ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第49話 トレジャーハント 1

 

 

 

 ある日、太郎が食堂で晩御飯を食べて寮の自室に帰って来ると隣の寮長室、つまり千冬の部屋の前で千冬と一夏が押し問答をしていた。

 

 

「なんで部屋の中を見せてくれないんだ。不都合な事でもあるのかよ」

 

「が、学園では敬語を使えっ、敬語を!と、とにかくもうお前は自分の部屋に帰れ!」

 

 

 本来、千冬>一夏という絶対的な力関係が確立している2人なのだが、今日は千冬の方が押されているように見える。興味を持った太郎は事情を少し聞いてみる事にした。

 

 

「どうしたんですか。お二人が言い争うなんて珍しい」

 

「あっ、太郎さん。太郎さんからも言って下さいよ!」

 

 

 太郎が声を掛けると一夏は良い所に来てくれたと太郎に助力を頼んできたが、太郎からすれば事情も分からないのに何を言えば良いのか分からなかった。

 

 

「一夏さん、どんな事情なのか教えてもらわないと・・・・・訳が分かりませんよ」

 

千冬姉(ちふゆねえ)が部屋の中を見せてくれないんだよ」

 

「お前らが人の部屋を気にする必要は無い。さっさと自分の部屋に帰れ!」

 

 

 一夏の短い説明では太郎も状況がイマイチ分からない。それに千冬が横から怒鳴るので話が進め辛い。

 

 

「お二人とも、もう少し落ち着いてください。特に織斑先生、何をそんなに焦っているんですか。貴方らしくもない。一夏も何故そんなに織斑先生の部屋の中を見たがっているんですか?」

 

 

 とにかく落ち着かせないと話にならないと太郎は判断して、2人の間に割って入った。そして、先ずは一夏の話を聞くことにした。千冬が嫌そうな表情をしていたが一夏は気にせず事情を話し始めた。

 

 

千冬姉(ちふゆねえ)ってしっかりしてそうに見えるけど家事関係は壊滅的なんだよ。家でも家事は俺が全部やっていたし。だから寮ではちゃんとやっているのか確認しようと思ったんだ。それなのに、頑なに部屋の中を見せようとしないからさ。もしかして相当酷い状態なんじゃないかって疑っているんだ」

 

「そうなんですか?」

 

 

 太郎は一夏の話に意外感を覚え、直接千冬に聞いてみた。

 

 

「ちゃ、ちゃんとやっているっ!」

 

 

 普段の姿からは想像出来ない程、目線もキョロキョロとして落ち着きの無い千冬を見て太郎も一夏同様の感想を抱いた。部屋の中が相当酷い状態でないとここまで千冬も隠そうとはしないだろう。太郎は千冬の部屋である寮長室の扉の隙間にそっと鼻を近づけ嗅いでみた。

 

 

「・・・・・ん?」

 

 

 太郎は眉を顰めた。太郎の鋭敏な嗅覚が異常を訴えた。

 

 

「・・・・・・・言いにくいのですが・・・・・生ゴミの臭いがしますよ」

 

 

 太郎の言葉を聞いて千冬は顔をそらし、一夏の方は「やっぱりなー」と呟いていた。

 

 

「織斑先生、そろそろ観念したらどうですか。私と一夏はもう貴方の部屋が酷い状態になっていると確信を持っています。もう誤魔化せないですよ」

 

「私の部屋の状態などお前達には関係無いだろ!」

 

「関係ならあります。私の部屋は隣なんですよ。隣の部屋がゴミ置き場状態ではこれからの季節、大変じゃないですか」

 

 

 千冬の部屋の正確な状態は未だ分からないが、生ゴミの臭いがするという事はこれから夏に向かっていけばより酷い状態になる事は目に見えている。千冬も太郎の意見にぐうの音も出ないといった様子である。

 

 

「・・・・・・分かった。中を見せよう。但し、ここで見たものを他所で喋ったらどうなるか分かっているな」

 

 

 観念した千冬は扉の鍵を開けながら2人にありきたりな脅し文句を言っていた。

 

 扉がゆっくりと開かれた。そこで太郎と一夏が見たものは──────────────

 

 

「これは酷いですね・・・・・・」

 

「うわぁぁー・・・・・・床が見えない」

 

 

 太郎と一夏はあまりの光景に唖然としていた。一夏の言う通り先ず床が見えない事に太郎は驚いた。

 

 脱ぎ捨てられた服、使用済みと思われるタオル、缶ビールの山、食べ残されたツマミの残骸、雑誌などが所狭しと散乱している。

 

 

「これ・・・・・・どうするんですか?」

 

「片付けるしかないでしょう」

 

 

 太郎らしくもない弱弱しい疑問の言葉に一夏がそう答えた。

 

 

「・・・・・・はあ。そうですね。手分けしてやりましょう」

 

「待て待て、勝手に人の部屋に入るな。デリカシーという物がお前には無いのか」

 

 

 大きな溜息を吐いた後、部屋を片付け始めようとした太郎を千冬が止めた。それに対して一夏は呆れた。

 

 

「こんな部屋でデリカシーって・・・・・」

 

「お前は黙っていろっ!」

 

 

 一夏を怒鳴りつける千冬だったがいつものキレはない。自分でも偉そうな事を言える状態ではないと理解しているのだろう。

 

 

「織斑先生、ちなみに御自分だけで部屋を片付けられますか?もし片付けられるのならば、この場は引いても良いですよ。その代わり来週の頭にちゃんと片付けられているかどうか確認します」

 

 

 そんな千冬に対して太郎は譲歩案を出した。しかし、千冬の表情は優れない。

 

 

「太郎さん、それは無理ってもんだぜ。1人で片付けられるならこんな事にはなってないって」

 

 

 一夏が馬鹿にしたように言った。普段の千冬ならとっくの昔に鉄拳制裁だっただろうが、今は立場が逆転していた。珍しい悔しげな表情の千冬を太郎は秘かにニヤニヤと観察していた。それと同時に太郎はこの展開に胸を期待で膨らませていた。

 

 

 

 

(美星さん、ここは一見ゴミの山ですが・・・・・もしかするとお宝が手に入るかもしれませんよ)

 

『本当にゴミの山にしか見えませんが、織斑 千冬のゴミならマスター以外にも欲しがる人は多いかもしれませんね』

 

 

 美星の言う通り見る人が見ればお宝の山であった。

 

 欲望渦巻く千冬の部屋の片付けが幕を開ける。それは正に戦いである。

 

 

 




長くなりそうなので分割しました。

次回、太郎はお宝をゲット出来るのかっ!?

次の更新は明日になります。



お読みいただきありがとうございます。

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