ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第45話 ドイツの科学技術は世界一ィィィ!

 ドイツ軍中将、フォルカー・マテウスはある部下からの具申書に目を通していた。とても緊急を要する案件だと聞いて急いで読んでみると、その内容は確かに緊急かつ重要な案件であった。

 

 数日前、ドイツ軍にとってはここ数年で最大と言って間違いない不祥事が発覚した。禁止されているVTシステムがドイツ代表候補生の専用機に搭載されていたのだ。しかも頭の痛い事に、その代表候補生は現役のドイツ軍の少佐であり、IS特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長であった。

 

 ある研究所が秘密裏に搭載していたのである。その研究所は何者かに襲われ壊滅状態で詳しい追加情報はほぼ見込めない。この様な状況で軍上層部は一刻も早く責任者を処分して事態を収拾しようとした。そして異例の早さで責任者が吊るし上げられ、代わりに空いたポストに就いたのがフォルカー・マテウスだった。

 

 マテウスにとっては降って湧いたチャンスであった。今回の不祥事が早期に収束に向かい、それプラス何か目立った実績をがあればさらなる出世も夢ではない。そして、この具申書に書かれた内容はその【目立った実績】を得られる可能性を持っていた。

 

 具申書の提出者はクラリッサ・ハルフォーフ大尉・・・・・件のIS特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」において副隊長を務めている者だ。当初、不祥事の当事者とも言える人間からの具申書ということで下らない自己保身に関する事だろうと思ったが少し違っていた。その内容は簡潔なものだった。

 

 世界でたった2人しかいない男性IS操縦者のうちの1人である山田 太郎とIS特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長であるラウラ・ボーデヴィッヒ少佐の関係を親密なものにする為に、軍を挙げて支援をするべきであるという物だった。読み始めた当初は下らないと思っていたのだが、読み終わる頃には最高に良い考えの様にフォルカーは思えてきた。

 

 ハニートラップなど古典的で下品な策だと馬鹿にする者もいるだろうが、古来より使われ続けているという事はそれだけ有効である証である。それにフォルカーや軍上層部がボーデヴィッヒ少佐に体を使って山田 太郎を篭絡しろと命令するわけではない。ボーデヴィッヒ少佐自身が彼に対して特別な感情を持っている様子なので仕事仲間である我々がそっと背中を押してやるだけの話である。

 

 上手くいけば希少な男性IS操縦者をドイツ軍に迎える事が出来るかもしれない。そうでなくても強い繋がりを作っておけばドイツにとっても自分にとっても大きな利益になるだろう。IS学園は様々な国の少女達が所属している。自分達と同じ様に山田 太郎を狙っている者もいるだろう。先を越されるわけにはいかない。フォルカーは直ぐにハルフォーフ大尉を呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ハルフォーフ大尉、早速だが君の提出した具申書について聞きたい事がある」

 

 

 フォルカーの執務室にクラリッサがやって来ると早速、フォルカーは本題へと入った。

 

 

「率直に聞きたい。君から見てボーデヴィッヒ少佐が対象と深い関係になれる可能性はどの位だ」

 

「はっ、限りなく100パーセントに近いと判断します」

 

「お、おう・・・そうか」

 

 

 フォルカーの問いに食い気味にクラリッサは即答した。これにはフォルカーも困惑気味であった。どうもクラリッサはラウラの能力に絶対の自信があるようだ。しかし、フォルカーはそれには懐疑的であった。

 

 

「ハルフォーフ大尉、資料を見る限りボーデヴィッヒ少佐はコミュニケーションや人間関係の構築に問題がある・・・・・だからこそ我々の支援が必要なのだろう。私はこの件に関してどの程度の支援が必要なのかが知りたくて、君にボーデヴィッヒ少佐の現状での勝算がどの位なのか聞いたのだ。希望的観測はいらん」

 

 

 フォルカーは既にラウラ・ボーデヴィッヒに関するデータには全て目を通していた。その生い立ちから現在に至るまでの軍での成績、現在の部隊における人間関係、容姿、性格などを把握していた。フォルカーの目からは人間関係や性格面において重大な問題があるように見えた。今回の場合、軍での成績はあまり関係ないし、容姿に関しても整っているが未だかなり幼く好みの分かれる所だと思われた。

 

 もちろんフォルカー自身、ある程度の勝算があると見込んだからこそクラリッサを呼び出したのだが、これで100パーセント近い勝算があると言われても俄かには信じ難い。しかし、懐疑的な表情のフォルカーを目の前にしてもクラリッサの自信は些かも揺らがなかった。

 

 

「はい、それでも私は100パーセントに近い確率でボーデヴィッヒ少佐はやってくれると信じています。確かにボーデヴィッヒ少佐はコミュニケーション能力に問題がありましたが、IS学園に転入してから改善の傾向にあります。それに、つい先程少佐から戦果報告を受けました」

 

「なに?もうなんらかの結果が出ているのか!?」

 

 

 クラリッサの言葉にファルカーは目を剥いた。「それを先に言え」とフォルカーに言われクラリッサはラウラから聞いた戦果について告げる。

 

 

