ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第56話 愚者

 

 今の世の中は女尊男卑である。

 

 女性しか扱えないISの登場により彼女達の地位は格段に向上した。それは時に理不尽な事象を引き起こした。女性の極端な優遇、男性に対する蔑視、これらに影響され多くの差別的な思想を持った女性が生み出された。当然、女尊男卑の象徴とも言うべきISを学ぶIS学園には、そういった思想に染まった人間が多数存在する。

 

 彼女達は激怒していた。

 

 

「なんでこの学園に男がいるのよ」

「ISは女性の物」

「男がクラス代表なんて認めない」

「男に媚を売っている奴らも許せん」

 

 

 女性である事を特権階級であるかの如く考えている者達にとって山田 太郎とその周囲の人間は許されざる存在であった。そんな太郎とIS学園生の頂点に君臨する更識 楯無生徒会長の仲が良いという事実は彼女達の悪意を余計に刺激した。

 

 

 いつか痛い目を見せてやる

 

 

 彼女達がそう決意するまでの時間はそう長くはなかった。そして、彼女達にとっての好機は直ぐに訪れた。楯無の妹である簪の専用機が完成し、稼動テストを行うらしい。

 

 楯無の妹である簪もまた姉と同様、太郎と仲が良い。そのうえ簪の専用機に関しては太郎の助力によって完成したという話まである。太郎とその周囲の人間に対する制裁を加える標的としては最適だ。早速、襲撃の為に仲間の中で今日、訓練機の予約を取っている者を集めてアリーナへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

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 ついに完成した簪の専用機である試作機・鬼蜻蜓(オニヤンマ)一型を実際に稼動してみる為に、簪と太郎は第2アリーナへ移動した。今日、簪の専用機が搬入される事は事前に分かっていたので第2アリーナを太郎が仲間と協力して押さえていたのだ。

 

 太郎達は第2アリーナに到着すると早速ISを装着し、様々な機動を試したり、各兵装に問題が無いかを確認していた。観客席では先に来ていた大城が鬼蜻蜓(オニヤンマ)一型に熱い視線を送っていた。観客席には大城以外にも20人程度の見学者がいる。

 

 

「どうですか。鬼蜻蜓の調子は?」

 

「はい、見た目・・・・・大きいのに・・・旋回能力も高くて・・・驚き」

 

 

 簪は嬉しそうに太郎へ答えた。完成の目処も立っていなかった自分の専用機をこうして操っているだけで簪にとっては夢のようだった。しかし、その夢を【悪夢】に変えようとする者達がいた。

 

 

 簪と太郎が話していると、突然ピットから4機のISが現れ、2人に攻撃を仕掛けて来た。4機のISは太郎達を囲むように移動しながらアサルトライフルで斉射をする。太郎達にとっては完全な不意打ちであったが、代表候補生の簪は流石の判断力で瞬時に上昇して包囲から抜け出していた。太郎の方は地を這うように地面スレスレを飛行して距離をとっていた。

 

 

(美星さん、アレが何者か分かりますか?)

 

『機体は全て学園の訓練機ですね。乗っている人間も学園の生徒です』

 

 

 美星がデータを照合して太郎の質問に答えた。太郎からすれば学園の生徒から急襲される原因に心当たりなど無い為、どう対応すべきか少し迷っていた。その間も4機の訓練機からの攻撃は続いていた。太郎と簪両方に2機ずつが襲い掛かって来た。太郎の方にラファール・リヴァイヴが2機、簪の方へ打鉄が2機向かった。

 

 太郎は専用機の中でもトップクラスの機動性を持つヴェスパの性能と自らの驚異的な反射神経によって、執拗に追い縋る2機のラファール・リヴァイヴからの銃撃を問題無く回避してみせた。美星の方はその間に敵の情報を収集していた。

 

 問題があったのは簪の方だった。一次移行も済ませていない慣れない機体では攻撃を避けきれず、少しずつだがシールドエネルギーを減らしつつあった。

 

 

「な、なんで・・・・こんな事をっ」

 

「男なんかに媚びる売女が専用機なんて生意気なのよっ!」

 

「どうせ生徒会長のお姉さんのコネで貰った専用機でしょ」

 

 

 突然の襲撃に戸惑う簪に襲撃者達は口々に罵声を浴びせた。その言葉は簪が抱える心の傷を抉るには十分なものであった。

 

 

「私は・・・・そんなんじゃないっ・・・いやぁっ」

 

 

 気を散らした簪に容赦の無い射撃が襲い掛かる。弾丸はシールドエネルギーを消耗しただけで何とかなったが、着弾の衝撃までは殺せない。機体の制御に必死な簪の目に涙が浮かぶ。

 

 

(なんで私ばかりこんな目に遭うの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愚かである。

 

 誰が?

