ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第54話 欲望のオークション 2

 一品目から激しい競り合いが繰り広げられた太郎主催のオークション。見事、身を切り売りする様な荒業で【お宝】を得たラウラにホール中から惜しみない拍手が送られ、【お宝】である空き缶が渡された。簀巻き状態のラウラがトコトコと自分の席に帰っていくと太郎は次の【お宝】の紹介へと移った。

 

 

「では、次の【お宝】を紹介しましょう。これも出品者は私です。その次も私、その次も私です。そして、その次も私です」

 

「「きゃあああああああ!!!!」」

 

 

 太郎の怒涛の出品ラッシュに参加者達のテンションは鰻登りである。太郎が千冬の部屋から持ち出した大量のお宝達を前に重度の織斑千冬狂い達はお金などの対価を惜しまなかった。

 

 タオル、枕カバー、ワイシャツ数枚、ジャージ上下セットなどの【お宝】達に合計で30万円の値がついた。それと落札者の私物数点が対価の一部として太郎の物となった。

 

 太郎が得た私物数点の内訳は落札者の身に着けていた物だった。シュシュやイヤーカフス、そしてある者は履いていた靴を差し出した。裸足になってでも欲しい物を得る。ラウラの示した覚悟に他の参加者達も思う所があったのだろう。靴を差し出したのは四十院 神楽であった。未だ、その場でパンツを差し出す程の覚悟は無い様だが彼女なりの成長を早速見せていた。

 

 白熱した太郎の出品ラッシュが終わり、次の出品者は別の人間となった。太郎はそのままステージ上に残り司会進行を務める。

 

 ステージ上に次の出品者が上がる。それは異様な姿だった。身長は太郎より小さいが180cmに近く、筋肉によって二の腕は他の女子達の足位の太さまで膨張している。服装は体操服である。しかし、サイズが合っていないのか上も下も今にも破けそうな位にピッチピチである。下は赤いブルマなのだが大きな体との比率で、まるで際どいパンツを穿いているみたいに見える。そして、体操服のシャツの方には胸に大きな名札が付いており、そこには【ファン】と書かれていた。

 

 

「それでは次の出品者はこの方です。1年2組、秋野 蛍さんです」

 

 

 太郎の紹介に蛍は深々と頭を下げた。

 

 

「秋野さん、出品物の紹介をお願いします」

 

 

 太郎はそう言って予備のマイクを蛍に渡した。

 

 

「私の【お宝】はこちらです。我がクラス代表、凰 鈴音ちゃんの使用済み歯ブラシです」

 

 

 蛍が透明なビニール袋を掲げる。その中には柄の赤い歯ブラシが入っていた。これは蛍が鈴のルームメイトであるティナ・ハミルトンへ定期的にお菓子を供与する代わりに得た物である。蛍が鈴の使っている物と全く同じ物を複数用意し、ティナにすり替えて貰っているのだ。その為、鈴は自分の使っている歯ブラシの毛先が全く広がらず長持ちしている事を不思議がっていた。しかし、自分の歯ブラシがすり替えられているなど夢にも思わない鈴は「流石に日本製は違うわねー」と最近では暢気に納得していた。

 

 この【お宝】も希少な物ではあるが千冬と比べると鈴の知名度は低く、競りは低調に終わるかと思われた。しかし、ある2人が何時まで経っても競りから降りない。5万円に乗った辺りから参加者達の間でざわめきが起こり始めた。

 

 

「5万5千円で」

 

「それじゃあ、私は6万円よ。・・・・・太郎さん、そろそろ諦めたらどうです?」

 

「こちらは7万円です。貴方こそ諦めてはいかがですか楯無さん」

 

 

 太郎と楯無であった。2人共、金銭的にはかなり余裕がある為に勝負がなかなかつかない。そこで楯無は勝負に出た。

 

 

「私は秘蔵の画像データを出すわ。シャルちゃん、これをスクリーンに映してちょうだい!」

 

 

 楯無はステージ横にいたシャルにメモリーカードを投げ渡した。シャルはそれを手に多目的ホールの制御室へと向かった。しばらくするとステージの天井付近から巨大なスクリーンが下りて来て、そこに複数の画像が映し出された。ISスーツ姿の小柄な生徒達が映っていた。その画像には太郎も見覚えがあった。ミステリアス・レイディが収集した画像で先日、美星によって仲間達に暴露された盗撮画像である。

 

 

「す、素晴らしいです・・・・・」

 

 

 スクリーンに映し出された画像を見た蛍は感嘆の声をあげた。

 