「キスをし、今後の援助の約束を取り付けたそうです」

 

「はあっ?・・・・・・・・作戦・・・・既に終わっているじゃないか」

 

「何を甘い事を言っているのですか。対象を慕う人間は多い様なので何処の泥棒猫が狙っているか分かりません。完全に落とし切るまで油断はできません!」

 

 

 フォルカーが拍子抜けしているとクラリッサが強い調子でそう言った。

 

 

「ボーデヴィッヒ少佐はこういった事の知識が皆無です。ここから関係をより深め、強固な繋がりを作るには我々の支援が不可欠です!」

 

 

 クラリッサの興奮した様子にフォルカーは若干引いていたが、言っている事はその通りだった。約束とは履行されてこそ意味があるのだ。約束を取り付けただけで満足するのは阿呆のする事だ。

 

 

「それではどうする。直接支援出来るようにサポート要員をIS学園に派遣する事が1番良いのだが、無理矢理捻じ込んだ転入生であるボーデヴィッヒ少佐が問題を起こしたばかりだ。流石にIS学園も簡単には認めないだろう。」

 

「とりあえず現在IS学園に所属しているドイツ国籍の生徒達に協力して貰いましょう」

 

 

 クラリッサの現実的な提案にフォルカーは頷いた。しかし、それだけでは心許ない。何かないものかとフォルカーとクラリッサはアイデアを出し合っていった。

 

 

「裸で迫る」

「きわどい水着でプールに誘う」

「下着」

「個性を生かして軍服」

「メイド服」

「ゴスロリ」

「バニーガールで攻めれば一発だろ。いっそ部隊員全てで行けば・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

 

 フォルカーがバニーガールと言ったのを聞いてクラリッサは醒めた目でファルカーを見た。

 

 

「な、何だ。何か問題か?」

 

「シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎)だからってバニーって・・・・どうかと思いますよ」

 

 

 急に白い目で見てくるクラリッサにフォルカーは何かおかしな事を言ってしまったのかと戸惑った。そんなフォルカーに対してクラリッサは少し馬鹿にした様な感じで言った。

 

 

「貴様!何だその態度は!俺は中将だぞ。大尉風情が生意気な!!!」

 

 

 本来上下関係に厳しい軍において今のクラリッサの態度はいただけない。フォルカーは憤慨した。しかし、クラリッサは冷静だった。

 

 

「生意気でしたか?では今からフォルカー・マテウス中将閣下がIS特殊部隊であるシュヴァルツェ・ハーゼの制服を自身の趣味であるバニーガールへ変えようと画策している事に反対するのは生意気な行為なのかどうか、色々な所で聞いて来ましょうか?」

 

「ちょっ、おま、止めないか!分かったバニーは無しだ」

 

 

 フォルカーは未練を残しながらもバニー案を取り下げた。

 

 途中から自分の好きな衣装を言い合っているだけの不毛な話し合いを続けていたが、2人は気付いた。どんな衣装を用意しようとラウラ自身がきちん場所やシチュエーションを加味してとアピール出来ないと意味がないことに。

 

 例えば場所が教室ではバニーガール姿で迫っても意味がない。流石にラウラがそこまで突拍子もない場所で仕掛けるとは思わないが、男の扱いに慣れた悪女のようにラウラが巧みに男を誘う様子を2人は想像出来ない。

 

 

「やはり、直接その場にいてアドバイスやフォローが出来ないと辛いですね」

 

「そうだな。・・・・・・それならISにそんな機能を付けてはどうだろうか。人の行動はある程度パターン化出来る。各状況によって望ましい結果が出る可能性の高い行動を予測し、示してくれるシステムをボーデヴィッヒ少佐のISに搭載すれば良いのだ」

 

 

 フォルカーの言う様なシステムが本当に作れるのなら確かに効果的だろう。しかし、技術者ではないクラリッサからしても相当開発が困難なシステムである。

 

 

「そんなシステム、開発にどれほどの時間が必要でしょうか・・・・・・」

 

「恋愛に関する事だけに絞ればそれ程時間は掛からないだろう。サンプルは幾らでもいる。基地内の人間全てから様々なシチュエーションにおいて、その時に有効だった行動を聞きだして集計すれば良い。各シチュエーションで数の多かった行動をボーデヴィッヒ少佐がその都度確認出来る様にすれば良いのだ!」

 

「分かりました。では先ずシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を集めてデータを収集します」

 

 

 今度はフォルカーの案にクラリッサも反対しなかった。クラリッサは敬礼し部下達を集める為に退室して行った。

 

 フォルカーは自分の考えたシステムの有効性に自信を持っていた。サンプルを集めている間に技術者達に指示を出しておかなければいけない。だが、指示を出す前にフォルカーは溜息を一つ吐いた。

 

 

 

「バニーは良くないのか・・・・・・・」

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。


作者・・・・ではなくクラリッサとフォルカーが恋愛初心者のラウラの為に用意する超劣化ゼロシステムモドキ(恋愛脳)

チート性能なのか、それともネタ性能なのか・・・・・。その登場をお楽しみに!


次の更新は1、2日空くかもしれません。

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