 

 簪が?

 

 

 違う。この襲撃者達がである。

 

 相手の倍の数で不意打ちしたにも関わらず、仕留め切れなかった時点で彼我(ひが)の戦力差を理解すべきであった。

 

 

 

 

 

 太郎は余裕を持って敵の攻撃を避けていた。そんな中、簪が押されているようなのでフォローしようかと考えていた。その時、ヴェスパのハイパーセンサーが捉えてしまった。簪の涙を。

 

 一瞬だった。太郎の怒りが爆発するのは。

 

 自分を追って来ていた2機に対して太郎は練習中の特殊機動を使って反撃に移った。左右へ小刻みに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を繰り返しながら2機のラファール・リヴァイヴへと牙を剥く。

 

 瞬時加速の連続使用、連装瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)の応用である。2機のラファール・リヴァイヴの操縦者からは太郎とヴェスパの姿がブレてまともに捕捉出来ない。

 

 あっという間に接近した太郎は鎖に繋がれた棘付き鉄球【怒れる星(レイジングスター)】を相手に叩きつける。瞬時加速(イグニッション・ブースト)と遠心力によって強烈な威力を発揮した【怒れる星(レイジングスター)】はたった2発で1機のラファール・リヴァイヴを行動不能に陥らせた。

 

 残ったラファール・リヴァイヴは【怒れる星(レイジングスター)】の鎖で絡めとり観客席を守るバリアーに容赦なく叩きつけ、止めに地面へと蹴り落とした。

 

 太郎が2機のラファール・リヴァイヴに反撃を開始して撃破するまでの時間は1分にも満たなかった。

 

 太郎は2機のラファール・リヴァイヴを倒すと直ぐに簪の援護へと向かった。2機の打鉄を操縦する2人が仲間のやられた事に気付いた時には既に太郎は目前にまで迫っていた。防御する間も無く1機の打鉄は太郎の飛び蹴りを食らう。瞬時加速(イグニッション・ブースト)の加速がついたヴェスパの足の裏の部分が打鉄のシールドにブチ当たる。その衝撃によって弾き飛ばされた打鉄がアリーナのバリアーに衝突した。そこへ先程と同様の蹴りが襲い掛かる。アリーナのバリアーとヴェスパの脚部に挟まれた打鉄は瞬く間にそのシールドエネルギーを失っていく。そして打鉄の操縦者の頭部を掴み、アリーナのバリアーに押さえつけて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を敢行した。

 

 完全にシールドエネルギーを失った打鉄を太郎はゴミの様に投げ捨てた。

 

 

 

 余りの闘い振りに簪と最後に残った打鉄の操縦者は唖然としていた。

 

 そんな2人に太郎が向き直るととんでもない事を言い始めた。

 

 

「簪さん、残りの1機は貴方が始末して下さい」

 

「えっ・・・・・なんで・・・」

 

「私は貴方の困っている姿を見れば自然と助けたいと思ってしまうでしょう。しかし、貴方ももう立派な専用機持ちだ。いつもいつも私が助けていたのでは、折角手に入れた鬼蜻蜓(オニヤンマ)も泣いてしましますよ。それに大きな力や権利にはそれに見合った義務や責任というものが生じます。私やMSK重工は小さな子供におもちゃを与える感覚で貴方に協力した訳ではありませんよ」

 

 

 太郎の言葉を噛み締め簪は静かに頷いた。

 

 

 

 

 太郎の言う通りである。

 

 ここで何も出来ないような人間に代表候補生などという身分は相応しくない。

 

 太郎の後ろで泣いて震えているだけの人間に専用機など必要ない。

 

 そして、私はこの鬼蜻蜓《オニヤンマ》を手放すつもりは無い。

 

 だから示す。

 

 自分がこのISに相応しい人間であると。

 

 

 

 

 最後の1機である打鉄へと簪は体を向けた。2門のガトリング砲の銃身が鈍い唸り声を上げながら回転し始める。打鉄が慌ててアサルトライフルを簪へと向け撃ち始めたが、1門につき毎分7000発を発射するガトリング砲の弾幕を前にするとそれは豆鉄砲に過ぎなかった。

 

 もし、簪があと10秒長く撃ち続けていれば打鉄の操縦者は蜂の巣どころか原型を留めない肉片になっていただろう。

 

 太郎と簪は動かなくなった襲撃者達を回収してピットへと運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピットでは太郎と簪、それと観客席にいた大城を含めた20人程度の人間が正座させられた4人の襲撃者を囲んでいた。

 

 

「さて、貴方達はどういうつもりで私達を襲ったんですか?」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

 太郎の問いかけに4人は無言だった。その様子を見て太郎は戦闘中に美星が調べた4人の素性から揺さぶりをかけてみることにした。

 

