現実はそんなに甘くなかった。プログラムが示した選択肢と同じ行動をとったにも関わらず、千冬に怒られてしまったのだ。困惑するラウラは千冬の部屋へと連行されてしまう。

 

 

「さて、適当にその辺りへ座れ。あと何か飲むか?」

 

「いえ、私は・・・」

 

 

 部屋に着くと千冬はラウラを椅子に座らせ、自分は冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲み始めた。千冬の部屋は一夏と太郎によって一度片付けられている。しかし、それからたった1ヶ月程度で部屋は荒れ始めていた。ラウラも片付けや掃除が好きなわけではないが、そもそも私物が極端に少ないので部屋が乱雑になる事は無い。そんなラウラからすると、脱いだ服や空き缶などが無造作に置きっぱなしとなっている千冬の部屋の様子は面食らうものだった。

 

 そんなラウラに気付いていないのか、千冬はラウラの正面にあるベッドに座り、早速説教を始めた。

 

 

「ラウラ・・・・・お前が社会常識に疎いのも、山田に好意をもっているのも私は理解している。だから、ある程度様子見で通そうと思っていたが、もう看過出来ん」

 

「ま、待って下さい。今日の私の行動に何の問題があると言うのですか。零した飲み物を拭いていただけではないですか」

 

「実際にはお前の言う通りなのかもしれんが、第三者からはいかがわしい事をしている様にしか見えなかったぞ」

 

 

 グシャっという音がした。千冬が持っていた缶ビールを握りつぶしたのだ。幸い飲み終わっていたので中身が飛び散る事は無かった。

 

 

「いいか。誰か一人でも人目も(はばか)らずいかがわしい事をしていれば、その組織全体の風紀は瞬く間に乱れる。軍という規律に厳しい組織にいたお前なら、風紀を守る事の重要性は分かるだろう」

 

 

 千冬の言葉にラウラは頷いてはいた。しかし、それは千冬の勢いに押されて、つい頷いただけであった。

 

 

 「やるな」と言われた事はやらない。

 

 「やれ」と言われた事はやる。

 

 

 ラウラからすればそれだけの話である。誰かが【いかがわしい事】をやっていたとしても禁止されている事なら、他の者達はやらないのが当然であるとラウラは思った。それに禁止されている事をやったのなら罰せられるだけである。何故、個人の罪が周囲に伝播するというのか理解出来ていなかった。

 

 それにラウラは零した飲み物を拭くななどと命令された覚えは無いし、【いかがわしい事】をした覚えもなかったので内心では怒られている事に困惑していた。

 

 

「・・・・・あの」

 

「どうした?」

 

「零れた飲み物を拭いては駄目なのですか?」

 

「そういう話ではない。性的な行為を公衆の面前でやっている様に見えたのが駄目なのだ」

 

「性的な行為に見えたのですか?」

 

「異性であるお前に股間を触られ、山田があんな顔をしていれば当然そう見える」

 

 

 千冬はあの時の太郎の表情を思い出して首を横に振った。あれは完全にアウトな表情であった。

 

 

「股間に触れては駄目なのですか?」

 

「人前で異性の股間に触れるのは良くない事だ」

 

 

 千冬はそう言いながら頭が痛くなる。こんな事を生徒に教える羽目になるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 人前で異性の股間に触れるのは良くない事だ

 

 なんだそれは!?

 

 教師が学生に教える事か!?

 

 頭がおかしくなりそうだ。

 

 

 

 

 千冬は一度落ち着く為に大きくゆっくりと息を吸い、そして吐いた。

 

 

「・・・・・いいか。再来週には臨海学校もあるんだぞ。お前の様な専用機持ちで目立つ生徒が率先してそういう行為をしていれば、周囲からも真似をして羽目を外して馬鹿をする者が出てくる。だから、山田との性的な接触は禁止だ。キスもそうだし、当然セックスもだ!!!」

 

 

 自分を睨みつけながら言い聞かす千冬にラウラは一度頷いたが、おずおずと手を挙げた。

 

 

「なんだ?」

 

「セックスとはどういった行為なのですか?」

 

 

 千冬は右手でこめかみを押さえつつ俯いてしまった。千冬はそのまま黙っていたが、しばらくすると顔を上げた。その表情は疲れきったものだった。

 

 

「・・・・・保健の教科書を用意するから先ずはそれを読め」

 

 

 それだけ言って千冬は冷蔵庫へと向かい、新たな缶ビールを取り出し一気飲みした。あとは真耶にでも任せようと千冬は心の中で決めていた。

 

 そんな千冬の様子を見ていたラウラは、【セックス】とは相当大変なモノの様だと冷や汗をかいていた。それとどうやらナビの提示する選択肢には千冬が怒る様な性的なモノも含まれているようだとラウラは勘付いていた。もし、ナビの選択肢と千冬の命令が相反する場合、どちらを優先すべきなのかラウラは考え込んでいた。しかし、その結論はすぐに出るものではなかった。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。遅くなってしまい申し訳ありません。

他ごとに時間をとり過ぎました。



それにしても1年1組の問題児っぷりは凄まじいですね。こんなクラスを受け持ったら普通の先生はノイローゼになるでしょう。

あとラウラへの保健の授業なら私がマンツーマンで教えるので何の問題もありません。

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