ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第59話 罠

 

 草木も眠る丑三つ時。しかし、眠らない紳士が一人歩いていた。無音の世界、非常灯の光だけが照らす薄暗い通路を抜け、太郎は目的地に到着した。

 

 IS学園格納庫、IS学園の訓練機は全てここに格納されている。普段、格納庫とその周辺は厳しい警備体制が敷かれており、無許可で立ち入る事は非常に困難である。そして、当然この様な時間帯の格納庫への立ち入り許可は、単なる一生徒に過ぎない太郎へ通常下りたりはしない。

 

 楯無やIS学園職員の中にいる太郎の協力者に頼んで、特別に許可を取る事も出来なくはない。しかし、それをすると記録に残ってしまうので、太郎は別の手段を選択した。

 

 太郎は楯無へ頼んで一時的に格納庫周辺のセキュリティーを無効化してもらったのだ。無効化と言っても単純にスイッチを切るなどというものではなく、「異常は無い」という偽のデータをセキュリティー機器に流すという手法を使っていた。

 

 

 何故、太郎はここまでしてこんな時間に格納庫へとやって来たのか?

 

 

 それは先日の女性至上主義者達による襲撃が関係していた。あの時は幸いにして大きな被害は無かったが、次もそうとは限らない。襲撃に参加していた高須 鈴香と小井 貴子から得た情報によると、IS学園には他にも今後襲撃して来そうな女性至上主義者達が複数いるらしい。太郎はもしもの時の為に保険を掛けておくつもりで格納庫へと来ていた。

 

 

「胸が高まりますね」

 

『ええ、今感じている・・・これが興奮と言う物でしょうか』

 

 

 テンションの上がっている様子の太郎に美星も同意する。これから始まる事は世界の有り様すらも変える一大事である。しかし、この事を知る人間は現状太郎しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 太郎が鈴香と貴子から女性至上主義者達の情報を得て数日後、様々な事態を想定して対応策を練っていた太郎の元へ鈴香から新たな情報がもたらされた。

 

 太郎に対する襲撃が失敗した後、鈴香を含めた襲撃の実行犯の4人全員が仲間である他の女性至上主義者達との連絡を断つか、極端に減らしていた。これを不審に思ったIS学園内に潜むその主義者達の一部が鈴香達にしつこく絡んできているらしい。

 

 鈴香達は困った様子だったが、これを聞いた太郎はむしろ好都合だとほくそ笑んだ。太郎はその主義者達をある場所へと誘き出す様に鈴香達へ指示した。そのある場所というのは深夜のIS学園格納庫である。太郎は先日と同じ様に楯無へ頼んで一時的に格納庫周辺のセキュリティーを無効化してもらった。

 

「他の人に聞かれると拙いから人のいない場所で話がしたい」と言って待ち合わせの場所を夜の格納庫に指定した鈴香に対して、主義者達は何の疑いも持たずにやって来た。少し考えれば夜の誰もいない格納庫に何故こんなに簡単に入る事が出来るのだろうかと不審に思うはずだが、その様な疑念を持つ者は主義者達の中にはいなかった。

 

 誘き出されたのは3年生の比場 遥と江沼 晶子、それと楯無に何処かへと連れて行かれた福瀬かほの妹である1年生の福瀬美穂であった。彼女達は何の疑いも持たず夜の格納庫へとやって来た。訓練機がずらりと並んだ格納庫の中心に彼女達を呼び出した鈴香と貴子が待っていた。

 

 3年生の比場 遥は身長が172cmと比較的体格に恵まれており、ハンドボール部のエースである。髪はくせ毛気味で日焼けした肌が健康的な印象を見る者に持たせる。整った顔立ちは【かわいい】と言うより【かっこいい】と学園内では言われている人気のある生徒である。彼女と福瀬かほが学園内における女性至上主義者達の中心人物だった。

 

 

「貴方達、最近どうしたの?山田を襲うって言ってからおかしいわよ。それから、かほと全然連絡取れないんだけど・・・どうなっているの?」

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

 矢継ぎ早に質問を浴びせる比場に対して鈴香と貴子は無言だった。無視されたと感じた比場は鈴香の胸倉を掴んで自分の方へと引き付け、顔を寄せて威圧する。

 

 

「どういうつもり?」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

 

 それでも無言を貫く鈴香達に比場はイラつき、胸倉を掴んだ手に力を込めて鈴香の体を揺すろうとしたが、それは叶わなかった。ずらりと並んだ訓練機の陰から大きな腕が伸び、比場の手首をがっちりと掴んだ。

 

 

「そこまでです」

 

 

 腕の主は低く落ち着いた声で比場を制止し、ゆっくりと訓練機の陰から歩み出てその姿を現した。

 

 

「お前はっ、山田!!!?」

 

 

 腕の主は太郎であった。その姿を見た比場達は驚き、太郎と鈴香達を交互に見て何かを察した様である。

 

 

「あんた達、裏切ったわね!!!」

 

 

 比場は怒鳴りながら鈴香に殴りかかろうとしたが、太郎にがっちりと掴まれた比場の手は思う様には動かなかった。比場も女性としては力の強い方ではあったが、太郎の前では赤子同然である。腕力では勝てないと悟った比場は足を全力で太郎の股間へ叩き込もうとした。

 

 

「放せっ、このっ!・・・・・いっっったぁぁぃ!?!?!?」

 

 

 比場は全力で太郎の股間を蹴り上げたが、ダメージを受け蹲ったのは比場自身の方であった。太郎が股間を蹴り上げられる瞬間にヴェスパの股間部分を展開していたのだ。生身でISを蹴り上げた比場の足には激痛が走っていた。そんな比場を気にした様子もなく太郎は平然としていた。

 

 

「裏切るも何もここにいる全員、私も含めてIS学園に所属する仲間じゃないですか。仲良くしたら良いじゃないですか」

 

「・・・何が仲良くよ。吐き気がするわ。男なんてIS学園から今すぐ出て行くべきなのよ!!!

