真っ暗な多目的ホール、突然6つのスポットライトが点灯され多目的ホールの闇が切り裂かれる。6つの光の筋がホール中を暴れ回り、ステージ中央で重なり合って止まった。そこで照らし出されたのはIS学園で唯一無二の紳士、山田太郎であった。
太郎は先程までと同じ格好で頭にブラ、顔にパンツを被り、首から下はネクタイとソックス、股○にペ○○リング、そして靴底の薄いランニングシューズを履いている半裸状態だった。唯一違う所はその手にマイクを持っている事だった。
半裸状態でマイクを持った太郎はホールを見回し、淑女達が自分に注目している事を確認した。太郎は握っていたマイクを口元へと近づけた。
「淑女の皆さん、これからが本番ですが気合はもう入っていますか?」
「「きゃあああああああああああああ!!!」」
太郎の呼び掛けに会場から黄色い声が上がる。太郎はその歓声をしばらく聞いていたが話を進める為に両手の掌を床へ向けて上下させ落ち着くようにとジェスチャーをした。テンションが上がっている淑女達はそれでもなかなか落ち着かなかったが太郎は不快感一つ見せず、むしろその盛り上がり具合を嬉しそうに眺めていた。
少しして淑女達が落ち着きを取り戻した事を確認してから太郎は話を再開する。
「今回のオークションにおける特別ルールを先に説明しておきます。競りは基本的に金銭によって行いますが、金銭的に余裕の無い人は【物】を対価として提示する事が出来ます。例えば提示された最高金額が1万円だった場合、出品者から見て1万円以上の価値がある物を提示する事が出来ればその人の勝ちという事です。当然、金銭と【物】を組み合わせて提示する事も可能です」
「「おおおおおお!!!」」
太郎の言った特別ルールに場は再度騒がしくなる。参加者達は自らの【お宝】を持参している。このルールであれば手持ちのお金があまり無くても、直ぐに競り合いに参加出来る余地が生まれる。経済力で劣る生徒達にも勝機が出てくる。今まで貴重な物に関しては落札を諦めていた一部の参加者達の目にも闘志が漲り始める。
太郎は特別ルールを説明し終わると直ぐにオークションの開始を宣言する。
「では早速オークションを始めましょう。トップバッターはこの私、山田 太郎が務めさせていただきます」
太郎がそう言った後、ステージ横に待機しているシャルに合図をする。シャルはお宝の載った台車を押してステージの中央にいる太郎の元へと進み出た。
「一品目はこちら、織斑先生の部屋から回収したビールの空き缶です。なんと飲み口の部分にうっすらと口紅の跡が残っています。聡明な皆さんならこの缶の価値が分かるでしょう。では最低価格100円から開始します」
太郎が競りの開始を告げると淑女達が我先にと手を挙げる。
「500」
「こっちは1000」
「1800よ」
本来であれば資源ゴミとして二束三文で業者に回収される物が、商品として店頭に並んでいた時よりも高価になっていたが誰もそれをおかしいとは思わなかった。織斑 千冬が口を付けた空き缶にはそれだけの価値がある。
IS学園に所属する者にとって・・・・・いや、ISに関わる者にとって織斑 千冬という人間は大なり小なり特別な存在だった。特に生徒達は千冬の現役時代を今より幼い頃に見ており、一種のヒーローのように憧れている。その唇を間接的とはいえ手に入れる事が出来るのならば、この程度の値段は大したものではない。
「ええい、3000ならどう!?」
「まだまだ、こっちは3300円よ!」
「私は3350です」
誰もが一歩も引かない状態が続いていたが、その狂騒を嘲笑う者がいた。
「・・・・・・・くっくっく、やはりこの学園の者達は甘い」
熱い競りが繰り広げられる中、この集まりの中で最も千冬をヒーローとして崇拝する者がステージの方へと歩み出る。巻かれた状態の布団がトコトコと太郎の元へと近付いて来た。千冬の布団で
