ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

55 / 136
第55話 新たな力、忍び寄る影

 簪は朝からそわそわしていた。それもそのはず、今日はついに簪の専用機が完成する予定なのだ。未完成だった【打鉄弐式】がMSK重工の全面的な協力の下、この短期間で完成に漕ぎ着けたのである。

 

 放課後になると簪は足早に第2整備室へと急いだ。もう待ちきれないといった様子である。これまでの経緯を考えれば、それも仕方が無い事だろう。

 

 簪の専用機・打鉄弐式は当初、倉持技研が開発を進めていた。しかし、倉持技研は突然現れた世界初の男性IS操縦者である一夏の白式を優先し、打鉄弐式の開発はほぼ凍結状態になった。簪は未完成の打鉄弐式を引き取り1人で開発を進める事にしたが太郎と知り合うまでは機材、部品、経験、人手などが不足している絶望的な状況であった。簪自身、完成の目処も立たない状況に疲弊していたが、どうしても1人でやろうと意固地になって諦める事すら出来なくなっていた。

 

 そんな時に現れたのが太郎であった。

 

 自分と同じ専用機が未完成品であるのにも関わらず学年でもトップクラスの実績を誇る太郎に諭され、簪は1人で打鉄弐式を組み立てる事を止めてMSK重工に協力してもらう事になった。

 

 一時は完成の目処も立たない状況に絶望しかけた簪である。それが今では専用機の完成は目前である。少し位、そわそわしても彼女を責められないだろう。

 

 第2整備室に到着すると、そこには既に太郎とMSK重工の担当者、そして簪の【専用機】が簪の到着を待っていた。

 

 

「あ、あの、私・・・・遅かった・・・ですか?」

 

「いえいえ、私の方は最後の授業が課題を終わらせた者から抜けて良いものだったので少し早めに来れただけです」

 

 

 恐縮した様な簪に太郎は軽く言った。MSK重工の担当者である大城(おおしろ) (たけし)も太郎の言葉に頷き「気にしなくてもいいデース」と簪に言った。

 

 大城 武は名前こそ完全な日本人であったがアメリカ人とのハーフであり、幼少期をアメリカで過ごした為なのか日本語を喋ると独特のイントネーションがあった。年齢は52歳でものの見事に側頭部の毛を残して禿げあがっていた。本来であれば役員になっていても可笑しくない実績を持っているのだが【生涯現役技術者】という信念を持っており、未だに現場から離れないMSK重工でも屈指の技術者である。その割にはノリが軽いので現場でも親しみ易いと評判である。その高い実力と親しみ易さから今回の担当に抜擢された人物である。

 

 

「そんなことより見てくだサイ。ドーデスか。完璧な出来デショー」

 

 

 大城は完成した簪の専用機を指して誇らしげであった。

 

 

「こ、これが・・・私の・・・専用機」

 

 

 それは元の【打鉄弐式】とは大幅に見た目が変わっていた。先ず目に付くのが背部に付いている大きな4枚の(はね)である。次に頭部にある昆虫の複眼の様に見える高精度な複合センサー群が特徴的だった。全体像は既存のISに比べ大型な物となっている。

 

 

「そうデース。これがアナタの専用機【試作機 鬼蜻蜓(オニヤンマ)一型】デス。さあ、装着してみてクダサイ」

 

 

 簪が鬼蜻蜓に近付き1度待機状態にする。鬼蜻蜓の待機状態はベルトだった。バックルは黒塗りで金色の蒔絵で小さな蜻蛉(とんぼ)の意匠があしらわれていた。簪は制服のベルトとそれを交換し、鬼蜻蜓を展開・装着した。

 

 

「ドーですか?何か問題はありマセンカ?」

 

「はい、大丈夫・・・です。この機体・・・センサー類からの情報量が・・・・凄い」

 

「フフフッ、そーでショウ。それがこの機体の売りの1つデース」

 

 

 簪の驚きの声に大城は嬉しそうに鬼蜻蜓の機体特性について語り始めた。

 

 昆虫の複眼の様に見える高精度な複合センサー群は既存のハイパーセンサーをさらに高性能化させており、高い索敵能力だけでなく敵の動作や兵装に対する分析能力も高い。

 

 航続距離の長さもトップクラスであり、可変型の4つの翅によって近距離戦における機動性も確保されている。

 

 基本兵装は元々搭載予定であった未完成のマルチロックオン・システムをMSK重工の技術によって改変・完成させられた【狐火(きつねび)】と荷電粒子砲を取り外して代わりに搭載された2門のガトリング砲【雹嵐(ひょうらん)】である。これに加えて元々装備されていた近接武器である超振動薙刀【夢現】がそのまま搭載されている。

 

 鬼蜻蜓はあらゆる距離での戦闘が可能であるが基本コンセプトは遠距離で相手を先に捕捉し、敵の射程外から6機のミサイルポッドより発射される多機能ミサイル【狐火】で一方的に攻撃する事にある。

 

 航続距離の長さ、高性能なセンサー群のおかげで少数の機体で広範囲の防空圏を維持出来るというメリットもある。

 

 この機体こそMSK重工が次期主力量産機を目指して作った試作1号機である。

 

 

 

 大城が大きな身振り手振りを交えた説明をしている間、簪は目を輝かせてその話を聞いていた。簪は元々ISの知識量で他のIS学園の生徒を上回っていたが、打鉄弐式を単独で組み立てる為、さらにそれが向上していた。それが高じて若干ISや兵器に関してオタクじみてきていた。

 

 このまま放置していれば延々と話が続きそうだったので太郎は大城の説明を止める事にした。

 

 

「お二人さん、話も良いですがそろそろ実際に動かしてみませんか?」

 

「オオ、ソーデスね。色々なデータを取りたいデスし、場合によっては微調整しないとイケナイ部分もあるかもシレマセン」

 

 

 太郎の提案に大城は直ぐに賛同した。実際に動かしてみないと分からない事もある。何より自分が鬼蜻蜓の飛んでいる姿をみたい。その為、大城は先にアリーナの観客席へと向かった。

 

 まだ簪は太郎の提案に対して何も言っていなかったのだが・・・・・。

 

 太郎と簪は大城の周りが見えなくなる程に興奮した様子を見て自然と顔を見合わせ笑ってしまった。

 

 

 

 

 そんな2人の姿を見ている者達がいる事に簪は気付いていなかった。

 

 

 

 




簪ちゃんの専用機紹介回です。

久しぶりの真面目なお話です。こういうのは久しぶりなのでどんなノリで書いたら良いのかよく分からないといった感じです。



後書きまで読んでいただき、ありがとうござします。

次の投稿は月曜にはしたいと思います。

なんか急に仕事が入ったんですけど・・・・・世はGWだぜ!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。