 

 

 痛みに蹲りながらも比場は声を張り上げ太郎に反発する。その様子を眺めていた太郎は比場と鈴香達以外の2人へと視線を移した。

 

 

「貴方達もこの()と同じ意見ですか?」

 

「わたしはー、ハルちゃんが言うから賛成してるだけだからぁ、別に男の人と仲良くしたくないわけじゃないよー」

 

 

 間延びした声で江沼が言った言葉に太郎や鈴香達だけでなく、比場や福瀬妹までも唖然としていた。

 

 

「ちょ、ちょっと晶子。何言ってるの。男を学園から追い出すのを手伝ってって言ったら、うんって言ったじゃない!!!」

 

「そーだよ。ハルちゃんが手伝ってって言ったから頷いただけで、わたしは男の人が嫌いなわけじゃないよー」

 

 

 比場と江沼の間にはどうやら大きな認識の差があった様だ。2人がイマイチ噛み合わない会話を続けている間に太郎は福瀬妹へと視線を移した。

 

 

「貴方は・・・・・確か1年2組の福瀬 美穂さんですね。貴方も私を学園から追い出したいのですか?」

 

「えっ・・・・はい。・・・・・私は母さんや姉さんが男のIS操縦者は認められないって言うから・・・」

 

「貴方自身はどうなんですか?」

 

「私は男の人がいても別に・・・・・それに私が今日ここに来たのは連絡が取れなくなった姉さんの事を高須先輩達が何か知っているんじゃないかと思って来ただけなんです」

 

 

 どうにも比場と違って敵意の見えない福瀬妹を不思議に思った太郎が良く話を聞いてみると、そもそも彼女は女性至上主義者ではなかった。今日誘き出された3人の中で女性至上主義者は比場1人だった。

 

 

「どういうつもりよ。あんた達、男なんかと馴れ合うつもりっ!!!」

 

「男“なんか”とは酷いですね」

 

 

 喚き散らす比場に対して太郎はやれやれといった感じで肩を竦めた。

 

 

「女の方が優れているんだから“なんか”で十分よ!」

 

「・・・・優れているねえ。具体的に何が優れていると言うんですか?」

 

「男なんて野蛮で馬鹿で下品な生き物よ。それにISを使えないわ!」

 

「私はISに乗れますけどね」

 

「ぐっ・・・そんなの何かの間違いよ。誤作動を起こしているのよ」

 

 

 太郎は感情的に喚くだけの比場とこれ以上話していても仕方が無いと見切りをつけた。比場の拠り所とも言うべき物、ISで心をへし折る事を決めた。最初からそのつもりで、この格納庫へと誘き寄せたのだが話し合いで済むのならそれでも構わないとも太郎は思っていた。しかし、当初の予定通りになった事に太郎は喜びを感じていた。どうしても試してみたい事があったのだ。その実験体に丁度良い相手が手に入って太郎は気分が良かった。

 

 

「私の前でいきなり暴力を振るう野蛮で話が通じない馬鹿が下品に喚き散らしているんですが・・・・もしかして貴方は男なんですか?」

 

「kjこあうuかおaj@nfaおwぁせいit!!!」

 

 

 太郎の挑発に比場は顔を真っ赤にして掴みかかろうとしたが、太郎は軽々と比場を捌き足を掛けて転ばした。

 

 

「ISに乗れる位の事で女性がそれ程優れているなどと言うのなら、そのISの優位性を示してください。そこにある訓練機、どれでも好きな者を使って良いですよ。私は1分間、生身で相手をしてあげます」

 

 

「えっ、山田さん、そ、そ、そんなの無理ですよ」

「危ない、やめた方が・・・」

「IS相手に生身なんて話にならないよー」

「死んじゃいますよ。駄目です」

 

 

 普通に考えたら有り得ない太郎の提案に鈴香、貴子、江沼、福瀬妹の4人が反対するが、比場はもう1番近くにあった打鉄に駆け寄り装着しようとしていた。

 

 

「こ、後悔しても遅いわよ。あんたなんかがISに勝てるわけないでしょおおおお!!!!!」

 

 

 打鉄の装着を終えた比場が太郎に攻撃をしようと武器を展開しようとしたが、急に打鉄がその動きを止めた。比場が必死に操作を試みるが打鉄は何の反応も見せなかった。

 

 

「なんでええ、動いてよおおおおお」

 

(ひざまず)け」

 

 

 叫ぶ比場を無視して太郎は一言「跪け」と命じた。すると比場の装着した打鉄は直ぐに太郎の前に跪いた。これが先日、深夜の格納庫へ忍び込んだ太郎が施しておいた保険の成果だった。

 

 ISが男の命令を聞いて跪いたその姿を見て、太郎以外の全員が呆然としていた。

 

 もし、この光景を世界中の人間が見ていたのなら、現在の社会構造そのものすら揺るがしかねない状況であった。

 

 何が起こっているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




太郎「フフ・・・比場 遥 あれは いい木人形になる」


唐突ですが、急に性欲を持て余したので2、3話、R-18展開になると思います。

次は金曜日までに投稿します。

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