ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第58話 変節

 

 

 

 今日、太郎と簪を襲撃した4人の中でも高須と小井は深くその事を反省していた。それはアリーナで自分達を倒した時の太郎に対して感じた恐怖心も無関係ではなかった。しかし、それ以上に高須達が謝罪した後の太郎の示した気遣いに強い衝撃を受けていたのだ。太郎は理不尽な襲撃を受けたというのに謝罪をしただけで許し、そのうえ学園側に対して自分達の処分を軽減する様に働きかけるとまで言ったのだ。

 

 

 【世界は女を中心に回っている。女の方が男より優れている】

 

 

 太郎の実力と度量は高須達の持っていた、そんな男性に対するイメージを完全に塗り替えてしまった。

 

 

「ねえ、どうするの?」

 

「何の話よ?」

 

 

 主語も目的語も無い言葉足らずな小井の質問に対して高須は聞き返した。

 

 

「分かってるでしょ。山田・・・さん・・・の事」

 

「・・・・・どうするって・・・私はもう山田さんに何かする気は無いわ。貴方だってそうでしょ?」

 

 

 高須の言葉に小井も無言で頷いた。高須と小井にはもう太郎に対する敵意は無かった。しかし、敵意がもう無いとはいえ高須達にとって太郎関係の問題が全て解決した訳ではない。何故かというと高須達の仲間である女性至上主義者は楯無に連れて行かれた川島や福瀬以外にもいるからだ。そういった仲間はIS学園内だけでなく外部にも多い。その中には議員である福瀬かほの母親の支援団体に所属している様な大人も多かった。

 

 高須は自分達が太郎と敵対したくないと言い出したら彼女達がどんな反応をするのか、想像しただけで恐ろしくなった。

 

 

「・・・・・皆・・・怒るでしょうね」

 

 

 高須の呟きに小井も俯いてしまう。

 

 高須達としてはこれ以上太郎相手に事を構えたくないが、そうなると女性至上主義者である仲間達は絶対に自分達の事を責めるだろうという事も予想出来た。板挟み状態な2人は頭を抱えたくなった。

 

 そんな時、高須は良い事を思い付いた。

 

 

「いっそのこと山田さんに相談してはどうかしら?」

 

「えええー・・・・・そんなの・・・皆を裏切る事に・・」

 

「どうせ山田さんと敵対したくないなんて言ったら裏切り者扱いされるに決まっているわ。それにあの人達といたら今日みたいな危ない事をまたやらなきゃいけなくなるかもしれないのよ。折角IS学園を無事に卒業出来そうなのに今更犯罪者になんかなりたくないわ」

 

 

 小井は高須のアイデアに最初驚いたが、続く説明を聞いて考える。

 

 確かにこのまま、あの連中と付き合っていたら何時(いつ)犯罪者になってもおかしくない。いや、正確に言うなら今日の襲撃で自分達は犯罪者同然であった。太郎が事を荒立てれば、いくら治外法権なIS学園内での事とはいえ自分達は犯罪者扱いになっただろう。世界で2人しかいない男性IS操縦者をISで襲撃したなどという事が世間に知れ渡り犯罪者として裁かれれば、自分達はお終いである。自分達が今無事にいられるのは凄まじい幸運なのだ。その幸運を捨てる様な馬鹿な真似はしたくない。恐らく、あの連中はまた太郎に何らかの攻撃をしようとするだろう。そんなものに巻き込まれるのは嫌だった。

 

 小井もこれ以上反対するつもりが無い様なので高須は太郎へ相談してみる事に決めた。

 

 

「・・・・それじゃあ明日、山田さんに相談してみよう」

 

「・・・・うん」

 

 

 高須の言葉に小井も真剣な表情で同意した。

 

 

 

 

 

 翌日、高須達は深刻な表情で太郎に話しかけた。太郎は昨日自分を襲撃してきた相手だというのに快くその相談に乗った。高須達の相談には太郎にとっても重要な情報が含まれていた。

 

 学園内の自分を狙う女性主義者達の存在。そして、その女性至上主義者達の個人情報など太郎にとって今これらを知る事が出来たのは行幸だった。

 

 ここ最近の太郎は慢心していた。高須達の不意打ちを許してしまったはこれが原因である。女尊男卑となったこの世の中で自分を快く思わない人間がいる事など太郎は当然知っていた。しかし、楯無が信頼の置ける仲間となった今、IS学園内で自分にとって脅威となり得る存在は千冬位のものだと高を(くく)っていた。その為、学園内での情報収集は警備員の巡回経路などのセキュリティー関係や各生徒達の使用している下着事情などを探る事がが中心となっていたのだ。普段から敵対的な人物について情報収集していれば襲撃前に対処出来た可能性は高い。

 

 何故なら学園の女子はほぼ全員、太郎や一夏と「話してみたい」「何とかして仲良くなりたい」などと連日友人達と話していたので、それ以外の少数派は目立っていたのだ。そう、警戒して情報収集していれば危険人物は特定出来ただろうし、襲撃も予期出来ただろう。

 

 それと太郎はこの事について反省するとともに、自分を付け狙う明確な敵達の存在に興奮を覚えていた。集団に付け狙われるのは昨日の襲撃を除けば久し振りであったからだ。

 

 かつて学園に入る前、自分を付け狙い襲い掛かってきた日本でも有数のとある集団を太郎は思い出していた。

 

 

 

 

 暑い日も寒い日も、雨であろうと雪であろうと自分の事を追い回した執念深いあの集団。

 

 夜の街を駆け抜ける自分の事を無線を使い巧みに包囲したあの集団。

 

 時には赤色灯を付けた車で、時には自転車で、そして時には自らの足で追跡してきたあの集団。

 

 さて、女性至上主義者の方々は彼ら程、私を追い詰める事が出来るでしょうか?

 

 

 

 

 

 太郎は上機嫌であった。太郎や自分達の今後について不安がっていた高須と小井とは逆に太郎は笑顔である。

 

 

「良く相談してくれました。安心してください。今の状況でここまで分かれば“どうとでもなりますから”」

 

 

 そう、どうとでもなるのだ。やろうと思えばその危険な女性至上主義者達を直ぐにでも拘束出来る状況である。しかし、太郎にはもっと良い考えがあった。それを思い浮かべるとついつい笑みが零れてしまう。

 

 余裕のある太郎の様子に高須達は安心感を覚えた。「この人なら本当にどうにかするだろう」という信頼感がこの時の太郎にはあった。

 

 高須 鈴香と小井 貴子は太郎を襲撃した後、ずっと境界線上を歩いていた。そして、今片方へ完全に入った。それが2人にとっての大きな分岐点となった。彼女達はもう太郎の敵ではなくなっていた。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





お読みいただきありがとうございます


高須さんと小井さんがちゃんと反省していなければ・・・・・。ノーマル(?)エンド直行でした。まさか、反省しないなんて事ないよね(棒



本作の第57話よりその分岐先である無修正版+の「堕ちた主義者」の方が参照数が多いみたいなんですが・・・・・あれれーおかしいぞ。第57話を読まないと話の流れが分からない筈なんだけどなー。それとも同じ人間が「堕ちた主義者」の方だけ複数回読んでいるってことかなー?


次の更新は火曜日に。

オークションのその後についてのエピソードも書きたいと思っていますが、今の展開が終わるまでちょっと無理みたいですね。

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