 

「えーと、右端の貴方は川島影子、3年生ですね。もう3年生なのにこんな事を仕出かして退学になったら今までの学園生活が全て無駄になりますね」

 

「・・・・・・っ」

 

 

 川島は悔しげな表情を浮かべるが何も喋ろうとはしなかった。このまま質問を続けても何も答えないだろうと考えて太郎は川島の隣に正座している福瀬かほに話を振ってみた。

 

 

「ねえ、福瀬かほさん。貴方も3年ですよね。どうするんですか?しかも、貴方の母親は参議院の福瀬議員ですよね。娘がISを使って襲撃事件を起こしたとマスコミに知られたら・・・・・どうなるんでしょうね」

 

 

 太郎の言葉に福瀬は震え始めた。やっと自分のした事の重大性に少しは気付いたようだ。

 

 

「わっ、わた、私は悪くない。おとっ、男であるアンタなんかが学園にいるのが悪いのよ」

 

 

 震えながら福瀬が言った何の理も無い言い訳にもなってない様な言葉を聞いて、その場にいた者達は襲撃者の正体が何者なのか理解した。今の世の中では珍しくも無い女性至上主義者達である。ただISに乗れるというだけで封建時代の暴虐な貴族の如く振舞う精○異常者である。

 

 自分達を取り囲んでいる人間が、自分達の事を蔑んだ目で見ている事も気付かず福瀬は必死に下らない戯言を言い続ける。

 

 

「そ、そうよ。悪いのはアンタ達よ!アンタ達が訓練中の私達に襲い掛かって来たのよ。壊された私達の乗っていた訓練機が証拠よ」

 

 

 厚顔無恥とは正にこの者の事を言う。余りの発言に太郎も呆れ返ってしまう。

 

 

「各アリーナには様々な角度からアリーナ内の状況を確認できるようにカメラが設置されています。当然、貴方達が私や簪さんに襲い掛かったところも記録されていますよ」

 

 

 太郎は冷静に告げた。言い逃れのしようは無いと。それでも往生際の悪い福瀬は自分達を取り囲んでいる者達の中でも小柄な少女に縋り付いた。

 

 

「ねえ、貴方達が証言してよ。この男が悪いって。ねえ、一緒にこんな男は学園から追い出してしまいましょうよ!」

 

 

 必死な福瀬だったが、縋り付かれた小柄な少女の目は冷たいものだった。小柄な少女は福瀬の手を払いのけようとするが福瀬は手を放そうとはしなかった。小柄な少女はベルトに装着した腰袋からモンキーレンチを引き抜き、自分の制服を掴んでいる福瀬の手の甲を軽く叩いた。

 

 

「ひいっ・・・・何するのよ!痛いじゃないっ!こんな事をして傷害よ。この犯罪者っ!!!」

 

 

 自分の事を棚に上げ、小柄な少女を怒鳴りつける福瀬だったが、その頭を力強い掌が掴んで持ち上げた。

 

 

「いやああああ!!!殺される!!!!」

 

「月島先輩に汚い手で触れないでください」

 

 

 悲鳴を上げる福瀬をアイアンクローで持ち上げていた秋野 蛍はそれだけ言って福瀬を下ろした。下ろされた福瀬は性懲りも無く秋野や月島に対して怒鳴っていたが彼女達の間に太郎が割って入った。福瀬は太郎を間近で見るとアリーナで地面に叩き落とされた時の恐怖が蘇るのか震えながら顔を逸らした。すると月島が馬鹿にしたように福瀬達に死刑宣告をする。

 

 

「今日、この第2アリーナは太郎さんとその仲間によって予約を埋めているの。つまり貴方達とそこにいる更識さんの専用機の担当技術者以外はみんな太郎さんの仲間なのよ」

 

 

 福瀬は絶望したような表情になったが鬼蜻蜓の担当技術者である大城を見ると「こんな男までIS学園に入らせるなんて」と吐き捨てた。それを見ていた大城は肩をすくめた。

 

 

「ドーやら頭が悪いミタイデース。ちょっと改造してあげまショウカ?」

 

「それはまた今度にしてください。この子達の処分はこちらにやっておきます」

 

 

 不穏な空気を漂わせる大城を太郎が止めた。しかし、それは福瀬達にとってそれが何の救いにもならないという事を彼女達はこの後、痛いほど思い知る事になる。

 

 今のIS学園には絶対に怒らせてはいけない人間が3人いる。1人は当然、織斑 千冬である。そして、残りの2人は───────────

 

 




今日、R-18の話を書こうと思っていたんですがこの話が長くなりすぎて時間がありませんでした。

明日こそR-18を書く!



お読みいただきありがとうございます。

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