 鈴の歯ブラシを収集している事からも窺えるが、恐らく蛍は小柄な女性が好みなのだろう。太郎は苦境に立たされた。現状、太郎の手札にこれらの画像と張り合える【丁度良い】ジャンルとレベルの物が無かったのだ。

 

 つい先程、手に入れたラウラの脱ぎ立てパンツなら蛍の嗜好には合うと太郎は思う。しかし、鈴の歯ブラシとラウラの脱ぎ立てパンツでは太郎にとってはパンツの方が高価値だった為に対価として出す事は出来ない。

 

 画像に関しても太郎は鈴の入浴しているところを撮った画像を持っていたが、これはこの場では出せない物だった。余程信頼出来る相手で無い限りこの画像は見せられない。バレれば一発で太郎の立場が吹っ飛ぶ危険物である。

 

 太郎が今持っている手札に蛍に出せる有効な物は無かった。

 

 

 

 

 そう直接的な意味合いでは。

 

 

 

 

 

「この中に身長150cm未満のソックスハンターの方はいらっしゃいませんかー!!!」

 

 

 太郎は声を張り上げた。すると少女が一人手を挙げた。小柄で髪の長い、どこかアンティークドールの様な美しくも冷たい印象を受ける少女だった。少女は無言でステージ上に上がり、太郎の前に立った。

 

 

 

「呼びかけに応えてくれてありがとうございます。貴方の名前を伺っても?」

 

「はい、私は2年の整備科所属の月島 小春です」

 

 

 太郎の問い掛けに答えた小春の声は見た目通り可憐なものだった。

 

 

「早速ですが、私の履いているソックスを差し上げますから月島さんは何か今、身に着けている物を秋野さんに渡して貰えますか?」

 

 

 太郎のやろうとしていた事は三角トレードだった。太郎がソックスを小春に渡し、小春が身に着けている物を蛍に渡す。そして、最後に蛍が歯ブラシを太郎に渡すという事だ。

 

 

「はい、それで構いません。山田さんの生ソックスは貴重なので私としてもありがたいです。それでは私は今着けているカチューシャを渡しましょう。秋野さん、私のカチューシャでは不足ですか?」

 

 

 小春に問い掛けられた蛍はレスラーの様な太い首を横へブンブン振って否定した。

 

 

「ふ、ふ、不足なんてとんでもないです。月島先輩は学園でも5本の指に入るロリです。その普段身に着けている物が手に入るなんて・・・・・・私、感激ですっ!!!!」

 

 

 蛍はその巨体で小春に縋りつきそうな位に感激していた。その様子を見ていた太郎は勝利を確信した。

 

 

「楯無さん、どうやら勝負ありのようですね。私の勝ちです」

 

「ぐぬぬ・・・・・。まさか月島さんがソックスハンターだったなんて・・・・・・」

 

 

 楯無は鈴の歯ブラシが手に入らない事に唇を噛み締めて悔しがった。それと小春のカチューシャに関しても羨ましそうに眺めていた。楯無は小春の事を良く知っていた。月島 小春と言えばは整備科2年でトップクラスの実力を持ち、楯無と仲の良い黛 薫子とは常に学年首席を争う優等生だった。しかし、楯無が小春の事を良く知っているのは他の理由からだった。

 

 単純明快に小春の見た目が楯無の性的な興奮を覚えるものだった為に以前からアプローチをかけていたのだ。これまでも楯無は何度か過度なスキンシップを迫り、モンキーレンチで殴られている。そんなガードの固い小春の私物を思いがけずも手に入れた蛍を恨めしそうに楯無は見詰めていた。

 

 

「楯無さん、後輩をそんな目で見ないで上げてください。萎縮していましますよ」

 

 

 その様子を見かねて太郎が楯無に声をかけた。

 

 

「こうやって繋がりが出来れば、今後個人的に交渉する事も出来るでしょう。ここは切り換えてください」

 

「ううう・・・・・もういいですよ。私はこんな事では終わりませんよ!」

 

 

 打たれ強いのは楯無の特徴の一つだった。

 

 決着は付いた。太郎達は【お宝】の交換を済ませ、次の出品者の番へと進行する。

 

 

「時間も時間なので今回は次の出品者が最後になります。えーと・・・・・次の出品者は」

 

「私とシャルちゃんよ!!!」

 

 

 ステージ上に残っていた楯無といつの間にか帰ってきていたシャルが手を挙げた。マイクを太郎から受け取った楯無はステージの中心に移動した。

 

 

「自己紹介はしなくても私達の事は皆知っていると思うけど、一応しておくわね。私は生徒会長の更識 楯無で・・・・」

 

「僕は1年1組のシャルロット・デュノアです」

 

「私達の出品はこれよっ!!!」

 

 