「1000ユーロだ。私は1000ユーロ払おう」
簀巻き状態である為、ラウラの声はこもった様になっていたが全員に聞こえた。
場は騒然となる。
日本円に換算して軽く10万円を超えている。千円台で競っている中にいきなりこの金額提示は場の流れを破壊する行いであった。しかし、当のラウラにはそんな事は気にかける程の事ではなかった。元々、ラウラには場の空気や流れなどほとんど読めないし気にしたりもしないので関係なかった。
金額に関しても問題無かった。ラウラは現役の軍人であり、階級も少佐である。その上、物欲や趣味なども無く給料をほとんど使う事の無いラウラには一般学生は当然として学園職員などの社会人を相手取っても圧倒する金銭的余裕がある。
流石にラウラの提示した金額に対抗出来る者はいないのでは、という雰囲気になってきていたが【お宝】を諦めきれない者が現れた。
「私は15万円出しましょう」
1年1組所属の
「それと国語担当である平本先生の使用済みストローを合わせて提示します」
ストローをハンカチで包んでいるようだ。国語担当の平本先生と言えば物腰の柔らかさと授業の分かり易さで学園内でも人気の先生である。そして、山田先生に次ぐ巨乳でもある。神楽の提示した【お宝】は太郎から見てもなかなか魅力のある物だった。
参加者達はここからさらに激しい競り合いになる事を予想して固唾を呑んで見守っていたが、ラウラはその予想を軽々と上回った。
「甘いと言っている。貴様らには覚悟が足りん!」
ラウラは神楽だけでなく他の淑女達も一喝し、布団の中で何かもぞもぞしていた。しばらくすると布団から突き出ている足の足首の辺りに丸まった布がすとんと落ちて来た。
パンツである。
今、この場で脱いだパンツである。
「身を切る覚悟も無い者が私と競おうとは片腹痛い!」
ラウラの言動に圧倒され神楽は膝を付いてしまった。ラウラの言う通りである。神楽にはラウラ程の覚悟が無かった。
今、この場でパンツを脱いで太郎に渡せるか?
無理である。
自分には名家の者としての立場がある。
いくら相手が太郎と言えど自らのパンツを付き合っている訳でもない相手に渡すなどという、そんな売女の様な真似は出来ない。
神楽は自らの家柄に誇りを持っていた。しかし、その誇りが邪魔をして今敗北しようとしていた。
いや、違う。
そんな事はただの言い訳である。ラウラの言う「身を切る覚悟」とはそんな立場や誇りなどと言う小さな事ではない。ラウラはそれらを含めた「自分」というものを例え傷つけても「欲するモノを得る」という事である。その上での覚悟なのだ。
これはただの競り合いに負けただけの話ではない。人としての敗北である。
神楽は悔し涙を流した。神楽にとってこれ程までに悔しい敗北は初めてだった。
立ち上がれない神楽の肩に太郎が手を置いた。
「四十院さん、オークションも貴方の学園生活も未だ始まったばかりですよ。ここで挫折したまま淑女としての道を終えるのですか?」
太郎の問いに神楽は首を横に振った。
「それなら立ちなさい。立って次に備えなさい。つまずいても立ち上がれる者が真に尊いモノを得られるのです」
太郎の言葉に神楽は顔を上げた。そう未だ終わりではない。今は未だ未熟であるがいつか立派な淑女になると神楽は胸に誓い立ち上がった。
オークションは一品目から10万円を超える大台に達し、その上脱ぎ立てパンツまで飛び出した。淑女達はこの後の波乱を予感し緊張と興奮に体を震わせていた。
太郎「諦めたらそこで試合終了ですよ」
読んでいただきありがとうございます。
次は月曜か火曜に更新します。
フェイト見ていて思ったのですが太郎さんが召喚されたらクラスはなんだろうとか考えると、順当だとやっぱりライダーなのかな。IS無しならアサシンでも・・・・とか考え出すと妄想が膨らみます。