 楯無がそう言ってシャルの方を指差す。シャルは【お宝】を参加者達から見易いように掲げた。

 

 それはISスーツだった。

 

 

「これは皆お馴染み、こちらの山田 太郎さん愛用のISスーツ【金玉(かなたま)】です。使い込まれて捨てられそうになった所をシャルちゃんが回収した逸品よ!」

 

 

 太郎愛用の金井玉島(かないたましま)製のISスーツである。このメーカーのISスーツは略して金玉と呼ばれ一部のIS操縦者からはその装着感の良さからまるで何も着ていないかのようだと称されている。太郎自身、廃棄したISスーツが回収されているとは想像もしていなかった様だ。

 

 競りは一気に白熱する。世界でたった2人しかいない男性IS操縦者が使い込んだISスーツである。これ程、希少価値の高い品はなかなか無い。

 

 

「10万円!」

 

「11万円よっ!」

 

「こっちは13万円」

 

「話にならないです。私は20万円払います」

 

 

 太郎の希少価値も高いが、そもそもISスーツは安い物ではない。しかも太郎愛用の金玉は高級志向の商品が多く、その上太郎のISスーツは最新技術の粋を集めたオーダーメイド品である。10万円やそこらでは元の価格にすら届いていなかった。正直、一般学生には荷の重い品であった。

 

 いよいよ誰か自らの下着を差し出しても欲しがる人間が出て来るかという時、桁違いな人間が現れた。

 

 

「貴方達にそれは相応しくありませんわ。100万円、わたくしはそれに100万円出しますわ」

 

 

 派手なドレスを着た仮面の淑女がステージ向かって歩み出た。仮面は目元しか隠しておらず、喋り方も特徴的なので太郎や楯無達は一発で彼女が何者かは分かった。

 

 

「あれ?セシリアって呼ばれてなかったんじゃ・・・・・・?」

 

「わたくしの事を除け者にして酷いですわっ!!!」

 

 

 不思議そうに聞いたシャルの言葉をセシリアは無視して怒りを露にする。それに対して太郎は困った表情で弁解する。

 

 

「いえ、セシリアさんはこういった事に興味が無いかと思ったので誘わなかったのです」

 

「・・・・・・確かにこんな事の何が面白いかは分かりませんが、太郎さんのISスーツならわたくしだって欲しいですわっ!!!」

 

「私も自分のISスーツが出品されるなんて知らなかったんですよ。まあ、機嫌を直してくださいよ。これ以上競る人もいないようなので、これは貴方の物ですし」

 

 

 太郎に宥められてセシリアは少し落ち着いた。そうすると次にセシリアはどうしても気になっってしまう。間近で裸の太郎がいる事に。顔を背けるがどうしても目で太郎の裸をチラチラの追ってしまう。

 

 

「あー、セシリアちゃんがいやらしい目で太郎さんの事を見てるー」

 

 

 それを見逃す楯無ではなかった。すかさず茶化す。セシリアの顔が真っ赤になる。

 

 

「みみみみ、見てませんわ!!!」

 

 

 焦りながら否定するも、それを信じる者はここには誰一人としていなかった。

 

 

「見たければ見ても良いですよ。なんだったら触っても良いですよ。今日の最高落札者でもあるわけですしサービスです」

 

「わわわわ触るって、そんな・・わたくし出来ま・・わ」

 

 

 太郎の言葉にセシリアは戸惑ってしまい、最終的に何を言っているのか良く分からなかった。太郎は「まあ、後でゆっくり聞けば良いか」と考え、とりあえずオークションを終了させる事にした。

 

 

「皆さん、今日のオークションは終了となります。最後に今日の最高金額が出て良かったです。これからもこういった催しが出来る様に頑張るので奮って参加をお願いします」

 

 

「やったああああ」

 

「次、早くうううう」

 

「太郎さん、サイコー!!!」

 

 

 

 

 太郎の宣言に参加者達から歓声が上がる。また次がある。日陰に潜んできた淑女達にとって、このような派手で大きな催しは珍しい。次も絶対参加しようと周りの仲間達と口々に言い合った。

 

 

 第1回IS学園・紳士淑女オークションは終了した。今回の馬鹿騒ぎで山田 太郎はより多くの淑女達と親交を深め、その支持を得る事に成功した。ここにIS学園でも最大の勢力が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 




「セシリアはカーニバルに参加出来ず」

そう書きましたが、オークションに参加しないとは言っていないです。


まあ、出すつもりは最初なかったんですが急に出したくなったので出しました(意味深)


読んでいただきありがとうございます。

次は金曜に投稿します。
ちょっと真面目な話になると思います。(あくまで私の感覚的にはですけど

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